第2話「飛べ玲也! 吼えろブレスト、ステージは宇宙だ!!」
西暦2013年。太陽系の調査・開発が進む人類を脅かす謎の敵バグロイヤー。彼に立ち向かう謎のスーパーロボットがハードウェイザーと呼ばれている存在だ。
そのハードウェイザーへ3人のニューフェイスが加わろうとしていたが、運命か神のいたずらか。彼女達はとある民間人の元へ飛来してそれだけでなく彼らをプレイヤーとして任命されてしまった。
そのプレイヤーとして任命された人物は一流のゲーマーを夢見る弱冠14歳の少年羽鳥玲也。この物語は彼がゲーム……ではなく、太陽系を揺るがす程の戦乱へと巻き込まれ、持ち前のゲームテクニックで戦い抜く物語である。
例え血反吐を吐こうとも彼は己の技を研ぎ続け、そして腕が折れようと、足が折れようともゴールが見えるその日まで戦い続ける。彼の努力と戦いの記録でもある。
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「ここは……?」
「玲也様ぁ!!」
――確か、俺は巨大ロボットの腕にぶつかろうとしていた……。
朦朧としながら意識を取り戻した玲也の両眼が開かれた時、ブロンド娘があっという間に飛びつきマスクメロンを口に詰め込まれそうになる。
「よかったでございます! フレイさんが非常識な事をされるだけに……」
「ちょっとあんた!どういう意味なのよそれ!!」
「その通りですわよ。貴方がいきなり私と玲也様を掴むように連れ込みましたから玲也様がお気を失われてしまったのですよ」
「それだけで済ませたからいいじゃない!」
「まぁまぁ……」
フレイとエクスの口論をミュウが振り向きながら宥めていた所、玲也はエクスの拘束が緩んで自分の居場所を目にする事が出来た。
「……」
すると玲也は少し言葉を失った。純白の空間に無機的な機器類が次々と設置されている。フレイ、エクス、ミュウは先ほどのあられのない姿よりはましなものの、赤、黄、緑を基調としたレオタードのようなスーツに身を包み、3人の髪も強い原色のヘアーカラー故に頭に残りやすい。
その中で銀髪のロングヘアーのフレイが立ちながら何かの機器を両手で制御しており、少し離れた前方でオレンジのポニーテールのミュウが何かのコントローラーを握り操縦している。ちなみに金髪の細長いドリルを背中に持つエクスは彼にベタベタのままだ。
「そう言われてみれば俺も何時もの格好ではない。何だ、このスーツは」
当の玲也も深紅のベストと淡い青のジーパン姿ではない。全身が黒のスーツ、その上に青と色を基調としたベストと半ズボンのようなスーツと首元には青色のスカーフ、また本人は目にしていないが彼の髪も荒々しいスタイルと切り替わっていた。
呆然と口をあけながら自分の体や頭を右手で触る彼だが、視界の小型モニターに白銀と黒の巨人が何もなく黒だけの空間を飛んでいた事に気づくと、ある程度自分の置かれた状況が理解できたようで、徐々に真剣な顔つきとなって冷静さを取り戻して口を重く開いた。
「――そうか、俺はそのブレストのパイロットに選ばれ、今は宇宙へ向かっている訳だな」
「まぁそういうことね。けどあんたはそこで大人しくしていれば良いのよ」
「何……どういうことだ」
「単刀直入に言えば、あたし達だけで十分ということかしらね」
フレイの視線は少なからず玲也を見下す、または相手にしていないものと見てとれる。無表情のままながらも玲也は多少眉をひそめて静かに、そして冷たく彼女を睨むようにして見る。
「まぁーつまり、あんたは不可抗力で選ばれたプレイヤー。ハードウェイザーの機能をフルに引き出すにはプレイヤー。けどそれさえ満たしていれば操縦者が誰でもオッケーなのよ」
「そんな訳で……はい、ごめんなさい。私がプレイヤーとしで動かしている訳です」
「あぁそうかい。しかし俺のゲーマーとしての時間を奪う上に、あれほど必死に俺を呼んだ割にはぞんざいな扱いだ」
フレイからだけでもなく、ミュウからも玲也を戦力外通知のような扱い方をする。本人は何とも思わないようで腕を後頭部で組みながらコクピットブリッジの床に寝ころびながら敢えて聞こえるような大声で陰口を叩く。
「あの……玲也さんは結構怒っているのではないでしょうか。もしかしたらではなく絶対怒っていると思います」
「あんな奴気にしなくていいわよ、あたし達も元々出会うつもりはなかったんだし」
「ふふふ……」
ミュウの気持ちはどちらの味方をすれば良いかで揺れてはいたが、いずれにせよ玲也より長い付き合いで気が強いフレイには堂々と面向かって反論できる訳がなく困惑した表情を浮かべたまま強く主張が出来ない。
それから、その一方で、まさに自分のペースで動きっぱなしのエクスが腹黒いような笑みと共に玲也の手をそっと掴んでは静かに笑う。
「ふふ玲也様。これは絶好のチャンスでしてよ?」
「何が絶好のチャンスだ。気休めは勘弁してほしいものだな」
玲也はこの時点で2割ほど心に期待を寄せているが、8割は"当てにする訳がない”と考えていたが、
「ふふふ、それはこの戦場で私と玲也様で愛を営んでいく絶好の機会!フレイさん、ミュウさんが興味がないならば誰が玲也様に興味をあるのか。それは私なのです!!」
「はぁ……?」
――明らかに後者の考えで相違なかった事も付け加えなければならない。
「ふふふ。玲也様。ではまずお互いを知る所から初めましょうか」
「はいはい、俺はゲーマーとして以外は魅力などないに等しい男。以上」
「んもう……そんな愛想のないような事を……」
フレイからの空気が読めてはいないアプローチを軽くあしらう時、玲也はミュウの持つコントローラーの形状がどこか見覚えのあるものとすぐさま気付いた。
黒一色のカラーリング。
両手で握る為に左右が突き出たグリップ。
両手で握りしまた時に親指でいじりまわす事が出来るアナログスティック。
左の十字キーと右の4色のボタン。
「――あれは、どう考えてもあれしかない、PA3のコントローラーだ」
「もう玲也様!コントローラーの動きの方が私よりも大切ですの!? またはミュウのことか……」
「コントローラー>お前=あいつ(ミュウ)」
玲也は嫉妬心に燃えるようなフレイに対して、単純明快な不等式を断言して彼女の言葉を失わせる。先ほどの玲也とは逆にエクスが呆然としていた所で、ブレストのコクピットブリッジにてする事がなくなったと思いきや、玲也は一応の楽しみを見つけて視線をミュウの操縦するコントローラーへと傾けていく。
「左アナログスティックで移動。ふむ、最近では十字キーよりもアナログスティックで移動するゲームも一般的なものであり取り立てて珍しいものではない。それで……」
幸い玲也の目の前にはサブモニターが用意されている為、ブレストの移動する様子とコントローラーの操縦手順を一致させる事が出来る。操縦を見て覚える事に関しては絶好の環境に彼はいる模様。
その恵まれた環境が用意されている場合玲也が真剣に打ち込まないはずはない。まるで標的を何時かは、いや近いうちに自分の物にしてやるとギラギラと視線を送り続けた。
「あの~玲也様。もしもーし……ですのに」
「ふむ、ふむ。ふむ……」
フレイの言葉は聞こえないのだろうか。最初は両手でコントローラーを握る自分の姿をイメージしながら必死に指を動かし、それからミュウと同じく立ち上がった姿勢で引き続きコントローラーを動かすような素振りを続ける。やがてミュウの姿を見ずにとも、彼女のコントローラー裁きを再現し続けていた。
「玲也様がコントローラーを握っていますような……?それはそうと」
「駄目だ!」
「ちょっと玲也! 操縦中にステージへ乗り込まないでよ! 危ないじゃないの!!」
何を感じたのだろうか、玲也はミュウの場所へ急ぎ、それだけではなく操縦中のミュウに肩をポンポンとたたいた。
「あの、玲也さん。今は操縦中でして……玲也さんの相手をする余裕はないのですよ」
「はっきりと言おう。ミュウ、お前のコントローラーさばきは素人レベルだと」
「……あぅ」
ミュウの精神は脆いガラスハートだ。うなだれる様子で足からその場で崩れるが、玲也はただ彼女を眺めてはいるが声をかけることはない。
「玲也、あんた本当に何言っているのよ! ミュウはものすごく傷つきやすいのよ!」
「ゲーマーからすれば、目の前で下手なコントローラーさばきを見せられる事が拷問そのものだ……」
「あー、そうですよね……ごめんなさい、私こういうものを操縦する事は初めてでして」
と玲也が自分の言動に全然反省する気がない頃、ブレストを襲う振動がコクピットブリッジに伝わる。その振動とは何か、サブモニターには流れ弾のように飛び交う桃色の光がブレストをかすめた。
「そんな事言っている間に戦闘区域に入ったわよ、ミュウ!!」
「は、はい! えーとえーと……」
「あれよ! あのバクラッカーを倒せばいいのよ! バクラッカーを」
失意から何とか自分を奮起させなければならないものの、狼狽するミュウにフレイがモニターへ向けて指を刺す。
バグラッカーとは漆黒の宇宙に隠れるようなダークパープルのカラーリングに、また闇夜に飛び交う蝙蝠のような外見をしたメカニック、いわばバグロイヤー側の侵攻、防衛においてその他大勢を担う空戦用の量産型兵器だ。
そしてこれらの機体に対して白銀と純白のカラーリングで構成された人型の機体が奮戦している。彼らはウェイザーと呼ばれるいわば地球側、すなわちPARの量産型兵器であり、1機1機の差もあるが多勢のバグラッカーに対してウェイザーは退かず。少なからず防衛網を維持する事は出来ている。
『隊長、後ろに見慣れない機体が……ハードウェイザーでしょうか?』
『いや、PARのデータにあの機体は存在していないはずなのではないか?』
『まさか……もしかすればもあるから、ここは落ち着いて呼び掛けてみようか……おい、そこのスーパーロボット!』
この区域のウェイザー部隊を率いる機体の内、赤と青に頭部の一部がマーキングされた機体が最前線から離脱し、ブレスト側へと顔を向ける――鉛色のガンポッドをブレストへ構えながら。
「スーパーロボット? もしかすれば私達とこのブレストの事でしょうか……」
「そうにきまっているじゃないの! ここで私達の存在をしっかりプッシュしておかないとね!ただでさえ遅れを取っているんだから」
素早い手つきでフレイがブレストの通信環境を設定するや否や、ウェイザーのパイロットからの通信がはっきりと聞こえてくる。相手は少なからず彼らを敵とは断定してはいないものの、まだ味方としても心を開いている訳ではない。
『こちらハードウェイザー・ブレスト!! 只今電次元界から加勢にやってきた最新鋭よ』
『最新鋭のハードウェイザーなのか!? PARはまだその用法を発表していないのだけれども』
『それはいろいろ厄介なことがあったのよ。今からあのバグラッカーを全員片付けてあげるから信じてよ!』
『そう言われても俺にはどう判断すれば良いのか……』
フレイの呼び掛けに対して相手のパイロットは判断に相当迷いを生じさせているようだ。どうやらハードウェイザーは彼らが所属するPAR側からの反応がない限り、見知らぬ訪問者であり警戒を解こうにも解けない事が現状だ。
「あぁもう、返事が出ないとじれったいわね! 早く答えが出てくれないかしら」
「フレイさん、野蛮な真似に走らないでください。貴方ならしでかしかねないですからね」
「何よ! あんた何もしていない癖に! 玲也相手には野蛮な真似をしているじゃないのさ!!」
「あら! 私は野蛮ではなく愛情表現ですわ!」
「あぁもう、2人ともやめてくださいよ。今は口論している暇はないと思いますよ」
相変わらず仲違するフレイとエクス、そして収拾役に回るミュウだが、彼女達とは別にウェイザー2機は互いに首を頷かせ合いながらブレストへ振り向きガンポッドの先端を90度下げた。
『よし、とにかくこちらはハードウェイザーが1機あるかどうかで戦局が大きく変わる所。後でこちらから真実をPARから聞き出そう』
「お! つまり私達ハードウェイザーとして認めてくれるって感じかしら」
『とりあえず今はそうだ! その為あのバグラッカーを一掃して私達の信頼を掴んでくれ』
「へへ、ありがと!話が分かってくれて助かるわ!」
ブレストに対してのウェイザー部隊の信頼は隊長格の物分かりの良さが幸いしてか、大事には発展する事はなくひとまず収拾した。彼らを信じるかのように2機は戦線へと復帰する事となり、彼らの期待と信頼を裏切ってはいけないとエクスの表情には活気と勢いが生じ拳を思わず強く握りしめる。
「さぁ、せっかくの華々しいデビュー戦、勝利を目指して行くわよ、ミュウ!」
「は、はい! 頑張ります」
「かくして、本当に戦いが始まった訳か……大丈夫かはどうかはさておいてと」
「私達の愛の戦いも始まったと言う事で……」
「それはおそらく関係のない事だ」
それぞれの想いを、おそらくコクピットブリッジには一人を除いてこの戦いで何かを得ようとする姿勢は同じだ。フレイを支えて、ブレストを動かさんとするミュウのコントローラーさばき。それは決して上手ではないと感じながらも玲也は彼女の手さばきをもう少し見守る事を選ぶ。
「ミュウ。まず試しにアイブレッサーで目の前の4機を軽く片付けちゃって」
「了解です。えーと、たしか右アナログスティックを標的に設定してからR1ボタンを……」
ぎこちない手つきで右アナログスティックを動かしてカチット押しこんで1機目の標的は定める。
「あれれ……」
しかし、所詮雑魚扱いかもしれないバグラッカーは1機だけではなく、何機もの。それも俊敏に動く敵であり、早くもミュウのコントローラー裁きはターゲット設定の段階で立ち往生をしてしまったようだ。
「どうしたのミュウ、もういい加減に照準を定めてほしいんだけど」
「う、うん……その照準の設定が上手くいかないのです。敵が速くて速くて」
「あぁもう! いいから撃ちなさい。敵は大勢いる訳だから何とかなる!!」
「そんな無責任な……」
「下手な鉄砲数撃てば当たる!!」
「は、はい! でしたらR1ボタンで……」
自信がない様子でありながらR1ボタンを押すや否やブレストの両目が発光して瞬く間に直線状の光線が解き放たれる。
『ぎゃぁぁぁぁぁ!!』
この光線こそアイブレッサーだが、解き放たれた場所は方向が同じなものの、困った事に青のマーキングが施されたウェイザーであった。両足が瞬時に爆発を起こして吹き飛び、ウェイザーが別のウェイザーに手を掴まれるまで宙を吹き飛ばされ続けた。
『大丈夫かソーン!』
『はい、ハワード隊長。ですがこの状態では……』
『わかっている。お前は大人しく帰還しろ。誰か護衛役に一人引き返してくれ』
先ほどブレストと接した部隊長ハワードは幸い直撃を免れたソーン機を退けさせる。それから彼は怒号を表しながらブレストへと振り向く。
『おい、そこのハードウェイザー! 俺は味方を殺せとは言っていないぞ!!』
『あぁもう! ミュウ、あんた何をやっているのよ!!』
「フレイちゃん、私は射撃よりも格闘戦の方が向いているようです」
「しょうがないわね、じゃあそれで狙いなさいよ!」
「分かりました。まず近くにまで移動して……」
ハワードとフレイからの叱責を受けながら恐る恐ると左アナログスティックを動かしながら、今度は照準を定めるも、○ボタン、それから□ボタンと押して全身を開始するが、
『あぁぁぁぁぁ!!』
その瞬間、ブレストの右手が前方へつきだされた状態のまま本体から離れた。ただ腕と本体をつなぐワイヤーがまるでコードのように激しく放出されながら。
だが、拳はまたもバグラッカーではなく、ウェイザーの顔面を直撃して、生首が宙を飛ぶ結果となった――汚名返上ではなく、これは汚名挽回と言うべきであろう。
「こらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ご、ごめんなさい! どうやら私、カウンターパンチャーを放ってしまいましたぁぁぁぁ!!」
「……」
フレイの怒号は言葉だけでおさまらず、思わずミュウの元に飛び出してこめかみを拳でグリグリと押しつけてしまう程だ。ちなみに玲也は何も言う事はせずにただ額に右手を当てて”頭が痛い”と不快感をさりげなくも露骨に表す。
『この野郎! このまま二度ある事は三度ある流れを作るつもりだな!!』
それだけに及ばず、遂にハワード機からガンポッドの弾を受けてしまう結果となった。ブレストの装甲からはダメージは微妙なもので軽々と弾き飛ばすが、いずれにせよブレストのおかれた状況は悪化の道を辿ってはいる。
「全くもう! みっともないの他ありませんわよフレイさん、ミュウさん」
「じゃあそういうあんたは出来るの!?」
「私はそういう役は向いていないのですわ! わかっていらっしゃるの!?」
「それは偉そうに言う事じゃないわよ!!」
「まぁまぁフレイちゃん、エクスちゃん。何度も言いますが落ち着いて落ち着いて」
こちらは二度ある事は三度あるようなフレイとエクスの衝突。ミュウがなだめ役に回る事も二度ある事は三度あるような光景となりそうだ。
「ただ私達はこのような操縦を殆ど経験した事はありません。ですから操縦に慣れないことは当たり前なのではないかと」
「う……」
「言われてみますと地球のゲームが元になっていると私は聞きましたわ……」
「悔しいけど私達だけでは操縦出来ないということなの?」
ただ、冷静に自分達がパイロットとしては向いていないのではないかとのミュウの意見はエクスも、そしてフレイも首を縦に振らなければならないような事かもしれない。
「ならば俺が操縦しよう」
すると女三人と同じ場に居合わせる少年がすっと手を挙げる――羽鳥玲也、地球のゲームとの関連性が深いと聞けば黙ってはいられないゲーマー少年故に躊躇う理由などないものだった。
「地球のゲームが元になっているならば、俺はそれなりに出来るかも知れないな」
「玲也、あんた前から思ってはいるけれど強気じゃないの」
「あぁ、前も言ったがゲーマーは強気でなければやれないものよ」
軽くふっと息をふきながら、フレイからさっそこコントローラーを奪っては左アナログスティックを前に押し倒してバグラッカーの群れへと無茶を承知で突撃をかける。
『おい、やめろ! これ以上お前が突っ込んだら、こちらがどう被害を受けるか。次にへまをしたら本当に撃つぞ!!』
ハワードの静止を求める声を振り切ってブレストは急いだ。
例え、全身へ黄色の光が雨のように降り注ぐが、びくともする事はなく玲也の親指が○ボタンを押すと同時に一瞬でかつて玲也を掴んだ巨大な右手が塊としてバグラッカーにぶつかる。巨大な塊の質量にバグラッカーの全体に微々たる亀裂が瞬く間に全身へ走っては自壊するように砕けて散った。
「まずはこれで良い感じだ……やはり○ボタンは右パンチだ」
「……玲也さん。まだ操縦方法を知らないですよね? マニュアルデータも用意していないです」
「ミュウさん、それはもうゲーマーとしての魅力は十分な玲也様の事ですもの、ハードウェイザーの操縦なんて赤子の手をひねるものではなくて?」
「あんた、調子が良いわね……」
瞬く間に一発をぶちこんだ時、玲也のコントローラーさばきに対して3人の態度は変化を見せた。少し恐れ気味ながら目を丸くしたミュウ、心が踊りたくなるような気持ちを抑えきれず、ただ冷静そうにしゃべってはいても目を輝かせるフレイ、3人の中ではフレイが感情を最も抑えているかのようだ。
「しかしこのブレスト、凄い破壊力だ。あとこいつの装甲がバグラッカーの攻撃を全然受けてもびくともしない点は頼もしいとしか言いようがない」
「玲也……あんた全然怖くはないの?」
「当たり前だ。一応本当にこのスーパーロボットへ乗り込んで戦ってはいる事に気づいているが、まるでゲームをプレイしているような事だ」
そう言いながらまず玲也は移動してターゲットを定めながら○、△、□、×ボタンを次々とテンポよく押す。彼の出すコントローラーからの命令をブレストは素直に受け入れて己の四股を標的に向けて勢いよく振るい1機1機を落とし、砕き、いずれにせよ沈黙させていく。たまにアイブレッサーを蹴る殴るの動作に交えて遠方の敵を落とす事から、ブレストの攻撃パターンへ既に一定のバリエーション、すなわち“玲也なりの戦い方“を形成し始めていた。
「玲也さん、全然怖くないということは……」
「――悔しいけれど、ゲーマーとしての素質は本物でそのままプレイヤーとしての通用する事なのね」
「その通りですわ! ふふふ貴方達見る目が私より劣っていたということですわね」
「ぐぬぬ……」
ブレストを操る玲也には恐れや迷いは生じていない。ただどうやって動かすかを必死に、そして何処となく楽しげに覚えているようである。何故そこまで前向きに動かす事が出来るのか。フレイとミュウは“とある事”を察しているが、熱狂的な玲也ファンと既に化しているエクスは多分把握してはいない。
「これで単純な移動・攻撃方法は何とか覚えた……む」
コントローラーをさばきながら、玲也は視線の小型モニターが、コントローラーの映像を映しながらそれぞれのボタンに何やら別の動作を示してくれる。
ただその映像は瞬時に別の画面に切り替わり、その途端ブレストが巨大な拳や足を標的に向けてぶつけるように放つ。
「どうやら良いタイミングでボタンを押せば別の技へと切り替わると考えようか。よし、ここは△だ」
○から△への流れは、ブレストが右手で相手を掴むコマンドだ。次に映像で表示された4つのボタンは腕の軌道を設定する役割を担う。○を押す途端彼の右腕は緩やかに右へカーブを描きながら標的の相手を力強く握りしめた。バグラッカーがブーストをかけながら脱出を図ろうとするが、玲也が△を押し続ける事でバグラッカーへの拘束を強く維持し続けた。
「悪く思うな。この戦場は俺が操縦を覚える為の練習台。力試しにはちょうど良い訳だからな」
別のターゲットを定めると、□を押す事で別のバグラッカーに掴んだバグラッカーを投げつける。この流れで2機はあっさりと砕け散る展開しか残されていなかった。
『ハワード隊長。急にブレストの動きが変わったような気がします』
『うむ。どういう訳か急に一人で全てのバグラッカーを片づけているような流れになってしまった。先ほどのお粗末なコントローラーさばきは何かと思えた程だ』
あれから玲也は4つのボタンからの組み合わせで生みだされる技を自分のコントロールさばきで再現させる事にやっきとなっていた。どれほどのバグラッカーを片づけたかについて本人は覚えていない。ただ、目の前に襲い来る敵を片づける事は多ければ多いほど自分の為になる。それだから片付けているに過ぎないと。
「○□同時押しでダブルパンチ、□□△で左水平チョップから竹割り、×△×で右かかと落とし、△△□で左ハイキック……なるほど」
「玲也様! もうそこまで、何という物覚えの良さでしょうか」
「手さぐりで覚える事は得意ものでね。この操縦方法で大体70以上の攻撃パターンがある。たかが殴る蹴る、されど殴る蹴る。そしてだ……!」
そう言いながら玲也の押したコマンドは○□。いわばカウンターパンチャーのコマンドであり、疾走するような勢いで鉄拳が飛んで標的をぶちのめす。
しかし、玲也はそれだけで満足する事はなく、今度は○を押しながら右アナログスティックをグリグリと回す。このコマンドは単にターゲットを定めるだけかと思いきや、アナログスティックを押しこむと同時にワイヤーがまるで鞭のように軽やかに動き、先端の拳が鉄球のようにバグラッカーを上から叩きつけた。
「……名付けてカウンターパンチャー・ハンマークラッシュ!」
「ちょっとちょっと玲也! 勝手に新しい技を考えないでよ!!」
素晴らしい響きの技かどうかは分からないが、この新技の名付け親でもある玲也はどことなく自信がありげである――フレイの反応は宜しくないが
「まぁまぁ、フレイちゃん。一応玲也さんはこの一帯のバグラッカーを次々と片付けていますから、結果としてはブレストの能力をフルに発揮している事になるかな……と」
「そうそう! 玲也様がこんなに操縦が御上手だなんて、フレイさんのブレストでも感動しますわ! あぁ早くクロストでも操ってほしいですわ!」
「そうか、俺はこれ以外にも3機のロボットを従えている訳になるのか。ブレスト1機でさえ操作性に楽しみがあるというものだからそれはそれで楽しみだな」
「あんた感心していないで! 早く遠隔振動発生装置を破壊する事があたし達の使命よ!!」
「それもそうだ!!」
ブレストを操縦しながら玲也はまるで凄いゲームを手にしたかのように上機嫌だった。フレイに本来の目的を思い出された時も彼はそれを新たなステージとしてブレストを突入させる――目標は土星へ向けてだ。
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「将軍! ハードウェイザー・ブレストが電装された地域を特定する事が出来ました! 武蔵野市の陶沖町2丁目です!!」
「うむ、コリン君。もう少し絞り込んでくれないかな」
「承知しました!」
そしてとあるブリッジにてオペレーター2人が必死にブレストの電装された地点から、何処にフレイ達が参上したかを突き止めようとする。
最前線の席に座るブラウンでふわふわなロングヘアー、丸眼鏡と柔らかい丸のような瞳が彼女の人柄を物語る。名前はコリン・エ―シア。年は22歳のスウェーデン人だ。
「えーと2丁目から番地を設定して、えーと何処から何処まで」
「コリン、そんなみみっちいことを設定すんなよ。ちゃっちゃと全て設定すれば良いだけじゃねぇか」
そして隣に座る人物が同じオペレーターのテディ・クモード。23歳のノルウェーレディ。後ろに向けて鋭く髪が延びた黒のセミロングとコリンとは対照的な横に切れ長の瞳を持つ彼女の言葉づかいは少々ガサツ、そして行動もやや大雑把な所がある
「そうですか。ですがこういう情報の詮索はしっかり慎重に……」
「今はスピード重視だぜ? 陶沖町2丁目は狭い所だから一度にパーっと調べちまおうぜ」
――2人は同期のオペレーターコンビだが、性格は例えるとウサギとカメと呼ぶべきだろうか。
「あぁどうしようか、どうしようか」
「博士、今回の件は私の不手際で申し訳ありません。ですが少々落ち込み過ぎではないでしょうか?」
「いーや、でも全く関係ない奴がプレイヤーに選ばれてしまったら大変だぜ?」
「その時はその時だと思う」
一方で中段の席に頭を押さえて髪を掻きむしりながら悩む老科学者と彼をなだめる3人の男性スタッフが見える。彼ら3人がディーゴ、デューク、デッカー。バチカンから招かれたスリー家の三つ子で彼らを区別する方法は縦長か釣り目か横長かの瞳だけしかない。
「エスニック君! 私は一体どうすればいいんじゃ~! ハードウェイザーの電装を今まで担当していたけど、今回のようなアクシデントは初めてじゃ~」
「ブレーン博士、まずは落ち着いてください」
そして玲也と同程度の身長の博士がブレーン・エンタレス。今年62歳のオーストラリア人であり、PARの頭脳と呼ばれる存在でもある。ただ精神面で脆い所がある所が最大の欠点で、今回の不慮の事態に対して最も動揺を隠せない人物でもある。
「おそらくハードウェイザーの電装タイミングと、全国規模の連続地震のタイミングが重なってしまい今回の事態が発生してしまった訳か。よりによって最新鋭の3機が損失してしまう点が痛い……」
「将軍……ナム、今回の事態をどう見るっす?」
「そうね、今回の事態から次にハードウェイザーが搭乗するまでは今までの計算からすれば大体半年ほどは……かしらバン」
そして宙に浮かぶ青と桃色のマスコットロボットがバンとナム。最後に最高責任者でもある将軍エスニック・スクウェアーでPARのメインメンバーの顔ぶれでもある。彼らによりハードウェイザーが管理され、太陽系の平穏は維持されているのである。
「あぁ、おそらく関係のない誰かが乗り込んでしまっているのではないかと心配で心配で……戦いに関係のない誰かを巻き込みたくない者じゃよ、エスニック君」
「ブレーン博士……何とかそこは慎重に取り扱うつもりです。それはそうと……」
「将軍! ハードウェイザーの電装消滅地点を発見しました!!」
その時、エーシアの手によりブレストの電装が消滅した地点を把握する事が出来た。ブレーンの目の前の小型モニターに特定された2-130-3の地点の家宅の情報を目にすると眉が若干震えた。ブレーン博士も同じ反応だが、他の面々はまだ平静を保ってはいた。
「家族構成はまず羽鳥彩奈。シナリオライターとして活動されているようでして、消失した時刻には打ち合わせの為家には不在です」
「よってその場には一人息子の中学2年生羽鳥玲也が帰宅していました。ただ彼へ現在連絡をとってはいても応答がありません。それ以外の人物が彼の家に侵入した後もありませんでした」
「……」
「ブレーン博士、あなたもですか。まさかと思うが彼の父親について調べてもらえないか」
「……は、はい」
エスニックの声のトーンは明らかに沈んだ様子であり、この声を聞いたコーリンは羽鳥家には何かいわくがあるのではないかと感じながら恐る恐る最初表示されるおとがなかった玲也の父の情報を探る事にした。そして、しばらくの時間をおいた後に”羽鳥秀斗
との名前が映る瞬間にブレーンとエスニックの不安は確信となった。
「な、なんてことだ……名前からもしかすればと思いきや玲也君はあの秀斗君の一人息子じゃったのか!」
「秀斗君……まさか君の生み出した切り札を君の息子が動かす事になるとは。これは何という運命か……!!」
メインスクリーンには、土星付近の宙域でバグラッカーを軽々と片づけながら進撃を止めないブレストの姿がそこにはあった。
動かす人物はハードウェイザーを操る経験がないにも関わらず、進撃を続けていく姿を見る限り、それは玲也が秀斗の血筋を引く男だろうかとブレーン博士は思わずにいられなかった。
「出来るかぎりブレストの援護に回れ! まだ他のハードウェイザーは動けないのか!?」
「現在ボックスト、タブルスト、ディエスト、エックストは水星、月、金星、木星にてエレクロイドと交戦中、あるいは遠隔振動発生装置を捜索中です!!」
「むむむ……」
歯ぎしりをしながら、エスニックは現在ほぼ全てのハードウェイザーが動けない状況であると知り、玲也とブレストを救えないのかと不安が顔に現れ始めてきた。現在破壊すべき遠隔振動発生装置は6基存在しており、ブレストを含むハードウェイザーが総動員することでやっとバグロイヤーの作戦においつく事が出来るのであった。
「そうだ、アンドリュー君はどうしているのかね?」
「アンドリュー君は天王星へ遠隔振動発生装置を破壊する為向かっているようです」
「むぅ、なるほど……大勢の為に遠隔振動発生装置は全て破壊する事を考えたい。だが……」
結局のところ現在フリーハンドのハードウェイザーは一人も存在してはいない。この事態に対してアンドリューが決断できる事は、ただ遠隔振動発生装置の破壊に成功したハードウェイザーは順次土星へ向かうようにと命じる事だった。
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「玲也、その方法で遠隔振動発生装置の元まで辿りつけるの?」
「決して絶対ではないが相手の出元を叩く事は有効な戦法だ」
そしてブレストは土星へと向かうまっただ中だった。
彼が土星を照準に定めた理由はバグラッカーが自分達の元へ向かうルートを突き止めれば土星の方面と一致したからである。
そして、もう一つの理由は相手を迎撃する為のフィールドを確保する事が必要であると彼が判断したからにすぎない。バグラッカーのような戦闘機を迎撃する為には、おそらく宙域では上下前後左右から攻めてくるである事から自分より下の場所から少しでも攻撃されない場所を確保する必要があると考えた事mお一つの理由だった。
「さっすが玲也様!相手を倒す為に有利な場所を用意する事は合理的で賢い戦法ですわ!!」
「それだけではない……アイブレッサー!!」
すかさずアイブレッサーが土星の表面をめがけて放たれる。表面に至るまで微小な氷や塵が照射されるや否や瞬時の融解、消滅を起こし、土星の環1か所に風穴が開く事で土星から出撃するバグラッカーの姿が移され出した。
「まず相手を挑発していぶり出させた。適度にいぶりださせて土星で俺のフィールドを確保すればそれで良い」
「まだ敵が全員動き出していないです? 大丈夫でしょうか玲也さん」
「何、半々ぐらいに戦力を割く方がちょうど良い。どちらにせよ……」
土星から飛ぶバグラッカーとすれ違うようにブレストが急いだ。両手にワイヤーを展開させたカウンターパンチャーをまるで鉄球のように振り回しながら自分に群がる空中の相手を叩く。
「空と陸に戦力を分断させれば、それだけ数が物を言う雑魚を片づけやすくなるということだ。ただそれだけのことよ」
そして両目からのアイブレッサーは、前方の地表で待機する残存勢力をことごとく一掃して、遂にその巨体は両足を地表へと着かせた。
「これで俺に有利な場所は確保された。あとは少しずつ相手を片づけていく。あれだけ荒らしまわると相手はこの場所を取り返そうと必死になる事もあるからな」
ブレストがその巨体を走らせながら地上のバグラッカーをまるで道端の小石のように踏みつぶし、あるいは蹴り飛ばす。飛びたとうとする相手へも両手で握りつぶしては地面へ、あるいは空中へと別の相手を向けて投げつける。拳で殴り飛ばす事はバグラッカーに対して力が有り余っていると玲也は考えたのか。気付けば指先一つでペチンと弾き飛ばして撃墜させてみせた。まさに一方的、無双そのものの二文字が良く似あう
「しかし、何か一方的に相手を片づけているような感じがします。よろしいでしょうか」
「そうは言うが、やられる方が悪い」
「その通りですわ! 一方的なパワーゲームも悪くないものでしてよね!?」
「いや、それはそういう訳でもない」
「あらら……」
この一方的な流れの勝負に玲也は相手を憐れむ事はいないが、同時に楽しんではいない。彼にとっては倒しがいのある相手と交える事に戦う楽しみをゲーマーとして感じる性分なのである。
戦う相手がワンパターンになってしまうと、倒し方や場所を変えてある程度のマンネリを打破できるものではあるが、それは所詮“ある程度”に過ぎない。
「歯ごたえがないと退屈なもの……うわっ!?」
そうは思っていた途端、地中から飛び出した伏兵がブレストを顎から突き飛ばす。まるで全身でアッパーを仕掛けてくるかのような勢いの敵を前に、ブレストは遂に背中から地面に塗れさせられる結果となった。
「ちょっと玲也、油断しないでよ!!」
「玲也さん、大丈夫ですかってエクスちゃん!?」
「玲也さんの心配をするのは私が最優先でしてよ!」
ブレストのコクピットブリッジにてシートベルトのようなものは存在しておらず、おまけに玲也は立ったままコントローラーを操縦しており、重力の存在する場所で倒れてしまえばその衝撃がダイレクトに彼へと伝わってしまう。
背中から倒れた玲也はエクスとミュウの声を聞いて頭を横に何度か振りながら目を覚まし、手にしたコントローラーでL1、R1、スタート、セレクトを同時に押す。このコマンドで倒れたブレストは自動で立ち上がり体勢を立て直す事が可能である。
「しまった。地中からの敵が存在する事は考えていなかった」
「まぁね、まさか地中からエレクロイドがいるなんて思ってもいなかったわ……」
「玲也さん、エレクロイドとはですね――」
エレクロイドとはバグロイヤー側の戦略兵器として、バグラッカーより格上の存在にあたる。1対1の状態ではウェイザー1機ではとても太刀打ちが出来ない戦闘能力を持つ例が殆どであり、彼らに太刀打ちする為にPAR側はハードウェイザーを用意する必要を迫られていたのである。
「なるほど、 いわゆる少しは歯ごたえのある敵が現れた訳か」
『ヌッ、地球側に新たなハードウェイザーがもう存在していたとは……たまげたなぁ』
「誰だ!!」
すると目の前のエレクロイドからの声が聞こえた。そのエレクロイドは暗めの赤紫のカラーにまるで闘牛のような重々しい全身と禍々しく伸びた2本の角、そしてドーベルマンのように細くも鋭く伸びた四股の角と標的をかみ砕かんとする意志を感じさせる牙を持つ――まるで野獣のような対戦相手だ。
『その声は……野獣将軍ジャドゥブですね』
『おっ、そうだよ。うちの名前もまぁ多少は知られているみたいだな』
「野獣将軍ジャドゥブ? 誰だミュウ。そいつは」
「……私達の電次元界を襲ったバグロイヤーの将軍です」
ジャドゥブの名前を口にするミュウは丁寧で穏和な雰囲気の普段とは違い、まるで因縁の相手に対して長年の恨みを言葉に乗せているかのようだ。
「さぁ、玲也! そんな所でボーっとしている暇はないよ」
「そ、そうですわ玲也様!ここは思い切り戦う時ではないですか!」
『えぇい! 小癪なハードウェイザーめ! 猛獣型エレクロイド、ブルドベルY10、そのパワーで圧倒してしまえ!!』
電次元界から現れた3人にとっては、野獣将軍ジャドゥブが擁する猛獣型エレクロイドブルドベルY10は共通の因縁を持つ相手。ファイティングポーズで構えるブレストへブルドベルY10がここぞとばかりに持ち前のパワーを活かさんと大地を蹴りながら角を突きだすようにして突撃を開始する。
(なるほど、まず勢いよく突撃する訳か。まさしく野獣と呼ばずして何と例えるべきか)
「玲也、感心していないで早く何とか動きなさいよ」
「分かってはいる。ならばまず相手の射程外から攻撃を仕掛ければ良い……アイブレッサー!!」
まず、ブレストは牽制武器とも言えるアイブレッサーをブルドベルY10の持つ黄金の角へめがけて放った。しかし、角に対してアイブレッサーは今まで圧倒的な威力を見せ続けていた時とは異なり、その光はことごとく角に受け流されるようで致命傷を与えたとはとても思えない。
「玲也様、相手に指一本触れさせることなく、優雅に一方的な攻撃をし続ければ倒す事が出来るとの事ですね」
「その通りだ。あのブルドベルとやらの馬鹿力に真っ向からぶつかる事は避けたい。相手の土俵で戦いを挑む事はタブーだ……」
最初のブルドベルY10の突撃を前に玲也は正攻法で立ち向かう事は、ブレストでは分が悪いと感じた。よって馬鹿力が通用しないロングレンジでの攻撃を良いと玲也は判断してこの戦法を執っている。
だが、それからブルドベルY10の角は一番硬度が高い部位と玲也は把握して、照準を頭部、後に全身へ狙いを変えるがダメージは微々たるものであった。
『ホラホラホラホラ、無駄だぜ無駄。このブルドベルY10は装甲とパワーがまぁ多少はウリだぜ?』
「玲也さん!アイブレッサーが効かないですよ!!」
「ミュウさん、玲也様はこの状況下においても次の作戦をお考えになりますのよ?そうでして」
「……そうであれば苦労しないが、さて、どうするべきか」
ミュウから過剰な期待を寄せられてはいるも、玲也はまだ次の手を考える事が出来てはいなかった。徒手空拳でどうにかなる相手ではなく、カウンターパンチャーの拳、あるいはワイヤーで受け止めようとして受け止めきれる相手ではない。ましてアイブレッサーも効かない。現状において玲也は何歩か後退せざるを得ないとその時点で痛感はしていた。
(このままでは取っ組み合いは避けられない。ならば相手の得意分野を逆手に取る戦法を考えなければならない……ん、この武器は何だ!?)
新たな戦法を練る時、サブモニターにブレストの全身図と両膝から展開される二本の剣の存在を知らされた。もしかすればとフレイの顔を見れば彼女はサムアップをしながら彼への期待の気持ちを彼女なりに表していた。
「カウンターブレードよ! 玲也、あいつはあたし達で倒さなければ気が済まないからしっかりやりなさい!!」
「これがカウンターブレード……言われなくとも分かってはいる。俺はこいつで一糸報いるだけよ!」
「その意気よ……ってええ!?」
両手にする二本の剣の存在を知ったにも関わらず、玲也は真正面からブレストをブルドベルY10にぶつけるという彼らしからぬ猪突猛進なバトルスタイルを取った。フレイがこの方法にずっこけるが玲也は正気である。
『無駄無駄無駄無駄! この馬鹿力と馬鹿力がぶつかり合えば、まぁ勝利は分かるね?』
「そうと考えたならば大間違い……でやぁぁぁぁ!」
その途端ブレストがブルドベルY10の角を掴んで、素早くスライディングを決めるようにして懐へと潜り込んだ。
「ブレストのスピードで相手の懐に潜り込んで……角から懐へ掴む!」
「その勢いを突いてブレストがケルドベルの腹を蹴り上げましたわ!」
「それから……ええっ!?」
滑り込むようにして懐へ入り胸倉をつかんだブレストは、右足を相手の腹をめがけて蹴り上げようとした。まるで巴投げで相手を投げ飛ばさんとするような攻撃方法だ。
しかしここからが玲也の考案したオリジナルの戦法だ。蹴り上げる直前にブレストの曲がった右膝関節からはカウンターブレードが射出され、その射出速度はケルドベルY10の巨体を軽く吹き飛ばすだけのパワーを誇った。そして空中へと舞い上がろうとするケルドベルY10へカウンターブレードを突き刺さんと柄を右足で強く蹴るようにして巴投げを決めたのである。
「――名付けてカウンターブレード巴飛ばし!!」
「ちょ……ちょっとちょっと! なんで剣をそんな風に使うのよ! 剣は普通さぁ!!」
「与えられた物をどう使うかは本人の考え次第。戦いは常に創意工夫ということよ!」
フレイの突っ込みを無視するように、ブレストは飛ばされたケルドベルY10を追撃するように大きく飛びあがり、仰向けにして地面へと落下せんとする相手の腹を、それも突き刺さったカウンターブレードの柄に標的を定めてだ。
「腕よりこいつで串刺しにしてやる! ブレストキーック!!」
全重量220tを右足に込めての必殺キックが深くカウンターブレードをケルドベルY10の腹へとめり込ませる結果となった。ケルドベルY10は腹部の激痛に対して絶叫を上げるが、彼を力ずくで黙らせんとついでにブレストが顔面へ二発のパンチをかましてみせた。
「あ、あんた!! 結構えげつない方法で戦うわよね」
「倒れた相手へ追いうちを行う事はゲーマーとして当たり前のような事。追いうちをされる方が悪い。さて……」
ケルドベルY10が力なく頭を倒した時、ブレストがカウンターパンチャーのワイヤーをまるで鞭のように延ばして軽く左手に鞭を最大限まで引き延ばしてみせる。その手つきはまるで家畜の牛を屠るかのようだ。
「このままカウンターパンチャー・ビュートで首からバラしてや……!!」
勝負あった――とは物事は簡単に終わらなかった。力尽きるように仰向けのケルベドルY10に対して玲也は彼の尻尾の動きまでに注意が及ばなかったようである。
「玲也さん!ブルドベルの尻尾から放電されブレストが……!!」
その尻尾はコードのように素早くブレストへ巻きついては電撃が彼の元へ走る。慌ててカウンターパンチャーを元に戻し巻きついた尻尾を素手でちぎり取ろうとするが、
『ヌッ!!』
「きゃああああああ!」
「玲也様ぁ~!!」
「エクスちゃん、今はそういう場合じゃないですよ!!」
ケルベドルY10は起死回生の勢いで起き上がり、今度は逆にブレストの両手両足を己の四股からの爪でロックを仕掛けた。倒される事態でエクスだけがただ玲也へ抱きつくチャンスとばかり喜んでいるが、戦況は喜ぶべき所ではない。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「玲也さん、フレイちゃん、このままじゃ装甲が破壊されそうではないでしょうか!?」
相手を完全にホールドした状態で、ケルベドルY10は尻尾からチェーンソーのような刃を展開させながらブレストの首元まで狙おうとする。その上頭部の角を伸ばしてドリルのように回転させながら装甲を破壊せんと迫り、おまけにかみついてまで装甲板を引っぺがそうとする程だ。
『ふふふ、暴れんな暴れんな。今のうちに悔いあらためておけよ~』
「……この体勢から動こうとすれば、首が切れる方はこちらなのか。悔しいがしてやられたな」
「玲也さん、そこは感心しないでくださいよ!!」
「分かってはいる。俺はそのような性分だ。さて、どう考えて逆転につなげていこうか」
この場でも玲也は冷静に逆転する秘策を頭一つで考えようとするが、彼の額には脂汗が既に流れ始めている状態だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて疲れた。一機でもハードウェイザーを破壊すれば、うちが五大将軍の筆頭格に出世する事は確か。はっきり分かるんだよね」
その頃、天王星付近ではまるで獅子の顔を模したような黄金の戦艦が浮遊していた。この戦艦のメインブリッジにて各惑星に配備した猛獣型エレクロイドを従える人物が野獣将軍ジャドゥブ。色黒で隆々とした筋肉にやはり獅子の顔を再現したかのようなマスクとパンツ、タイツ、シューズの下半身はまるで覆面レスラーを彷彿させるような姿であった。
「この遠隔振動発生装置を六ケ所も用意して、猛獣型エレクロイドにまで護衛させて念入りにPARの連中を欺く事には成功した。まぁ多少誤差はあったけどはっきり勝ったと思うんだよね」
とジャドゥブはメインブリッジに用意されたリモコンを両手にする。そのリモコンには地球の映像がはっきりと映し出され、タッチパネルで場所を指定して、さらにダイヤルとボタンで何かを設定するかのようであった。
「本当の遠隔振動発生装置はここにある事は知らないようで。仮に全てのエレクロイドが倒されたとしても、うちによる地震が止む事がないというのははっきり分かるんだよね」
『ほぅ、やはり太陽系に用意されたあいつは全てダミーだったってわけか!』
「ヌッ!? 何者だ!!」
『こういう者だ!!』
ジャドゥブの作戦の種は何者かに伝わってしまった。その何者かは刃の付いた拳を振るい、メインブリッジの壁へ円状の風穴を豪快に砕くようにして、美麗な円状の穴を残す。
その何者は藍と赤と白と、まるでアメリカ合衆国をイメージさせるようなカラーリングの機体である。もしやとジャドゥブは姿を目にして感じたが――
『この全米№1ゲーマーことアンドリュー・ヴァンスは俺のこと。そしてその俺が駆るハードウェイザーがイーテストなのさ!!』
『正確に言えばイーテスト・ファイター。あんた達を真っ二つにする為の形態ってところね!』
このハードウェイザー・イーテストを駆る男の名がアンドリュー・ヴァンス。荒々しく左右に逆立つヘアースタイルが彼のアメリカンらしい豪快な人柄を物語、目つきは荒々しい眼光を放ちながらも大人の余裕が如何にもと言わんばかりの程溢れる。
そんな彼のパートナーが緒のようなピンクのポニーテールをたなびかせる男勝りスティ・レイズゥでもあり、このコンビはPARが擁するハードウェイザー軍団の中でも戦果が華々しいエースポジションでもある。
「ぬぬぬ! やめてくれよ……それ以前にどういう流れでそうなったんだ!!」
『そりゃあ、お前が簡単なジャミングに引っ掛かるから悪いんだろうが』
『イーテスト・ジャスティでずっとジャミングかけてたからな。それにしてもあんた戦艦の守りを固めないなんて戦術のイロハも出来ちゃいねぇよなぁ』
「それは言い過ぎぃ! ……こちら野獣将軍ジャドゥブ、ゼンガー助けてくれぇ!!」
『問答無用! さぁーて地震の元を真っ二つにしてやるかぁ。このエクスカリバー・トマホークでな!!』
『本当は真っ二つより踏みつぶしたいんだけどね』
背中から取り出された必殺剣“エクスカリバー・トマホーク”はまるで半円状のトマホークの先に聖剣とも言える美しくシャープな刃が展開されている。
『さぁーて決めますか。電次元ストラァァァァァイク!!』
「やめろやめろやめろやめろ……」
『気分は台風の目になって体当たりするって感じだねぇ!!』
一旦後方へ飛びあがった後にイーテストは荒々しく回転を起こす。スティが言うように彼はまさしく竜巻や台風を自分が起さんとする勢いだ。
その状態で彼が両手を頭上に延ばしてエクスカリバー・トマホークをさらに突き出した時にイーテストの進撃が開始され、その状態で豪快に突撃をぶちかます技が“電次元ストライク“なのである。
「ぬぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
――その技は一瞬にして一撃。
豪快に彼の回転がミキサーの刃のように戦艦を内部から次々とぶち壊して砕き、外部よりも内部の方がより脆く、艦体はなすがままにねじ切られるまま。
アメリカ育ちの台風が消滅した時には豪快な大爆発をバックとして伊達に構えるイーテストがその場に存在するだけであった。
『――野獣将軍ジャドゥブ討ち取ったり! なーんてカッコ良く決めてみたいところだが、相手が思ったよりも骨がなさすぎたぜ』
『これでまぁ連続地震は収まった事になるわね。それより土星に向かわないとな!』
『あぁ……ニューフェイスがどんな奴かちょっと顔は見ておかねぇとな』
PAR側とバグロイヤー側の遠隔振動発生装置を巡っての戦闘は実質指揮官でもあったジャドゥブが戦死した事でPAR側の実質勝利となった。
あとは烏合の衆と化したバグロイヤー側のエレクロイドを片づけるいわば“雑魚のつゆ払い“のような戦いしか残されていないが、その戦いに今玲也達は必死に挑んでいる。ただアンドリューはやや面白半分でこの様子を見に行くつもりなのだが……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(さて、この状況でどうすれば良い。アイブレッサーは効かない。カウンターブレードとカウンターパンチャーを撃つ事は出来ない……)
そしてブレストとケルドベルY10の戦闘はややブレストに分が悪い状況が続く。アイブレッサーは現時点では役に立たない。そしてカウンターブレードとカウンターパンチャーは両足の発射口と両手がケルベドルY10の四股に抑え込まれているが為に撃つ事が出来ないのである。
(おまけに両腕と両足が動けない状態。ここでもし両手と両足を切り離す事が出来るのならば、どうにかなるかもしれない――)
「どうするのよ玲也!このままじゃあたし達黒星で終わってそこまでじゃないの」
「れ、玲也様と一緒に死ねるまでは、さすがの私も……」
「エクスちゃん、それは今では見当違いの考えしか思えないのですが……」
劣勢ムードが漂い実質パートナーのフレイが一番不安な様子を示している。エクスはいい加減マクロ的な状況を考えるべきとミュウは感じずにはいられないだろう。ただそのミュウの突っ込みもマクロ的とはお世辞にも言えないのだが・……。
「おいフレイ、両手と両足を切り離す事は出来ないのか?」
「そんな事出来るわけが……!?」
状況を打破する事が出来る可能性を掴んだかもしれない――玲也の今から行おうとする作戦の流れをフレイは理解出来たのかもしれない。一つだけ残されている術を見つけた時、彼女は一瞬だけ“いける“と確信した笑顔を作った。
「出来るわ。両腕のカウンターパンチャーを入力した後に×! それからR2よ!!」
「わかった……そのコマンドは試していない事もあり尚更だ……!!」
○×同時押しの後に□、×、R2のコマンドを入力した直後にフレイが叫んだ。その時、抑えつけられたブレストの両手が本体からパージされた。上半身の動きは枷が外され、ブルドベルY10の首筋に向けて今度は自分が逆に角を突き刺して電撃を放って報復を仕掛ける。
「これもまた技の一つ。パライザーホーンよ!」
この激痛にブルドベルY10が耐え切れずに再び叫びをあげて角と牙をブレストの装甲から離してもだえ苦しむ。その結果ブルドベルY10の首回りは赤熱化しながら鈍い音を立てて遂にブレストの胸へと落ちる。彼にブレストが風穴を開けられる脅威はひとまず去ったと考えて良いだろう。
「やりましたわ玲也様! これでブルドベルY10を倒したも当然ですわ!!」
「いや、それならば良いのだが……」
「後は変形といきたいけど……厳しいわ」
「足がまだロックされたままだけに……ですね」
サブモニターにはブレストが戦闘機型の形態へと変形するプロセス映像が映し出されているが、その変形ギミックは両足の股関節をそれぞれ90度動かさなければならないものであり、ブレストの両足にブルドベルY10が全重量と共に後ろ足で抑え込んでいる限りは変形が実質不可能である。
「フレイちゃん、ケルドベルの後ろ足を何らかの形で破壊する事が出来れば何らか状況は変わってきそうですね」
「そうね、後ろ足の細い個所を集中して狙えばどうにかなるかもしれないね。けれどホーンパライザーはそこまでの場所は届かないわね」
「ならばどうするんですの!?」
「まだこれがある!」
状況を打破出来たようでできない状況の最中、玲也が思いついた事はカウンターパンチャーのワイヤー部分”ゼットウィッパー”をブルドベルY10の後ろ足に巻きつける事であった。
そしてこのゼットウィッパーから電熱をブルドベルY10の後ろ足に送り込み、それだけではなくアイブレッサーも後ろ足の最も細い部分を狙うならば使う事に価値があると判断しての同時攻撃である。
「これでどうにかなれば良いが」
「そうね……早く千切れなさい!」
だが、このゼットウィッパーとアイブレッサーの同時攻撃を行おうとも後ろ足が切断されるような事態には陥らなかった。
ただ後ろ足が徐々に赤熱化している事だが、このままゆっくり待つ事はできない状況であった。何故か、理由は切断されて沈黙されたはずの頭部が宙に浮いて動き出し、今度は首元を角でマークして両角をドリルのように回転させながら首を引きちぎる事を試みる。
「フレイちゃん! まだ頭が生きていますよ!!」
「……どういうことなの!? あいつまだ死んでなかったの!?」
「どうするんですのフレイさん! このままでは振り出しに戻ってしまうのですわよ!!」
「く……アイブレッサーとゼットウィッパーが牽制用の武器なだけに……」
「千切れたぞ!!」
だがしかし、この窮地にて勝利の女神は玲也達に頬笑みを見せようとしていた。赤熱化した末に後ろ足にひびが生じた末に折れた――両足の自由が戻ったと判断するとフレイが叫んだ。
「十字左+セレクト!チェーンジ・ブレスト・フライヤー!!」
「分かった!チェーンジ・ブレスト・フライヤー!!」
後ろ足を失いブルドベルY10が倒れようとする瞬間、2人の叫びと玲也のコントローラーさばきによってブレストが姿を変えようとしている。
両足の股関節が90度横にスライドを果たし、腰のカバーが開きその両足は90度縦にスライドされ、脹脛と腰から展開されたブースターが連結される。
そして両肩が90度右に動いた後にブースターが点火してブレストの体が宙に浮く。背中の翼が180度回転、頭部と翼と連結した事でとうとう変形は官僚する――名前はブレスト・フライヤー。
「本当に戦闘機形態に変形した!!」
「こいつで組みついた頭を粉砕するしかないわよ!!」
「分かってはいる。移動手順はブレストとほぼ同じならばたやすいことだ!!」
ブレスト・フライヤーは玲也の手により瞬く間に土星から飛び立ちケルドベルY10の本体から急速に引き離す。そしてR2ボタンを押す事でブレストの角が再びケルドベルY10の頭部に移動させて突き刺し、電撃が至近距離で襲いかかる。
「玲也さん、この至近距離でパライザーホーンを放つ事は危ないですよ!!」
「玲也様、私達より先に相手がくたばりますよね!?」
「ここは我慢比べと行きたい所だが、危険は確かにある……」
「なら、電次元フレアーを使うわ! L1ボタンよ!!」
「電次元フレアー……分かった」
組みつかれた状態でL1が押される瞬間、胸部からの熱線が至近距離でケルドベルY10を襲う。ブレスト・フライヤーは戦闘機形態でありながらパライザーホーンと電次元フレアーという至近距離用の武装を駆使できる点が最大の特徴でもある。
この圧倒的な硬度を誇るケルドベルY10の頭部だが、牽制用のアイブレッサーとは異なり、必殺技級として温存された電次元フレアーの前にケルドベルY10は首から徐々に融解を開始し、残された角も頭部が消滅した後は無力と化し、すぐさまブレスト・フライヤーの機種から外れ落ちてしまった。最大の猛威ともいえるケルドベルY10の頭部はとうとう完全に粉砕したのである。
「ふぅ、これでようやく安心。こんどこそというべきでしょうか」
「いや……まだよ!!」
しかし頭部を破壊した後においてもケルドベルY10の本体は健在であり、切断された首先からは巨大な弾頭を放ってまで抵抗に出たのである。
だが玲也は冷静にブレスト・ファイターをブレストへと変形させて、その後に両腕のゼットウィッパーを鞭のように振るってみせた。
「ミサイルに巻きつけた! さすがですわ!!」
「鞭に物を捲きつけたならば投げ返すのみ!!」
勢いに乗せて、ゼットウィッパーに巻きつけたミサイルがブレストをめがけて投げ飛ばされる。しかしケルドベルY10の先端には既に別のミサイルが装填され、このままでは迎撃されてしまう流れがオチにしか残っていない。
「玲也さん! このままミサイルを投げつけても意味がないですよ!!」
「何、一度ある事は二度あると考えるべし。カウンターブレードだ」
「またカウンターブレード!? 今度は手がないのにと……まさか!!」
相手の裏を掻く戦法として玲也はカウンターブレードに焦点を当てた。そのL2と□の同時押しにより、まだ温存されていた左足のカウンターブレードの剣が膝を曲げた状態で標的を狙うように一直線に放たれる。この新たなカウンターブレードの使い方にフレイがずっこけているが玲也は気にする筈はない。
「そのまさか!!カウンターブレード・秘剣弾丸飛ばし!!」
「あんた、いい加減剣を剣らしく使いなさいよ!!」
「仕方がないだろう。 今回ばかりは両腕が使えない状態で剣を握ろうとしても出来ない事がオチだ」
「それを言っちゃそうなんだけどさ……」
フレイに突っ込まれながらも、カウンターブレードはブルドベルY10からのミサイルの後を追って飛んだ。
この時ブルドベルY10は自分の元に向かうミサイルはそのまま撃ち返してしまえば良いと判断したが、撃墜した後のミサイルと入れ替わるようにして登場したカウンターブレードに対してなす術がなかった。後ろ足は既に破壊されているが為に移動する事は出来ない。前足で受け止めようとも取り押さえたブレストの腕があだとなって自由に動かす事が出来ない。
だが尻尾がまだ残されていた。自由自在に巻きつく尻尾により内部機器がむき出しの首元をめがけて飛ぶカウンターブレードの柄が巻きつかれた時、それは軌道を変えて地面に突き刺さる。秘剣弾丸飛ばしはかくして破られたかに見えた。
「これで勝利へのフラグが立った! アイブレッサー!!」
だがカウンターブレードも玲也からすれば囮であり、その隙にブレストが至近距離に迫ってアイブレッサーを放った。これにはケルドベルY10が防衛する余裕はなく内部機器が熱に照射されていく最中でケルドベルY10が首から爆発を引き起こしながら機体そのものが爆破四散して吹き飛ぶ。隠して二重三重の読み合いはゲーマーとしての経験で養われた玲也の頭脳とテクニックが勝利をもぎ取ったのである。
「相手の考えを読み合う中で相手の隙を突く。これがゲーマーでもある俺の戦い方だぁ……!!」
「玲也様ぁっ!!」
「のわわ!」
逆転勝利を収めた玲也に対して一番喜んだ人物はやはりエクスだった。後ろから勢いよく飛び着いた彼女に抱きつかれて小柄な玲也はグラマラスな体を密着されて少々戸惑い気味であった。
「もう! あんた達呑気なんだから。エクス早く離れなさいよ!」
「ま、待ってください! フレイちゃんレーダーを良く見てください!」
「何……これはもしかすれば、玲也急いで!」
勝利の一時を酔いしれる間もなく、ミュウの発見でこの戦線の周辺には何かしらの反応物があると証明された。
早速、玲也はすぐさまブレストを現場へと向かわせた時、目の前には円柱状のコンテナが用意されており、そのコンテナには時計の針らしき音とデジタル時計のようなタイマーが表示されていた。残り時間は既に3分を切ってはいる。
「もしかしたらそれがあの遠隔振動発生装置ではないでしょうか?玲也さん」
「あぁ。おそらくエレクロイドが破壊された事から証拠の隠滅、あるいは俺達を巻き込む為に自爆を図るのか……」
「れ、玲也様……ささ早く逃げましょうよ!」
「馬鹿言っているじゃないわよ! この爆発で土星が吹き飛んだらどうするのよ!!」
「かといってだな……」
この遠隔振動発生装置がダミーである事は玲也達は知らないが何れにせよそれは強力な爆弾兵器として新たな脅威として立ちはだかる。
ブレストはこの遠隔振動発生装置の駆除を目指すが、まず彼の両腕は既にブルドベルY10の爆発に巻き込まれて存在しておらず、ゼットウィッパーを絡めて持ち上げるにせよ遠隔振動破壊装置が重く、ただ抱えた状態で立ち往生することしかできない。電次元フレアー、アイブレッサー、パライザーホーンを使えば何時爆発するかは分からない事は言うまでもない。
「簡単にブレストでこの遠隔振動発生装置を持ちあげる事が出来れば……」
「まだエネルギーはギリギリあるわね……あの手段で持ち運ぶわよ!!」
「あの手段?」
「L1、L2、Ri、R2の同時押しで行くわよ!!」
「分かった……何と!?」
次の瞬間、ブレストの全身が赤く発光を起こす。遠隔振動発生装置も同様だ。やがて徐々にブレストの体が薄まっていく時、コクピットブリッジではものすごい重圧が襲いかかり全員がまともに動けない事態となってしまった。
「きゃあああああああ!!」
「玲也様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「これがブレストの奥の切り札よ!」
やがて遠隔振動発生装置を抱え込んだブレストが真紅色の何も存在さえしない空間におかれていた。玲也達にはこの空間が何かは分からない。ただフレイが知るだけである。
「最新鋭ハードウェイザー・ブレストの切り札が亜空間移動能力よ! まだ不十分だけど、標的の駆除にはちょうどいい能力よ!」
「亜空間移動……ゲームで聞いた事はあるが実際はこんな感じなのか、苦しい」
「何、私のクロストにも似た能力が……」
「ですが、前より苦しい状態です。まともに立っていられないですよフレイちゃん」
この亜空間移動能力において、ブレストは亜空間の重力をまともに受けてしまう。その重力は地球の約30倍、太陽に勝るとも劣らない重力を誇る為移動する事がほぼ困難な状況でもあった。メインブリッジの面々にも厳しい状況も強いられていた。
「くっ、こちらも3分程持つかどうかわからないから早くこの遠隔振動発生装置をどうにかするわよ」
「分かった。これをゼットウィッパーから切り離して……」
「それだけでは万一爆発に巻き込まれる事もあるわ。出来る限り遠くまで離す事が必要よ!」
「そのような手段があるならば、使うに越したことはない。コマンドは!?」
「ゼットウィッパーの巻きつけを解除してから、L1+E1の同時押しよ!!」
この同時押しにより、ブレストの胸からは光を放つがそれは電次元フレアーとは異なる黄色の光であった。
この光こそ一種の衝撃波でもある“電次元ストーム“相手を粉砕する事よりも相手を弾き飛ばす事を目的とした技であり、30倍ほどの重力を誇るこの亜空間において蓮核振動発生装置は緩やかに亜空間の中心地点へと移動を開始していった。
「これ以上使うと亜空間から帰るエネルギーがなくなるわ!もう一度亜空間移動コマンドを入力よ!」
「分かった! L1、L2、R1、R2!!」
激しい重力圏の亜空間にてブレストは再度真紅の光を発しながら元の土星へと帰っていく。玲也達の目の前から徐々に消滅する真紅の空間の中で遠隔振動発生装置が果てたかと思われるが、その遠隔振動発生装置の消滅はこの太陽系には何の支障を来たす事はなかった。
「遠隔振動発生装置、消滅。周囲への影響は微弱なものではないかと思われます……」
「これでどうにか白星を挙げる事が出来たってことね」
「さすが玲也様ですね!」
「あぁ、しかし……恐ろしいゲームを操縦しているような気分だ」
エクスに求愛されている事は元々にしろ今にしろ玲也にとっては関係のない事である。ただ彼は両足を静かに震えさせながら、コントローラーを見つめたままであった。このようなやりごたえを感じ、そして臨場感と緊迫感をそこまで感じさせるものに出会った事がないからであった。
「まぁ、玲也初めてにしては上出来じゃない?」
「いやいやフレイちゃん、これは十分にも程があると思いますよ!」
「その通りですわ!! このハードウェイザーの操縦、玲也様にとっては単純なものですわよね?」
「いや……これはな」
『おっとおしゃべりしてる所悪いがよ、そこで一旦ゲームは中断させてもらうぜ。ジャパニーズ・ゲーマーキッド!!』
「……誰だ!!」
またも安らぎの時は与えられないのだろうか。その少し嫌みな言葉と共に現れた機体は剣先を疲弊するブレストへと突きつけて降伏を薦めるかのようだった。
『誰だとは全米ゲーマー№1の俺に失礼だなぁ、玲也!』
「その声はアンドリュー・ヴァンスさん!?」
「あぁ、その通りまさかお前が動かしていたとは思ってもいなかったぜ」
今度立ちふさがる相手はイーテスト。アンドリューの存在を玲也はゲーム雑誌で目にしていた為に気付いており、アンドリューも何らかの経緯で玲也を名前だけは知っていたかと思われる。
『玲也、傷だらけになったならばそれ相応の対策は考えておけ、早いうちにお家へ帰ることだって手段の一つだぜ?お前らしくもない』
「そうか……」
アンドリューの指摘を受けてメーターを目にすると、エネルギーは既に0に等しい状況であった。おそらく亜空間の突入離脱時においてエネルギーを大幅に消耗してしまった事が原因だろうかと玲也は薄々と察した。
それだけではなく、ブレストは両腕が破壊された状態であり、この状態でほぼコンディションが万全のイーテストにはどのような頭脳やテクニックを駆使しても玲也は太刀打ちできない。ましてや、パイロットも全米ゲーマーチャンピオンであり玲也と互角以上の土俵に立っている相手だ。ここにきて遂に追い詰められてしまったと玲也は不覚にも一言を呟く――負けたと。
「玲也さん……あれ、あのハードウェイザーは何処かで見たような」
「えぇ? 言われてみますと見慣れないパーツもありますが、確かに何処かで見たような」
『こいつはハードウェイザー・イーテストだ。お前らももしかしたら知っているかもしれないよな』
ところが様子は少し異なっていく。アンドリューと同じブリッジでイーテストを操るスティはフレイ達に対してもフレンドリーな様子であり、アンドリューのような皮肉めいた様子ではない。
『フレイ、エクス、ミュウといったっけなお前ら。まぁまぁあたし達は手荒なまねはしないからさ』
『おいおい、俺が何時手荒な事をしたっていうんだスティ』
「今だよ今。あんた事情を話して連れて行くのに、エクスカリバー・トマホークを何も知らないあいつらに突きつけるのは脅迫だろ?」
『アメリカンジョークだ、アメリカンジョーク』
どこが“アメリカン“かは分からない。それはさておき彼らは別に玲也達の敵と言う訳でもない。最もPARに所属するエースパイロットという点から敵対する流れはあまり思えないのであるが。
『まぁー、ごめんなあたしのパートナーがガサツでさ。ただちょっとPARまで来てほしいんだよなお前達に』
「PAR……つまりやっと私達PARのメンバーとして迎えられるってことね!」
『まぁそう上手くいけばいいけどさ、ほらその玲也とかいろいろイレギュラーな形でお前達のプレイヤーに選ばれちまったからその点も含めて……な?』
「あぁ、そっか……出来れば上手く物事が進めば良いんだけどね」
スティからの誘いは彼女にとっては本来望んでいたことであり自然と心を躍らせる。ただ玲也に対してはもしかすれば自分の目的に対しての障害になるのではないかと自然と冷たい視線を彼女は寄せていた。
『まぁ、単純に言えば来いって事だな。強制だぜ玲也』
「……そうですか、強制となれば分かりました」
「玲也さん!?」
そして玲也はここでアンドリューの誘いに乗る事を選んだ。
その行動に至った背景は現状を打破する方法がその時の彼にはおもいつかなかった事もあるが、また先ほどアンドリューに不意を突かれてしまった事を自分の至らなさによるものと悟り、敗者は勝者に従うべきとの彼の理論に基づいた行動でもあった。
『よっしゃ、物分かりが良いと話が進んで助かるぜ。なら俺についてこい、言っておくが不意を突いても無駄だからな』
「分かりました……」
今、イーテストに抱え込まれた状態でブレストはPAR本部へと飛ぶ。その先に待つ事は何か玲也はまだ知らない。
ただ“巻き込まれたから”といえば被害者だが、彼が後へ引き返す事は出来ない。例えいばらの道だろうとも先へ進まなければならないのである。茨の前に傷だらけになろうとも……。
第2話終わり 第3話へ続く
次回のハードウェイザーは……
玲也「見ていてくれ父さん!俺は戦うと決めたんだ!! だから許してくれ母さん……!!」
フレイ「と決意した玲也なんだけど、アンドリューとサティさんが実力を試すといって玲也に決闘を申し込んできたの」
エクス「玲也様に対して決闘を申し込むとはいい度胸でいらっしゃってよ! 私と玲也様の愛が彼らの鼻をへし折ってみせましてよ!」
フレイ「あら、鼻が高い方はあんたの方じゃないの?」
エクス「なんですって!? フレイさん貴方と言うお人は……!」
玲也「やめろ二人とも。相手は全米ゲーマーチャンピオンで最古参のプレイヤーだ。正直勝てるかどうかわからない」
ミュウ「ですが玲也さん、こちらの方にも心強い助っ人が現れるようで、それも玲也さんと親しい方だそうで」
玲也「俺と親しい方……誰だ? 次回、電装機攻ハードウェイザー「日米決戦! 相手は全米№1ゲーマー!!」にさぁ、勝利のフラグを立てろ!!」