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ぐいぐいくる職務質問

作者: 萩乃 玲
掲載日:2023/09/10

「すみません、ちょっとお時間よろしいですか?」

 背後から声をかけられ、振り向くと婦人警官が立っていた。

 身長は160cmくらい。切れ長の目が強気な性格を伺わせる。スタイルも良く、制服も似合っていて、正直……かなりタイプだ。

「なんですか?」

「少し職務質問にご協力ください」

「はい、もちろんです。こんな遅い時間にお疲れ様です」

「ここで何をされてたんですか?」

「コンビニに行く途中です」

「お住まいはこの近くですか?」

「はい、あのマンションです」僕はこの一帯で一番高いマンションを指さして示した。

 婦人警官はそれをちらっと見て、手元の手帳にメモしている。

「名前と生年月日を答えてください」

「田辺真一、平成7年5月17日生まれ。28歳です」

「田辺真一。それでは、真一君と呼んでいいですか?」

「え? まあ、いいですけど……」

 まさかの下の名前、しかも君付け!? こういうやりとりで名前呼びってあんまりないと思うけど。でも、美人に下の名前で呼ばれるのは、まぁ……悪くない。むしろいい。

「私は冴木涼子です。平成6年7月24日生まれ。29歳です」

「え? あ、どうも」

 自分の情報出してきた!? どういうことだ??

「あの、これって職務質問ですよね?」

「質問は認めてません。私の質問にだけ正直に答えてください」

「は、はい」

「仕事は何を?」

「都内のIT会社に勤めてます」

「真一君は独り暮らしですか?」

「はい」

 君呼びされることあまりないから、気恥ずかしいな。

「私もです。彼女はいますか?」

「え?」

「彼女はいるんですか? いないんですか?」

 ここ一番の鋭い眼光が向けられている。

「いません……けど」

「けど??」

 圧がコワイヨ。

「いえ、いません」

 お巡りさんめっちゃ笑顔になった。笑顔かわいい。……僕は何を考えてるんだ。これは職質だぞ。職質だよな?

「私も彼氏いないです。絶賛募集中です」

「そ、そうなんですね」

「念のため今までの交際人数を教えてください」

「何に対する念のためなんですか? さっきからお巡りさん職務と関係ない質問ばかりしてません?」

「涼子です!」

「え?」

「私の名前、冴木涼子なので。お巡りさんだと距離が遠すぎるっていうか、だから名前で呼んでください」なんでちょっと恥ずかしそうなんだよ。こっちまでなんか恥ずかしくなるよ。

「職質に距離関係あります? てか距離遠いのが普通ですよね。それに、名前呼びはおかしくないですか?」

「そうですよね。私が間違ってました」

「いえ、わかってもらえたんならいいですけど……」

「会ったばかりですからね。じゃあ、苗字呼びからでいいです」

「いや、そういうことじゃなくて」

初心(うぶ)なところもポイント高いですよ」

「なんのポイントですか」

「私は真面目に質問しているので、あなたも真面目に答えてください。それでは続けます。今まで付き合った女性の人数は?」

「……2人です」しぶしぶ答える。

「告白はどちらもあなたから?」

「そうですけど」

「なるほど。ちなみに私は1人です。告白はされたい派です」

 聞いてないのに、冴木さんの情報がどんどん頭に刷り込まれてくるんですけど! 僕は癖で無意識に手帳を取り出し、冴木さんの情報をメモしていた。いや、念のためだ。万が一必要になったときに忘れていたら失礼だし。この情報社会、どんな情報がいつ必要になるかわからない。

「あの、職質って一方的に聴取するものなんじゃないですか? なんでさっきから、自分のことも話しちゃってるんですか」

「真一君は私のこと知りたくないんですか? 私は、真一君のこともっと知りたいです」

 急な上目遣いは卑怯だろ。そんなのずるいよ。ドキドキするに決まってるじゃん。

「……僕も、冴木さんのこと知りたいです」

 この状況がよく分からなくなっているけど、考えるのはやめた。お互いを知るということに理由なんていらないのだ。

「真一君の好きな食べ物は?」

「カレーライスです。辛口がいいです」

「私はグラタンが好きです。辛いのは苦手です。料理はしますか?」

「ほとんどしません。いつも外食か宅配を利用してます」

「栄養バランス偏っちゃうじゃないですか。私は料理好きなので、洋食も和食も大体のものは作れますよ。趣味はありますか?」

「映画鑑賞とゲームです。あまり外に出るの好きじゃなくて」

「私もインドア派です。仕事で外回りが多いから、休みの時は家に居たくて。あ、でも、彼氏と一緒なら家でも外でも楽しいです。あと、その……」

「何ですか冴木さん。なんでも聞いてください!」

「真一君は、……どんな女性がタイプですか?」恥ずかしそうに聞く姿が、とてもチャーミングだ。僕はじっくり考えてから答える。

「正義感が強くて、少し気が強くて、でも実は恥ずかしがりやな部分がある人とかいいですね」

「ふうん。あの、その……。参考までに……私みたいな女性はどう思いますか?」

「……結構、いや、すごくタイプです」

「そ、そうですか。……ありがとうございます」

お互い赤面したまま、沈黙が流れた。

「あの、もうそろそろ行かないと」

「はい。……ご協力ありがとうございました」

 冴木さんは何か言い淀んでもじもじしているが、僕もコンビニに行かなくてはならないので、楽しいお見合い……じゃなくて、職質も名残惜しいがここで終わりにする。これはあくまで、職質なのだから。

「毎日……」

「え?」

「毎日、この時間にコンビニに行くのが日課です。追加で聞きたいことがあればいつでも協力しますよ、涼子さん」

涼子さんは驚いたような表情で僕を見つめ、それから笑って言った。

「また、ご協力お願いしますね」

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