曲屋
この男の職業は、「曲屋」だ。曲屋の仕事は、その名のとおり、曲をつくることだ。
しかし、男の店には、ほとんど客が来ない。理由は、店の隣に墓地があり、気味が悪いというわけだ。
男は後悔していた。店を始める当時、男には金がなかった。そこで家賃の安いこの場所を選んだのがまずかった。もっといい場所があったかもしれないと。
そんな事を思っていた時、一人のおばあさんがやってきた。おばあさんは「ここは、曲をつくってくれると聞いたんだが本当かね?」と言った。その瞬間、男はひさしぶりに客が来たと確信して「はい、うちは曲をつくります!どんな曲をつくりましょうか?」と元気よく言った。するとおばあさんは、「じゃあ、和風でやさしい曲をつくってもらいたいね。」と言ってきたので、男は、紙を出して、「ここに名前と住所と電話番号をお書きください。」と言うと、おばあさんは、ちょっと困った顔になったが一応書いてくれた。「では、曲の候補を三曲つくります。三週間ぐらいでつくるので、できあがったら電話をおかけいたします。」
その後、おばあさんはおじきをして、店を出た。
男は曲づくりに専念して、三週間という期間になんとか間に合わせた。さっそくおばあさんに電話をかけようと思った時、店のドアが開いた。おばあさんだった。「そろそろ、できあがると思って、様子を見に来たんだが、どうだい?」「はい、できあがりましたよ。三曲あるのできいてみてください。」
男はつくった曲を一曲ずつ、おばあさんにきいてもらった。するとおばあさんは、「この三曲、全部購入してもいいかい?どれもいい曲だからね。」と言ったので男は「ありがとうございます!」とおじきをしながら言った。こんなにオレの曲をほめてくれた人は初めてだ!と男はとてもうれしく思った。
その夜、なんだか隣の墓地がさわがしかったので、男は不思議に思ってのぞいてみると、なんとオレがつくった曲が流れているではないか。すると、男に気づいた人がこっちに来た。あのおばあさんだった。
「ありがとう。」
男に一言だけ言って墓地の奥へと行ってしまった。男は、夜は暗いから危ないと思い、おばあさんを追いかけた。しかし、おばあさんの姿はなかった。そのかわりにある墓にたどりついた。墓石をよくよく見ると、なんとあのおばあさんの名前があるではないか!その瞬間、背筋がぶるっと震えた。おばあさんは幽霊だったのかと男は思った。しかし、おばあさんがあんなに喜んでくれた事を思い出し、ちょっとうれしくなった。気づいてみると曲はとまっていて、墓地には男一人だけになっていた。男はあわてて、店に戻った。
翌日から男はあの墓に線香を毎日焚いた。すると線香を焚いた後に気づいたおばあさんのお孫さんが訪ねてきた。「私のおばあちゃんのお墓によく線香を焚く人がいると近所の方から聞いたのですが、あなたはおばあちゃんのお知り合いですか?」「いいえ、あなたのおばあさんに曲を頼まれた者です。ただ、信じられないかと思いますが、おばあさんが幽霊になって訪ねてきたんです。和風でやさしい曲をつくってほしいって。おもしろい話でしょう。」すると、お孫さんは首を横に振って「私は、その話信じます。その話詳しく聞かせてもらいませんか?きっとおばあちゃんさびしかったから墓地の隣にあるあなたの店に行ったかもしれません。その曲きかせてください。」
男は一曲ずつお孫さんにきいてもらい、その時のことを話した。そして、三曲全部きくとお孫さんは「この曲、本当に全部いい曲です。私にも曲をつくってもらいませんか?」「はい、もちろん!」
その後、お孫さんにつくった曲をきいてもらうと、とても好評だった。
そして、客も段々増えてきた。
男はもしかしたら、おばあさんが恩返しをしてくれたのかもしれないと思いながら、今日も曲をつくっていた。