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短い話

海の子

作者: ちゃーき
掲載日:2025/12/11

[日間]童話〔その他〕 -ランキング10位ありがとうございます

ある、とても寒い冬の日のことでした。

海辺の小さな村に、大きな音と揺れがありました。地面がごごごと鳴って、みんなびっくりしました。

そしてしばらくすると、海の神様が迎えに来ました。


ざざざぁぁぁん…


一人の小さな子は、大好きなお母さんと離れたくありませんでした。

「お母さん、お母さん…!」

でも、海の神様の大きな手は優しく、でも強くて、子をそっと抱き上げてしまいました。


冷たい海の中で、子はだんだん眠くなってきました。

不思議なことに、怖くはありませんでした。ただ、とても静かでした。

「ああ、お母さん…お父さん…さようなら…」


そう思ったとき、子の体は小さな光になりました。キラキラと輝く、温かな光です。


光になった子は、海の中をふわふわと漂いました。

「あれ?僕、光になっちゃった」

すると、どこからか声がしました。

「こっちだよ。こっち」


見ると、同じような光がたくさん集まってきました。大きな光、小さな光。みんな優しく輝いていました。

「君も一緒に来る?」

一つの光が聞きました。


「どこへ行くの?」

「空の上。新しい世界だよ」

「お母さんは?」

光たちは少し悲しそうに揺れました。


「お母さんたちは、この世界に残るんだ。でも大丈夫。僕たちの光は、いつかきっと届くから」

海の子は少し迷いましたが、他の光たちの温かさに包まれて、一緒に旅をすることにしました。


光たちは、寒い海を抜けて、空へと昇っていきました。雲を越え、星を越え、どこまでもどこまでも…

「わぁ、きれい!」

海の子は、初めて見る景色に目を輝かせました。星たちがキラキラと瞬いて、まるで歓迎してくれているようでした。


やがて、光たちは温かな場所に辿り着きました。

そこには、とても優しい顔をした神様がいました。神様は一つ一つの光に、丁寧に話しかけていました。


「よく来たね。辛かったね。寒かったね。でも、もう大丈夫だよ」

神様の声は、お母さんの声のように優しくて、海の子はほっとしました。


「君たちは、もう一度生きてみたいかい?別の世界で、新しい人生を始めることができるよ」


海の子は答えました。

「はい、もう一度生きてみたいです。でも…お母さんとお父さんは、今頃泣いているかな…僕がいなくなって、とても悲しんでいるかな…」

神様は優しく微笑みました。


「そうだね。お母さんもお父さんも、今はとても悲しんでいるよ。でもね、君が新しい場所で幸せに生きることが、いつか彼らの慰めになるんだ」

「どうして?」


「君が新しい命として笑うとき、その笑顔は、風に乗って、光に乗って、巡り巡って彼らのもとにも届くんだよ。そして、彼らは感じるんだ。『ああ、あの子はどこかで生きているんだ』って」


海の子は、少し考えてから言いました。

「じゃあ、今度は温かい場所で生まれたいです。もう寒い思いはしたくないから」

神様は頷きました。


「わかった。遠い南の国に、君を送ろう」

「それから…」

海の子は続けました。

「いつか大きくなったら、海で悲しい思いをした人たちを助けられる人になりたいです。僕みたいに寒くて怖い思いをする人が、もういないように」


神様の目が、少し潤んだように見えました。

「なんて素晴らしい願いなんだろう。じゃあ、その願いも一緒に持っていきなさい。きっと叶うよ」

海の子の光は、だんだんと強く輝き始めました。まるで小さな太陽のように。


「行ってらっしゃい。そして、たくさん幸せになりなさい」

光は、温かな南の国へと旅立ちました。



それから何年か経ったある日。

日本の海辺で、一人の母親が、今日も海を見つめていました。失った我が子を想いながら。

波の音を聞きながら、母親は毎日、海に話しかけていました。


「元気にしてる?寒くない?」

すると、その母親のもとに、不思議な手紙が届きました。それは、遠い南の国に住む、ある家族からの手紙でした。


「私たちの息子は、今3歳です。とても元気で、よく笑う子です。でも、不思議なことを言うのです」

「『前は寒い海の近くにいた』『お母さんとお父さんがいた』と。そして、日本の海の写真を見ると、いつも泣くのです」


「最初は子どもの空想だと思っていました。でも、あまりにも詳しく話すので、インターネットで調べてみました。すると、あなたのことを知りました」

「もしかしたら、あなたのお子さんは、今、私たちの息子として生きているのかもしれません」


「彼はとても優しい子です。海の生き物が大好きで、『大きくなったら、海を守る人になりたい』と言います。そして時々、こう言うのです。『ぼくが幸せになったら、前のお母さんも笑ってくれるかな』と」


母親は、手紙を何度も何度も読み返しました。

涙が溢れました。でも、それは少しだけ、温かい涙でした。


「ああ、あなたは生きているのね。遠い温かな場所で、幸せに生きているのね」

母親は、初めて少しだけ、笑顔になれました。


海の子は今日も、南の国で元気に遊んでいます。

前世の記憶は、少しずつ薄れていきますが、心の奥底には残っています。


「寒い海から、温かい場所へ旅をしてきたこと」

「愛されていたこと」

「そして、また愛されていること」


海の子は、新しいお母さんに聞きました。

「ねえ、お母さん。人って、何回も生まれ変われるの?」

「そうね。そういう話もあるわね」

「じゃあ、前のお母さんにも、また会えるかな?」

新しいお母さんは、優しく子の頭を撫でました。


「きっと会えるわ。いつか、どこかで」

キラキラと輝く太陽の下で、子は笑います。

その笑顔は、海を越え、空を越え、遠い日本の海辺にも、きっと届いているのです。


そして、日本の海辺の母親も、今日は少しだけ笑顔でした。

温かな風が吹いて、まるで誰かが「大丈夫だよ」と言っているようでした。

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― 新着の感想 ―
 寒さなどで世界や母親から一旦離れないといけなくなった子供に対し、やり直しなどを誘う星や光。  始めは親切を装った魔の囁きかと邪推しましたが、そんな事もなく、あたたかい世界への渇望だけでなく海や寒さに…
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