第二話 メシ
勇人くんのアホさが丸出しの回です。アホが主人公のなろうって少ないですよね。今回は勇人くんがへっぽこすぎなだけですけど。勇人くんはこれから名誉挽回するつもりです。つもり。
家を飛び出したのはいいが………いやよくない!!!
一体どこに行けばいいのか何一つわからない!
この村の地理は何もわからない。
外から見た感じでは随分と広かったような気がする。
そもそもどうすれば前世の情報を得れる?
この異世界の真実を手に入れると言っても、どこを目指せばいいのか?
考え事をしていると腹が鳴った。
「とりあえず、飯でも食うか!」
前世のことは一旦置いておいて飯を食うことにした。
ここに来る道中で、美味しそうな食堂を見た。
勇人はこの世界に来てから一番早いであろうスピードで食堂まで、走り抜けた。
「ハハッ…まず食堂に行くか。彼はユニークだね…」
誰よりも高いところで双眼鏡を使って勇人を眺める男。
「もうここも用済みだからね。君だけが頼りだよ。」
双眼鏡を置いて椅子に座ってパソコンを弄る。
デスクの上には、無駄に光るマウス、画質の良いモニター、これも無駄に光るキーボード、そして男の目を覚ますためのコーヒー。
「面白くなりそうだな。鹿狩勇人、君は…」
どうやらこの食堂は、村民に非常に人気の高いらしい。
カウンターでは常連だと思われる客と、店主の他愛無い雑談が繰り広げられていた。
「最近の野菜って高くないか?」
「ほんとそれだよ!野菜を仕入れようにも、最近トマト一個で300円を越えてきたんだよ!」
たっか…
思わず声が漏れそうなほどの値段が店主の口から飛び出した。
「というか…」
この異世界の雰囲気とさっきの会話は、なんともマッチしない気がする。
違和感の正体は…?
円…!?
よく考えれば異世界で円なんて通貨があるはずがない…
それ以前にこの世界の住民は皆日本語を使っている。
異世界なら異世界独自の言語があるはずだ。
この異世界と日本は深い関わりがあるってことか…
ただの雑談でも情報が得れる。だが、それはこの世界がどれだけ不透明なものなのかも表していた。
店主と話すためにカウンターに座ることにした。
勇人は白い目で見られるか不安になりながら座った。
「おう!兄ちゃん!この店は初めましてだろ?」
「は、はい…」
店主は遠くから見たときはあまり気づきにくかったが、かなり大柄で少し俺は身震いしてしまった。
「ここらへん来るのはじめてで、地理情報とか教えてくれると…くださるとぉ…嬉しく思うな…」
変に馴れ馴れしくしようとしてやめたせいで気持ち悪い文での説明になってしまった。
店主は驚いたような顔をしたが、すぐに穏やかな顔に戻して話をしてくれた。いや、くださった。
「ここに来るのが初めてか?じゃああれか隣町のカーダルタウンからか?」
早速知らない単語が出てきた。
「あーそうですそうです。」
適当に相槌を打って誤魔化すことにした。
「カーダルタウンってことは、お前さんとてつもない金持ちじゃねぇか!?どうしてそんなやつがこの村に!?」
選択を間違ってしまったとすぐに感じた。
「色々あったんですよ!ね!」
これまた雑に話を戻そうとする。
「まぁまぁ周りのことについてだろ?それなら俺が作ったこの地図。売ってやっても仕方ねぇぜ?」
そういうと、店主は近くにあった紙を広げてこちらに向ける。
ただの一般人が作ったかのように見えない精巧でわかりやすい地図。
「これ…店主が作ったんですか!?」
あまりの驚きに他の客も考えず大きな声を出してしまった。
「ハッハッハッハッ」
するとそれに負けじと店主の方も大きな声で笑った。
「ほんとお前さん何も調べてないんだな!」
困惑の顔を俺は示す
「これはこの村で公式に認められている地図だ。俺がこんな器用なわけがないだろ!」
まだ笑っている。
ともかくその地図はほしい。だが、売ってやるってことは金がかかるのだろう。
一円たりとも持っていない俺は諦めようとした。
「すみません店主。俺一円も持ってないんで…」
「………」
店主の顔が急に強張った。
「お前さんもしかしてアホか…?」
急に真面目な顔で馬鹿にされた。
「もしかするとなんでバカにされてるのわかっていないのか?」
わかるはずがない。俺は変なことをした覚えがないのだから。
「アホなお前さんのためにイチから説明してやる。」
「お前がこの店に来た理由は何だ?」
「そりゃメシを食いに来たわけで…」
情報を集めるため…もそうだが、本命は本当にメシなので黙っておく。
「じゃあどうやってお前さんはメシを食べるつもりだったんだ?」
「…?そりゃ勿論店主を呼んで、頼む…?」
「そこから帰れるか?」
「え…?」
「お前さんがそのままメシを食って帰るつもりなら用心棒が追いかけるがいいんだな?」
―――あっ
「いや、もういいです…帰ります…迷惑かけてすみませんでした…」
あまりの恥ずかしさでこの場から逃げ出そうとした。
「おいおい逃げるなよ!」
店主は笑いながら俺を引き止める。
俺は顔が真っ赤だというのに。
「特別に無料で地図とメシプレゼントのいい話があるぜ?」
「マジっすか!?!?」
俺はやっぱり店主の言う通りアホなのだろう。
こんな甘い話あるはずがない。先程といいさっきから判断力が鈍っているのだろう。
今日一日で衝撃な出来事が多すぎたからだろう。
「じゃあまずここにサインをしてもらって…」
アホな俺は怪しむ間もなく、すぐにサインをしてしまった。
そして、今更気づいてしまった。
「なんで俺サインしてんの…?」
「ハッハッハッハッ」
「今日からよろしくな!」
よくサインをした紙を見てみた。
ここにサインした者は、桐原鷹の店で働いて金を返す。
桐原鷹という名前に、覚えはなかったが誰かはすぐわかった。
「働くって店主これはないって!!」
「あー!言い忘れてたな!俺の名前は桐原鷹。みんな店主って呼ぶけど名前ぐらい覚えてけよ!なぜなら、お前さんは俺の部下になるんだからな!」
ここで働くことはもう確定しているらしい。
ただ、働かないということはメシも地図も手放すということだ。
流石にそれはピンチだ。特にメシの方。
しかも、ここはかなり人気があるらしく情報もよく入ってくるらしい。
ここに居候していると利点が多くあることに気づいてしまった。
そうして、某名探偵のような理由で働くことに決めてしまった。
というか、理屈を長々を言ったが九割九分九厘は、今すぐメシが食べたいから。
目の前の欲望のために、後先のことを考えない俺はやっぱりアホなのだろう。
「わかった…俺、ここで働く!」
「マジか…冗談のつもりだったんだけどな…やっぱりお前さんアホだな!」
腹が立ってきた。
「じゃあお前さんの名前をまず聞こうかな。部下の名前は覚えておかないとな!」
「俺は鹿狩勇人。よろしくお願いします。」
「そうそう!敬語じゃないと給料減らすぞ!」
笑顔の仮面をつけているが、これはきっと本当なのだろう。
長話をしていたが、やっぱり腹が減ったのでまず食べ物を頼むことにした。
「じゃあこのエビフラ…」
頼んでいるときに扉の方から鈴の音がした。
扉が開くと鈴が鳴るよくあるものだ。
「おしっ!早速仕事だぞ!」
大きな声で俺を圧倒してくる。
「先にメシ食いたいんですけど!」
「従業員なんだからサボるな!」
なんとも酷い扱いだ。
とりあえず客の方を向く。
……
その客には俺は見覚えがあった。
「楓……」
「こんなところで何やってるの…?勇人くん…」
想像してたより俺たちの再会は早かった。
キャラクター解説
【桐原鷹】
年齢:42歳
出生地:ジャンベ村
好物:おふくろの作ったエビフライ
おふくろの作ったエビフライが好きで、自分もエビフライを作り始めた。
鷹の作ったエビフライは客からも評判がいいが、本人は
「おふくろには勝てねぇや」と言っている。