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第4話「お前だクロスト! なるか、重戦車大改造!!」

「さて、シャルロットちゃんだっけ。何時も玲ちゃんがお世話になっているようで」

「ありがとうです! 玲也君のママ」

 ひとつ屋根の下。同じ年ごろ男一人、女三人、いや改めて四人。時計は大体22時近く。

 このプライムタイムも終わり頃に玲也の個室はいわゆる作戦会議室として機能するようである。最もさほどハイテクなりファンタジーなりの設備が存在しない部屋は秘密基地の一室という訳でもなく、彩奈が四人分のおやつと飲み物を持ち運び、それを受け入れる丸状のテーブルが置かれている点でごくふつうの中学生が住む一室に近い。


「これは……美味しいですね」

「本当ですわ! 流石玲也様のお母様、お料理も上手ですのね」

「……それはパックの茶だ」

ついでに彼女が口にしたカントリーグランマーは近所の100円ショップで購入したものだと付けくわえながら玲也は相変わらず羽鳥家シンパな彼女に溜息を一つ。

「ふふふ……さて、玲ちゃん今から真剣な事にぶちあたるようで、ここは部外者の私は出ていくからね」

「あぁ、ありがとう母さん」

そう優しく頬笑みながら彩奈が扉を閉めると玲也の顔は真剣な目つきでシャルロットの方へと向いた。そこでシャルがまるで本題を見すえたように目を細めて、半分口にしたカントリーグランマー(ココア味)を右手でつまむように放してから第一声。

「玲也君! このカントリーグランマー、僕の所でも出ているけど微妙に味が違うんだね」

「そうか……ではない」

「あいた!」

 ――見当違い。

 何処から取り出したかしらないが、玲也はピコピコハンマーでシャルロットの頭を小突くようにして叩く。彼にしては淡々とキツイ事を言うよりはまだ可愛らしい突っ込みであり、それは一応彼女を同じゲーマーとして信頼している故かもしれない。

「シャルロットだっけ? あたし達にくつろぐ暇はないわよ。本題に入らないと駄目じゃない」

「へへ、それもそうだね。じゃあまず玲也君にこの3つのアイテムをあげるよ」

軽くペロリと舌を出しながらリュックサックからシャルが取りだした3つのアイテム。それはダークブルーのノートパソコン、ライトブルー、ライトパープルの携帯ゲーム機種2つ――ちなみにそのゲーム機種だがこの世界では最新のピーエスピーダ、リビングデットー3Dと呼ばれる物とほぼ同じだ。

「まずGI・チャールズ。姿通りこれはピーエスビータことPVにカモフラージュしていて、PV専用ソフトとの互換性だってあるんだ」

「またそうか……ではない。それが何に関係があるという」

 この場に最新携帯ゲーム機種、ちなみにそれは既に玲也が購入済みはさておき――今はゲームを余興とする場合ではない。

「ストーップ!」

 とまた玲也がピコピコハンマーを握ろうとした時に、今度はシャルが自信ありげに待ったをかける。

「いやー、これはね。まずPARや太陽系の各ステーションとの拠点と通信出来ちゃうし……こうして」

「きゃっ!!」

 その妙なデバイスのスティックを軽くいじるや否や、左からはグリップが、右からはバレルが展開され、いわゆるハンドガンのような外見へと早変わり。まるでちびっこギャングのようにシャルがエクスの顔へと銃口を向けて見せた。

「他にも色々あるけど、特にこうやって護身用の銃に変形出来ちゃう優れものなんだ! へっへー」

「ちょ、ちょっと何をされるのですの!? 無礼な!!」

「ゴメンゴメン。まー玲也君、これから万が一の時もあるからまずはこれを持っていた方がいいと思うよ」

「あ、あぁ……」

 玲也はまさか本当に銃を持ってしまった件に関して、少しばかし自分自身が戦いに踏み出てしまったのではないかと少々ばかしの恐れを顔に表し銃口を思わず自分の顔へと向けてじろじろと中を見る。

「いっとくけどそれ本当に銃だから絶対発砲しちゃ駄目だよ!」

「やはり、本当ということか……」

「そうだよ。発砲した時点でPARへ情報が伝わるように作られているから、あとで将軍に事情を説明する必要があるんだ」

「も、勿論だ……」

と、シャルロットからは“くれぐれもここぞという時にしか使っちゃ駄目”との事漬けと共に玲也は承諾の返事を出した

「あー、良かったですわ。ま、そのようなお子様に倒されるような私じゃありませんからね」

「むっ……お子様?」

 これにてひと段落ではなく、先ほどシャルロットの行動が無礼なものとしてエクスがまるで嫌みを言うように横目であえて周囲に聞こえるような大声で悪態を吐く。

そして”お子様”とのキーワードは玲也と同じ程の背丈でサイズの方はさっぱりのシャルロットからすればコンプレックスに触れてしまった瞬間である。

「……黙れいきおくれ」

「な、何ですって!? ちょっと貴方いったい何を言いましたの!?」

「さぁーねー、ちびっこの僕に暴力振らないでー」

その時シャルが火薬庫のような少女でもある一面を見せた瞬間であった。人懐っこく明るい彼女とは思えぬハスキーなボイスでぼそっと呟いたこの言葉もまたエクスの泣き所を攻めるかのようだった。

それからエクスがシャルの首元を掴んで彼女を前後に揺さぶるが、敵と認識したかのような人物を前に態度を改めることはなかった。

「エクスちゃん落ち着いて! 話が進まないですから」

「そうそう、まーここはシャルの言う事も間違いじゃないと思うんだけどね」

「まぁフレイさんまで! その言葉はどういう意味ですか!?」

三人娘の良心が仲裁役を買って出るが、そこには天邪鬼も同席していた。その天邪鬼が挑発をかませば状況はフレイとエクスの過激な口論が展開されようとする事は言うまでもない。

「シャル、とりあえずあいつらは気にするな。俺は続きが聞きたい」

「うん……って玲也君、僕の事シャルって呼ぶんだね!」

「あぁ。俺が呼びやすいと感じたからだが」

この三人娘の戦いに玲也関せず。

だが、その玲也が単に話の流れを進めようと言葉を発した時に、新たな局面へと話が傾いてしまうものなのである――嬉しいか悲しいかは分からないものではあるが。

「うぅん! 僕シャルって呼ばれる方が良いから何か嬉しいなぁーってね。可愛いじゃん」

「そうか……? シャルロット、シャル、あとシャルルとかか」

「あー、シャルルも悪くないね! 男の子っぽいけど僕のキャラには合うね!」

「そういうものなのだろうか……」

「フランス生まれの僕からすれば大歓迎さ! 玲也くぅん! いきなりパーフェクトコミュニケーションだよ!!」

「……? ……?」

シャルが一方的に玲也の首を両腕で優しく包み込みながらニヤニヤ顔で飛びついてはいるが当の本人は「俺が一体何をしたらこうなるのか」と真顔で疑問にぶちあったかのような表情を浮かべてはいる。

「ちょっとシャルロットさん! そこは付き合いの長い私の特等席ですわよ!!」

「黙れいきおくれ! 僕の方が玲也君と付き合いが長いんから当然だー!!」

「あぅ……何かイギリスとフランスが激突しているかのように見えますね……」

「ミュウ、あんた今何処からイギリスという単語が出てきたのよ」

 新たな局面を経て戦乱が四人を再び巻き込む。この第二次大戦のような光景に対しまともに突っ込みを入れる筈のミュウの指摘も何処か間違えている事が否定できない。

「とりあえずそうか……ではない」

 ピコピコハンマーがシャルとエクスの脳天に直撃するが、今回ばかりの彼のハンマーの振り方は先ほどよりも勢いがあった事を付け加えなければならない。

「全く、俺達はイギリスだのフランスだの、ついでに中国だのロシアだの構う余裕はないことぐらい分かれ」

「ごめん玲也君、だって……」 

「玲也様、もう少し優しく、あるいは強くされても良いですわ……」

「かぁ……日本代表の俺がアメリカ代表のアンドリューさんと戦わなければいけないといけないという現状にこれだ!」

この話の軌道を正せる唯一の存在羽鳥玲也、この時に流石に折れた――原因はエクスのリアクションであった。


――西暦2013年。太陽系を狙う謎の敵バグロイヤーに立ち向かうスーパーロボット達“ハードウェイザー”のプレイヤーに選ばれる運命と出会い、その素質を持つ若干14歳の少年ゲーマー羽鳥玲也。

電次元界の巨悪バグロイヤーに捕われた父・秀斗を取り戻す為に戦いの道を選ぶ玲也に迷いはないが、彼の前には全米№1ゲーマーかつ最古参プレイヤー・アンドリュー・ヴァンスへの挑戦を避けては通れない。フランスからの助っ人シャルロット・カードリッジの助けを借りて玲也は巨大な壁を乗り越えようとしている。

この物語は彼がゲーム……ではなく、太陽系を揺るがす程の戦乱へと巻き込まれ、持ち前のゲームテクニックで戦い抜く物語である。例え腕が折れようと、足が折れようとも……


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「さて、それはそうと、これがG2・サハラ。これはその通りリビングテッド3Dにカモフラージュしてるけど、これが結構良く使うんだ」

「リブングデット3D……PARはゲーム機にアレンジしたデバイスを使う事が好きだな」

「PARはプレイヤーだけじゃなくて他のみんなもゲーム好きだからね。多分それも影響していると思うよ」

「そのようなものだろうか?」

 続いて渡されたパープルカラーのデバイスに対して多少戸惑う感情をまた玲也が見せる。今度は銃に変形する凶器と隣り合わせの点よりも、ゲーム機種にカモフラージュする点に“何とも“との一言で尽きる心境でもある。

「なるほどです。確かに筆記用具に銃を仕込む例もありますので案外普通なのかもしれないですね」

「ミュウ、あんたどうしてそういうマニアックな事を知っているの……」

「い、いえ……「0101アーサー・デュオ」筆記用具で任務を遂行するエピソードがありましたから」

「電次元界にスパイアクションものは少なくとも存在しているのか……」

とりあえず、マニアックな知識をさりげなく披露するミュウへフレイが単純に突っ込みをお見舞いし、玲也は電次元界の良く分からない一面に突っ込んだ。

幸いその後に話の腰の骨がおられる事がない点は、その話に骨折り名人2人が関わらない事が幸いしただろうか。

「さて、このサハラ・G2でハードウェイザーをカスタマイズ出来るんだ。今回僕はカスタマイズを中心にアンドリューに勝つ方法を教えるつもりなんだ」

「カスタマイズ……シャル、今思いついたがメダルロボットシリーズやカスタマイザーロットシリーズ、最近ではプラスチック戦記シリーズに近いものと考えるべきだろうか?」

「うん! それに結構近いね。僕は重装甲コアシリーズ、カルボナーラハートシリーズ、マイナーだけどガチャポンフォートレスをやり込んでいたんだよねー」

 “カスタマイズ“

ハードウェイザーというロボットの存在とカスタマイズの単語が一致した時、彼が今までプレイしたロボットゲームの単語がすらすらと思い浮かぶ、その例えに上機嫌のままシャルが展開したデバイスがダークブルーのノートPCだ。


「今日はこのPAR特製のノートPC“G5・エレファン”につなげて大画面で説明するよ。玲也君、例の件でノートPCが壊れちゃってるからさ僕からのプレゼントだね」

「これがか。ちょうど前のPCは買い換える事を考えていたがありがたい所だ」

「どういたしまして! このチャールズ、サハラ、エレファンはみーんな将軍のプレゼントでもあるんだ!!」

これらのデバイスがプレゼントされる事は特にエレファンの件もあり口元が笑っていた玲也だが、シャルからの一言が彼にまた新たな事実を突きつけるきっかけとなった。エスニックからのプレゼントという事に対しての単語が特に彼の心へと引っ掛かっている。

「将軍? どういうことでしょうかシャルちゃん」

「そうだね、このチャールズ、サハラ、エレファンとかのGデバイスはPAR隊員しか使う事が出来ないんだ。まだ正式に隊員として決まっていない玲也君に与えたのは模擬戦の為もあるけど、玲也君の実力を将軍は買っているんだよ!」

「将軍が……!」

「どうやら決心がついたようだね……」

 一度は自分のプレイヤーへの採用を見送ったエスニックであったが、内心では自分に活躍してほしいと気付き彼の闘志の火が燃え上がる。

 期待されている事が、なおさら自ら戦いの道を選び父を救う目標を掲げる一人息子においては水を得た魚同然であり、その様子に安心してシャルがカスタマイズの件を話し始めるのであった。

「カスタマイズってのはハードウェイザー自体の装甲や機動性、燃費などをアレンジしたり、新しい武器を追加したり。いわゆるプログラムを組めたら自分色に染める事が出来るんだ!」

「プログラム……シャル、お前が得意とする分野ではないか」

「そうだよ! だから僕アンドリューのイーテストも随分と手を加えたりしていたんだよね~へへへ」

 と軽やかな手並みでサハラをエレファンへと接続してから、エレファンの電源を入れては素早くとあるエンブレムマークのアイコンをダブルクリックしてみせた。

「そんな訳でじゃあまず誰を使ってどうカスタマイズするかの参考として、イーテストのデータを見せちゃうからね」

「イーテストのデータ? シャル、それをあたし達に見せても良いの……」

 このシャルの方法にフレイが質問する。この質問の理由はこれから戦う相手のデータを自分たちで知る事は良いのではないだろうかとの事であり、どうやら彼女は勝負に正々堂堂を求める所があるらしい。

「なるほどね~大丈夫大丈夫。大体アンドリューにもブレスト、クロスト、ウィストのデータがちゃんと伝わっているから」

「私達の事がアンドリューさんにも伝わっているのですか、シャルちゃん?」

 と意外な答えが返り、その声の主シャルはそうだよ!と言わんばかりに首を縦に振った。

「全てのハードウェイザーの情報は各プレイヤーが共有する事。それがPARの決まりだからね」

ハードウェイザーの情報をそれぞれが共有し合う理由については、カスタマイズの際の参考に出来る事、また共闘する相手に対してのカスタマイズをスムーズに進める事、そして今回の模擬戦のように戦術を立てる事の為に使われているとの事である。

「なるほど……何にしろ情報を把握する事が戦いでは必要」

「そうそう、戦いは情報を掴む事から決まっているから。まぁーそんな訳でアンドリューのイーテストについて僕から説明するね」

 と玲也がPARの決まりにすんなりと共感を示した事もあり、シャルの手でイーテストのデータが5人の前に開示される。

 そのデータはまるで今までの戦いの記録を示すかのようなイーテストが活躍する姿であり、早速シャルが何処から取り出したか分からない棒でディスプレイを軽く叩きながら解説に入った。

 画面の映像には早速藍、白、赤の三色と米国を象徴するようなカラーリングの機体が疾走する姿が映る。

「まず、イーテストは世界最初のハードウェイザーだって事はこの話に関係ないから置いといて……っと」

しばらくのバストアップが徐々に全身を映して行きながら映像が180度後ろへと右に回転を寄せながら、行く手を遮る壁へ障子を指で破るような勢いで風穴を開けていき、全身での体当たりと共に砕いて破片を辺り一面に飛ばし散ってみせた

「この技が頭部からの機銃ゼロ・ファランクス。名前通りゼロ距離で使える対空兵器といった所でまぁ接近戦では要注意といったところだね」

「そうですわね、最も受けても私のクロストでは痛くもかゆくもないと思うものなのですが」

「えらそうに……」

「あら、今何かおっしゃいましたか?」

「別に~」

 うぬぼれ気味のエクスをよそにイーテストのアクションが続く。

 画面が切り替わり、彼の倍ほどのサイズの相手に対して一歩踏み込みを入れながら体を右回りにひねると同時に正面へ向けて拳をかたく握った右手を飛ばした。

「そんでもって次にストライク・ナックル。これはいわばロケットパンチなんだけど、ビームワイヤーで繋がれているから……」

 相手の拳とストライク・ナックルが激突が避けられないかと思いきや、両者の拳はごくわずかな位置でかすり合う。

 相手の拳よりも内側に飛んだストライク・ナックルが軌道を斜め上へと上昇しながら、腕と本体をつなぐ真紅の光によるワイヤーが相手の右腕と本体をつなぐ関節へと触れる。

 その糸が相手の関節に対して何十も巻きつけながらまるで糸で物をちぎる要領で右腕をあっさりと本体から切り離してみせたのだ。

「と、まぁこれで相手を捲きつけるようにして」

「剣のように相手を切断したりするのね」

「なるほど、ブレストのカウンターパンチャーと似た仕組みだ……」

「そうだね。もしかしたらブレストのそれはイーテストのストライク・ナックルがヒントなのかもしれないね」

ワイヤーが実体か非実体のレーザーかによる違いはあるが、線で本体と拳を繋がれた技としてはカウンターパンチャーとストライク・ナックルはまるで兄弟のような繋がりがある武器でもある。

「そんでもってこれが僕のアレンジした点で、腕からカッターを展開して相手を切りつけたりする事も出来るって訳!」

 そしてその技にはもう一つひねりが加えられていた。

射出した上腕部からの装飾が拳と共に背を並べるように刃が展開される。彼の飛ばした状態の右手が唸りを上げるように回転数を上げては、相手の胸を真後ろから突く――間もなくして貫通した事は言うまでもない。

「このストライク・シュレッダーは元々手持ちのナイフだったんだけど、このストライク・ナックルの破壊力を挙げる目的もあって僕がちょっといじったんだ!」

「正面からはさらに相手に対しての貫通力を上げ、横からは相手への切断力を備える」

「そうそう。元々2つの武器をより威力と多様性のある1つの武器にまとめたんだ。データを無駄に食わないからね」

「これも無駄を省くという考えですね」

「そうそう。そんでもってこれが僕の自信作でストライク・マグナム。ただのビームガンと思いきや……」

 次の映像は腰のホルスターベルトから取り出して保安官のようにイーテストが片手で拳銃のような外見の銃火器を回してみせる。

すかさず蒼い光が火を吹くようにして吼える途端、無数のバグラッカーを片っ端から打ち砕く。さらにベルトの1ケースからひとまとめにされたストック、ロングバレル、スコープを手にする瞬間に拳銃が長銃へと変貌を遂げる。

「パーツを合体させればライフルですね!」

「ついでにこれがおそらくグレネードのオプション!」

「そうそう、ストライク・ライフル、ストライク・グレネードときたらお次は……」

そして、左の上腕部を排除した時に、腕の代わりとして自らのライフルをさらに変形させては、左腕にフィットするように装着された。

これが必殺のストライク・シューティングであり、シャルロット曰くストライク・ライフルにストライク・ナックルを構成するビームワイヤーのエネルギーを加えた結果、威力は段違いとの事でもある。

「これはねー、僕が一から最初に作った武器で、今でも結構自信作だって思うんだ。アンドリューも良く使っているしね」

「状況に応じて変形・換装・合体と臨機応変、汎用性が実に高い武器だ。相手ならば、いや相手だからこそ素晴らしいものだ」

「でしょでしょ! 実は日本のロボットアニメをヒントにして思いついたんだ! 第1話のマグナムをライフルへ組みたてるシーンを見て直感、ピーンと来たんだ!!」

玲也に褒められたからか、シャルロットはない胸を前面に突きだすように両手を腰に当てながら十分に自慢をしてみせる。ただ彼女がヒントとなった作品の話に関してはそれよりも気のせいか熱が籠るかの様子でもある。

「とまぁこんな感じのイーテストなんだけど、最大の特徴はね……」

「特長とは……?」

「一言で表すとね……」

「一言を表しますと……どうなりますの!?」

 その時、耳を傾ける4人の心が一つになったかのようであった。既に時計の針はどちらも真上に位置しようとしており、ただ秒針だけが決められた音を立てるのみ。

「……特長がない所が特徴ってところかな!」

と秒針、短針、長針が全て真上に位置した瞬間。日が改まる瞬間に聞いたシャルロットの答えには4人が呼吸を合わせるかのように全員テーブルへとのめり込むように倒れた――ただ、同じテーブルにありながらも奇跡的に麦茶の入った五人のグラスだけは倒れる事はなかったと言う。

「ちょっとシャル! 人が真面目に聞いてるのにつまらない事を言わないでよ!」

この脱力的な答えに対して真っ先に抗議の声をあげた人物がフレイだが、シャルロットの表情はいつもと変わらないように頬笑んだまま。それも相手を脅かせようや上手い冗談を言おうとする姿勢も感じられない平常心だ。

「フレイちゃん、決してそれはつまらない事とかじゃないよ。僕は結構真剣だよ」

「え、真剣だったのですか?今の洒落……いえ話は」

「この特長がない事が特徴ってのはイーテストのバランスが良いってこと。どんな相手にでも最初からそつなく戦えるということなんだ」

「なるほど、いわゆる最初のハードウェイザーだけに主人公格の扱いだな」

「お、主人公格とは実に上手い事を言うね玲也君! クッション三枚!!」

 シャルの言葉の裏の意味を知るや否や玲也が何時もとは少し“決めた“ような表情でさらりとイーテストの特長を述べる。シャルロットはそのユーモアな例えの意味に対して適切なリアクションを取るが、その後の彼女のクッションの話には突発的だった為か、或いはユーモアが浅いか、諸々の理由があるにせよ玲也は特にリアクションを返すことはなかった。

「主人公? てっきり主人公がいらしていないと思っていたましたが……」

「それはそれでこの場にあったら怖いわよ……玲也、その主人公格とはどういう例えなのよ」

「何、主人公のポジションは昔から初心者向けとしての意味もあり、癖がなく設定される例が多いものでね」

「はぁ……」

 冗談を真に受けとめるミュウを突っ込みながらも、この日仏ゲーマー2人にしかその場で通じない例えを一種の一般人を代表するかのようにフレイは玲也へ聞く。

 その玲也の説明では彼が軽くフレイを”わかっていない”と眼で伝えながら直ぐに自慢げに語ってみせる。ただ彼女の反応は“分かったと言えば分かった、分からないと言えば分からない“に近い。

「その主人公……じゃなかった、イーテストなんだけどそつなくこなせる事は裏返しで言えば決定打を与えられない意味もあるんだ」

「へー、それならばパワーで押し切って倒す事もありってことね?」

 と思いきや玲也の例えを何となくとはいえフレイには伝わっていた方だろう。

そこまで彼女は考えていないかもしれないが、癖のない相手に対しては最初から弱点は用意されていないが、相手の優れた所に対してその癖のなさが時には弱点にも化ける――結論からすれば弱点はどのように機体を調整しても生まれ出るような点ではある事だが。

「そうそう。その気になれば出来るけど、ここからがこのイーテストの強い所でもあるんだ」

 シャルロットからすればフレイの回答は半分正解のようなものだろう。

 別のアイコンをクリックするや三台のマシンが映し出される。白銀の翼を持つとも言える偵察機、真紅の刃を携えるフォーミュラ、蒼穹の砲身がそびえる装甲戦車の3機だ。

 

「まずイーテストはね、ジャスト・フォース、ブレイブ・ガンナー、ファイト・ラッシュというサポートメカがセットで1台つけて出撃する事が出来るんだよね」

「本当にゲームのようなシステムだな……」

「そうだね、このシステムの為に最初にあったデータを色々消して纏めてと節約したつもりなんだよね。もうこれが大変で大変で……」

 大変大変と振り返りながらシャルロットが3機のアイコンを次々とクリックするや否や機体の姿が自然と変わる。ある姿は背中に翼の鞄を背負い、ある姿は上半身に砲門のジャケットを着込み、また有る姿は両手足に刃のサポーターを備える。その3機の活躍が3分割の画面で映されると、スペックが延々と画面の背景に映し出された。

「まずイーテスト・ファイター……地上戦での近接戦向きとその点はウィストに近いですわね」

「これがイーテスト・ジェッターですね……唯一飛行可能でスピードは抜群。私のウィストともフレイちゃんのブレストにも似ているともいえますね」

「そんでもって火力勝負のイーテスト・ブラスター。まぁこの芸の無さはクロストにそっくりかしら?」

「フレイさん!? 私が芸がない点は余計でしてよ!!」

「芸はない点はともかくとしてただでさえバランスが良い上に、それぞれに特化した性能のバリエーションまで用意するとは恐ろしい相手……!」

「そう! まさしくイーテストは変幻自在のハードウェイザーなんだ。幸い玲也君もそうなんだけどね」

 一瞬この隙のない性能を持つイーテストに玲也の心は僅かながらも震える。その後のシャルロットから与えられた言葉には彼ならではの強みが含まれている事に本人はふと気付き始めた・

「……確かに俺はハードウェイザーを3機持つということにもなる。だが」

「そうだね、だからこそ次はその相手を踏まえたうえで誰を選ぶかが大事なんだ!」

 

 アンドリューは3種類の姿に換装が可能なハードウェイザーを持つ、そして玲也は3種類のハードウェイザーを持つ。いうならばどちらも3すくみを1組作る事が可能なカードを所有していることになる。

 これはもしも相手が1種類のカードしかないならば優位に越しやすいが、相手が互いに3種類のカードを持つ事を承知している。玲也本人が誰を選ぶかを考えている間には、アンドリューもまた玲也の出方を予測しているであろう。

(……俺にアンドリューさんの裏を掻く事ができるだろうか。相手は全米№1のゲーマーだが、日本代表の俺がここで負けるわけには……勝負は既に始まっていることは確かだ!)

――この選択に勝負の行く末は早くも左右していく事を玲也は既に理解していた様子である。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「おーいアンドリュー、カスタマイズはもう始めたのか?」

一方、六畳ほどの一室にて胡坐を書きながらアンドリューもまたサハラを繋げた状態のエレファンでキーボードを入力するなりカーソルでクリックするなりとしてカスタマイズへと挑戦する。

その彼の元にコンビニエンス袋を片手に持ちながらスティがドアを開けては、彼のディスプレイへ眼をやる。

「あぁ何とか相手を予測する事が出来たからな」

「へぇ~相手を予測できたんだ。で、結局お前は誰が来ると思ったんだ?」

「俺の予測ではな……ずばりクロストだ!」

 カスタマイズに専念しながらアンドリューの瞳は既に余裕と確信に満ちた瞳でもあった。

「ほぉ、クロストとはお前、どういう理由で選んだのさ?」

「知りたいか?」

「あったり前よ。あいつは一度に同時に3機のハードウェイザーのプレイヤー、いままでの常識を打ち破った事になるからなー」

 ここでスティが言う常識とは、今まで1ハードウェイヤーに1プレイヤーのコンビが定着していた事を指す。その常識外れとは彼女曰く玲也の意外性や潜在性を褒めるような意味もあるそうだ。

「昔から常識、暗黙の了解、すなわちお約束を破ることで時代は移り変わるもんだぜ。ちなみに俺はお約束3割、新鮮味7割が最もさじ加減がいいと思うがな」

「ならアンドリュー、こいつはどうだー?」

腕を後頭部に組みながら寝ころぶ彼の視線には、自分より位置が高い場所からスティは手を差し伸べるように500mlの紙パックを差し出す――ちなみに、その製品の名前は“エイジのチョコレートそのままドリンク“この武蔵野地区限定の商品でもある事を補足として記す。

「おーサンキュー、頭が疲れている時にはこれに限るぜ」

「ほぉ、それはお約束パターンじゃねぇかアンドリュー」

「お約束ってのは安心感を与えてくれるものよ、お約束時々新鮮味、ときどきパターン性」

「ところによって新機軸が来るでしょうってかー?」

「あーうめぇうめぇ。おっと本題からそれちまったな」

 起き上がりながら彼はストローを挿した状態でのチョコレートドリンクを飲む器用な芸当を見せる。

 その彼、テーブルにチョコレートドリンクを乗せるや否やふやけるような表情が不敵な笑みに瞬く間に切り替わった。

「さてスティ、まず俺はブレストが一番やりやすい相手だとは思ったものの、奴は既に実戦で使っている為戦闘パターンが他の奴よりも読まれやすい……とそう玲也は考えているとみた」

「あー、なるほどねー。つまり手の内を最も知られている相手としてぶつける事は危険だと判断した感じね」

 アンドリューが言うとおり、既にブレストのケルベロスY10との戦闘映像がPARの共有データとして伝わっている。その映像を見ながらスティがディスプレイに関心が向く。

「そうそうスティ、このカウンター・ブレードの使い方とかそう考えれたもんじゃねぇよ」

「適応力、応用力は十分合格ってところだなー」

「あぁ、“相手の手段を予測して、相手の裏を掻く“ってのは俺が教官から教わった事だぜ」

「おいおいアンドリュー、おめぇ玲也の奴を結構買ってるじゃねぇの?」

「あぁ、けれども俺はそういう訳にもいかないのよ……俺は直接戦ってあいつがどういう奴か知りたい訳もあるからな」

 おそらくアンドリューは百聞よりも一見とは少し異なるが、同じプレイヤーとして自分がぶつかり合って実力を見極めるタイプであろう。

「まず、玲也は相手に読まれない事を考えているに違いねぇ。クロストとウィストが残るがここで俺はクロストを選んだ訳よ」

「それは何故だ? データによるとウィストは機動力重視の近接戦寄り。クロストは重装甲の砲撃寄りだったっけなー」

「そうだ。ここはガラリとバトルスタイルが変わる遠距離戦重視のクロストを選ぶと俺は見た。いわば相手の裏を掻くという手段を突くにはクロストを選びたくなるって心理がある訳なのよ」

 アンドリュー曰く玲也のクロストを選ぶ心理の背景は”相手の裏を掻く時に思いつきやすい典型的なパターン“だそうである。

「まぁそんな感じで俺は今ファイターをいじっている所だ」

「ほぉ。ファイターとはいわゆる炎タイプと炎タイプをぶつけるもんじゃねぇか。あたいはフライヤーをぶつけるかと思ったけどね」

スティの考えだと接近戦仕様のイーテスト・ファイターはクロストからロングレンジでの攻撃を受け続けて攻撃が届く前にやられるとの事。

しかしアンドリューが理由をしっかり考えていた事は言うまでもない。手を横に振りながら自信を持って説明する。

「炎タイプに水タイプなり地面タイプなりをぶつけるってパターンは裏を掻きたい時の定石よ。玲也の奴は多分それを考えてるからな、ここでそれを裏切っちまおうってことだ」

「アンドリュー、おめぇ人がわるいなぁー」

「悪くて結構。それよりも常に本気で戦っていると言ってほしいね“獅子は兎を狩るにも全力を尽くす”という言葉通りとのことよ」

「玲也という兎を狩る獅子アンドリューがほんの少しの油断が兎を取り逃がしちまう訳か」

「それを“窮鼠猫を噛む”とも言う。噛めるものなら噛んでみろそれならば俺が噛みちぎってやらぁ」

とアンドリューは常に飄々とした姿勢でありながらも全力でカスタマイズへ挑んでいる事でもある。 

「真面目に言えばフライヤーはなぁ火力が足りない。そんでもって俺には近接戦用のスピードを補う方法を見つけたからな」

「なるほどね、つまり草タイプが水タイプの技をもっているようなものってことか」

「おぅ、その通りよ! 面白い事になるぜー?」

「へぇ~アンドリュー。それじゃあちょっとシャワってから意見でも言うぜ」

「おぉ、わーったぜ」

 このアンドリュー、戦いを本気で挑みながら楽しんでもいるかの様子。同じくハイな気分へと至ったスティがバスルームへ足を運ぶ頃、アンドリューの心には一種の闘志が頭をもたげてきているのである。


「玲也、相性も大事だが、それだけでどうこうなるのがこのロボットバトルじゃねぇぜ。相性が悪けりゃあ事前の準備と本番での操縦で差を埋めて追い越してしまえばいいってことよ」

 この言葉、最古参のプレイヤーだけに迷いがない様子でアンドリューは言う。その彼はハードウェイザーの戦いを一言で彼なりに統括すると

「……これだから戦いはわかんねぇよ。まさに筋書きのねぇドラマだ……!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 アンドリューのカスタマイズに関してまで玲也達が知る事は当たり前だがない。いずれにせよ彼は操るハードウェイザーを決めなければならなかった事もまた事実である。

「さて、イーテストがどの形態で来るかとなると難しいが……フレイ」

「何よ? まさか今回もという事かしら」

「いや、まず今回でお前の出番はない」

 強がる言葉に対して少なからずの期待を求めるフレイ……なのだがその機体は玲也の冷静な一言で軽くずっこけるとともに無となる。

「ちょっと玲也!? あんたは何いきなりそんな事言っちゃってるのよ!!」

「俺は先ほどブレストで戦ったばかり。よって多分アンドリューさんに手の内を知られているかもしれないと判断したにすぎない」

「そんなの力押しすればいいじゃない!」

「それでアンドリューさんが倒せるわけがない。力任せにがむしゃらな事はゲーマーとしては最も相手にしやすい相手だ」

「ハハハ、玲也君ちゃっかりけなしちゃってるね」

 ここで玲也の下した判断は妥当かもしれない。だが、同時にアンドリューにその”妥当な判断”を頭に入れた彼の戦略へ引っ掛かっていた事を誰もが知る由もない。フレイはおろか、玲也もやや玲也寄りながらも中立のスタンスのシャルロットでさえその時の判断は正しいと感じていたほどであった。

「……はいはい、猪突猛進の馬鹿で悪うござんしたね」

 結局フレイは悪態を突きながらしぶしぶ玲也の方針をその時は認めた。仮にこのまま彼女が引き下がる事を良しとしない場合はもう少し“どうにかなった“選択肢が残されていたともいえる。だがその点を指摘する事は酷であろう。

「何、プレイヤーは変幻自在。少しでも今日の俺とは違う戦い方を見せていかなければいけないもの……ということでだ」

「なら、クロストかウィストのどちらかを選ぶ事になるねー」

結局はフレイ、つまりブレストは今回の選択肢から外された為クロストとウィスト。つまりエクスとミュウから選ぶ事となる。が玲也は二人の性質をまだ知りはしない。

「まぁ、とりあえず分かりやすくブレストとの比較で説明していくね~じゃあウィストからいくね」

「は、はい。そうですか……私のウィストはですねブレストやクロストと比べますと」

ウィスト――すなわちミュウであるがその彼女は何時もよりも儚げで沈んだような表情で顔を玲也達の元からそむける。シャルはその時ミュウのコンプレックスに気付いたかのようにクスっと笑う時であった。

「いやミュウちゃんそう謙遜することないよ。確かにパワーや装甲で劣るけど、その分地上でのスピードはダントツでこれでも意外と持久力が抜群なんだ」

 ここで姿が映るダークブルーとシルバーカラーの機体――それがウィスト。まるで鎧武者のような外見の頭に、忍び装束のようなシックに決めた外見。凛々しくも軽快な動きを見せるかのような機体――蝶のように舞い、蜂のように刺すウィストだ。

「すなわち、ブレストと比較する事で一長一短」

「そうそう。パワーの無さは手数でカバーしてしまえばオッケーってことさ」

「へーそういう意味ではあたしのとは対照的じゃん、ミュウ」

「い、いえ! とんでもないですよ!!」

フレイが言うとおり一撃一撃の重さで勝負のブレストに対して、ウィストがいわゆる一撃一撃を積み重ねる事。僅かな穴を開けるや否やダムを決壊させていく戦い方を得意とする。

だが、そのウィストの特色は決して悪いものではないがミュウ本人は強くいやがっている様子でもある。

「おろ……?」

「……え? ミュウ、どうしちゃったのよあんた」

「だってだって私はウィストを操縦する自信がないですよ! 私よりも自信十分なエクスちゃんの方が玲也さんのパートナーには向いてますよ!!」

さすがに玲也もフレイもミュウの様子に対しては、少しあっけにとられたような表情である。彼女は如何にも自分が出来ないと否定しながらその大役をエクスへと振る。

「あら~ミュウさん、分かっていらっしゃいますわね!」

 それがエクスからすれば水を得た魚の如し。アンドリューとの決闘に対して真っ先に名乗り出た人物がエクスでもあり3人の中では最も意気込みが十分な人物でもあることから無理もないに等しい。

「シャル、エクスの奴は随分と自信があるようだが、どのようなデータか教えてくれないか」

「オッケー、オッケー。まぁあんまり期待していないでさ」

「ちょっと期待しないでとはどういう事ですの!?」

 エクスからの突っ込みを聞き流し、シャルがデータを起動させるや否やそのクロスト、ダークグリーンとライトブラウン、いわば2機よりもシックなカラーリングで決める。こちらは複眼のゴーグルは全てブラックカラーと無表情。そして彼の両腕はその気になる場合は肩に備えられているが、足先まで指先が着くほどのリーチを誇るであろう。雄々しくも重厚、それがクロストでもある。

「まずクロストは他の2機とは違って遠距離からの攻撃を最も得意とする機体で火力も及第点。装甲の強度もダントツ。海原、地の底までも変形で突き進んじゃうね」

「ふふふ、そうなんですよね。クロストは一方的に相手を嬲るには最適な形態でしてよ。実力の差を知らせるにも!」

「けど、壊滅的に遅いし、懐に入り込まれたらまともな武器がない。あと空を飛べないとねぇ~」

「そこでけなさないでくださらない!?」

「僕は別にけなしているつもりはないよ。ヒステリーは良くないよ、おばさん」

「お、おおおおお、オバサン……!? ちょっとそこ、何笑ってますの!?」

クロストの性能はウィスト、ブレストは一長一短。特にウィストとは正反対のスペックを誇る機体だが、どうもシャルは彼女との折り合いが悪いようであきらかに彼女の弱点をプッシュしているかの様子――ちなみにシャルのオバサン発言に対して笑っていた人物がフレイだった事も付け加え開ければならない

「なるほど機動性重視か遠距離勝負……これもまた正反対な機体かもしれない」

この女3人の口喧嘩に対して玲也のスタンスは“我、関せず”スピード勝負のウィスト、火力勝負クロスト、二つのデータを睨みながら最適な機体を選ぼうと右手を顎に当てながら頭の回転は速度を徐々に上げていく。

(さて、アンドリューさんが選ぶ相手はクロストならば回避勝負のジェッター、ウィストならば殴り合い勝負のファイター……どちらが叩きやすいのか……)


「玲也様! どちらを選ばれるつもりでしょうか」

「出来る事でしたら玲也さん、そのですねあのですね……」

「よし……今回はお前だ!」

 その時、玲也が指名した相手とは――まるで彼女本人の期待にこたえる模様。すなわちエクスでありその時の彼女は眼を一瞬点のように小さくしながらフレイの頬をつねる。

「ちょ、ちょっと! 何であたしの頬をつねるのよ!!」

「夢ではないとしますと、れ、玲也様……もしかしたら、もしかしたら、もしかしたらですの!?」

「そうだ。念には念を入れて言うが夢ではない」

「へぇ~、玲也君これまたどういう経緯で選んだの?」

この選択、シャルからすればどちらに転ぶかは分からなかった。どちらもどちらなりに有利な戦い方が存在している為に、何故クロストを選ぶかが興味深い様子だ。

「まず考えた時にはウィストの方が少しばかし扱いやすいのではないかと感じた。クロストは俺の直感では癖の強い機体だ」

「あら……」

「まぁ、確かにエクスは癖があると言われても」

「同感だね、フレイちゃん」

「ちょっと! そこで一方的に叩かないで下さる!?」

「まぁまぁ、落ち着いて! えーとえーと一人二人、そして三人と皆さん!」

何度も3人娘を加えて突っ込み役のミュウの4人が延々と漫才のような会話を展開してはいるが、本筋の玲也の考えはまずクロストの方が癖のある機体であり、ここでまずアンドリューの読み通りの展開へと引っ掛かろうとしてはいた。

「だが、その癖の強さこそ相手に“こいつで来るとは思わない”と心理的に有利な展開へ持ち込む事が出来るのではないかと俺は思う」

「なるほどねー、扱いづらさを逆手に取るとは考えたね玲也君」

 ――癖のある機体を選ぶ理由もまたアンドリューの読み通り、彼の描く展開に引っ掛かる瞬間でもある。

「何、お前の言うカスタマイズがある。俺の色に染める事さえすれば良いだけの事よ」

「れ、玲也様。そんな過激な発言を……」

「俺は過激もなにもそのつもりもないが……」

「あんたねぇ……」

 ついでに玲也は女心に対してやはりと鈍感付け加える必要がある。

「そしてもう一つはエクス、お前のやる気をここは信じたという所だな」

しかしばかし、この玲也の選んだ背景に関してはアンドリューの読みとは異なるものであろう。ハードウェイザーの性能面はデータで把握できるものだが、そのデータを宿す電次元人のデータを知る事はできないであろう。

「まぁ玲也様! そこを汲んでくださるとは私としては大変光栄な物でして……」

「俺の色に染めるからには、俺の色に何処までも染まるような相手の方が何かとやりやすいものでね」

 と玲也は純粋に喜びを顔に表しているエクスとは異なり、淡々とした様子で玲也は理由をさらりと明かす。その言葉の意味は裏を返すならば、自分の考えをとことん支持するような、いわゆる一種の単純な彼女と手を組む事の方が都合は良いと言う事でもある。

「最も、この時点で戦いから逃げているミュウが俺の色に染まるかどうかは難しいと俺は判断した」

「あぅ……」

そして結果として玲也はエクスとミュウの意志を両方選んだことにもなるが、ここでエクスには“何らかの価値”があるような眼差しだが、ただミュウには“価値がない“とばかりに冷たい。そのまなざしにただミュウが委縮するようだが玲也からすれば”越したことはない“だった。

「初めから逃げている相手と組んでどうなるという。ここはエクスを少しばかり見習えとは言いたいものだ」

「ふふふ、玲也様照れていらっしゃいますが、私玲也様のパートナーとして精一杯がんばりますわよ!」

「……それとこれとは別だが、戦いと気迫は切っても切れぬもの」

「あぅ……それはそうとは分かってはいるのですが」

「分かっているならば、何故そう考える事をしない。言うは易し行うは難しとい諺があるものでな……」

「ちょっと玲也!」

 まるでミュウの弱腰に付け込むように、顔色を変えず玲也は淡々と、しかし心理的に彼女を追い詰めるかのように言葉で責める。その彼の態度が生意気とフレイが待ったの声を強く上げた。

「それってさ、ミュウに対するあてつけじゃないの!?」

「何がだ?」

「い、いえ玲也さんの言われました事は事実ですし、私もエクスちゃんの方を選んでくれて……」

「ちょっとミュウ、どうしてそこであんたも弱気なの!!」

だがフレイはミュウを庇って玲也へ怒っているのであるが、その彼女が玲也に対して反論をするどころか納得してしまっている為にまるで一人が空回りするかのように怒っている様子。一体誰の為に怒っているのかでもある。

一方、玲也だが自分の考えは間違いではないとのスタンスで態度を改めず、それどころかさらに空回りするフレイ、怯えっぱなしのミュウを相手に舌戦に移ろうと考え始めた。

「やれやれ、お前達は戦う為にこの世界へ来たはずではないのか? それが出来ない奴に存在意義があるとでも言うのとなるならば、ナンセンスと言うべきだな」

「あぅ……」

「その通りですわ! 玲也様、私達は戦って勝たなければ意味がないですよね!!」

と、そこでエクスも口論に加勢。彼女の就く相手は勿論玲也の側でもあった。

「もう! 玲也一人で戦いが決まる訳でもないのに! エクス、あんたも玲也の忠実なしもべに鳴り下がっているんじゃないの?」

「あら、私はほれ込んだお方に対して尽くしているだけですからそう言われましても結構ですわ……さては、悔しくて?」

「……もういい!」

「あ、ちょっとフレイちゃん!!」

「玲也! あんたの自分勝手が時に足元を救われたらいいのよ!!」

 同じハードウェイザーとしてフレイが玲也と組む事はまっぴらごめん。エクスが玲也と組む事に快諾している点は、彼女が前々から折り合いが悪い点もあるのだが、同じハードウェイザーとして屈辱のようなものを感じたのではないだろうか。

結局玲也に対いて一人馬鹿馬鹿しいと思い彼女は作戦会議から真っ先に降板して、ミュウもまるで彼女を心配するように後を追った。


「――玲也君、結構厳しいんだね」

「厳しい……何、俺は父さんから「初めから負けと思っては終わり」と教わった身。その教えで俺はここまで来たものでね」

「そうですわね。初めから勝つ事を考えなくては戦いはやっていけないのですからね」

「なるほどねー。そしてその為に学べる事は徹底的に学ぶってことだね」

「無論心がけだけでは結果は勝てぬもの、それまでの過程をこなせるだけの根性が必要との事も承知の上だ」

シャルは玲也に対して如何にも彼らしいとも想いながら見物していた。そして玲也は口だけで偉そうに決める男ではなく、“それを言ったからには必ず勝たなければならない“と有言実行の考えを十分持つ。シャルからの教えを早速自分の物として吸収する事への心構えは十分だ。

「オッケーオッケー、さて玲也君。クロストのデータをもっと深く研究してみようか」

早速シャルがクロストのデータを細部まで起動させるや否や、クロストのCGモデルが映し出される。イーテストとは異なり実戦データが存在しない事からの一種の代替えとも言える映像ではある。

 その映像は早速クロストのそびえたつ雄姿が映し出される。ブレストが全長23mに対してクロストはその巨大で長く伸びたつ両足の存在もあり全長30mと一回り大きい

「まずクロストはスピードは遅いけど、荒地沼地とかの整っていない地形でもキャラピラで走れば全然大丈夫。そんでもって……」

 どうやらクロスト、ブレストと同様変形機構を備える模様。その変形とは両膝が静かに折れ曲がり、足首もまた伸びあがりひざ下からのキャタピラが地面と接する。ついでに両膝からは銀色のドリルが前面に突きだされ、足の裏からはショベルが展開されるのである。

 ついでにそのリーチを誇る両腕から車輪が展開されて地面へと静かに下ろされるのであった。

「変形した!」

「そう! 変形すればキャタピラ走行に加えて、前のドリルと後のスクリュー搭載シャベルもあるから、地中にも水中にも行けちゃうんだ」

「ちなみにクロスト・グンツァーと言いまして、この地形を選ばない芸当もやはり私の器用と器量を反映しているかのようでして……」

「あー、さっきも言ったけどクロスト空飛べないからね玲也君、大空海原地の底までも変身合体突き進む程の器用さではないから。仮に青かったら飛べたかもしれないのにね」

「……?」

 シャルロットのこの例えに関して玲也は首をかしげた。ついでに彼女は"緑色だから"まぁ水中戦は得意としている“と言いたげだそうだが、そこについて分かれと言う方が酷だ。

「話を戻して特に腕が凄いんだ。両腕のビームキャノンことバスター・キャノン、両手からの連射性抜群のミサイルことバスター・ショット。これによる前方への一斉射撃は相手を絶対近づけさせないね」

 クロストの両腕が静かに前面へと突きだされた瞬間、両肩のビーム砲が一直線に青色の光を放ち、追随するように両手の指、合わせて10門の弾頭が雨のように飛び交う。光と実弾の幕を張るには相応しい武装だ。

 そして、それだけでなくバスター・キャノンとは反対方向から両腕を挟み込むような位置に存在する両肩の砲門。それはバスター・キャノンよりも長く大きい。透き通るかのような水色の光が直撃する途端に、標的がガラス細工のような銀色の幕を包み子で見せる。

「さらにこの両肩からの電次元ブリザードはん相手を瞬時に凍結させちゃう。だからそこからはめ技のように一斉射撃もオッケーって所ね」

「ふふふ、一方的に相手を攻める事もまた美しくてよ玲也様」

「シャル、上半身ばかりに武器が集中した点が気になるのだが……」

「大丈夫。このドリルが体当たりだけじゃなく……」

続いてクロスト・グンツァーが全身を進めながらその機体を象徴する要素のドリルを素早く射出してみせる。地中へと直ぐに潜るように進んでは、しばらくしてから遥か先の場所から顔を出すように飛びあがった。

「と……これは水陸両用貫通魚雷シャグールって言うんだ。水中地底での強い味方になるね」

「ふむ……おいエクス。電次元フレアーのような必殺技はクロストにはあるか?」

「さすが玲也様。良い事を聞かれますのね」

「そうだね。ブレストの電次元フレアーに対してクロストにはこの技がちゃんとあるんだ」

 その大技とは、まずクロストのゴーグルが暗い紫色に発光してはやがて四角形の光線を標的のど真ん中を瞬時にぶち抜く。

その光線技はまるで一か所にとてつもない重量を叩きつけて重さで突きぬいたかのような威力であろう。

「これが相手に重力のエネルギーを叩きつける電次元グラビティって言うんだ。電次元フレアーより幅が狭い分重力は強力いに調整されているんだ!」

「ふむ……」

「ということで、私の全てですわ! 玲也様御感想がありましたら遠慮なく」

 口元に手を当てながら彼は思慮深層な視線でディスプレイを見つめる。エクスが外でクロストの性能に関して非の打ちどころがないと言いたげな表情ではあるが、その彼女の表情は今の彼には見えてはいないか、或いは流しているであろう。


「……これでは無理だ!!」

「あら……」

 そんな彼の第一声が早速エクスの自信を空回りさせる。

「いよ、待ってました!」

 そしてシャルがここぞとばかりに手を叩きながら、ディスプレイの前のクッションに座りながらキーボードをここ一番にと叩き始める

「玲也君そこでカスタマイズの時間だよ! 最初のうちは僕がお手本を見せてあげるけどそこから覚えてく自信はある?」

「むろん、ここで覚えなければ俺も一人前ではない」

「さっすがだね、じゃあ何か良い武器とか考えた?」

「そうだな。まずバスター・ショットをただのミサイルだけで終わらせる事は勿体ないと感じた訳でな……」

「へぇ~ほぉほぉ……わーお?」

そこで玲也はシャルにあれこれと口に出す。どちらかとなればあまり喋らない方の彼ではあるが、ここでは一転して頭に渦巻く考えを延々と彼女に与え続ける。だがシャルは飽きる事も疲れる事もなく興味津々で頭に入った事を直ぐにキーボードへ反応させる。

「じゃあこんな感じかな!」

「……玲也様? いったいどんな案をお考えになりましたの?」

「エクス、俺が考えた武器はどれも意表を突く事を考えた。何、論より証拠がお前ならば早いだろう」

「そうですか、ふふ玲也様がそう言われるのでしたらお言葉通り」

「そうだね、データは完成したからこれでとりあえずテストしてみよっか」

武器を生み出す者同士のテンションが高まる会話からおいてけぼり気味だったエクスだが、ここで彼女は二人の手で組み立てられたデータを目にして瞳を丸くし始めていく。

 テスト映像ではバスター・ショットの連射を軽々と回避しては、すぐにクロストの腕を一本背負いするように右腕を持ちあげては、手首から先を逆に曲げてへし折ろうと行動を起こす。

「あっ! 腕が折れましたわ!良いのでしょうか!?」

 いくら巨体を誇るクロストであろうとも、手首は彼からすれば細く作られた部位であり、鈍いと音を立てながら亀裂をいくつもめぐらせていく。

「ここからなんだよね~!」

あっけなく手首が落ちた瞬間であった。今度はクロストの折られた右腕からは火の矢が相手の足もとをめがけて落下する。この展開こそシャルと玲也が思い描いた展開そのものだ。

「へへへ、仮に腕が破壊されても、バスター・ショットを発射できるようにアレンジしたんだよね、ついでに……」

 それから別のモニターでは、クロストが左手自分自身の右腕を折る姿が映る。

そうするや、90度下に曲がった右手首から先がまるでグリップのように左手で握られる。その姿はまるで拳銃を構える保安官そのもの。例え彼の体が人並み外れた巨体であってもだ。

「こうすればマグナム式に変形させれば命中精度がより上がる」

「そう! 玲也君、これっていわゆる隠し武器という奴だよね?」

「あぁ、これで仮にクロストの腕が狙われて破壊されていても抵抗を続ける事が出来る。名付けてクロスランチャーだ」

 と命名されるのであった。ちなみに武器に名前をつける時の玲也の姿は何故かいつもよりも高揚した気分ではある。何故だか知らないが

「なるほど……それはそうと玲也様。何かゼットウィッパーに似ている仕組みではないでしょうか?」

「無論それからヒントを得た所もあるが猿真似へしたつもりもない。実際鞭とミサイルランチャーだと結構使い方が異なる」

「さすが日本! 相手の物をヒントにそこから手を加えて別物にする芸当がお得意なお国柄!!フランスじゃ真似できないや」

「フランスどころか電次元界でもこの応用する事にかけては玲也様に及ばないですわ!」

「何、また意地を張り合る……シャル、次の武器についてだが」

 ここで何故かエクスがシャルに対して張り合いを見せた為、玲也はすぐさまシャルにプログラミングの話を振る。彼にしては珍しく女性に対して空気を読んだ行動だが、これまでにシャルとエクスの衝突が何度も続いていた事もあり流石に学習したのであろう。

「ふむふむ……なるほど、それも面白そうだね!」

とシャルの反応は宜しく、かくして玲也原案、シャル仕上げの合作武器第2号が生み出されようとしているのであった。

「もう、玲也様ったらお子様相手に親しくしすぎですわよ……」

 とこれがエクスにとってはあまり面白くないように思え始めたそうだ。

 この武器を手掛ける段階でエクスが参加できる場所がないようであり、仲間外れにされているようにも感じたのであろう。すると彼女は玲也の机に置かれていた無地の用紙とペンを目にすれば、勝手に拝借して何かを描きはじめる。これに関してはプログラミングに熱中する2人は気付いてない模様。ちなみに時計は既に夜の1時を過ぎてはいた。


「シャフト・キャノンの長さを少しばかし伸ばして工夫次第で近距離用の兵器としても使える訳よ」

「これで相手に叩きつけたり、シールドとして使ったり……意表を突いちゃう訳だね、玲也君」

と合作武器第2号は両腕のシャフト・キャノンに目をつけた。腕に装着されたロングサイズの砲門そのものを自由自在に動かして、接近する相手に攻撃を仕掛けたり、シールド代わりとして相手の攻撃を逆に防ぐように回転させたりする事を主な目的と玲也は考えている。

「続いてこの武器だな……お前に教えられながらとりあえず組み立ててみたが」

 今度は玲也がプログラミングを手掛けた武器が姿を見せる。

 モニターではクロスト・グンツァー形態でそのキャタピラに接した地面から先端のシャベルを元にとある長円状の物質が地面を掘り進む。

その掘り進んだ先の地盤に激突をした途端にそれは地中で爆破を起こす。いわばもう一つの魚雷の位置にあたる武器であろう

「そう、名付けて水陸両用爆破魚雷アビスモル。シャグランで抱える相手に軌道が見破られやすい点を踏まえての新装備だ」

「なるほどね~確かにクロスト・グンツァー形態だと目の前からシャグランを発射しちゃうからねー」

「それに地中潜行用のドリルをむやみに放つものではない」

 先ほどのシャグランは玲也からすれば”追い詰められた状態に使う武器”のようと評価する。

「なるほど、いわゆる手持ちの武器が多いロボットが腕を飛ばすような攻撃をすると同じような事だね」

「正解。地中へ潜る事が出来るウリを持つこいつがドリルを飛ばしてしまった後には何が残るという指摘もあながち間違いではない」

「最も、ドリルとして使う装備と認識させて放つ事で相手を欺く事が出来るんだけどね」

「無論、それもまた相手の裏を突く一つの方法としてケースバイケースということよ」

「玲也様!」

と二人は2時近くでありながらノリノリで武器を作る事にやっきとなっていたが、そこに1時間ほど沈黙を続けたエクスが二人の前に用紙一枚持って現れる。

「御覧なられて! 私なりに考えた案ですが、ここはオーバーボディというものはいかがでしょうか!?」

「オーバーボディ?」

 そこには彼女が描いたクロストの胴体が観音開きするように開いては、中からはクロストとは異なる機体、華奢な女性らしいスタイルとロボットでありながら金髪のヘアースタイルを見る限り、その絵は何処となく作者、いわばエクスのそっくりにも見える。ちなみにエクスは絵心があったのだろうか、想像以上に上手な絵だった事も付け加えなければならない。

「あー、いわゆるこのクロストがこんなクロストに変身するとかそういう感じのデータ?」

「そうですわ! 私クロストの無愛想な姿には少しさびしい物を感じまして、ここは私らしく美しく可愛らしくで……」

「没!」

 シャルがこの絵の意味するコンセプトへ気付けばエクスが顔を嬉々と輝かせるのだが、玲也の答えは一文字で否定するようなものでもある。

「あらら、玲也様そんな殺生な……玲也様がおっしゃる意表を突く事も出来るのではないかと思うのですが」

「それはそうだが、シャルが言うにはハードウェイザーはコアとなる頭部と胴体のパーツのカスタマイズが一番困難とのことだ」

「またシャルですか、玲也様……?」

 その時、エクスの声は少し嫉妬のような感情が乗せられ、彼女の顔も眉間にしわが寄せられるが玲也が気付いたか流したかは分からない。けれどもどちらにしろ彼はその時に何も言う事はなかった。

「そうなんだよね、頭部と胴体はカスタマイズがデリケートで、アップデートさせる時間も随分かかるから僕はあまりいじりたくないんだ」

「僕がいじりたいですって!?子供が何を言っているのですか!!」

「ええっ!?」

 その時にエクスの中で今度は静かに積りつつあった彼女の嫉妬心が噴火してマグマが周囲に流れ込んだ。今度ばかしはシャルも彼女の気に障るような事を言った覚えはなく目を思わず丸くしてしまい何故怒っているかが分からない様子だ。

「いいこと! このクロストは私のハードウェイザーでして、動かされるのは玲也様だけですわよ! その貴方はどういう立場で口出しをしているのですか!!」

「だって僕は玲也君のアドバイザーとして将軍から招かれたんだから……」

「その貴方が私を蔑ろにした挙句、私の意見を聞かないとはどういうことですの!?」

「そんな事言ったって、玲也君にはまだしてもらわないといけないことがあるし、僕と玲也君はこれで満足しているんだし」

「やめろエクス!!」

 シャルが何を言おうとしても、どうやらエクスの癇癪ともいえる言動が収まるとは思えないと玲也は判断した。また自分に従いやすい人物でもありここで玲也は一喝して彼女の口を怯ませるような行動を取る。

「で、ですが玲也様……私はこれが良いと思いまして」

「誰が良いと思おうともそれが採用される訳ではない。ましてハードウェイザーのカスタマイズに関してはお前よりシャルの方が出来るものだ」

「まぁそういう事になるかな……アイデアは素晴らしいと僕は思うけどね……」

シャルが照れながら頭を掻く途端、彼女の体は前のめりに倒れ込んだ。それからすぐさま彼女は起き上がるが少し足元はふらついている。

「おい、シャル大丈夫か」

「いやぁゴメンゴメン。流石にちょっと眠くなっちゃったんだよね……大丈夫ちょっとプログラミングで疲れちゃったからね」

気付けば既に時間は3時近くを指そうとしている。少なくとも中学生の二人が起きて良いような時間ではない。

そこで玲也が起した行動はシャルの体を軽々と持ち上げる。自分と同じ身長の彼女だが玲也は顔に苦みを走らせる事もなく相変わらずの落ち着いた顔つきだった。

「わお、玲也君凄い。そりゃ僕は体重が軽いと自分で知ってたけど」

「とりあえず、俺が家まで送ろう。お前には色々と世話になったからな」

「玲也様!? 貴方はそこまでシャルにされるおつもりですの!?」

 さらにエクスが目を丸くして怒りたくなるような事が続くようだ。明らかに玲也はシャルへと肩入れをしている。徐々に自分の立場が不安となる事に気づいてか慌てて問いただす訳である。

「そうだよ、玲也君僕は別に大丈夫だし、それより操縦を覚えないといけないんじゃないかな?」

 これにシャルも少々心配を寄せてお姫様だっこをさせてもらっている玲也へと聞くと彼は落ち着いた様子でテーブルに置かれた赤いファイルを身を寄せながら彼女を抱いている右手で掴んだ。

「ならば、一人で練習した方が良い。少なくともこの部屋ではやりづらいものでね」

「……!!」

 そう玲也は冷たく言い放つ。その時のエクスの様子を彼は知っていたかどうかは考えてはいけないだろう。少なくとも今の彼は自分自身がクロストを知る事におわれているようであり、仲間であろうとも足を引っ張ると判断した相手には無慈悲な男であった。

「少なくともエクスとシャルをどちらかを一緒にする事は危険だと俺は良く分かった。それだから俺は一人でやらせてもらおうかと」

「それなら玲也君、僕の家で練習してもいいよ。それなら僕も目が覚めるし色々アドバイスできるかもしれないし」

「良いのか、シャル?」

「まぁね。一人で練習したいならそれはそれでいいけど、もう夜中なんだしさ」

 シャルは玲也に対して恥じらいの感情はあまりないのだろうか、また彼を異性よりもゲームで知り合った親友のように見なしているのかもしれない。あっさりとそのような話をケロリと言ってみせた。

 玲也もまた彼女が承諾したならば好意に甘える事を選ぶ。玲也からすればシャルはオンラインゲームで知り合った頃から彼女の腕を評価している訳であり、シャルはエクスがいなければしっかり自分のアドバイザーとして活躍してくれるとも見なしているようだ。

 なお玲也は自分の母以外にはさほど女性を異性と見なさないようであり、それはエクスに対しての反応で証明されていること。シャルに対してもやはりゲームで知り合った親友のような印象を寄せているのであろう。

「あの玲也様、私は何をすればよろしいのでしょうか……」

「俺のコントローラーさばきをサポートしてくれればそれでいい。ちなみに俺は朝7時までには帰るつもりだ」

「あ、ちょっと玲也様! それだけですの!?玲也様!」

 と玲也はそれだけ言って青いマニュアルに視線を寄せながらシャルを運びにドアを開けては階段を下りていく呆然とするエクスの顔を玲也は多分見てはいないであろう。

「玲也……様……」

 ――もしかしたら玲也に見放されたのかもしれない。

 その彼女は灯りが点いたままの彼の部屋で崩れ落ちてはしばらく立ち上がる事が出来ない様子。

「ん……」

 けれどもエクスは気付いた。

 テーブルの上にはシャルが開きぱなしのまま床に置いた黄色のファイルであり、それはシャルが玲也にプログラミングについて教える目的の書類であり、それに気づけば次にエレファンのディスプレイを見る。どうやら玲也はカスタマイズ画面を閉じ忘れていた。

――つまり今エクスが自由自在にクロストのデータを編集する事が可能という事が現実だ。

「そうですわ、このファイルを目にしながらでしたら私のアイデアをクロストに盛り込めるかもしれませんわ、何難しいとあのお子様は言いますが私ですから自信は十分ですわよ」

 とエクスはどうやら立ち直りが早い人物だそうで、玲也に却下されたアイデアを強引に組み込んで実戦で自分のアイデアが役立つ事を証明させるつもりである。

 なお、彼女はシャルが駄目といっても自分ならできると言うが、プログラミングの経験がない彼女が言うには余りにも説得力がなく、不安しか感じられないがこの部屋には今、エクスしか存在していない為突っ込む事は残念ながら行えない。


「さて、まずは胴体についてですが……ふむふむ、私のクロストはこのような中身とは初めて知りましたわ」

――この一言が先を物語るかどうか。いずれにせよ彼女の行動は翌朝まで続く事を付け加えなければならない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「只今……」

そして時計はちょうど朝7時を指す。玲也がドアを開けた時には照明は落とされ、ドアを開けた空間ではカーテンに半分ほどシャットダウンされながらも陽が静かな灯りとして漏れている状態だ。

「さすがに徹夜は堪えたが……これでクロストの操縦は把握できた。実際クロストをこの手で動かす事がイメージできる」

と玲也は寝ぼけまなこだが、両手はまるでクロストのコントローラーを動かしているかのように素早く指が動く。

ちなみにクロストもブレスト同様秀斗の手で操縦システムが設計されている。ブレストがPA3と呼ばれる最新の据置ゲーム機のコントローラーそのもののように、それに対しクロストは同じく最新の据置ゲーム機の一つCBOX180こと“CrossBox180”のコントローラーそのもので動く仕組みである。

「エクス……?」

 その時自分の目の前にエクスが床で倒れるようにして眠りに就いた姿に気づく。彼女はどうやらヘルパーとしてのマニュアルを読みつくしていたのだが、それだけではなくとある水色の大学ノートが開かれた状態で何かがびっしりと書かれていた。彼女がボールペンを右手に握りしめながら眠っている所から書き手の可能性が高い。

「これは俺のノートのはずが、あいつ勝手に……」

 と苦言混じりで玲也はノートに書かれた字を目にするが、疲労した身でありながら彼の眼は再びはっきりと開かれ、自然と首を縦に振りながらページをぱらぱらめくる。

「ふむ、クロストは前面に武装が十分備えられているが、後方は少々頼りない、またクロストが小回りの利かない機体の為に、後方は念入りに確認を行う必要がある。玲也様へ迷惑をかけないように背後の備えも常に意識させる事……結構考えている訳か」

 ――少しばかしエクスを見直した。

 この時に玲也は心の中でそう感じるのであった。3人の中では玲也に対して盲目であり、その彼女の言動は彼を無理に持ち上げたり美化したり。外見は一見知的なお嬢様だが、中身が伴っていないと玲也はただ彼女が自分に対して従順という事を評価していたに過ぎなかったのである。

 その彼女がヘルパーとして必要なレーダー、モニター、機体の耐久度、エネルギー、残弾の監視・管理、また管理する立場から玲也に対して何を進言するべきかを記されており彼女は彼女なりに仕事を、また自分自身を支えようとしている姿勢がそのノートに記されたのだ。

「俺はシミュレーターバトルのときまでひと眠りする事を考えていたが、これは少し早く起きてエクスとシミュレーションを出来る限りこなす。それが良いと少しばかし感じてきた」

 と寝不足ながらも半日を切った戦いまでの時間をより有意義に使わなければと決意する。だが……

「いや、そう言えば何時の間に俺に操縦を指示するボタン等が記されている訳だが、それは俺とシャルしか知らないはず」

この操縦の件だが、まず操縦マニュアルは玲也がシャルの元へ行くまでに誰かが手にした事はない。シャルの元へ向かう際に玲也はマニュアルを手にして彼女の家に行き、そこから朝7時まで延々と操縦の練習に励んでいた。よって少なくともマニュアルを目にして操縦を覚える事は玲也とシャル以外では出来ない。

「さて、これはどうしたことか……」

「おや、玲也様ですね……これはお見苦しい姿を」

その時に当の本人エクスが目を覚まして玲也の顔をうつろな眼差しで見つめる。

「はようエクス、このノートはお前が書いたのか」

「このノートですね……玲也様!これを読んでくださったとは!!」

 するとエクスは玲也がそのノートを既に読んだと気付いたなら再びパッと目が開いてこのノートは自分自身の力作だと彼の両手を包み込むように触れる。

「まずこれは少なからず出来が良いと俺は評価しても良いつもりでいる」

「もぉ、玲也様。少し謙遜ぎみですがしっかり褒めてくださっているのですね!」

「そのつもりだが操縦方法は何処で覚えた?」

「そ、それは……ですね」

 プッシュされればその気になってテンションがウナギ登りのエクスだが、操縦方法の件はどうやら何かしら曰くがある様子。彼女はどうやら嘘をつけない人間だそうで、顔から苦しそうな雰囲気がにじみ出ているようだ。

「玲也様、これに関してはあくまで玲也様がそのボタンでその行動を取ると思いまして一種の仮想トレーニングなのですわ」

「仮想トレーニング……良く分からないが、確かボンバー・ショットはR+△か□のはずで、この△、□、トリガ―同時押しで両手発射のコマンドではないはず」

「ですわよね! 左様なのですよ私は何となくでありまして、えぇはい」

 そこでどうやら上手くエクスにおいて都合のよい展開へと事が傾き、玲也は納得したような表情を浮かべて一見落着かに見えた。

「そういえばエレファンをつけっぱなしで家から出てしまったのか。電気代が余計にかかってしまう……ぬかったな」

 とエレファンがカスタマイズ画面を開きぱなしの状態だった事にも玲也は気がついた。それまでならば左程問題ではない筈だが……

「せっかくだ。エクスここはお前にボタンの割り当ても教えようか」

「ちょ、ちょっと玲也様!?」

 そこで思わぬ一転されてしまった事態。本人は単純にエクスを少しアドバイスしてあげようと彼なりの思いやりを見せてCBOX180のコントローラーをエレファンの端子につなぐ。どうやらゲーム機種のコントローラーはそのままPCへ接続してもエレファンを操縦させる事が出来る模様だ。

「玲也様、あのですね、そのですね別に事前でぶっつけでも宜しいかと私は思いますが……」

「相手はアンドリューさんだ。俺もお前もここまで必死に備えたはずだがそれでも実戦は何が起こるか分からない。備えは出来る限りして損はないはずだ」

「それはその、御尤もなのですが玲也様」

「御尤もならば何故行わない。実行しない善程愚かな事はない」

 と玲也はコントローラーを接続すればボタンの割り当て表が映し出される訳で、一目で正しい操縦が把握できるはず、そのはずだが……


「何だと……」

 と玲也はその場で呆然とするのであった。なぜならばボタンの割り当てがバラバラな状態になってしまった訳であり、あれは玲也が操縦テクを活かせるはずがない。

 さらに気がつけば、そのボタンの割り当てがどういうことかエクスのノートで記載されたボタンと全くの差がない。つまりエクスの割り当てが間違っていなかった事になるのである。

 そこから先に行けば玲也とシャルが覚えた操縦に関しては、クロストが最初期の段階に加えて2人で手を加えた筈。その状態が正解の筈だが……こうなればエクスが何らかデータを書き換えた結論にたどりつく。

「あのですね、そのですね、このですね。いわゆる一つの秘密兵器として温存、もう少し言うのでしたらドッキリ! そう、ドッキリで……」

「何がドッキリだ!馬鹿も休み休み言え!!その上、もしかしてと思うがだな……」

 ここで玲也が顔を蒼く白く変えながらデータを探るや否や――案の定クロストの体内には別の機体のデータが見事組み込まれている。一応普段のクロストの胴体には黄色の光が点滅したままだ。

「左様ですよ、玲也様これがドッキリの秘密兵器のシークレット・ウェポンのいわゆる一言で言いますとですね……」

「一言で言う! なんて事をした!!」

と玲也はその時に寝不足でありながら、いや寝不足だからこそ咆哮を上げるようにして怒りと共に吼えた。

これが仮に問題なくエクスのアレンジでカスタマイズが完了しているならば彼はさほど怒る事はしないであろう。

けれども困る事はそのカスタマイズが原因で玲也の戦術を基づくカスタマイズが全て取り消されているような状態であり、その状態ではエラーもいくつか散見されてしまっている。これでは玲也が戦術を立てようがない状態に破綻している訳である。

「ですから玲也様、私は私のやり方が玲也様にも正しいと思ったからでして……」

「そのお前が言う正しいで、俺が考える正しいを乱しても良いと言うのか! クロストを動かすのは俺だ!!」

「も、申し訳ありません玲也様、私の御無礼については弁明のしようがありませんですわ……」

「弁明をしようがしないが状態は戻らない! 分かっているのかエクス、お前がした事の重大さが!!」

 と先ほどのシャルに対するエクスではないが、今度は玲也がガクガクと怒りに震えながらエクスを徹底的に指摘しはじめる。限られた時間の2/3程を費やした準備があっという間に水泡と化した怒りは計り知れないのである。

「先ほど少しばかり見直した俺が馬鹿だった! お前は俺の足を引っ張らない事、つまり何もせずに大人しくすれば良かったのに!!」

「も、申し訳ありません。ですが玲也様、私は何もせずにという事はあのシャルがしっかり玲也様のお役に立てているというのにですね」

「シャルは役だってお前が役立たないだけだ! 言い訳するというのか……!!」

とうとう玲也は口でエクスの非を指摘する事で怒りが収まりきらないと感じたのであり、遂に彼女の首元を掴み、右手が。あ拳を作ろうとした時であtt


「――玲也さん、どうかやめてください!」

「ミュウさん……!?」

 その時だった。

 ちょうど朝食を彼らに持ってくるかのようにサンドイッチとコーヒーをトレーに乗せてきたミュウが叫んだ。気弱な彼女では珍しい鶴の一声のような声に思わず玲也の拳はピタリと止まる。

「玲也さん。これもエクスちゃんが玲也さんの為にと真剣に考えていた事の筈です。ここはエクスちゃんをそこまで責めないでください」

「……戦いから逃げるお前が俺の事を分かって言えたつもりなのか」

「……なら玲也さんがエクスちゃんをぶっても全てが解決すると言うのですか!」

「う……」

 この時、ミュウの意見はどうやら玲也が一時忘れかけていた冷静さを思い出させるものであった。彼女は玲也からすれば戦いに対して臆病かもしれないが、本人からすれば少し悔しい所があるが、彼女の落ち着きは戦いにおいて玲也が今は意識しなければならないスキルでもあった。

「悔しいがそれはそうだ……」

 だから玲也は握った拳をゆるめてエクスの首元から手を離す。そして血の気にはやったような頭を横に振りながら自分自身の短慮を取り除こうとする。


「ここでお前をぶとうがぶたないでも全てが解決しない。それよりもアンドリューさんに勝つか勝たないかだ」

「あの……玲也さん、シャルちゃんを呼ぶのはどうでしょうか」

「いや、シャルは完全に熟睡した状態。俺と同じ朝7時まで徹夜で起きていた程だ」

 玲也がここで勝つ為にシャルの協力が求められるならば自分から求めたいとは思っていた。けれどもそのシャルに頼る事が出来ないとなる場合――少し覚悟を決めた様子で首を横に振り口を開く。

「――こうなれば仕方があるまい。俺が意地でもこいつを直さなければならない」

「そ、それって玲也さん……申し訳ないですが確かプログラミングはシャルちゃんしかできない筈だったのではないでしょうか」

「シャルにある程度カスタマイズの方法は教わっている為少しばかりはどうにか……いや、そうなる事を俺も祈らなければならない」

決断を玲也は下した。ただその決断は少しばかし頼りない様子も言葉から浮かび出てはおり、玲也の顔色も寝不足もあるが良いとは言い切れない。万全と思われた体制が崩され、その体制へ修正していく為の力が今の自分には経験も含めて備わってはいない点と、今後の戦いに向けて万全の体調で挑めない事がほぼ確定した点から不安に静かに襲われはじめている事である。

「あのですね玲也様……その、私は何を致せばよろしいので……」

「お前はこれ以上俺の邪魔をしないでくれ」

とエクスに言い残して玲也は一度開いたドアを厳しく閉める。怒りは頂点から静まったが、エクスに対しての失望は彼の心にまだ残ってはいる。その事は流石のエクスでも今の玲也の態度から判断する事が出来た。


「玲也様……やはり私の事を……」

「エクスちゃん、今はただ玲也さんも何をすべきか分からないのだと思います。ここはそこまで気を落とさない方が良いと思います」

 何時ものポジティブな様子から一転して、まるで大海原の中で帆を失った小舟のようにエクスは自分自身に不安を抱きつつあった。ミュウは何時もの彼女らしくフォローに回るが彼女の顔色は優れないままであった。

「ただエクスちゃんは私何かよりすごいと思います。アイデアを思いついて直ぐにそれを実践する事が出来る事や玲也さんの為にしっかりコンビで行動する事を考えていたりと」

「そうでしょうか……ただそれが空回りしてしまった所も私にはあるのですよ」

「そんな事言わないでください! 私もパートナーの人の足を引っ張りたくないとは思いますが……そこまで、そこまで出来ないですよ」

「エクス……もしかしたら貴方」

「そんなことないですよ! ただ私はエクスちゃんを少しうらやましいと思っただけですよ!!」

 と何故か励ます側のミュウが少し自分を自虐するようにも今のエクスからすれば見えた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「さて……少しばかし栄養をつけなければ俺の体が持たない」

「玲也、どうやら思わない事態になったようね」

 栄養ドリンクを2、3本口にする為に1階へ下りた所まるで彼の行動を読んでいたかのように、フレイが降りた途端の彼の真後ろから言葉を吹きかける。

 彼が振り向くと、その彼女は何やら人の不幸を少しばかり楽しむかのように口元がニヤリとした顔つきだ、目元も何やら冷たく笑う感じだ。

「――何がおかしい」

「そうね、勝つ事に拘り過ぎてあたし達を道具のように見なしていたあんたがしっぺ返しを受けた所ね」

「あぁ……」

 その一言と共に玲也は彼女の静かな怒りの原因を突き止める。ただ、その件は彼の立場からすれば”あぁ”がまず思い浮かぶ言葉でもあった。

「ミュウのことか。あいつに関しては少なからず悪い事をしたとは思う。だがエクスの件は、あいつにある程度任せた事で未だに後悔をしてはいる」

「――やっぱ悪い事をしたって思ってないじゃん! 分かってない」

「分かった時点でそれが何になる、勝てるとでも言うのか?」

「玲ちゃん!」

  一度怒りを噴出させて歯ぎしりしながら睨むフレイへは玲也の表情の色は見事に変わる事はない。ただその時2人の様子を仲裁するように一人の人物がドアを開いた。

「母さん!? 今日は休みというのにもう起きていたの!!」

「休みの日だから早く起きる事もあるじゃない? せっかくの休日を楽しんでもいいじゃない」

 玲也にとって唯一無二の頭が上がらない相手が一人――それが母・彩奈。彼女は至ってニコニコとしているがその場の玲也を委縮させるかのようなオーラをその身に纏っているようでもある。

「玲ちゃん、昨夜龍造寺隆信と鍋島直茂の話はした事は分かってるよね?」

「り、りゅうぞうじ? な、なべしま? それって誰のことなの、ねぇ玲也」

彩奈は昨夜の戦国武将への例えを持ってきたようだ。その例えにフレイはキョトンとしてはいるが、電次元界にその人物の件が伝わっていないと考えれば仕方のない事でもある。

「まぁまぁ。玲ちゃん、龍造寺隆信は沖田畷の戦いで死んだことも知っているよね」

「……はい、あれは島津家の闘将・島津家久の釣り野伏が鮮やかに決まった事が勝因の一つ。寡兵で大軍勢に逆転勝利をおさめる島津家の戦いは学ぶべき点が多く……」

 昨夜と同じ歴史ゲームの影響もあり玲也はそういう関係の話に何故か詳しい中学生のようだ。

 ちなみに沖田畷の戦いとは当時九州最大勢力候補であった島津家が僅か8000程の兵力で、龍造寺家約1万8千から6万程と言われる大軍勢を撃破した九州最大の合戦一つ。またこの戦いで龍造寺隆信らその他龍造寺家の名将を次々と失い龍造寺家の権力が失墜した戦いでもある。

「それはそうだけど、玲ちゃん敗者の立場から何故負けたかは考えられない?」

「理由は……隆信が信茂の進軍に対しての諫言を無視して強引に進軍した事にも……」

 沖田畷の敗因を突きとめると玲也の表情がすこしばかし変わった様子。彩奈は視線で静かに彼の変化を認めながら話し続ける。

「九州最強の義兄弟龍造寺隆信と鍋島直茂。そのコンビが決裂した理由は隆信が大名としての野心と自惚れに覚えて、直茂の諫言を聞かずに遠ざけるようになった事によるの。あくまで一説だけどね」

「へぇ~その隆信という人は玲也に似てるじゃん」

「ぐ……」

「もう私の言いたい事が分かったじゃないの玲ちゃん」

 と彩奈が聞いた時に彼の首はぎこちない様子ながらも縦にうなずく。その様子に彩奈は勿論フレイもまた少し感心した表情を見せていた。

「それにね、お父さんは不慮の事態に対してもそれを上手く潜り抜けて、またその原因を作った人にも故意じゃなかったら根に持たない人だったわ」

「……!」

「へぇ~、玲也とは大違いね!」

「まぁ私はお父さんのような人にはなれとは言わないけど。ついでにフレイちゃん、あんまり憎まれ役を買うのは良くないわよ」

 との彩奈は玲也に対してペロリと舌を見せながら再びドアを閉めてリビングへ入る。

「全く……あたしは別に憎まれ役を買っているつもりはないのに」

「父さんか……」

 年長者からの助言を聞いた後に、2人の態度はきつく硬直した雰囲気は消えて毒気を抜かれた様子でもあった。やれやれとため息をついたフレイに対し。玲也はこれからに対して不安を払いのけたかのように顔つきが締まり始めた。

「良く考えたら俺も昔父さんと組んだ大会でミスをして優勝を逃したこともあった……そこで父さんはやはり厳しくも優しかったな」

 何時も通りの父さんだったとしみじみと玲也は思い出す。その過去を思い出せば先ほどの自分の態度は彼女に問題があったとはいえ厳しすぎたと認め始めている。

「まだあいつを許す気にはなれないが、ここは母さんに免じてもう少し様子を見守ろうか。どちらにしろあいつと俺が今回で組む事にもなる」

 と彼は栄養ドリンクを4本ほど取り出しにキッチンにある買い置きへと手を伸ばしに行った。少しばかりドリンクの本数が増えており、それはとある人物に対してもう一度チャンスを与えるかのような姿勢かもしれない。


「全く……これで良いのかどうかあたしには少し複雑だね」

 窮地の中でチャンスを見出し始める玲也はもうフレイの目の前にはいない。ただそんな彼に対する一言を誰もいない場へと一人漏らした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 かくして時刻は半日近くの時が過ぎ去り、18時を迎えた。


「おいコリン、もうシミュレーターバトル開始の時間じゃん」

「そうですが、私達は……」

 試合の舞台は武蔵野地区据沖町から大きく離れて大気圏から外れたパーフェクト・フォートレス。そこでコリンとテディ。2人のオペレーターコンビだが、少なからず彼女達は職場から離れる事が出来ない様子だ。

 これにテディは持ち場の席でウズウズと見たい心境を抑えられないが、コリンは同期の彼女をたしなめようとモニターを指さしながら指摘するが、

「そりゃあ仕事から離れたらいけないってことはあたしも分かってるよ。けどさー、けどさー」

「テディ、僕は無理っすよ、御覧の通り艦内パトロール中~」

 テディの視線はブリッジでふわふわと浮遊するバンに向けられた。どうやらオペレーターの代理を担当してほしい様子だが、彼はそれは出来ないと断る。

 ただ艦内から電力を供給しながら浮遊するバンは艦内パトロールというよりも、何かしら休憩を楽しんでいる様子でもあった。ちなみにバンのパートナー・ナムはパーフェクト・フォートレス周辺を浮遊しながら調査を続けている模様でその場にはいない。

「ったくロボットのくせに使えないなぁ。ロボット三原則ひとーつ、ロボットは人間に危害を加えてはならない、ふたーつロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない……」

「みーっつ、ロボットは第一条、第二条に反しない限り自己を防衛しなければならなーいっす。僕は先ほどずっと偵察してばっかでエネルギーが切れそうだからこれ以上酷使される事は危害が及ぶっす!」

「ちぇっ、そりゃないぜ」

「まぁまぁコリン」

 とロボット三原則に関しての呆れるテディだが、コリンはクスクスと笑いながらモニターを押して二画面に切り替えてコリンの肩をポンポンと叩く。

そのもう一画面はシミュレーターマシンが配備されたトレーニングの様子が映され、そこにはアンドリューとスティがまだかまだかと待ち構えている様子が見えるのみで、まだ勝負は始まっていない。

「そりゃこの画面で見れるっちゃみたいけど、この小さいモニターよりトレーニングルームの大画面で勝負の行方が見たいよ」

「それはそうですね、どちらにしろシミュレーターの映像はこのモニターに映らないですし……」

「そうだよな……じゃあバン!」

「駄目っすよ、僕をトレーニングルームのディスプレイモニターにつないでモニターで映すような事をするのは。ここから結構距離があるから疲れるっす」

 とまたテディがバンだのみをするが結果は前とあまり変わってはいないものである。


「はぁ、しかしそれはそれで心配じゃ……」

 と今度はブリッジのモニターから正面に存在する最も奥の位置に存在する席、そこはエスニックの特等席だが今回はブレーン博士が代わりに座る。その彼は相変わらず顔から不安の表情が漂うまま。

「ブレーン博士、将軍の席には慣れていないと感じますが……」

「そうなんじゃ、一応わしは副将軍の地位じゃが指揮官より科学者としてのほうが性に合うのじゃて」

「確か今回、玲也っていう子供とアンドリューのシミュレーターバトルで不安で不安ということで将軍と席を代わってもらったんだよね」

「そうじゃ、けどわしは指揮官としても上手く導けるかが相変わらず不安で不安で……」

「とはいいますが、ブレーン博士も指揮官として今まで将軍の代理として立派に務めてきた筈ですが」

「それはその、そうなのじゃがほら戦いはいつ何が起こるか分からないものであり、そのついでに玲也君とアンドリュー君の戦いがわしにとっては……」

「結局それですね、ブレーン博士」

と、どうやらこのパーフェクト・フォートレスの頭脳ブレーン・エンタレスは最大の不安を頭に抱えた状態がまだ続く様子だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


そのブリッジで戦況の監視が続く中、パーフェクト・フォートレスのトレーニングルームで内なる戦いが展開されようとしている。

トレーニングルームには無重力空間から元の重力のある空間へ移る際に筋力や骨の状態を維持する為の足腰を鍛える事は勿論、スポーツジムの一室を彷彿させる腕、背中、胸、腹、腰などの部位をまんべんなく鍛える設備が用意されている。

その反対側にはいくつかのアーケードゲームの筺体が存在し、やはり単純に腕で操縦するものから体全体で操縦するものまでよりどりみどり。シャルが言うPARにゲームが好きなスタッフが多い事がこのトレーニングルームから物語るであろう。


「へへっ、良く来たな玲也。お前の事だから逃げはしないと思ってはいたが嬉しいもんだぜ」

 とアンドリューが言うように、電装装置により玲也達4人はトレーニングルームへと既に姿を見せている。たとえ寝不足な状態であろうとも彼の両目はギラギラと彼へ勝つ事で瞳を燃やし続けている。

「どうしたの玲也君……あれから十分休みをとらなかったの?」

「そのつもりであったが、戦いはアクシデントはつきものとは良く言うものだ」

ただ眼の下の隈と充血した両目に関してシャルからすれば不安が浮かんで仕方がない様子だ。そんな彼女の心配に対して原因について玲也は敢えてぼかすようにして言う。

「ほぉ、戦いにアクシデントはつきものとは分かっている事を言ってくれるじゃん」

「悪いな、玲也。俺達は少なくとも6時間以上は寝ていて、ちゃんと予習を挟んでパワーナップもしてきたって所、よってテンションはマックスってとこだな!」

「――玲也様、あの修正で一睡もしていないのですわよね」

 言い訳のしようがないと玲也は黙りながら首を縦に振る。

あれからアンドリューとスティコンビは特に大きな問題も発生せず、順調にその日まで準備をこなしてきたようだ。ただでさえ玲也は格でアンドリューに劣る事に対して、その日の準備の面においても格が違ってしまったようだ。

 

「玲也、惜しむ事はお前と五分五分で戦いたい所。予定に空きが開いているなら日付をもう少し延ばしてもよかったけどな」

「――アンドリューさん、そのような件は言わないでください。戦いは何時起こるか分からないもの、それが決まっていた時点で有りがたい戦いですよ」

「ほぉ?」

 兄貴のように爽やかな笑顔で玲也に笑いながら話すアンドリューへ、彼は臆する事もなく丁寧に彼からの情けを否定する。そこでさらにアンドリューは彼の話を聞きたげな顔つきに代わる。

「その何時起こるかどうか分からない戦いの為に日々鍛えるづける事が当たり前です、もしいきなり勝負を仕掛けられた事で負けて、ただ準備をしていなかったと弁解しても言い訳に過ぎないのです」

 一時玲也はアクシデントに対して取り乱してはいたが、今では疲労が癒えない状態であっても冷静さを何時ものように取り戻す事が出来ていた。彼の語りは若干14歳でありながら戦いの厳しさを既に把握している様子でもある。

「玲也さん、相変わらず自分にも厳しいですね。あの状態でしたら負けてもおかしくないのですが」

「まぁ玲也は良くも悪くも厳しい所があるって奴ね……」

 と今回は観客に回ったフレイとミュウは第三者として玲也の姿勢を評価するが、その評価は対峙する玲也とアンドリューにはおそらく聞こえないであろう。

「玲也様……」

 そして、玲也に携わるエクスはその自分より背が低い少年の覚悟と度胸が据わったような姿勢を間近で見守り続ける。

「今回の勝負は、まず決められた日程に向けての準備にミスを起こして予定が破綻した俺達に問題があり、また運もありません。その時点で俺は負けています」

「――その時点?このがきっちょの言う事はどういうことなんだー、なぁアンドリュー?」

「まぁ待て、面白い事になってきやがったぜ」

 笑いながらアンドリューは今からスティの言いたげな事に手を伸ばして黙らせながら、彼の一言に集中させる。

「あくまでその時点まで。ならばその時点から俺が勝てば良いだけです! それは今からでも!!」

「――おもしれぇ!!」

 アンドリューは両手を叩いて彼の宣戦布告を高らかに称賛した。――この少年、初めから不利な環境に置かれ、なおさら窮地へ追い詰められようとも”勝つ事”を諦める気配が全然ないのである。その気概、自分が勝負を挑む相手として不足はないと握手を申し出るかのような手を出すが、

「おっと玲也、まだ握手は早いぜ」

と注意を付けくわえながら。玲也の視線へ伸ばされた大きな掌を見上げれば彼の顔がそこにはある。まるで掌の位置からアンドリューの頭の上まで上り詰めろと言わないばかりに。

「羽鳥玲也、俺は全力でお前を倒しにかかる!こんな事を言う奴に手を抜くこたぁ俺自信が許せねぇってことだ!!」

「アンドリュー・ヴァンス、ならば俺も全力で貴方を仕留めるつもりですよ! 貴方に手加減される覚えはありませんからね!!」

 と両者の間でシミュレーターバトルによる一騎討ちは改めて両者の合意という事が見なされた。

「ほぉ……素晴らしいじゃないか!!」

「将軍!」

 そのトレーニングルームにエスニックが現れる。両者の試合を見届けんとする彼の表情は、苦難の環境において素晴らしい芽を伸ばすかどうかを期待として背負う様子である。

「玲也君、アンドリュー君。私から君たちの勝負に言う事はない。有事の時はさすがにそうはいかないが、このシミュレーターバトルは延々と君達が済むまで戦えと言う事だ」

「勿論、将軍。ここでやれるうちにやらなきゃあ俺の気は収まらないですからね」

「それは俺も同じですよ、アンドリューさん」

と両者がエスニックの許可を得た為、シミュレーターのカプセル内へ2チームの4人が席へ座る。そして玲也は持ち出してきたCBOC180のコントローラーを操縦席に接続した。

「クロストはCBOX180のコントローラーをモチーフとしてたっけな。流石ハードウェイザー最新鋭とでも言うべきかな」

「まぁアンドリュー、おめぇあたいのいる所で失礼な事を言うもんだなー」

「わりぃ、わりぃ。けどよ性能でどうにかなる訳でもないバトルだってことは分かってるはずじゃねぇか」

「そうだなー、その性能差を頭とテクで覆す事が大事だって事だぜー案の定」

とアンドリュー、スティコンビはクロストの性能が自分達において唯一のハンデとして、それを自分達が凌駕する自信はある様子。

「玲也様、やはり大丈夫でしょうか……」

「――エクス、そのお前のやる気を買って俺はお前と組む事を選んだはずだ」

「れ、玲也様! もしかしたら!!」

「このような状況でこそ、少しばかりでもゲン担ぎの恩恵を受けたいものよ」

 その時、もしかすればエクスは玲也が自分に対しての失意を解いてくれたのではないかと感じた。今日でようやく彼女の自信に満ちた表情を玲也は目にした。

何時もならば若干敬遠する所もある彼女の自信だが、今回ばかりは彼女の自信に支えられなければ厳しいのである。

「玲也様! それでしたら私も自信を出して挑むつもりですわ!!その日まで私達は私たちなりに!!」

「あぁ。眠気が何だ、父さんのようなトップゲーマーに賭けた俺の意地を見せつけてやるだけだ!!」

――窮鼠猫を噛む。

窮地のハツカネズミはアメリカンショートヘアーの喉元を噛む事が出来るか、或いは噛み殺される末路が先に待つのであろうか。

この日米対決の局面はシミュレーターのカプセル内、両チームのモニターという戦場で展開される――。

次回のハードウェイザーは……

ミュウ「展開されるクロストとイーテストの戦い。相手は三変化とはいうけれど……」

フレイ「ちょっと! その三変化の応用は考えていなかったわよ! どうするの玲也!!」

エクス「部外者はお黙りなさい! 私達ちゃんと手を打っているのですから!!」

シャルロット「えぇ!? 僕が知らないアンドリューのアレンジに対してこんな方法を考えついちゃったの!?」

玲也「アンドリューさん、それがあなたの切り札ならば、これが俺の切り札ですよ!次回、電装機攻ハードウェイザー「君は見たか! 三変化対二段電装!!」にさぁ、勝利へのフラグを立てろ!!」

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