表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界美少女エリス<リリース・シールの魔法>

佐藤翔太は、地方都市の不動産会社で働く平凡な営業マンだった。彼の人生はつまらない日常の連続で、特筆すべきことといえば、数年前に婚約していた彼女、麻美との破局くらいだった。麻美は職場の上司と浮気し、そのまま結婚してしまったのだ。


ある晩、残業で疲れ切った体を引きずり、夜道を歩いていると、路地の暗がりで光る何かに気づいた。近寄ってみると、銀髪の少女が微笑みながら座っていた。


「あなたが、佐藤翔太さんね?」


突然名前を呼ばれた翔太は驚いた。


「誰だお前! 俺に何の用だ?」


「私はエリス。この世界とは違う場所から来たの。あなたに『リリース・シール』という力を授けるためにね。」


「リリース…シール?」


エリスは何も答えず、翔太の手に小さな箱を渡した。


「使い方は簡単よ。あなたが心の中で『封じたい』と思った対象にこのシールを貼れば、その対象を動かせなくなるわ。でも注意して。あなたの心がこれをどう使うか、私は見守るから。」


エリスはふっと姿を消し、翔太は独り立ち尽くした。


翌日、彼はエリスの言葉を半信半疑で思い出しながら、そのシールを試してみた。手始めに冷蔵庫のドアに貼ってみると、驚いたことにドアは完全に動かなくなった。


「本当に使えるのか…?」


翔太はその力の可能性に興味を覚えた。何度か試した後、この能力が「物や人の動きを止める」魔法であることを理解した。日常生活で使う分には面白いだけだったが、ある日、思わぬ状況で役立つことを知る。


その日は朝から雨が降っており、翔太はいつも以上にイライラしていた。駅に向かう途中、目の前で車が水たまりを勢いよく通り過ぎ、泥水を彼に浴びせた。怒りに任せてシールを貼ると、その車は急に動きを止め、運転手は車から降りてきて平謝りした。


「これ、案外便利かもしれないな…」


翔太はそれ以来、シールを生活の中で使うようになった。電車で足を踏まれたとき、迷惑な隣人が騒いでいるとき、嫌な状況を「封じて」解決していった。


そんなある日、翔太は麻美の名前を耳にした。元彼女が幸せそうに新婚生活を送っているという話だ。


「幸せそうでいいご身分だな…」


抑えきれない怒りが湧き上がり、翔太は麻美の家へ向かった。そして、浮気相手だった夫の車にシールを貼り、動けなくしてやった。さらに、麻美が使っている化粧品や日常品にも次々とシールを貼り付けた。


「これで少しは俺の気持ちを思い知るだろう!」


だが、それで満足するどころか、翔太の行動は次第にエスカレートしていった。職場の嫌な上司の椅子を封じ、ライバルの営業マンが使うパソコンを動かなくし、気に入らない人々の生活を徹底的に「封じる」ようになった。


ある日、翔太が帰宅すると、部屋の中が異様な光景に変わっていた。家具が動かず、電化製品も反応しない。全てが静止した空間に変わっていたのだ。


「何が…どうして?」


困惑する彼の前に、再びエリスが現れた。


「あなたがその力をどう使うか、ずっと見ていたわ。」


「お前か! この状況を元に戻せ!」


「いいえ。これは、あなたが自分の欲望を満たすために力を使い続けた結果よ。力には代償があることを忘れてはいけないわ。」


エリスが指を鳴らすと、部屋全体が真っ白になり、翔太は無の空間に放り出された。


「力に頼らずに生きることの大切さを学びなさい。それができるまでは、この封じられた空間で過ごしてもらうわ。」


エリスの声だけが響き、彼女の姿は消えた。翔太は一人、動くことも許されない静止した世界で、力の使い方を後悔し続けた。


やがて、翔太がその空間でどれだけの時間を過ごしたか分からないが、彼は自分の過ちを認めるようになった。そしてある日、ふっと周囲の空間が元に戻った。


エリスはもう現れなかったが、翔太はそれ以来、二度と他人を傷つけることを考えなくなった。日常の中で、地道に努力することの価値をようやく理解したのだった。


エリスの微笑みは、翔太の心に今も焼き付いている。そしてその微笑みを思い出すたびに、彼は今の自分の生き方を振り返るのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
エリス…。力を渡す前に、まず代償も説明しようよ…。 能力の説明だけ済んでいたから、翔太は代償とか考えていなかったのか…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ