第5話 「君は見たか! 重戦車の切り札!!」
「玲也様! 御覧になりましたか!?」
「あ、あぁ……」
――エクスの声に導かれるようにして玲也の意識は覚醒を迎える。
目の前に広がる草原地帯にはまばらに無数の林がちりばめられ、空はこれ以上に住み切る余地のない青空、そして青のキャンバスの一点に塗りつぶらされた真白の太陽、快晴以外の二文字が思い浮かぶ事のない天候だ。
その大自然に映るクロスト。ダークグリーンの機体は森林との親和性は高く、まるで自然を司る守護神のようでもあり、群がる林からは頭一つしか彼の姿は見えない。
「これがシミュレーターバトルの戦場。特に注意する点は……林だ」
「林……もしかすれば玲也様、このクロストでさえ姿が殆ど隠れてしまいます。ですから」
「そうだ。イーテストは絶対森林の中で攻撃を仕掛けてくるはずだ。こうなるならば」
コントローラーを握る玲也の視線は木一本存在しない円状の草原地帯。周囲を木々に囲まれながらまるで意図的に用意された地帯ともいえる。
「あそこの草原の中心に向かいましたら、どこから攻撃を仕掛けてくるか目でも分かりますね、玲也様」
「その通りだ。地の利を活かしたいとは思うが、運動性が冴えないこいつでは相手の思うつぼ、やむを得ない……」
おおよそイーテストの方がサイズは小柄であり、運動性はどの装備であろうとクロストよりは勝るであろう。
その上、クロストは運動性の底上げは行われていない、いや行う余裕がない事が原因であり、少しでも相手が受ける地の利での恩恵を減らさなければならない所である。
「クロストの操縦は左スティックを前にはじき倒して……ブレストと同じ……っ!?」
玲也はアナログスティックを緩やかに前へと倒すや否や、その巨体は静かに一歩一歩前へと根元から木々を巨体で倒しながら進む。
「玲也様……!?」
しかし、その時玲也の体はコントローラーを握りながら思い切り前のめりに倒れた。
その理由は、シミュレーターでありながらクロストの超重量級の巨体が反映されており、一歩一歩の前進は立ちながら操縦を続ける玲也へと振動が反動として返ってくるのである。
その反動はブレストよりクロストの方が大きい、その上睡眠不足の疲労が彼を直立不動として支える事が出来ない状態とさせていたのである。
「お怪我はないのですか、玲也様!!」
「大丈夫だ。エクス、あの装置を機動させるしかない」
「承知いたししました。無重力システムの作動ですね……」
後方の席にてエクスが無重力システムの電源を入れる。
その途端、うつ伏せに倒れた状態の玲也の体がひとりでにそのまま浮びあがる。重力の存在する空間は今の玲也には荷が重い。ひとりでに体制を立て直してくれるかのような重力が心地よいとも感じられる。
「しかし、玲也様この空間で無重力というものも珍しいものですわね」
「あぁ。だが、この無重力空間ならば倒れることも動けなく事もない。それにワイヤレスのコントローラーとしてならば何処でもこいつを動かす事が出来る」
と玲也は素早くコントローラーに接続されたケーブルを取り外すのであった。
「しかしエクス、イーテストはやはりモニターには映らないか……」
「はい、玲也様どうやらこのフィールドはさほど広くはないのですが、どういう訳か……」
エクスはヘルパーとしてモニターを見つめ続けるが、彼女の席はクロストを表す赤い点以外は移る気配がない
『――ここにいるぜぇ!!』
「……!?何だと!」
「玲也様! 後ろです!!」
一瞬玲也は右を振り向くが、エクスの指示を聞いて左スティックを右に90度回しながら後ろを振り向いた。
その途端白銀の翼を背負いながら彼は飛んだ。
木々の葉を突風と共に吹き飛ばしながら低空飛行で急接近を仕掛ける彼こそイーテスト。変幻自在の彼が取った形態は高速のイーテスト・ジェッター。
まるで彼は神風のようにバックパックと化したジャスト・フォースから弾幕を張りながら、鋭利な機首で突貫を仕掛けんばかりだ。
「アンドリューさん……これが貴方の本気ですか!」
「あの形態はスピード重視で威力に欠けるのですが、それを捨て身の特攻でカバーするつもりですわ、玲也様!!」
「神風……ならば、アンドリューさん、俺は大艦巨砲主義のクロストで蜂の巣にしてあげますよ!!」
玲也はうつろとしながら目元がぼやけた。
しかし、彼は闘志に支えられながら、ただ瞳をこすりながら右スティックを回しながら宙を華麗に飛びまわるイーテスト・ファイターへ狙いを定める。
「玲也様、私からも照準の補正は出来ます! ここは玲也様が思うままに照準を定めてください!!」
「ここはお前を信じなければ……ダブルバスター・ランチャー、シャフト・キャノン、一斉放射!!」
――△、□、R、L同時押し。
クロストの両手からは計10発の小型弾頭が矢のように鋭く射出され、両腕に備えられたシャフト・キャノンからは青色のレーザーが直線状に彼を師と面と飛ぶ。
このコマンドと共にセレクトボタンを入力するや否やすぐさまRボタンを押しながら右スティックを上下に動かす。鮮やかなきりもみを加えながら宙に舞う彼を少しでも仕留めようとシャフト・キャノンの砲身を動かしていくのである。
イーテスト・ジェッターの弾幕の雨にクロストは耐え続け、クロストからの弾頭の矢をイーテスト・ジェッターは避け続ける。
だが、クロストにおいて一発一発が軽微な損傷であるに対して、当たらなければどうという事はないとのイーテスト・ジェッターの戦法は一発が命中する事でその戦法は破綻へと繋がる。
両翼に一発ずつ命中するや否やそのスピードは急速に失い始め、低空飛行を続けた機体は木々に接触を起こしながら荒々しくも草原の表面を削りながら地面へと叩きつけられる途端に徐々に機体から息のような機動音はかすかなものとなっていった。
「……」
「玲也様……まさか、アンドリューはこの一瞬に」
「……もしかするならば一理あるかもしれない。イーテスト・ジェッターはそのスピードと共に微弱な攻撃を一度同時に叩きこんで俺を倒す考えかもしれない」
目の前に無力と化したイーテスト・ジェッターに対し、玲也は一瞬これで良いのかとも少なからず感じた。目の前の相手は全米ゲーマーチャンピオンであり、その上プレイヤーとしての経験も実績もナンバーワン同然であるからだ。このまま自分が彼へ勝利を収めてしまった事が信じ切れない所がある点は言うまでもない。
だがしかし、世の中には一瞬でそれまでが一戦により逆転を起こす例も存在してはいる――桶狭間の合戦において織田信長が一晩の奇襲で今川義元を討ち取った例がそれを物語るであろう。
「念には念を入れてだ。抵抗が出来ないように電次元ブリザードで止めを刺します……これも真剣勝負ですからね」
その時に玲也は油断をしたつもりはなかった。電次元ブリザードで彼の動きを食い止めて二度と動けないようにするつもりである。互いとも全力で叩きのめすと誓ったからには引導を渡す事が礼儀であるとも信じて。
「……!!」
けれども、銃弾がクロストのバックパックをはじいた。どこから攻撃を仕掛けてくるのだろうか玲也は予想だにもしなかった。ただ目の前の相手へ電次元ブリザードをお見舞いする事が間違っていないと彼は信じた。
両肩からの水色の光線が直線状に飛び、イーテスト・ジェッターに命中するや否や彼の体はガラス細工のように水晶の集合体と化す……それが一戦の終止符であり、また一戦の始まりでもあった。
「ちょっと玲也様……これはどのような事でしょうか」
「どのような事だと……!?」
止めを刺したと玲也の判断は甘かった。念には念を入れて止めを刺した選択は間違いではなかったが、彼は結果として狙うべき相手を間違えていた事に繋がる。
クロストのモニターは凍結させたはずの相手の姿を変容させていく、残された相手は白銀の戦闘機しか存在してはいない。つまり肝心のイーテスト本体が何故か消失してしまったのである。
「これは俺が疲れているからか……」
「玲也様、それでしたら私も、そしてこのクロストも疲れている事になります」
「つまりこの目の前が現実」
『ということだ玲也!』
その叫び声と共に背中をめがけて何者かの鉄拳が飛んだ。クロストの巨体が前へとのけぞるような一撃をお見舞いした機体は 真っ赤な追加装甲を装着した白と蒼と赤のハードウェイザー、まさしくイーテストそのもの――異なる点はジェッターではなくファイターであった点だ。
「何という事だ……イーテストがもう一人いたとでも!?」
『それは違うぜ玲也』
『悪いけどちょっとばかし罠にかけたんだよなー、ははははは』
とイーテスト・ファイターはクロストへ指を突き刺すとともに、アンドリューとスティから挑発の宣言を行う。いずれにせよ勝負はシミュレーターへ両者が姿を見せた時から始まっていたのであった。
「罠……ですって!? ちょっとアンドリュー、貴方卑怯にも程があるのですわよ!!」
「いやエクス、それが勝負というものだ。ただアンドリューさんはさすがだどうして……」
アンドリューの鮮やかな策を玲也は心の内で敬服の感情が満たされていく事は本人が良く分かる事。しかしイーテストの行動で疑問も少なからず存在した――その疑問は何故イーテスト・ジェッターとイーテスト・ファイターが共に現れたかという点に尽きる。
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「こ、これは大変だよ!!」
そして、シミュレーターマシン外、いわゆるトレーニングルームでのとしてシャルは真っ先にこのアンドリューの戦法が恐ろしい点について把握した。
「や、やはり大変な事なのですか! シャルちゃん」
「玲也の奴、何故イーテストじゃなくてジャスト・フォースとかを狙うのかあたしには良く分からなかった……」
「それだよ! フレイちゃん!!」
2人はシャルのリアクションに対して返事をすれば、特に彼女はフレイの言う玲也とアンドリューの状況について素早く飛びあがるように答える。
「あぁ玲也君が、玲也君がもし最初から気付いていたら間違いなくイーテスト・ファイターと勝負を挑んでいたはずなのに!!」
それもシャルは相当悔しがりながら未練を言い続ける。
ちなみに、シミュレーターマシンでは玲也とアンドリューが勝負を繰り広げる映像が映し出されるが、それは玲也とフレイが目にした光景とは少なからず状況が異なるようであり、その映像はフレイの言うとおりジャスト・フォースを倒しては、今度はイーテスト・ファイターに背中を取られるかのような一部始終である。
「気付いていない!? そういえばイーテストは何で2体のマシンを同時に呼び出しているの!?」
「確かに……シャルちゃんのデータでは1台しか換装して出撃する事が出来なかったはずですよね?」
“気付いていない”
その発言にフレイとミュウは二人共々何故2体のサポートマシンが呼び出されたか、いわば玲也と同じ疑問点に気付いた。
「そうだよ! でもそれを可能にしちゃうのがカスタマイズの凄い所でもあるんだ!!」
「そうですね」
「そうだな」
「そう……」
「うわ! いきなりやってきちゃったよ!!」
シャルがカスタマイズによる可能性を説明しだした途端、突然何処からかともかく3つ子がひょっこり顔を出した。
ディーゴ、デューク、デッカー。D3トリオ、いわばバチカンの3つ子である。
「へへへ、じゃあ俺達が説明してやろうじゃん、ディーゴ」
「そうですね。まずイーテストのサポートマシン3体のデータは普段予備のデータに登録されていまして」
「それから1体出動させて、イーテストの空きデータに収まる仕組み……」
3人が言うこの仕組みとは、ハードウェイザーのディスクには1体分のマシンデータを登録する程の空白しか存在してはいない、その予備データのプログラムはエレファン及びサハラへある程度保存させる事が可能であり、出動前にデータの選択を行う事が可能である。
いわばディスク以上の容量のデータをイーテストはある意味所有している事とも言えるのである。
「つまり……今回の状況はイーテストにおけますデータの空きがサポートマシン2台のデータになったということでしょうか」
「そのと……」
「そうだぜミュウちゃん! いわゆるサポートマシンなり、イーテスト自身のデータを抑えるなりしてその2台分のデータを確保したって訳だぜ!!」
「……もう! 僕が言おうと思ったのに~!!」
「……ここで出しゃばらないと出番がない」
とシャルはこの場合出番がないようなものであるが、3つ子の解説でイーテストの3変化に関するトリックは大体把握出来たものであろう。
「それはそうと! とにかく今クロストは炎タイプと草タイプに挑むような水タイプのような状態だよ!!」
「え、えぇ……シャル、何それ?」
「ごめんなさいシャルちゃん、その例えは分からないです」
「あれれ……」
――とシャルの巻き返しは余り上手くは行っていない様子だ。
「ほらみろ、実況解説は俺達の特技!」
「というか、僕たちは基本的何でもする……」
「それはそうと、クロストはウィストとブレストを相手に回して戦っているようなものです!」
そこにまた3つ子はあっさりと解説を鮮やかに決めてみせるのであった。
「なるほどね……それじゃあ玲也は勝てない訳ということね」
「ちょっとちょっとフレイちゃん! そうあっさり言わないでよ!!」
「今度こそ! とにかく大変な事だよ」
イーテストのトリックに続いて、トリックにより苦戦する現実を理解したフレイとミュウへ今度こそとシャルが口を開く。
「僕が見る限り、まずイーテスト・ジェッターの電子戦とスピードをクロストに向けてフルに活用した事になるね」
「はいそうですね、シャルさん。まず電子ジャミングで最初からクロストを翻弄していたのではないかと思います」
「それでクロストからジャスト・フォースがイーテスト・ジェッターに見えてしまったって訳だな!」
「所謂イーテスト・ジェッターは囮という訳ですから」
「つまりもしかしたらですが、攻撃力に欠けるイーテスト・ジェッターは取り柄のスピードを駆使して囮役としてクロストの注意をひきつけて」
「そうそう。イーテスト・ファイターの得意とする近距離まで安全に近づく事が出来たって感じだね」
――イーテスト・ジェッター。アンドリューが本命として選んだイーテスト・ファイターの為の御膳立てとしてアンドリューは駆使する為、前代未聞の2形態の両立を成し遂げたのでもある。
「さすがアンドリュー君、どうやら玲也君を相手に本気となっただけではなく、また一つ更なる高みへと足を踏み込んだ訳か」
「あ、将軍!」
「将軍、この戦いの結果はどうなると思いますか!」
「聞きたいです」
そしておおらかに笑いながら同じくトレーニングルームの観客としてエスニックが試合について述べようとする。
「そうだな、まず序盤はアンドリュー君が見事玲也君を手玉に取ったとも言えると私は思うな」
「やはり将軍も同じですね」
「そんなぁ……僕としては玲也君に勝ってほしいんだけど」
「はははは……」
エスニックの評はこの場にいる大半の者が理解する事が出来るような内容、いわば一般的な評価ともいえる。3つ子は御尤も、シャルも玲也への思いがあるが故に歯がゆいそうだが、その評価は認めているかの様子であった。
「いやいや、私はまだどちらが勝つとは言ってもいないよ、勝負は最後に勝ち残った者が勝者であり、それは今ではない。それにだ……」
けれどもエスニックの考えは異なる様子でもある。それを決定づけるかのように彼はさらに口を開き続ける。
「私が昔知った言葉でだな、実力者には未知の強豪をぶつける事が良いとの言葉があってだな……」
「未知の強豪……実力者とかじゃなくて?」
――未知の強豪。
実力者の例えと共に彼の言葉は歴戦の勇士・アンドリュー新米・玲也の関係を表している事をフレイは把握した。しかし何故実力者に対して未知の相手をぶつける必要があるかに関して首を彼女は横にしてかしげる。
「そうだフレイ君。今までの戦いは未知の強豪が勝利を収めて表舞台に躍り出る事も少なからずあるということでだな……」
木崎原、厳島、河越、そして桶狭間。エスニックが戦国時代の合戦の名前を次々と口にしていくが、それは皆当時実力派の強豪に対して、僅かな兵力と下馬評を覆して彼らは勝利を収めた。その勝利者たちは戦国時代の覇者として数えられていったのである。
その未知の実力者であった後の戦国時代の覇者と玲也達は同じ立場とエスニックは認識しているようであった。
「最も未知なだけに、玲也君もまたまだ自分自身の実力とクロストの性能を知らない訳だが……」
「確かにまだ玲也さんはエクスちゃんとも組んだ経験がありませんですからね……」
「そうだ。多分今、玲也君はアンドリュー君の経験と素質に裏付けされた実力を知るとともに苦戦を強いられているだろう」
「実力者、アンドリューにね……」
「最も玲也君は評判だけで実際にアンドリュー君の強さを把握してはいない。けれども玲也君は改めてアンドリュー君を実力者と認識していくであろう」
――戦いはまず相手を知る事から始まる。
玲也はアンドリューとの戦いを控えた前日にイーテストの研究を重ね、それに貸与出来る戦法を生み出す事が可能なカスタマイズを用意した。
けれどもそれは理論上の事であり、場合によっては机上の空論に過ぎない結果となる。
この理論がその末路を迎えるか否か、それは実戦で相手と交えてデータだけで把握する事が出来ないテクニックにより打ちたてられた相手をねじ伏せる事が出来るかどうかで決まる。
「相手を知った玲也君は今、自分の実力と向き合い、そこからクロストに合わせるように上手く自分の実力を引き出そうとしている! それが出来た時に戦いは面白い方向へ動く事は確かだ!!」
今、玲也はプレイヤーとしての正念場を迎えているのである。
「――そうだ。今まで何人か未知のハードウェイザーとプレイヤーが誕生する瞬間に胸を躍らせて、勿論玲也君にも変わらない期待を寄せているつもりだ――」
エスニックはただ上を向きながらモニターへ視線を向け続ける。戦いはまだクロストとイーテスト・ファイターによる第二幕が始まったにすぎないのだから……。
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『……というわけだ玲也! まずカスタマイズ次第でこんな掟破りな事をやれちまうってもんだぜ!』
『お前が掟破りのプレイヤーならば、アンドリューも掟破りってことだなー!!』
「……さすがアンドリューさん! 一筋縄では勝たせてくれないですね!」
玲也がエクスの方へと振り向くと彼女は顔を合わせようとはせずに、肩をうなだれさせていた。
(どういたしましょう……私は玲也様に対してまた足を引っ張ってしまう事をしてしまったのではないでしょうか?)
――フラッシュバックする今朝の件。
その汚名を返上する為に玲也は戦いへと挑んだはずだが、彼女はレーダー・モニター制御の面において、アンドリューとスティの策に引っ掛かってしまったのだから立場がないと痛感してしまっている様子である。
「エクス、それは気にするな。一度の失敗を引きずってプレイに支障をきたしてしまう事は俺が望まない事だ!」
「玲也様……?」
エクスの目が丸くなりながら顔をあげる。
玲也の手でクロストが近接用に改造したシャフト・キャノンを駆使する。まるでトンファーのように鮮やかな手並みは、イーテスト・ファイターの格闘テクニックを押され気味でありながらも屈することなく受け止め続けた。
「――俺が父さんと出場した大会でミスをした時、俺はそれに戸惑ったままプレイに集中出来ずに父さんと俺は優勝する事が出来なかった事があった」
「あの、玲也様……今はそのゲーム関係の話をしている場合ではないと存じますが」
「いいから聞け」
コントローラーをさばきながら玲也は振り向く事はせず、エクスへ向けての内容とも思われる経験を話していく
「――父さんは俺にお前は「ミス一つで全てを駄目にする男か」と怒った。そして「何時ものお前で良いではないか」と優しく教えてくれた」
「……! 玲也様、そうなりますとつまり」
「そうだ。ゲームは肝心な時にそれまで鍛えた力を発揮する事が出来るよう平常心で戦わなければならない。ついでに言うならば今のお前は何時ものお前ではないとのことだ」
「……そうですわね、玲也様!!」
との答えにエクスの頭の中で背負っていた物から糸が切れたような印象であった。彼女が何時も通りの勝気な様子に戻ると玲也は再び作戦の立案に専念する。
「エクス、それにまだ詰まれた訳ではあるまい。実際に俺は今打つ手を思いついた……!!」
その言葉と共に△□ボタンを交互に押しながら真下をめがけて攻撃を仕掛ける。
だが、その攻撃とはイーテスト・ファイターを相手にしたものではなく、何故か地面をめがけて拳骨を延々とぶちこむのみであり、効果的とはとても言い難いものである。
『アンドリュー……これはどういう事だい? あたいにはさっぱりだぜ』
『クレイジーと片付いてしまうってことかい? けどなぁ……けっどなぁ……』
イーテスト・ファイターは動きを止める。
ただ目の前には彼が突っ立ち、もう一人の彼が地面に拳を打ちつけ続ける第三者が目にすれば意味の分からない光景が続く。
手を出さないつもりのアンドリューであったが……
『あの野郎、まさか手の打ちようがないと自棄を起こしちまっている訳なのか』
『どうするんだい、アンドリュー。あたいはもう早いうちに仕留めちまった方がいいと思うぜー!』
『しゃあねぇなぁ! 仮にそうとするならばこいつで仕留めてやらぁ!!』
「……今だ!!」
しびれを切らしたかのように、イーテスト・ファイターが前進した。
その瞬間、玲也が入力したコマンドは△+L、X、△+R、X。
バスター・ランチャーが展開される直前に拳が手首から折れ曲がり、前方には計5門の発射口が展開されて同時に10発もの弾頭を地面すれすれの位置にて射出される。それはまるで動く地雷のごとく10発の雨がイーテスト・ファイターの足もとを狙って飛ぶ
「見たか! クロス・ランチャー超低空撃ち!!」
「玲也様! 先ほどの無駄な真似はその為でもあるのですね!」
「そうだ……と言いたい所だが、それだけではない事はお前も気付いているであろう」
「そ、そうでしたわね! 玲也様、このクロス・ランチャーの囮もその為のもの……」
エクスは自分の管轄下でもあるモニターの映像を切り替えて玲也が本当に行おうとしている作戦を瞬時理解した。
その作戦はアンドリューには気付かれていないようで、ただイーテスト・ファイターは飛行能力を備えていない事もあり、単身で地面すれすれに飛ぶ弾頭の矢を何度も飛びはねるようにして回避を続けていく。
『なるほどねぇ、こいつで俺達を近づけさせない魂胆か』
『イーテスト・ファイターは近づかなきゃあ十分にパワーは発揮できないからね―』
『何、ならばこいつで形勢逆転を目指してやらぁ……そらよっと!!』
とイーテスト・ファイターは弾頭を飛び越えてから着地してや否や、すかさず右腕を自分より強大なクロストの腕をめがけて射出される。
その時にアンドリューが入力したコマンドはRと△の同時押し。右手はストライク・ナックルとして飛ばされたのである。
「そうはさせませんよ!!」
しかし、シャフト・キャノンがイーテスト・ファイターの胸へと火を噴いた。
当たり前だがシャフト・キャノンは射撃戦闘用の武装であり、本来の用途で駆使した時、腹部に直撃を受けたイーテストは前のめりへ倒れ込んでしまう。その時、ストライク・ナックルを展開させたままワイヤーと共に腕はクロストの脇の間を潜り抜けて地面へ向けてほうりだされた。
「この戦いはイーテスト・ファイターより私のクロストが有利でしてよ! 何と無謀な」
「相手が倒れたなら尚更……いくぞ!!」
――倒れかかって動かないままのイーテスト・ファイターへ灰色の砲身――シャフト・キャノンが照準を定めた瞬間であった。
『させてたまるかってんだ! スティ、グランワイヤー展開だぁ!!』
『オッケーオッケー! そのまま真上に回転させるぜー!!』
――一瞬にして真紅の糸がイーテスト・ファイターの右手と本体をつないだ。
これこそシャルの言うビームワイヤーの事を指している。その拳が飛びあがると同時にビームワイヤーが何重にクロストの右肩の関節へ巻きつくや、まるで糸で物を引きちぎるかのように彼の右腕は肩から簡単にちぎれ落ちるのであった。
『そーら、それで技を防いだと思ったかぁ玲也!!』
『この調子でもういっちょってことだぜー!!』
と鈍く重い音と共に、右肩から先が落下すると同時にイーテスト・ファイターが立ちあがりながら堂々と右手を本体へと連結させる。
その勢いで引き続き、左腕がストライクル・ナックルとして射出させた途端である。
『落ちた……!?』
突如イーテスト・ファイターが消えた。まるで上から下へと一気に吸い込まれていくかのように。
『アンドリューさん、ファイターとして貴方が現れた時からこちらも敢えて演技を続けていたのですよ!』
『シャグランでイーテスト・ファイターが上がれませんような落とし穴を作る為延々と……ですわ!』
クロストはイーテスト・ファイターとの対峙において一度たりとも両足を動かす事はなかった。
両膝に内蔵されたシャグランからイーテスト・ファイターを仕留める穴を掘るだけではなく、掘り進めた穴に彼が着地して動きを止める事を狙い、今まで彼をおびき寄せて続けていたのである。
『左様ですわ、一見無意味な地面への連続攻撃も』
『クロス・ランチャー超低空撃ちも大芝居の一つに過ぎないということよ! 飛べバスター・マイン!!』
けれども玲也は手を休めずにR,L、左右スティックを同時押しで背中のバックパックをイーテスト・ランチャーの落ちた先へと向かわせる。
『アンドリュー、あのがきっちょに一杯食わされたなー』
『あぁ、アカデミー助演男優賞を狙うつもりかはしらねぇがな! けどよぉドリルは穴掘るより天を衝くべきだとは思うけどよぉ!!』
バーニアから白の炎を噴きだし、左手に続いて右手とストライク・ナックルを真上へとイーテスト・ファイターは飛ぼうと抵抗する。
しかし、灰色の箱状の機器から放たれる小型の円状物質が次々と飛ばされては彼の本体へ張り付き始める。その途端物質から青色の線が彼の体を包み込まんと巻きつく。
――このバスター・マイン。ある時は磁石爆弾射出装置でもあり、同時に磁石爆弾へエネルギーを供給する事により、磁力バリアーを展開させて相手の動きを封じる効果も持つ訳である。
『アンドリュー、真上!!』
『何……』
さらに、穴の出入り口を巨体がシャットダウン。
クロストの両膝が折れ曲がり、前のめりになる形の上半身を両腕を前方へ手をつけるようにして変形した姿を制御させる。
これこそ、クロスト・グンツァー。重装甲重火力のクロストが持つに相応し重戦車形態でもある。彼がキャタピラと化した両足で穴を防いだ件は、単にイーテスト・ファイターの出口を防ぐだけの理由ではない。
「さて、玲也様。ここでアビスモルをお使いになられますか」
「そうだ。このアビスモルとバスター・マインを同時に爆発させてイーテスト・ファイターを粉砕してみせる!」
とL、R、左トリガー、右トリガー同時押し。キャタピラの一部分が開閉しては先端にシャベルを備えた球状の魚雷を二発お見舞いする。
「これで決まったか……!」
そしてクロスト・グンツァーが穴から退く途端、L、R、スタート、スイッチの同時押しに出る。
いわばリセットコマンド。体制を立て直す時に駆使されるだけではなく、現在射出した弾薬類を全て同時に爆破させる仕様も含まれている。
よって、穴からは火柱のように爆発が発生する。細く長く掘り進められた穴はまるでマンホールのように彫られており、爆炎による被害は穴の中で凝縮されている
「そうだ……これで決まったはずだ。アンドリューさん、貴方はやはり……」
――これでイーテスト・ファイターは終わりだ。と信じた時であった。
『俺達を生き埋めにして、その上爆殺しようとするとは……面白ぇ度胸じゃねぇか!!』
『これこそドリルが天を突く訳さー!!』
「……!!」
激しい採掘音と共に玲也はアンドリューの声を聞いた。そして、今彼は自分の真後ろで竜巻のように回転しながら天へと踊り出ようとしている。
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「ちょっと! 今度はどうして破られちゃったのよ!!」
「確かに、飛べない相手を穴に落としただけではなく、動きを封じたうえで爆発に巻き込ませる……玲也さんとエクスさんの戦法は良かったはずです!」
そしてトレーニングルームではやはり玲也の戦法をどのようにして破ったか気がかりな様子であった。
「落ち着きたまえエクス君、ミュウ君。ディーゴ君、例の物を……」
「はい、承知しました。ちょうど地中で何が起こりましたかを収めていた所でしたので」
2人を宥めるエスニックに従い、ディーゴが自分のエレファンをプロジェクターへと接続して、真後ろの白い壁へと一部始終を公開する。
まず、バスター・マインの磁力バリアーに絡められるようにして動くイーテスト・ファイターが映る。その時は己の手足でバリアーを破ろうと必死の様子である。
「あっ! バースト・ソーサーを……!!」
しかし、両足の装甲から射出された円盤“バースト・ソーサー”を両手にするや否や、円盤から展開されるエネルギーが刃を形成し、その刃の熱を張りついたバスター・マインにあてることで磁力を弱めてその結果、全てのバスター・マインを片づけてしまった訳でもある。
「磁石は熱に弱い。アンドリュー君はバスター・マインの弱点を既に把握していたとも言える訳だね……」
「けどさぁ、そこから穴を掘るにはどうすれば良いの?」
「まぁ見ていなさい」
かくして、バスター・マインからの危機を逃れたイーテスト・ファイター。今度は背中のエクスカリバー・トマホークを抜き取っては地面へと突き刺してみせる。
その途端、先端の刃がまるで粉砕機のように回転を始め、その螺旋は地上へ確かな穴と開けるには十分な威力を誇る。
それだけではなく、イーテスト・ファイターは穴に足をひっかけながら体制を固定。エクスカリバー・トマホークの回転に身を任せる事がないよう制御し続ける。
「あの必殺剣エクスカリバー・トマホーク、そんな風にも使えるなんて僕初めて見たよ!!」
「アンドリュー君のカスタマイズによるものだろう。ああいうアンドリュー君の戦い方も始めて見るものだ……彼もまた成長の限界を知らない男か」
アンドリューは玲也を本気で倒すと言った身。それ故か彼の戦いに変化をエスニックは見出しているかのようだ。
「ですが、玲也さんにとってこの戦法を破られてしまいましたし、アンドリューさんがとうとう必殺技を使ってしまいました……」
「電次元ストライク……あのエクスカリバー・トマホークを突きだしてきりもみ回転しながらぶつかる大技よね!」
「さて、玲也君……実力者が本気を出したと来た。未知の強豪として君はどう立ち向かうつもりか……!」
エスニック達がモニターを見守る傍ら、彼らにとって目の前のシミュレーターマシンでは二組が激突を迎えようとしている状況であった。
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「……出たか! 必殺電次元ストライク!!』
イーテスト・ファイターはその時、何重にも螺旋を描きながら宙へ飛びあがり続ける。
――電次元ストライク。
それはイーテスト・ファイターの必殺技でもあり、エクスカリバー・トマホークの先端を回転させる事で放たれる反重力ウェーブと共に彼の体は宙へと浮き上がる、そしてイーテスト・ファイターのバーニアは自分自身を制御する事ではなく、反重力ウェーブの流れに身を任せるようにして放つ事で、イーテスト・ファイターが飛びあがる事が可能である。
「玲也様、あの手段で反撃に出る事が出来ますわ!」
「……お前が考えた対電次元ストライク用の戦法、エネルギーはまだ残されている」
竜巻と化した彼の軌道が地上へ留まるクロストへと照準を定めた時、先端がクロストをぶち抜くまでそう時間がない。
「電次元ブリザァァァァァァド!!」
しかし、Lボタンを押す途端、背中に備えられた2門の砲身が水色の光を頭上の竜巻へと顔を向けて、凝縮された冷気のエネルギーを叩きつける。
「電次元ストライク破れたり! その威力はおそらくこのクロストも粉砕されると見た が……」
「その先端、エクスカリバー・トマホークを粉砕させてしまえばどうということはありませんわ!!」
それはエクスの考えた案。
武器を駆使する必殺技はその武器さえ無力化させてしまえば必殺技として成り立たないと彼女は見たのだ。
電次元ストライクは激しい回転に守られている点があるとはいえ、必殺武器として駆使するエクスカリバー・トマホークを先端に突きだしている状態。
つまり、電次元ストライクとはある意味必殺技だが、同時に必殺技としての弱点を露見させてしまっている技でもあったという事だ。
「ふふふ、エクスカリバー・トマホークを失った電次元ストライクは……」
「コントローラーのないゲーム機同然……!!」
水色の光は激しく抵抗を続ける螺旋に対して最初は跳ね返されつつあるも、やがて螺旋の竜巻は水色へと染まり続け、電次元ストライクの回転は徐々に速度を落としつつあった。
「これで相手の動きが乱れましたわ! この流れから……」
「電次元グラビティ……これで今度こそは!!」
回転が弱まりやがて停止を迎えた時、電次元ストライクは破れたも同然。それに乗じてクロスト最強の技ともいえる電次元グラビティをお見舞いする事こそ玲也達の計算だ。
「行くぞ……!」
『……と簡単にその必殺パターンを使われてたまるかってんだ!!』
今、LボタンとRボタンが同時押しされようとした時……目の前で落下していくイーテストは既に凍結したエクスカリバー・トマホークを投げ捨てた。
そしてイーテストの回転が止まりクロストの目の前で正面を向いて見せ、彼は大きく右足を振るった。
『アンドリューいっちゃう? お約束3割、新機軸7割のパターン破り!!』
『あぁ! こいつに託したニューウェポン“レッグ・チョッパー”そして必殺ヘッド・ハント・スマッシュ!!』
アンドリューのカスタマイズの脅威はそれだけではなかった。
その脅威とは、イーテストの脹脛に装着された半円状の刃“レッグ・チョッパー”の事を指す。このレッグ・チョッパーを展開させての回し蹴りが“ヘッド・ハント・スマッシュ”技名から察する通り相手の首を足で刈るフィニッシュに相応しい技だ。
「このままでは玲也様! やはりあれを……」
「その通りだ……これで勝つかどうかまでは保証が出来ないが!!」
『あばよ玲也! お前のキレる頭脳とテクニック、確かに見届けさせてもらったがな!!』
――クロストの首が飛んだ。
真横から押し寄せた脅威は右足そのものの重量よりも、その先の刃が脅威であり、彼の頭は宙を舞い、草原へさらされるかのように回転しながら首が落ちる。
「これで終わってなるか!」
「玲也様! クロスト・ビューテスのパージですわ!!」
「アンドリューさん、第2ラウンドは俺の負けですが第3ラウンドが始まりますよ!!」 ――L、R、スタート、セレクト、右トリガー、左トリガー
この6つのボタンを押す途端。胸部は青色に光り輝く。胴体から煙が湧きながら彼の両腕と胸部が箱のように左右へと開かれようとした時である。
『あいつ、一体何を……何をするっていうんだ!?』
「怪我の功名とはこのこと……!?」
その時玲也は想像外の事態に迫られた。
目の前のイーテスト・ファイターは隙を見せずに片手でストライク・マグナムを引き抜いては胸部の先に眠る切り札へと銃を向けてしまったのである。
(……まずい! もしパージされる前に撃たれてしまった時は無防備! それを狙ってアンドリューさんはまた俺達の一枚上の行動に出たのですか!?)
「もしかしたら玲也様……八方ふさがりということですか」
「……」
今、玲也はアンドリューの先を行く戦法を前に悟り始めていた――“負けた”との三文字を……。
その後彼の耳には警告音のようなブザーが響き渡り、目の前が急に真っ暗となるのみ。
「玲也様……玲也様……!!」
とエクスからの呼び声を聞いて意識を取り戻した瞬間に、その第3ラウンドは思わぬ結果をさらし始める。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……エクス、確か俺はあのままアンドリューさんに」
「それがそうならなくなってしまったのですよ!」
「それがそうならなく……? どのような事だ」
元の世界へ覚醒した玲也は周りをキョロキョロと見回せば既にシミュレーターは電源を切られており、エスニックからアンドリューとスティが何かを聞いている状態でもある。
「玲也君大変だよ! エレクロイドが金星に現れたんだ!!」
「エレクロイドが!? それで中止になったと……」
「玲也様!!」
その話が何かは知らない玲也だが、シャルからの話で大まかな事態は察した。
金星に現れたエレクロイドの迎撃にアンドリューとスティが向かうのであろう。その為シミュレーターバトルは中止になったという事だ。
この事態に心のどこかで安息を覚えながら、次の行動に移ろうとした彼だが、まるで重力に耐え切れなくなったかのように彼の体は地面に足を突くとともにふらりと倒れた。
「玲也さん、貴方は殆ども一睡されていないです! ここはゆっくりと……」
「ミュウ、アンドリューさんは、アンドリューさんは……出動するはずだろう」
「そ、そうですが……まさか玲也さん!!」
――ミュウからの問いに玲也は首をコクッと縦へ頷くのみであった。
「冗談じゃねぇ玲也! お前の腕は悪くないが一睡もしていないだろ!!」
「そうだぜ、おめぇ死に行くも同じ事だぜ!!」
「止めないでくださいアンドリューさん、スティさん。このまま勝負がうやむやになってしまうことは俺には耐えられない事です……」
「落ち着け玲也君! 将軍として私も君を死なせるような判断は下せない!!」
ミュウの介抱から一人で立ち上がる彼はエスニック達へ出撃を嘆願する――たとえ瞼が閉じようとしながらもぎらついた瞳で彼らを見続け、その気迫は歴戦の勇士ともいえる彼らを圧し始める程のものだった。
「ちょ、ちょっと玲也! 何してるの!?」
「それは駄目だよ! 玲也君!!」
しかし、意地でも自分の決意と出動を認めさせてもらうつもりなのであろう。遂に彼はベルトのホルスターに収納した最新携帯ゲーム機PV――チャールズを手にすれば銃へと変形させる。
この突飛な行動にシャルは目を点としながら、慌てて制止しようとする。この目標の為に手段を選ばない所のある彼は、今非常に不安定な精神状態に加えて想定外の行動へ出るかもしれないのだから。
「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
――遂にチャールズを発砲させた。
だがしかし、被害者や破損物は何一つ現れず。ただ標的は自分自身であり、胸に突きつけられた銃口から放たれる電撃が炸裂するのみであった。
「玲也さん!?」
「何をやっちゃってるのあんた!!」
「これ以上やると感電死しちゃうよ! やめて玲也君!!」
「外野は黙れ! これは俺の問題だ!!」
玲也の体は落雷に打たれるように激しく光り、震え続け、絶叫を上げるたびに瞳孔が極限にまで見開かれ続けようとしている。唇を噛みしめる時に彼の口からは一筋の血が流れ、地面へと滴を垂らした。
やがて電撃が収まる時、彼の体は一度地面へ力なく倒れるものの、直ぐに立ち上がった――。
「アンドリューさん、サティさん、そして将軍……これで俺の眠気は吹き飛びました。もう大丈夫……」
「もう大丈夫じゃねぇよ、この馬鹿野郎!!」
この静まった空気にアンドリューが吼える。普段の砕けた感じの彼とは違い真剣に後発の彼の暴挙を窘めるように。
「お前はどうして出撃までにそこまでやる! 死んでもいいのかよ、おめぇってやつはよ!!」
「俺は父さんを救いだして、その父さんをこの手で追い越す為になら死ぬ覚悟も出来ます! それに俺はその夢を果たすまでは死なない男です!!」
「……!!」
「それは今までも、そしてハードウェイザーのプレイヤーとして戦った時も、それにこれからも……絶対、絶対です!!」
この覚悟を聞くや否や、アンドリューは彼の背負う夢とそれに伴う覚悟が何かを把握する事が出来た。
父が行方不明となってから黙々と父を追い越す日を夢見てゲーマーとしての腕をやみくもに鍛え続けた14歳、羽鳥玲也。追い越すべき父を救う手段を見出した時に彼は全身全霊でこのハードウェイザーのプレイヤーとして腕を磨く覚悟が備わっていると。
「あとアンドリューさん、戦いは何時起こるか分からないものと俺は戦う前に言ったはずです。ハードウェイザーのプレイヤーとしてならば、自分の体よりも使命を果たす事が大事のはずです」
「……これ以上何も言うんじゃねぇよ、玲也」
アンドリューはその先の玲也の言葉を聞くつもりがない。今の彼ならば、戦いの時に準備が万端でない事も言い訳にしかすぎないと言うつもりであろう。
その上、彼はカラ元気を振る舞うものの、表情に疲れが消えたわけではない。彼は痛々しいほど弱った体を有り余る闘志で奮起させているようなものである。
「エスニックさん、私からもお願い致しします! どうか玲也様を出動させてください!!」
「エクスちゃん!?」
「私もお父様とお母様からの期待を背負って戦っているものですから!! その為にハードウェイザーをこの体に宿して黙っている事は嫌いです!!」
玲也の固い決意と燃え盛る闘志にエクスも黙ってはいられなかった。
彼と同じく彼女も親への思いを背負って戦いに身を投じている存在。父を救いたい玲也の一途な想いを3人娘の中で最も理解した人物でもあった彼女は玲也との思いにブレはない。決して彼女が玲也へ盲信に近い感情を抱く故の事ではない。
「そうね、親はあまり関係ないけどあたしたちは戦う宿命でここに来たってことは同じ。黙ってこれからの戦いを見ているだけはごめんだね!」
「将軍、このまま黙っている事は玲也君には可哀そうだよ!! 苦しい思いを玲也君がするかもしれないけど……!」
エクスに続いてフレイとシャルも玲也の出動を望むように考えが変わりつつあった。少なからず今の彼は戦わなければ精神的に救われないような状況である。
「なるほど、君達もそう判断するか……実はだな」
「将軍! 俺からもお願いするぜ!!」
「……!!」
結論を口にしようとしたエスニックだが、アンドリューまでも何時しか玲也に感化されていた様子でもある。
「アンドリュー! おめぇ本気かー!?」
「悪いなスティ、俺はこいつの頭と腕も評価していたつもりだが……今こいつの覚悟に一本取られちまったってことよ」
「ほぉ、そこまで勝ってるって事はまさかアンドリュー、おめぇもう認めちまったとかかー?」
「それに関してはまだ別だぜ」
玲也が超えるべき目の前の壁が、早くも玲也を後押しする側に回った。そして当のエスニックは首を縦に振ると周囲の殆どがパッと希望に満ちた表情を浮かべ始める。
「いや、実は私もその考えでいたが……アンドリュー君までそう言われるとは思ってもいなかったよ」
「へへへ、実際に戦うと色々と分かってくるものですよ将軍、それに玲也」
「アンドリューさん……」
エスニックへ軽く会釈をしながら彼は玲也の元へと近づいて、彼の胸をかるく叩く。当の玲也はこの展開であっけにとられたような口を広げながら。
「そのキレる頭とテクニック。それにプレイヤーとしての決意、闘志、覚悟とまぁお前は俺を楽しませてくれるもんだぜ」
「まさか……あなたは!」
「まぁ待て待て、大体8割は俺も認めたってことだ。あとは実戦で戦ってみろ、そして生きて帰って来い! それで本当に認めてやらぁ!!」
と言い残し、彼はスティと共にトレーニングルームからブリッジへと走り出していく。
「アンドリュー、おめぇやっぱりあのがきっちょにほれ込んでいるんじゃないのかー?」
「あいつは“頭の冴えた大馬鹿野郎” 俺を楽しませてくれる事は確かってことよ!!」
と戦場へ赴く者としてパートナーと軽口を叩く2人であった。
「……さて、玲也君! この展開となればどうなるか分かっているはずだ」
2人が出撃した後、エスニックは厳しくも彼を認めた顔つきで玲也に迫る。これから待つ展開を把握して彼が頷くとともに、エスニックは右手を出口へと指さす。
「……っと」
「玲也様!」
「しっかりしなさい!」
迷うことなく玲也がブリッジへと急ぐ時、彼の疲労した体で走る事は少なからず限界が生じた。
そこでタイミングを見計らったようにフレイとエクスが玲也の肩を支えるよう左右へ回る。
「あんたがここで戦って生きて帰られなかったら私達の立場がないからね! しっかりしなさい!!」
「そうですわ! 私と玲也様で勝ちぬきましょう、第3ラウンド!!」
「お前達……」
2人に支えられながら、玲也はブリッジへ急ぐ。彼ら二人の存在に一瞬安堵を覚えた表情を浮かべながらも、本当の戦いはここからであると彼の表情は凛々しいものであった。
「これでとりあえず玲也君はまだ大丈夫! 玲也君頑張れ!!」
「……そ、そうですね。玲也さん無事帰ってきてほしい所です」
そしてトレーニングルームに留まるシャルは跳びはねるように動き回り、彼の戦いを応援するが、シャルは憂いを隠せない表情であった。それは玲也の無事を祈るが故かそれとも……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――かくして金星。
PARの宇宙開発として、金星は火星と共に居住を目的としたテラフォーミングの対象となる惑星。平均約500度の気温を下げる為に微生物や植物を繁殖させたり、日傘のように惑星を覆う形の居住空間が建築されたりしている。
また金星からのマグマをエネルギーとして利用する計画も進展している最中であり、マグマ発電所において戦車型のエレクロイドと、テラフォーミング作業と警備を兼ねて駐在するウェイザー部隊が衝突を起こしたのである。
『ハワード隊長! 相手はやはりただの戦車ではないですよね!!』
『その通りだ……この通りの戦況だ』
この警備を任されたハワード率いるウェイザー部隊。だが彼らは自分たちよりもサイズの小さい戦車部隊に苦戦を強いられていた。
それは何故か。その戦車部隊にウェイザー部隊のガンポッド攻撃が通用しない事が原因である。彼らが放つ弾薬は迫りくる戦車部隊を前にして、何故か戦車部隊の元へ近づくにつれて勢いを失い、彼らの装甲にまるで磁石のように張り付いては、力なく地上へと弾薬は落ちてしまうのである。
つまり、ウェイザー部隊の遠距離攻撃は戦車部隊の前に無力という事に過ぎない。
『ハワード隊長! ここは俺が行きますよ!!』
『待てスーン! 待てやめろ!!』
これにしびれを切らしたスーン機は発電所の壁を転用したバリゲートから飛びあがり、戦車部隊の群れへ急ぐ。
『まぁ見ていてくださいよハワード隊長! ここは俺の磨いた16連打戦法で勝負というったところですよ!!』
このスーン、16連打戦法という名の近接戦に持ち込んで戦車部隊を撃墜するつもりである。戦車ならば近距離戦に持ち込むと有利と彼は判断し、戦車部隊の攻撃も出来る限り避ける事を選べば大丈夫と判断したのであろう。
『見ていてくださいよ……あれれ?』
その作戦は甘かった。何故ならばその戦車部隊は何とキャタピラが地上から離れ、まるで空飛ぶ円盤の如し浮き上がりながらスーン機へと張り付いたのである。
『うわわ! 張り付いてしまいましたよハワード隊長!!』
『空飛ぶ戦車……スーン、ますます相手が張りついているじゃないか!!』
そしてハワードに指摘される通りスーン機は既に5台ほどの戦車部隊が張りついている状態であり、八方ふさがり。
『今回ばかりは……と思ったけれども!』
その彼が赤いボタンを押す途端、スーンのコクピットが胸の位置から下がり、左足へと移動するや否や、彼の左足先は車両へと変形して本体から離脱。
その直後に本体が爆発を巻き起こし、辛うじて5機ほどの戦車を巻き添えにする事には成功した。
『スーンは脱出したか……しかし彼らを退けるには我々は特攻しかないというのか』
『そ、そうかもしれませんが……あんまりですよ!』
とウェイザー部隊の戦線は芳しくない。この戦車部隊だが、その戦車を10倍ほどに拡大させた陸戦艇が遥かかなたに存在する。これこそ戦車部隊の製造工場でもあり、指揮艇でもある。
「さすが鋼鉄将軍ディアロス様の兵器型エレクロイド。惑星制圧にはうってつけですな……」
この陸戦艇ダイマグネR2、搭乗する指揮官はサーディー・トゥ。狐のような金髪と鋭い目つきの細身の男はこの勝負をまるでゲームのように楽しみ、そして劣る相手を見下すかのようにほくそ笑む。
「ダイマグネR2は磁石戦車トーバンクを高速で製造させて出動させる事が出来れば。後は簡単にプログラムで指揮すれば良いだけの事。私はデスクワークが向いていますから、前線でゆっくりしていられる……」
サーディーという男、後方支援が向いているような男であると公言してはいるが、その男が何故前線へ参加したかは功績が評価されやすいと言う功名心による所が大きい。
このダイマグネR2は彼にとって勝手に戦闘を代理してくれる上に、ウェイザー部隊を遥かに上回る強さから実に扱いやすい機体ともいえた。
『やぁサーディー、調子はどうだね』
「ゼ、ゼンガー様……いきなり何ですか」
『いやぁ悪い悪い、ただ何事も何時起こるか分からないから気をつけるべきとは思うのだよ、私は』
「は、はぁ。以後気をつけます……」
するとゼンガーという男からの通信が届いた。彼の登場に一瞬眉をひそめながらも声にその感情が現れないようにサーディーは務める。そのゼンガーは対照的に軽い口調ではあるが。
『サーディー、この戦いはあくまでハードウェイザーをおびき寄せてそのハードウェイザーを倒す為の戦いだ。ウェイザーの事はあまり気にしないでほしいな』
「ですがゼンガー様、いずれ太陽系も我々バグロイヤー軍団が支配するものですからここは徹底的にですね」
『そこで地球人が作り上げた有用な物を壊してしまう事が相応しいのかね? 支配する側としてだよ』
「そこはその……私が、あいえ何もありません」
その時、自分の立場の件を言及して正当性を主張するつもりのサーディーであったが、流石に上司の前に口にする事は出来ない為、口にしそうな時にとっさに己の口を塞いだ。
『まぁとりあえず無理はしないように。志を果たそうが果たさないが私は死なれてしまう事が嫌いということだよ……』
「了解しました……ちっ!」
とゼンガーからの通信が切れた時に彼は拳を通信機器へと叩きつける。
「バグロイヤー様からの命令を受けたきっかけでゼンガーのお目付け役だが、あの若造め……」
どうやらサーディーとゼンガーの関係はさほど深いものではない。指揮系統が別に存在しているかのようでもある。
彼からすればゼンガーが太陽系の侵攻に関して乗り気ではない事が苛立ちの主な原因であり、そのお目付け役としての自分の意見を聞き入れようとしない事がそれを増長させている訳である。
「まぁよい。私が手柄を立てる事が出来るならばそのゼンガーの若造を凌いで、彼を追い落とす事も出来そうだがな。ふふふふふ……」
『おいサーディー、聞こえるか!!』
「どうしたエグサス、そのように慌てていて何事だ」
――自分の野心を夢想した最中にまたも別の通信が入る。
エグサス・クーパー。同じく別方面からダイマグネR2を駆使して金星の制圧を目論む人物でもある。
『B方面にハードウェイザー・イーテストが現れた! お前のA方面にもおそらくハードウェイザーが現れるはずだ!!』
「イーテストか……まぁ私の方はダイマグネR2で何とかなるレベルとは思うが、イーテストと戦うお前は気の毒だな」
『気をつけろサーディー、お前はハードウェイザーの実力を余り知らないから気楽でいれるんだ!』
どうやらサーディーはダイマグネR2の実力を過信する所がある点は、エグザスのリアクションから察せられる事であろう。
「何、ダイマグネR2の提供は私がディアロス様に頼んだが、エグサス、お前は最近ディアロス様の元で奮わない為に私の元へ転属を希望したのであろう」
『そ、それは否定できない事ではあるが』
このサーディーとエグザス。対等の関係かと思いきや異なる模様。
エグザスはディアロスと呼ばれる鋼鉄将軍の師団員として実戦経験もそれなりにある。サーディーよりも遥かに実戦向きの男だ。
しかしそのエグザスも鋼鉄軍団の武官としては中の下、劣等感に苛まれていた経緯があった。その為、サーディーが率いる太陽系攻略を目指す前線部隊へ転属を希望した訳である。
「良いか、もしお前が成果を上げる事が出来たならばディアロス様へ私が口添えして帰参を容易にしてやってもいいし、あるいは私と共に来るべき新太陽系前線部隊の幹部として迎えてやっても良い」
『勝てばではない……いや、戦いに勝たなければならない事は当たり前の事だが』
――やはりこの男は戦いを知らず、部下を持つに相応しくはない。
自分の立場に危機を覚えてこの男サーディーの元へ逃げ込んだ件が間違いであった。
しかし、一度この男の下に就いたならば手柄を立てて彼の元から解放されるきっかけを作らなければならない。それには運が自分にはなかった事を悔みながらも、この男の態度へ苦い表情を彼は浮かべ続ける
「そうだぞ。私は勝てる見込みのある駒しか必要とはしていないからな。無論勝てる戦いしか私もしたくはない為にお前の健闘を祈ろう」
『了解した……サーディー、お前も足元を救われないようにな』
――そしてサーディーはやはり武官として上司として相応しくない態度に代わりはなかった。
「やれやれ、エレクロイドはどうにか手配できるが、それを操る将軍直属の部下を借りる事は難しいもの……」
とエグザスの態度と実力を前に、彼はさほど戦力にならないのではないかと、サーディーは早くも内心で諦めをつけていた。
「さて、前線の様子はどうなるか……」
そして、すっかりゼンガーとエグゼスとの会話で前線の様子を見る事がおろそかとなっていたサーディー。
だが、モニターを切り替えて見るや否や、彼の予想を大きく裏切る事態へと繋がる事となった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なるほど、相手は磁石で実弾を引き寄せて無力化させてしまう訳か……」
「玲也様、この雑魚にかまっていられる暇はありませんわよ」
「それについてはしっかり対策を練ってはいる」
その頃、先ほどのウェイザー部隊が苦戦を強いられる金星A地区にクロストが参上した。
彼は磁石戦車トーバンクの特性を把握するや否や、L、R、右トリガー、スタート、セレクトを同時押し。
このコマンドにより胸部の装甲が半開き状態となり、そのまま装甲の中に存在するいくつかの銃火器を取りだしては他のウェイザー部隊へ次々と配布する。
「玲也様、こういう使い方もありなのですね」
「元はクロスト・クーティスの長期戦用にと出来るだけ専用火器を搭載したが、その火器を全員が使用して弾幕を張る事も出来るという事よ」
『これは私達ウェイザーの武器としても使うことが可能だそうですが……それで効果があるのですか?』
「このクロス・ランチャーガンはただのミサイルランチャーではありませ。全員行きわたりましたね」
その時、それぞれの速度で接近するトーバンク軍団を前にして、クロス・ランチャーガンを構えたウェイザー部隊を横一列に並べ、中央にクロストが存在しており、彼は両手を前面に突きだす構えを取る。
「これで発電所に接近する相手を一斉に片付けたならば一気に親玉を叩く。エクス、この第一作戦はお前の責任が重大だ」
「承知しましたわ……玲也様」
そしてエクスの管理するモニターには、いくつもの正方形のマスが映し出され、そのマスはそれぞれのウェイザー部隊に渡ったクロス・ランチャーガンの認識IDであり、正方形のマスへ向けて赤の丸が次々と近づくが、これこそトーバンク達だ。
「射程圏に入りました! みなさん発砲をお願いします!!」
――玲也が叫ぶ。
その途端バスター・ランチャーが両手から火を噴き、脇を固めるウェイザー部隊が同時にクロス・ランチャーガンをぶっ放す。
「全員発砲致しましたわ!!」
エクスの管轄下に置かれたモニターの正方形が同時に点灯する。
けれども、バスター・ランチャーしかり、クロス・ランチャーガンしかり、共に実弾兵器。このままではトーバンクの磁力波を前に無力化される事がオチでもある。
「1番、2番、磁力波の有効範囲内ですわ、玲也様!!」
「承知した! それぞれ無力化される前に押せ!!」
エクスの細やかな指がタッチパネルに触れる途端、磁力波に誘導されはじめて吸着されていく弾頭が爆破四散。
一発が微弱なものであれど、磁力波で無力化される前に次々とダメージを蓄積されてはトーバンクの装甲に限界を来たし、ある機体は吹き飛び、またある機体はその場で機能を停止した。
「相手に吸着する前に爆発を起こせばダメージを与える事が出来る。このコントローラーで遠隔操作が出来る範囲にも限界がある」
「それを私が肩代わりする訳ですね、玲也様!」
「その通りだ。この調子で頼む」
エクスが担う機体の操縦とは、ウェイザー部隊が繰り出すクロス・ランチャーガンの弾頭を遠隔操作で炸裂させる事でもある。
玲也が握るコントローラーは1台しか存在していない為、何台ものクロス・ランチャーガンを同時に制御する事が不可能であり、エクスのサポートが必要だったとの事である。
「今から俺がこの戦車軍団の出元を叩きます。皆さんは俺が撃ち漏らした戦車の駆除をお願いします!」
「それでは玲也様! クロスト・グンツァーへといざ!」
「承知した! チェーンジ! クロスト・グンツァー!!」
十字キー左とセレクトを押すとすぐさま、戦車形態クロスト・グンツァーへと早変わり。
間もなく両手からの車輪を回転させながら目の前の標的へと一直線に進撃する事を開始した。
足元のトーバンク部隊は前輪なり、後輪ともいえるキャタピラなりとまるでアルミ缶を踏みつぶすかのように突き進む。
地上が駄目ならば空中から攻めると、トーバンクの何機かは磁力波を展開されながら浮遊する。クロスト・グンツァーへ張り付いてはゼロ距離からの砲撃を仕掛けるのであろう。
「バスター・マイン射出!!」
しかし、この空中からの脅威にも玲也は既に対策済みであった。
L、R,スタートの同時押しにより、バックパックからバスター・マインが飛ぶ。今度は磁力波を展開させるものではなく、空中の標的をめがけて張り付くや否や爆発を起こし、空中の敵を微塵に砕く。破片の雨が途中でクロスト・グンツァーに降りかかるものの、その被害は重装甲の彼にとっては軽微に過ぎない。
『な、なななな……このハードウェイザーは見た事がない上に……なんということだ!!』
とダイマグネR2のコクピットで胡坐を掻くように座っていたサーディーが狼狽する。
迫る、迫る。
お構いなしに目の前のクロスト・グンツァーが彼の期待を寄せるトーバンク部隊を軽々と踏みつぶすなり砕くなりと、まさしく彼の野心を踏みにじるかのよう。
『そ、そうだ! とりあえずエグザスが手柄を立てれば私の物にしてしまえば良いだけのことよ! ゼンガーも死ぬなとは言っていた!!』
と都合よくゼンガーの言葉を信じて、サーディーが赤ボタンを押す。
その途端、彼のコクピットは機体の底部へと移動。クロスト・グンツァーの死角からダイマグネの艦載機が遥か彼方へ飛び立つが大凡サーディーが搭乗して脱出したのであろう。
「玲也様! いきますわよ!!」
「あぁ! 行け、電次元グラビティ!!」
電次元グラビティこそクロスト・グンツァーが誇る最高の破壊力を持つ切り札。
クロストの複眼が青色一色に光り輝く時、間もなくして藍色の光線がただ一直線にダイマグネに円状の穴を貫く。
風穴を開けられる時に、ダイマグネの内部から外見まで膨張するかのように膨れ上がり、風船が破裂するように砕け散る時まで時間はかからなかった。
「レーダーから標的は消失。これで勝ったということですね!!」
「あぁ、お前のレーダー管制を信じるならば……その通りだ」
『ありがとう、これでA地区は何とか持ちこたえた。B地区はイーテストが戦う様子からすれば大丈夫と考えた方が良いが……』
「B地区……エクス、様子を調べてくれ」
かくして、クロストはダイマグネR2とトーバンク軍団を片づけたに等しい戦績を得た。しかしアンドリューはどうであろうかと玲也はふと気がかりでありエクスへモニターの確認を促す。
「玲也様映りましたわ! アンドリューさんは一人で軽々と片づけている訳ですわ!!」
コマンドが表示されるディスプレイに、エクスが管轄する情報が共有される。その映像は青の追加装甲を羽織ったようなイーテスト――イーテスト・ブラスターがまるで長坂橋の張飛の如し、単身でトーバンクを撃つなり叩くなりと片付けてはいる。
だがしかし、彼の周辺には他に戦うウェイザーの姿が見えない。どうやら彼らの破片がそのあたりに散らばっている事から考慮すると全滅に近い状況であろう。
「玲也様、アンドリューのことですからおそらくは何とかなりますわよ」
「確かにありうるが……やはり心配だ」
玲也の判断は素早く、左スティックを前に倒しながらB地区へ向かう。
『こっちはもう大丈夫だ! 最低限の処理を済ませ次第B地区へ手の空いている者を向かわせる!』
「承知しました! 行くぞエクス!!」
「了解ですわ! そこでも活躍してアンドリューに認めさせないといけないですわね!!」
玲也は気がかりだ――仮にアンドリューへ万一の事が訪れた事に関してだ。その心配がない事を祈りながら、また自分が何かの役に立つ事が出来るかもしれないと信じながら……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そらそらそら! ガドリングマイト十六連射といくぜ!!」
青の装甲を携えたイーテスト・ブラスターは重火力重視とクロストと同じポジション。だが彼もまた近接戦用にある程度のカスタマイズは済ませられている。このガドリングマイトがその兵器の一種。
ガドリングマイトとは両手にガドリングパーツを装着してただぶっ放す。それだけではなく相手に拳をめり込ませてから内部へめがけてぶっ放す。
このアグレッシブな実弾兵器を駆使して、磁力波で張り付こうとするトーバンクに突きだす拳を自らの囮として、腕からの花火で標的を貫く。この両腕でアンドリューはトーバンク部隊を片っ端から片付けていたのである。
「アンドリュー、随分とノリノリだなーお前!」
「おおっ、俺がライト級のチャンピオンとして名を馳せたってこと忘れたかぁスティ!」
ボクシングの心得も十分に持つアンドリュー。
イーテスト・ブラスターは地上にて這うように進む敵へはしゃがみながら拳を突き出す事。よって強引に地上からトーバンクを引きはがす。
空中高く飛ぶ相手にはアッパーのモーションでガドリングマイトを突きだし、引き寄せられる相手には拳をぶちこみ、そうでなければ実弾の雨をお見舞いする。その流れで彼は無双を続けたのである。
『な、何ということか……』
この一人でトーバンクをちぎっては投げちぎっては投げのアンドリューに対して、B地区の攻撃へ挑むエグザスの眉間には汗が一筋流れる。
こうも簡単に倒されるトーバンク軍団を前に、イーテスト・ブラスターの実力へ戦慄が走る。このトーバンクだけでは勝つ術がないと半ば認めていたかのようでもある。
『それにサーディーからの連絡が一切存在しない。逃げるなり、戦死するなりかは把握できないが……』
「アンドリューさぁぁぁぁぁん!!」
それに頼りはないが転属した自分への後ろ盾が戦場には存在していない訳である。さらに、モニターへはイーテスト・ブラスターとは別のもう1機。すなわちクロスト・グンツァーが新たに立ちはだかる壁として迫ったのだ。
「おっ玲也! お前まさかもうA地区を片づけたのか!?」
「はい。アンドリューさんとは違いこっちは上手く作戦が進みました」
「そっかそっか。こっちは駆け付けた時は殆ど全滅。ほぼ全員脱出したからそこに安心していいかどうか分からねぇがな」
「まぁアンドリュー無双という展開が続いている訳なんだぜー」
――この事情もあり、アンドリューは一人で延々とB地区の防衛網を維持し続けていたのである。
「……さすがアンドリューさんだ」
玲也は周囲の協力と、また本人は知らないが相手の指揮官の質の差もあり何とか勝利を収める事が出来たのである。
一方アンドリューは孤立無援の状況で戦い続けた。その姿に一流のプレイヤーだとアンドリューを玲也は認識する。彼の言葉には敬意だけではなくどことなく安堵の感情も籠っていた。
「なぁに、この重火力仕様の近接戦はおめぇの戦いから思いついた訳よ、面白い戦い方をする奴だって」
「そんでもって実際結構いい感じだよなー」
「それは勿論、私と玲也様が考えた戦法ですから、ね? 玲也様」
「あぁ……けれど、つい先ほど俺が考えた戦い方をこうも早く上手くアレンジとは……さすがです」
相手として戦う事で相手の凄さを知るが、仲間として戦う事で仲間の凄さだけではなく頼もしさも知るのであろう。
戦う時に彼へ見せた倒すべき相手としての認識、いわゆるとげとげしさは玲也の心には存在していない。ただ共に戦うべき相手としての認識が彼の心のとげを丸くしているかのようだ。
「まぁな。ハードウェイザーは限界知らず。成長率抜群だぜー、がきっちょよ」
「そんな訳よ、さぁてそれはそうと玲也、雑魚の露払いは頼むぜ!」
「雑魚……!? 玲也様は花形としての活躍が良く似合うのですのに!」
「落ち着けエクス。それは関係ないことだ」
「そうだぜー」
B地区の反撃に関して一人不満だそうだが、玲也とスティがそれなりに彼女を抑える。
「まぁまぁエクスちゃん、ここは俺に花形を飾らせてくれよ。A地区でお前達も花形を飾ったんだろ?」
「そ、それはそうですが……」
「まぁ次の機会に花形は譲る事にするからよ、とりあえず勘弁してくれよな!」
やんわりとエクスを宥めながら、イーテスト・ブラスターの両肩から砲門が90度左右に展開、引き続き両肩の前方へ砲身が突き出るように向きが変わる。
これこそイグニッション・ブラスト。いわゆるイーテスト・ブラスターが重火力重視という事を象徴する左右計6門のレールガンである。
「さぁて、餅は餅屋という諺があってだな」
「イーテスト・ブラスターは殴り合いよりロングレンジが得意って訳だぜ―!がきっちょ、フォロー頼むぜー!!」
「承知しました! トーバンクへは既に慣れていますから大丈夫です!!」
とクロスト・グンツァーは得意のバスター・マインを駆使してトーバンクを自分の元へと引き寄せ、接近する直前にクロス・ランチャーを放って命中直前に爆発させる事でことごとくと片付けていく。
「がきっちょのバスター・マイン結構便利だと思わないかー。なぁアンドリュー?」
「まぁまぁそう愚痴るなって……こっから花形としての大一番!」
「おぅ、決めるぜー、イグニッション・ブラスト!!」
「おぉよ! ブラスト・ファイヤー!!」
とアンドリューは押し続けたLIとR1ボタンからこの時を見計らって指を離す。
すると、6筋の光が標的のダイマグネR2に向けて飛び交い、全てがらせん状に絡みついた巨大な光一筋がダイマグネのど真ん中をやはり貫いてみせる。勝利は決定的であろうか。
『も、もはやこれまで……だが!』
この一撃により、ダイマグネR2のコクピット周辺も炎上を開始する。炎と煙の中で意識がゆっくりと薄れていくエグザスはただ、一つの諦めを強く覚え、その一方で最期の覚悟として腹を据えるのであった。
『あのサーディーのように逃げる選択肢は私にはない! そしてこれでもディアロス様の配下として前線で戦った男だ……!!』
とエグザスが高温と化した基盤の青ボタンに触れると、機体底部からスロープが展開され、真紅の戦車が次々と。計9台が繰り出される。この9台こそエグザスが託した最期の切り札。平時の漆黒の戦車とは大きく異なる秘密を背負いながら大地を駆けはじめる。
『この時限トーバンクであいつらを道連れに! そうでもしなければ私は……ぐはぁ!!』
遂にコクピットの天井が崩れ落ちエグザスは炎の中に消え、やがてその火の塊は周囲へ分裂を起こす――バグロイヤー万歳と彼は叫びながら。
「さて、これでとうとう片付いた……」
「玲也様……頭上です!!」
エグザスが放った最期の切り札。エクスが把握したモニターには爆風に煽られるかのように大空を飛びあがる真紅の9台。それもイーテスト・ブラスターの頭上へ、いわば彼に張り付かんとする軌道でもある。
「危ない! アンドリューさん!!」
――その時、玲也は迷わずバスター・マインによる磁力バリアーを展開させる。
バックパックから磁力波の線で繋がれたそれぞれの磁力爆弾がそれぞれのトーバンクに張り付くや否や、彼らの飛ぶ軌道をクロスト・グンツァーの頭上へと引きずりこむ。
「これでマインを爆発させて、その爆発に巻き込ませる……!」
とL、R、スタート、セレクト。いわゆるリセットコマンドを入力しようとした瞬間、背中に振動が走り、後方から延々と煙が巻きあがる事態に気付いた。
玲也が何かと気付く時、引き寄せられたトーバンクの砲撃が運悪くバックパックを直撃。いわばバスター・マインが故障した訳だ。
「玲也様! バスター・マインが使えないとなりますと……きゃあっ!!」
「まさか……!!」
「そのまさかですわ!!」
エクスがモニターを切り替えた時に、クロスト・グンツァーへと計10機のトーバンクが吸着した。今までは網に取るようにして彼らを引き寄せていたクロスト・グンツァーだが、今度ばかりはピラニアに噛みつかれたかのような状況ともいえる。
「やべぇことになっちまったな……待ってろ玲也!」
「アンドリュー……そうはいかないみたいだぜ……」
イーテスト・ブラスターはストライク・マグナムを彼に張り付くトーキングを粉砕せんと構える。
しかし、スティが把握したデータを共有されるや否や、その方法が不可能である事に行きつく。何故ならばトーイングが全身時限爆弾に等しい機体でもあったからだ。
「やべぇな。こいつは外から攻撃すればクロストが吹き飛んじまう……」
「そ、そんなぁ! 何か玲也様を助ける良いアイデアはないですの!?」
「そうだな……あれだ!」
その時、アンドリューは周辺の地形を把握してニヤリと口元を緩める。
まずクロスト・グンツァーの位置はちょうど窪みで構えていた。次にその近くに発電所のエネルギー源とも言えるマグマ貯蔵庫が存在する。
この地理的な特徴とクロストの特性をアンドリューは素早く頭の中で作戦を組み立て、全てが一つに繋がるまではそう時間はかからなかった。
「玲也! 磁石は熱に弱いぞ!!」
「磁石は熱に……まさか!!」
この一言で、玲也の脳裏にもアンドリュー同様、クロストの特性と地理的な特徴が組み合わさり、作戦の全貌を把握するに至る。
(そうだ。これはバスター・マインをバースト・ソーサーに破られた時と近い……。磁石は熱に弱く、その熱は貯蔵庫のマグマで代用すれば十分いける。後は周囲の被害を最小限に防ぐ事だ……)
「玲也様、その磁石と熱の関係はどのようにすれば宜しいのでしょうか……」
「エクス、マグマ貯蔵庫とこの足場を結ぶルート。最も脆い所を捜してくれ!」
「分かりましたわ……ここは私達が死ぬか生きるかですからね」
「俺は父さんを助けて追い越すまでは殺しても死なない男のつもりだ! だからここで死ぬわけがない……そのはずだ!!」
先端のシャグランをドリルとして駆使しながらクロスト・グンツァーが自分の前方へより深い穴を掘り続ける。これはマグマを付近の窪みに流し込む事へ他の場所へマグマが流出しない事を防ぐためでもある。
「玲也様! 最善のルートが見つかりました!!」
「よし……アビスモル射出だ!!」
L、R、左トリガー、右トリガーの同時押しと共にキャタピラ底部から地中へ軌道を描くアビスモル。あとは貯蔵庫の底部に穴が開くまでの時間次第である。
「玲也! どうにかなるか自信はあるか!?」
「大体俺が思い浮かんだ作戦通りに進展はしていますが……まだ分からないですね」
イーテスト・ブラスターもストライク・ナックルにシュナイダーの刃を展開させながら、片腕で窪みをより深く進めんと、もう片腕で同じく貯蔵庫の底部へ穴を開けんとクロスト・グンツァーをサポートする。
けれどもこの作戦において、イーテスト・ブラスターは殆ど脇役。クロスト・グンツァーの行動が時限トーバンクの爆発までの時間に間に合うかどうかでもあった。
「玲也様! 命中です!!」
「――やったか!!」
「これでマグマが流れ込むって事になる訳か! 頼むぜ、上手く行ってくれよ!!」
三か所の穴が底部に開かれるや否や、そのマグマが急速に地下を展開し、やがて窪みへと繋がる穴に到着すると、赤色の流動体が次々と流れ出る。
その流動体がやがて窪みの全体を満たし始めていき、それだけでなく窪みへはマグマの熱により表面が徐々に溶解。いつしかクロスト・グンツァー1機分が収まる程窪みが深みを増し、やがてプールのようなマグマに彼は飲み込まれる程であった。
「……見て玲也様、どんどん離れていきますわ!」
「あ、あぁ……」
クロスト・グンツァーにとってマグマの熱はまるで中和剤のように、瞬間接着剤で貼り付いたかのようなトーバンクを自然と剥がす。
だがしかし、この戦法はいわゆる肉を切らせて骨を断つ方法であり、2人のコクピットはまるでサウナとの表現では生ぬるいかのような灼熱の空間へ変貌をしていく。エクスも倒れてはならないと瞼をこすり続けるが、その時の玲也は力なく頷くのみ。ただ無重力の空間でコントローラーを握る事だけが精いっぱいであった。
「おい玲也! マグマが既に窪みから流れているぞ!!」
「な、何ですって!!」
「このままじゃ発電所をマグマが満たしちゃうぜ……やばい事になる!」
「そ、そうなのですか……玲也様、聞こえましたか玲也様!!」
アンドリューからの通信にエクスが答えるが、ハードウェイザーの操縦を司る人物は玲也。今の蓄積された疲労に加えて極度の熱を前に彼は危うい状況へ追いやられている――彼女は何度も玲也の名前を呼んでもである。
(まさか、玲也様……ど、どういたしましたら宜しいのでしょうか!)
エクスの疲弊も蓄積されるのみで、頼るべき存在の玲也の返事がない事からじりじりと状況は追い詰められていく。
(い、いえ! 私は玲也様を助ける身ですから、ここで何とかして助けなくてはいけませんわ!!)
その時エクスの中で一つの決心がついた。
彼女はとろけそうな熱の中で自分の両頬を叩きながらすべき事を見出したのである。灼熱の地獄の中で気高き彼女は尽くすべき相手の為に誇りと意地を瞳に燃やしながら、玲也の元へ体を寄せる。
「起きなさい……起きなさい!」
その時、エクスの平手が玲也の横頬を打った。それでも反応がないならばもう一度起きなさいと叫びながら平手を打ちと延々に繰り返す。何処となく彼女の思いが頬を打つ手に込められながら。
「玲也様!立ちあがってくださいまし! あなたはお父様を助けて追い越すまで殺しても死なないとおっしゃったではないでしょうか!?」
「う……」
「その言葉は嘘ではない筈! 私は何時も玲也様を信じているのですよ!!」
「……そうだ」
何発かの平手を受けながら、玲也の瞳は再び見開かれ。勢い余る彼女の平手を掴んでから首を振りながら意識を取り戻す。
「危うく意識が飛ぶ所であった。いずれにせよお前に礼を言わなければならない」
「ありがとうございますわ! ですが早くこのマグマの流れを止めなければ危険でございまし!!」
「マグマ……電次元ブリザードで決める」
マグマを止める手段に電次元ブリザードの存在を見出す。
しかし、その電次元ブリザードがマグマの海を凍結させてしまってから身動きが取れるであろうか。
しばらくは持ちこたえようが、電装時間に限界を迎えた時には自分達はこの永久凍土のような極寒の環境に身を置く結果につながる。
「玲也様、あれを使う時ではないでしょうか?」
「あれ……だが、あれは部位を一時的に移動させるだけであり、最終的には元の位置へ戻さなければならないはず」
「大丈夫ですわ。この独立したパーツを駆使するのでしたら……いけますわ!」
「……わかった!電次元ブリザード最大出力! そして……」
玲也はエクスからの案を信じて行動に入った。
今、クロスト・グンツァーの両肩からは水色の光が再び飛ぶ。対照的な赤の海に流れる水色の一筋は徐々に海を水色の氷原へと姿を変えつつある。
これによりマグマの弊害は防がれていく傾向だが、今度はクロストがまるで永久凍土の中に閉じ込められたかのように動けない状態へ追いやられる。最も2人はこの環境から脱出できる手だてが残されていると承知であり顔色は悪いものではない。
「玲也様! クロスト・キューティスもそうですが、これもまたクロストのアピールポイントですわ!!」
「承知した! これでフラグが立つ!!」
「可愛く美しく! それが正義というものですわ!!」
L、R、左トリガー、右トリガー、スタート、セレクト……そして中央に備えられたXボタン。
凍結を続けるマグマの海中にて、クロストの胸部装甲が観音開きのように左右へと展開される。その先に青色の光が内部で輝きを放ち続けながら、やがてその光は何処へともなく消え去るのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「将軍! B地区のマグマによる二次災害は収まりました!!」
「おそらく電次元ブリザードによる凍結ではないかと思います!!」
「そうか……」
――そしてパーフェクト・フォートレスブリッジ。
コリンとテディの言うとおり、モニターに映るB地区では地形の窪みを満たすマグマがまるでサファイヤのような輝きを放つ固体と化した。少なからず周囲への溶解は防がれたものともいえる。
「エスニック君、そうじゃが玲也君の様子はどうなのじゃ!」
「確かに玲也とエクスはあのマグマの氷の中に生き埋めの状態」
「そこから脱出は出来たのか……?」
「博士、それについてはもう少し……」
「コリン!反応があったぞ!!」
玲也の無事を案じるブレーン達を横目に、テディの捉えたレーダーには青色の光がマグマ付近に灯る。
だがしかし、その光が人型として姿を変えていき、光が消失して実態が現れるや否や周囲は思わず狼狽する事ともなった。
「大変ですよ! こ、これはクロストの姿ではないですよ!!」
「何じゃと!? 玲也君ではないのか!」
さて、現れたその機体とは、クロストの無骨な程直線と直角を意識したボディラインとは一転して、彼女は丸みを帯びた曲線のボディライン。ロボットのハードウェイザーでありながら、出る所は出て締まった所は引きしまった姿。
頭部にはエクスが自慢する金髪がトレードマークでもあり、複眼ゴーグルのみの無個性な表情とは一転して、すらりと整った鼻筋と淡くルージュが塗られたかのようななめらかな口元。顔も姿も重厚で無骨なクロストとは異なる華奢で華麗な機体が存在しているだけである。
「うわ、あれ何……趣味が悪いじゃん」
「フレイちゃん! そんな事を言っている場合ではないですよ!! 玲也君とエクスちゃんがどうなったか……」
『俺は大丈夫です……将軍!!』
その時に玲也の声が聞こえ、引き続きブリッジのモニターにも2人の姿が映し出された。
玲也は相変わらず疲弊はしているものの、全てをやり遂げたかのような安心感の漂う表情である。
「おおっ、玲也君! 無事だったのかい!!」
『はい! 少なからずとも……エクスのアイデアが役立ったとも言えます』
『そこまで褒めなくてもですが……この最も可愛く美しくと最高にジャスティスなこのクーティスのおかげもありますわよ!!』
「玲也君、何時の間に没にしたアイデアを採用したんだ! あの外見はまぁその……だけど」
「それよりシャル、あのマグマの海からどうして脱出できた訳なのよ?」
「そうだねぇ今の所何となくだけど……クロストの亜空間移動能力をカスタマイズで昇華させる事に成功し立って僕は思うよ」
その亜空間移動能力とは大まかにいえば亜空間へ飛び込んだブレストの能力と似た者同士。御尤も似た者同士であり厳密には異なる点は少なからずであるが。
「言い忘れてたけど、ブレストの亜空間移動能力は部位移動。手足のパーツをワープさせて遠隔操作する事が出来る能力なんだ」
「つまり手足だけをワープさせる能力なんですね」
「その通り! 上手く使えば1機で2か所以上の地区で戦う事も出来るんだけどねぇ……」
とシャルは苦笑しながら言う訳である。
ちなみに、その亜空間移動能力は本来機体そのものをワープさせる為の能力であったが、不具合が発生した為にやむを得ず部位だけのワープに制限した事も彼女は付け加えて笑う。
「まぁ、クロストは3機の中で1番最初に完成したプログラムだから色々手さぐりだった訳だね」
「そのノウハウがあたしの亜空間移動能力で機体そのものを移動させる案へ繋がった訳ね」
「そうだね、ついでに言うと機体そのものを遠隔操作でワープさせる能力はミュウちゃんのウィストで完成したって訳。この中では最新式という事もあるわね」
「い、いえ……あくまで私が最新式ですから、それは当然ですよ……」
とウィストを称賛する流れとなるが、ミュウはどうも謙遜気味の態度に変わりはなかった。
「シャルさん、どうやらクロストの胴体を別の機体として変形させて運用できる事を玲也達は考えたのではないでしょうか」
「うーん、そうだね……」
解説を得意とする3つ子もシャル達の会話へ介入する。
3つ子の中で最も理知的な長男ディーゴの考えはあながち間違いではなく、玲也達はクロストの胴体にコクピットを兼ねる別の機体“クロスト・クーティス”のデータを搭載した。
「そっから何時ものようにワープの対象としては部位でもあり、部位から変形して独立した1機体としてもプログラムで認識したんじゃねーの?」
「なるほど、要はワープが可能な上に独立して行動が可能な機体としてクロストの胴体を調整した訳って事だね!」
とデュークとシャルが言うとおりである。独断で追加されたアクシデントはあったものの、玲也とエクスはどうにかそのアクシデントを怪我の功名と言わんばかりの成果へ繋げる事に成功したのである。
「玲也君、僕がまだ教えていないのにそこまでやれちゃうなんて凄いなぁ!」
「そうですね……うらやましいです……」
とこれから先を見通してシャルは玲也の活躍と成長をまるで自分のように歓喜する。隣のミュウも彼女の姿へ必死に喜ぼうと笑顔を作るものの、言葉からして分かる通りぎこちない想いをまだ消し切れてはいなかった。
「どうやらこの試練を玲也君は乗り越えてしまったものか……エスニック君」
「ブレーン博士、貴方が玲也君の身を案じる気持ちは良く分かります。ですが……」
「聞かないでくれアンドリュー君、玲也君にとっては秀斗君を取り戻す事が一番彼の為になるかもしれないことじゃ……」
プレイヤーとしての玲也の道を反対する最後の人物ブレーンもとうとう折れた。
トレーニングルームでの一件を耳にし、また実際の彼の腕も拝見した身からすると、プレイヤーとして戦う決意と実戦における頭脳とテクニック。どれをとっても彼を否定する事が出来ないのである。むしろ否定してしまえば彼の為にならないとまで考えていた訳である。
「じゃから、あとは他のプレイヤー同様、玲也君達を私達がどのように守るべきかを考えなくてはならないのぉ……」
「無論、それは私も重々承知しています博士。そしてこの試練の答えは……アンドリュー君が言ってくれるはずだろう」
かくしてエスニックはモニターの向こうに映るイーテスト・ブラスター、すなわちアンドリューへと目をやる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『そらよっと電次元ファイヤーっときた!』
そしてB地区にてイーテスト・ブラスターの胸から放たれる紫色の熱線。
電次元ファイヤーはいわゆるブレストの電次元フレアーに酷似した光線兵器でもあり、アンドリューはあくまでエネルギーを抑えながらの放射で凍結したマグマをまるでぬるま湯へと融解させていく。
『さて、後でクロストの体も何とか取りだせるかなっと……』
『なぁアンドリュー、温泉みたいと思う訳だがー』
『馬鹿野郎、お湯じゃあなくこいつぁマグマだ。研究関係でこのぬるめにキープしたマグマは使えるかもしれねぇけどな』
と軽口を叩きながらイーテスト・ブラスターのストライク・ナックルをまるでクレーンのように駆使しながら全長約60mもの巨体を誇るクロスト――クロスト・イーテストからしてみれば外殻を引っ張りだして地面へとつける。
『これでひと作業は終わりだな―』
『まぁそうだな、それより玲也、こいつのことだがよ』
「こいつ……あぁ、はい。クロスト・クーティスですね」
「まぁアンドリューったら このクロスト・クーティスがこいつ呼ばわりはないですわ!!」
「……悪い、今は少し黙れ」
先ほどではエクスの案と行動に感心した玲也ではあるが、平時の彼女は玲也を押し上げて、他人には厳しい態度がどうも変わってはいないようである。とりあえず彼は彼女を軽く流すことにする。
『そのクロスト・クーティスだがよ、お前がシミュレーターバトルで使うつもりの切り札だったとかか?』
「その通りです。エクスが勝手に付け加えたものでして、修正に苦労しました」
と玲也は修正に関して、エクスが加えた直後はエラーが多発していた事と、それに加えて玲也自身が考えた戦法を駆使できるようにまで調整する為に夕方5時頃まで時間を費やしてしまった事を苦笑いしながら打ち明ける。
「もぅ玲也様。それで助かったというのにあんまりな態度ですわ」
「……お前は褒めるべきか叱るべきか良く分からない」
――この玲也の本心。出来る限りエクスへ聞こえないようにボソっと小声で話した事も補足として付け加える。
『いや、まさか1つのハードウェイザーの中にもう1つのハードウェイザーを入れちまうアイデアは初めて聞いたぜ。あん時俺も分からなかったもんなぁ』
「あの時……?アンドリューさん、そのあの時にストライク・マグナムを向けたはずでは」
『あぁ、あれなー』
アンドリューは苦笑しながらシミュレーターバトルの件を告白しようとする。その告白の内容は何度も抵抗を続けた玲也が負けを確信した瞬間の場でもあったからだ。
『まぁすまねぇ、あの時はクロストの胸から何か飛び出してくるかと用心のつもりで向けてた訳なんだ』
『まぁ、まさか中から別の機体が出てくるとは考えてもいなかったってことだなー』
「そ、そうだったのですか……」
とアンドリューは少々バツの悪いような顔をしながらも堂々とシミュレーターバトルの時に隠していた意外な弱みとさらけ出す。これに少しきょとんとした玲也だが、改めて感心の感情も浮んだのである。
「けれどもアンドリューさん、貴方は全然その弱みを戦いで見せていなかった……さすがです」
『おいおい玲也、俺は恥ずかしい事をコクってるんだぜ? 予想外に褒めても何も出ないぜ』
『まぁ、相手に弱みを見せないように振る舞う事も一つのテクって事だなー』
『そうそう、ついでにあのまま戦いが続いていたとなら、俺は最後に騙されていたかもしれないってことよ』
「なるほど……」
照れるアンドリューを代弁するかのようにスティが心得をサラリと説いた。
相手に弱みを見せない戦いはゲーマーとして玲也も心得ていたつもりではあったが、シミュレーターとはいえ1対1の勝負に自分は常に平常心でいられたかと少し考える。
『――さぁて、前置きは長くなったが……まぁこういうことだ』
と本題に戻りイーテスト・ブラスターの取った行動とはクロストとは異なり、自分と比較して小柄なクロスト・クーティスへと手を差し出す。開いた掌はまるで彼女の手を取るかのよう、いや手を握るかのような姿勢だ。
「アンドリューさん、これは……」
『まぁ色々あったけどよ、アメリカンは実力のある奴はしっかり評価するもんだぜ』
「となると、玲也様……私達は!」
『そう合格ってことだなー!』
『良くやったぜ玲也! これで俺も堂々歓迎出来るってことさ!!』
クロスト・クーティスの手をイーテスト・ブラスターが強く握れば相手も同じ強さで握り返す。玲也はこの機体越しの握手にアンドリュー達の足もとへ追いつき、またアンドリューの歓迎が新たな道を与えてくれるかとも強く心の底から感じつつあった。
「あ、ありがとうございます……」
「れ、玲也様……あらあら」
どうやら玲也はまず一つの目標を達成できたとして、一気に緊張の糸が切れたようである。
糸の切れた凧のように無重力の空間を浮遊しながらも赤子のように眠りにつく彼の手にはしっかりとコントローラーは握られていた。戦いが終わるとも心の中で彼はプレイヤーとしてあり続けたい心の現れともいえた。
「もう、玲也様ったらまだ私たちは帰っていませんのに……ですがありがとうございます」
エクスは玲也の心情を理解して彼に女神のようににこやかな笑顔を見せて近づいてはそっと彼を抱える。
「玲也様は無愛想で厳しすぎる所があるかもしれません……ですが堂々としていらっしゃって諦めを知らず、そして常に自分に厳しく理想を追うその姿に胸の高鳴りがより一層強く……」
「父さん……」
玲也はその目の前にいるが、彼女の声は知りはしないであろう。
その近いようで遠いような距離にてエクスは華やかよりも淑やかに自分自身の心を打ち明けつつある。その彼女は今度玲也の寝言に耳を寄せる。
「見てくれましたか父さん……俺は父さんの作ったハードウェイザーのプレイヤーとして認めらましたよ……」
「……」
「だから父さん待っていてください。俺は父さんに追いつき追い越すまで、それまでは……」
「そうですわよね……」
まるで姉のように、あるいは母のようにエクスの玲也への抱擁は強まった。父を取り戻す、両親の為に戦う。親に強い感情を抱いて戦うこの2人が共有する心の琴線は近い。
「――玲也様、2人の果てなき理想へと一緒に歩いて行きましょう……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ほぉ、がきっちょ随分と疲れていたんだなー、アンドリュー』
『あぁ良くやった、これから俺と一緒に戦う事が楽しみだぜ。それにだな……秀斗さん』
そしてイーテスト・ブラスターのコクピット内で玲也へ多大な期待を寄せながら&りゅーはどこか安心する表情を浮かべ、ふと上目でと秀斗の事を思い起こす。
(俺にゲームの奥深さを教えてもらった貴方の一人息子は流石でしたよ。俺が玲也をプレイヤーとして責任を持って面倒を見させてもらいますよ……)
玲也が秀斗へ“さん”付けして敬意を払う理由は彼を尊敬しているからでもあった。いわば秀斗に魅せられて背中を追う者が、秀斗の一人息子を導く事となったのである。
『お……』
――その時、空間に一筋の星が流れ飛ぶ。
太陽系の戦乱に飛び込んだ若干14歳の最年少プレイヤー玲也のように輝きながら駆ける星一つへアンドリューは叫ぶ。
『――玲也、お前はお前だ! お前の父さんに追いつき追い越す夢をその手に叶えてみせろ!! 』と。
次回のハードウェイザーは……
シャルロット「さぁ今度は世界のハードウェイザーがずらりと集合!中国、ロシア、イギリス、ドイツと豪華絢爛だよ!!」
エクス 「ですが、そこでもまだプレイヤーとしてふさわしいかどうかと玲也様の事を各国のお方は悪く言うのですわ! 今度は私の管轄外ですから尚更……」
フレイ「ちょっとエクス! ミュウの事をそんなに責めなくてもいいじゃない!」
ミュウ「良いですよ、フレイちゃん。分かっていますのにこの怖さに勝つ事が出来ないなんて私はハードウェイザー失格ですね……」
シャル「玲也君、ミュウちゃんが戦いたくない理由って結構深刻なことかもしれないよ……」
玲也「新たな試練、そしてこの厄介な問題、避けては通れないならば乗り越えるまでだ……!次回、電装機攻ハードウェイザー「集った! 強豪ハードウェイザー軍団!!」にさぁ、勝利へのフラグを立てろ!!」