暖かい雪
キーンコーンカーンコーン
「今日はなにする?」
「お前の家いっていい?」
「新しいお洋服買ったのよ」
今日の授業は、これで終わりだ。この真冬小学校3年のゆうしは、溜息をついた。彼に話す相手などいない。彼を除いては。
「今日もおわったよ、ニト。何して遊ぶ?」
ゆうしの問いに答えるニト。黒い服に白いズボン、奇抜な格好だ。何故か中に浮いている。
「うーん、昨日久しぶりに雪が降ったし雪だるまでも作る?」
この季節、この辺りの地域は雪が多い。だが最近は雪が降らなくて、昨日久しぶりに降ったのだ。
「うん、そうしよう」
ゆうしがそう決めて立った時だ。
「おい、またあいつ1人でなんか言ってる」
「本当だ。いくら友達がいないからって。」
周りの子供達は気味悪げに遠ざかって行く。
「また、先生に言っておこう」
こんなことまで。彼はここ最近、先生に皆と一緒に遊びなさいと、言われたばかりだった。
「ゆうし、僕にかまってないで、他の人と遊んでも良いんだよ?」
ニトは心配そうに言ってきた。そう、ニトはゆうしにしか見えない。はたから見ると1人でなんか言ってる寂しい人になるのだ。
「いいよ、僕と遊んでくれる友達はニトしかい無いから」
ゆうしは悲しそうに笑った。
ニトとゆうしの出会いは半年前。
当時から、友達を作るのが苦手なゆうしは、いつも通り1人で家で遊んでいた。その時ふと、ベットを見ると変な人が寝ていたのだ。最初は不気味がっていたゆうしだが、ニトと名乗るその少年が
「やぁ、おはよう」
と気軽に話しかけられたり、一緒に遊んでいるうちにすっかり仲良くなっていた。だけど親に、ニトを紹介する時だった。ニトは自分にしか見えていないと気づいた。
「お前は何を言ってるんだ?」
「あなた、精神科に連れて行きましょう」
これが、両親からの言葉だった。だが、ゆうしはニトと友達でいた。だってニトはゆうしにとって始めての、友達だったから。
二人は雪楽公園に来ていた。ここは広いので、雪だるまを作るにはもってこいだ。しかし、人が多いのが難点だ。二人は人が少ない、はじこっに行った。いつも適当な理由をつけて、ケチをつけてくる上級生が居たからだ。
「さーて、今日は大っきいのを作ろう!」
ニトは、とっても張りきっている。ゆうしは
「全く、子供だなー」
と言いながらも、もう雪玉を大っきくしている。いつも大人ぶっているゆうしも、実は楽しみだったりする。
そうこうしてるうちに、頭も体も出来上がったようだ。ゆうしが自分の体ほどある雪玉を抱えた。
「よし!これで、頭を乗っけたら・・お、重い・・ニト手伝って。」
ニトは上から、ゆうしは下から、2人で雪玉を乗っける。
「よっこらせ!」
無駄に親父くさい掛け声と共に、大きい雪だるまが完成した。
「よし、後は崩れたり夏でも溶けないようにっと」
ニトが雪玉に手を当てると、雪だるまが温かくなった。
これは、ニトの使える技?みたいな物だ。雪を硬くしたり、温かくしたり、溶けないようにしたりと雪の性質を変えることが出来るのだ。
「さすがだ!ニト。これで、雪だるまは壊れ無いね。」
ゆうしも、とても嬉しそうだ。
「そうだ!この能力に名前をつけよう!な?ニト」
調子に乗ってきたゆうしである。ニトは少し考え
「うん、わかった!何か良い名前ある?」
ニトも少し乗り気になってきた。
「そうだなー。雪をスノウにして、手をハンドでスノウハンドは?」
さすが、塾に通ってるだけあってゆうしは英語がスラスラでてきた。残念なネーミングセンスと一緒に。
「うっ、それはちょっと・・」
慌てて自分の能力を保護するニト。だが、ゆうしは諦めない。
「じゃあ、何か他にあるの?ニト。無かったらスノウハンドに決定だ!」
あと、10秒以内ねーと付け足され、焦るニト。
(うー何か良いのはないのか?)
「はーい。あと3秒!」
追い打ちをかけるゆうし。
「うっ、くっ、あーーもう!スノウハンドで良いよ!!」
結果、
ニトの能力=スノウハンド
ゆうしの能力=ネーミングセンス0
になりました!
ゆうしは、自分の考えた名前になって満足してる。
「さて、そろそろ帰ろっか。明日はポチの当番だから早く起き無いといけないし。」
ポチとは、クラスで飼っている犬だ。何故か教室に野良犬が迷い込み、そのままクラスで飼うことになった。クラスの人気犬だ。
~次の日〜
「さーて。ほらほらおいでポチ〜」
誰もいない教室でゆうしは餌をやっている。
「きゃんきゃん」
ポチは興奮してゆうしを噛む。
「いで、ほらーだめだぞ噛んだら。ほーらよしよし」
噛まれながらもそのかわいいポチにデレるゆうし。でもなんか、ポチはいつもと様子が違う気がする。
(ま、気のせいかな?)
そうこうしてるうちに、他の人達も登校してきた。因みにニトは寝坊だ。先生も教室に来て、また勉強の一日が始まる。
~放課後~
「おーい今日はポチと散歩しよーぜー」
クラスの男子Aが言った。勿論、
ゆうしに言ったわけではない。
「お!いいね、お前も来いよ」
横に居た男子Bが返事する。勿論、ゆうしではなく後ろの男子Cにだ。男子ABCはポチを連れてはしゃぎながら、外に出て行った。それを羨ましげに見ていると
「今度僕達もポチと散歩するか」
いきなり、後ろから声をかけられた。びっくりするゆうしだが、すぐに授業をサボったニトだと気づく。まぁ、サボるということにはなら無いが。
「そうだね。明後日にでも行こうか」
小声で返事をする。勿論、誰もニトの声は聞こえない。そんなことを言いながら教室を出ようとすると、さっきの男子ABCのBが戻ってきた。すっごく慌てて。
「大変だ!ポチが居なくなった。ちょっと目を話した隙に・・お願い、探すの手伝って」
涙目になりながら訴える男子Bに押されたか、ポチが心配なのか、教室の皆は立ち上がった。勿論、ゆうしとニトも例外ではない。
外は吹雪き始めてた。とてつもなくビュービューなっている。
「これじゃあ、ポチは探せないな」
男子Dが言った。みんな同じ思いだ。正論である。しかしそれを聞き男子ABC泣きそうになった。
「そうだね。でもポチ大丈夫かな?」
男子Eが言った。こちらもみんな同じ思いだ。だけど、さすがにこの吹雪の中、探すことは出来ない。みんなわかっていたこのままではポチは死んでしまうと。でも、探せなかった。しかし、
「僕は少し、探しに行ってくるよ」
ゆうしは、言った。行くのは危ないかもしれないけど、ニトが居るから大丈夫!と、思っていたからだ。みんなが躊躇っているとゆうしは、パッと駆け出した。行き先は雪永公園。雪楽公園のむかえにあるそのら小さな公園は、夏に良くポチはすべり台の下に隠れていたのだ。それを今思い出した。
「良し、ニト行くよ!」
ニトは頷いた。
「うん、早くポチを見つけて帰ろっか。」
2人は向かい風に耐えながら、進んで行く。5分ぐらいで公園に着いた2人は、急いですべり台に向かった。
「くぅ~んきゃんきゃん」
ポチの声が聞こえた。ポチはすべり台の真下に、丸まって縮こまっている。
ゆうしはポチを、抱え込む様にしてだくと、ニトに言った。
「さて、ニト帰るよ」
その時だった。すべり台から雪がずり落ちてきた。もともと地面が雪で大分高かったので、ちょうどゆうし達はすべり台の下に閉じ込められた。
「大変だ!どうしよう」
ゆうしは、パニックになった。これでは、外に出られない。
「大丈夫!僕がいるから。」
ニトはそう言って雪玉を作り、それを熱くした。その雪玉は今まで作ったのより大分熱く、30度ぐらいあった。それにより、ジュージュー音を立てて雪が溶け出す。
「やった!これで帰れる。ありがとう、ニト!」
あっという間に雪が溶けて
外が見れた。ニトを見ると悲しい様に笑った。
「うん、これで外に出れるね!僕ともお別れかな。」
またも、悲しそうに笑った、ニト。それを見たゆうしは笑いながらしかし、どこか心配そうに言う。
「何を言ってるの?ニト。お別れな訳ないじゃないか」
その声は少し震えていた。
「僕はもう力を使い果たしたから、自分の世界に戻らないといけない。それに、もうゆうしは1人じゃないはずだよ。」
ゆうしは反論する。
「いやだ!ニトは友達だ、ずっと友達だ!」
ゆうしの目は濡れている。それを見たニトは少し嬉しそうに笑う。
「大丈夫!例え会えなくても、友達は友達だろ?だからさよならだ。ありがとう、ゆう・・し・・・」
ゆうしは笑った。口ではかっこいいことを言ってたニトが、笑いながら泣いていたからだ。ゆうしはその笑顔のまま言った。
「う、うん。そうだねニト・・僕達は友達だ!ありがとう・・ニ・・ト」
ニトは消えていた。そう、跡形もなく。後に残ったのは温かく雪玉だけだった。
~3ヶ月後~
キーンコーンカーンコーン
「おーい、ゆうし。今日は何して遊ぶ?」
男子Bもとい、こうたが話しかけてきた。
「そうだなー、家来る?」
返事をするゆうし。ポチ捜索事件から3ヶ月、彼はもうすっかり教室に馴染んでいた。友達も、たくさんできた。
(ニト・・僕は元気にやっている。だから、もう大丈夫・・)
暖かい春の風が吹いた。残っているのは、公園にポツンと立っている雪だるまと、ほんわり温かい雪玉・・だけだった。
おわり
読んでくれた人、ありがとうございます。
初投稿のこのお話楽しんでくれたら何よりです。
誤字脱字等が有ったら大目に見て下さい笑