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世界一のハンサム

冴木駿介。名前はカッコいいが、ハンサムではない。そんな彼の前に、一人の魔法遣いのおじさんが現れた。

 冴木は家に帰る途中、自らを魔法遣いと名乗る、危うい中年男と出会った。

「だ〜か〜ら〜ね。おじさんは魔法遣いなの」

 全身を黒い……、何とも言えない形状の服をまとい、円形のつばをしたとんがり帽子を被っていた。顔にはどでかい瓶底メガネ。でっぷりとした太鼓腹で、手足はこれでもか、と言うくらい短い。そして、極めつけと言わんばかりに、先端に星(男的には『奇跡のお星様』)の付いた、螺旋をかたどった三〇センチくらいの棒を持っていた。

「しんじてないね、その目は。いけないよ、『七人訊ねて人を疑え』っていうでしょ」

 棒(男的には『マジカル棒』)を冴木の眼前でくるくるさせる。まるで、トンボを捕まえるように。

 冴木は即座にその男の写真を撮り、『魔法遣いだって。疑うべき?』という文面を添えて(正確には、写真を添えるものである)、適当な友人七人に回した。

 数分間、男は「みんな普通だよっていうよ」と言い続けたが、帰ってきたメールには、『疑え』『ドコで売ってんだろ、そういうの』『病院を紹介しよう。氷室市妃王○−□−×× 柴田精神科』『逝って良し』『知り合いだったら、縁切る』『そこアキバ?』『宗教の勧誘? 間に合ってます』と書かれていた。

 冴木はその場を去る決意を決めた。振り向いて歩き始める。

「妖しくないよ〜。おじさんは普通の魔法遣いさ。だったら、君の名前を当ててあげよう。ちょ、待ってよ〜『冴木駿介君』」

 名前の部分だけすごみをきかせて、不審者は言った。

 冴木は、男の言葉に止まらざるを得なかった。男に自分の名を名乗った覚えはなく、名札などは付けていない。

「君のお父さんとお母さんの事を話そう。君のお父さんは七三分けしてるけど、実は円形ハゲが五七個あるよね。でも、これは君が小学校の時に数えた物さ。今は六〇個」

 当たり。小学校の時の数も当たっている。

「君のお母さんは二年前に実家に帰ったけど、ご近所の目が気になって、今日帰ってくるよ。ほら、あそこにいるトドみたいなおばさん」

 男は大荷物を抱えた女性を棒で差す。よくよく見ると、太ってはいたが、確かに自分の母だ。と冴木は思った。結果的には、またまた当たり。

「君にはお姉さんもお兄さんも妹も弟もいないね。正真正銘の一人っ子。でもね、近々腹違いの弟が生まれるよ」

 男がそう言うと、目と鼻の先の産婦人科から七三の中年と、三十過ぎの女性が出てきた。女性はお腹を大きくし、幸せそうな顔で、自らのお腹を撫でていた。皮肉だが、当たりっぽい。

「今度は全くの他人の事を話そう。あっちのヒップホップなお兄さんは、向こうのそば屋のバイクとぶつかって、頭からカレーうどんを被る」

 直後、原チャリと人が激突。男の言ったとおりになった。

 唖然とする冴木。追い打ちを掛けるように、男は満面の笑みで続ける。それにしても気色悪い笑顔である。

「んふふふ〜ん。次々〜。商店街のアーケードで宣伝してるピエロさんは、あと二秒で玉から落ちて怪我するよ」

 直後、人々のどよめきが聞こえた。

「あそこ。見えるかな。コンビニに強盗が来るけど、偶然そのお店にいたお巡りさんに逮捕される」

 そうなった。

「このビルの屋上から男の人」

 突如、目の前のビルの屋上から、サラリーマン風の男が降ってきた。男は危うい所で窓ふきのゴンドラに引っかかり一命を取り留める。

「サンマの干物」

 通りすがりのトラックは、『サンマの干物』と書かれた段ボールを満載していた。

「おじさんが踊る」

 男はその場でくるくる妖しげなダンスを始めた。微妙にワルツのノリだった。

「さてさて、これで信じてくれたかな? じゃあ、今度は君のお願い事を叶えてあげるね」

 そのまま回り続ける。

「君のお願い事。それは、『世界で一番ハンサムになりたい』だね」

 冴木は何度もうなずいた。

「任せて☆ いくよ〜ん。 ウヨケツ・ヲキハニ・トヒイシアヤン」

 その言葉の直後、妖しいおっさんは消えた。


 翌日。冴木は世界一のハンサムボーイになっていた。いや、正確には、冴木がハンサムになったのではなく、他の男全てが冴木よりブサイクになったのである。

 そのことを知ってか知らずかだが、周囲の女性全てにちやほやされた冴木は、釈然としないまま、女には苦労せず一生を終えた。

溜まっていた小ネタを使いたくて作った話です。この手の話を知ってる方は多いと思いますが、それを私なりにアレンジしてみました。

それにしても、ずいぶん迷惑な魔法遣いのおじさんですね(^_^;)

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