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8.家族になろう

 

 さっそく食べ歩きを・・・と、思っていたのですが無理でした・・・。


 ここで使えるお金が無かったことに、いま気づいたというお粗末さ。

 日本円ならあるけど、この町で買い物なんか出来ないよね。なんで今まで思い当たらなかったんだろう・・・。

 お財布から日本円を出すつもりだったのか、自分。さっき報酬の事を考えていた時に感じた「何かを忘れている」ってこの事だっ・・・!


 マズイ・・・。我が家に居ればお金はかからないけど、町の中で生活するのには、どうしたって現金は必要だわ。これからどうやって収入を得るか、もっときちんと考えなくちゃ。


 お弁当屋さんを始めるのだって、容器とかいろいろと必要になる物もあるだろうし、まずはどこかで仕事を探して稼がなくてはね。



 二人でしばらく町をぶらぶらと歩いたけど、買い物もできないので、日が落ちる前にまた草原に戻って我が家を出した。

 そろそろお腹も空いてきたし、今日はこのまま家で過ごすつもり。


 それと・・・私はこの半月ほど、旅をしていてずっと考えていたことがあって、それをこれからロア君に聞いてみるつもりだった。




 町から戻ってご飯の支度をしながら、そろそろポーション作りをしてみようかと考えていた。


 ポーションが作れたら薬師ギルドに売れると聞いたし、もしうまく作れなくても薬草だけでも買取りをしてくれるらしい。


 薬草は森でたくさん採取してきて【収納】にそのまま入れてある。

【収納】に入れておくと時間経過が無い事がわかったので、問題なく使えるはず。


 まずは現金収入を目指すのだ!



 お夕飯はたっぷりチーズのポテトグラタンにして、パンと一緒に食べた。ポテトグラタンの味付けはアンチョビがポイントだ。少し入れるだけで味が決まるのよね。

 ロア君が手伝うと言ってくれたので、一緒にキッチンで作った共同作品だ。


「熱っ! これビョーンってすごい伸びるんだね!」


 そう言ってグラタンを口に運ぶロア君。どうやらチーズはかなり気に入ったご様子。

 今度はチーズインハンバーグでも作ってあげようかな。



 お風呂にも入って、あとはもう眠るだけという時間になった。

 この時間はいつも二人でたわいもないお喋りしながら、お茶を飲んだりして過ごしている。



「あのね、ロア君。聞いて欲しいことがあるの」


 いつこの話を切り出すかさんざん迷い、家に戻ってからもずっと言い損ねていたが、寝る前になってようやく切り出すことが出来た。


 私が異世界から来たと言う途方もない話を、女神様からこの世界に呼ばれた理由までを彼に包み隠さず話すと、ロア君は黙って私の話を聞いてくれた。

 途方もない話だし、かなり驚いていたけど・・・すでにこの規格外の我が家を知ってるせいか、信じてくれたようだった。


 でも本当に話したかった事、ロア君に聞きたかった本題が・・・もうひとつある。


 この話をするのは私の仕事が決まって収入が出来てからとも考えた。

 でも、もし町でロア君が奴隷にされていた商人に見つかって、また彼に首枷なんかつけられてしまったらと思うと引き延ばせなかった。

 だからここは先手必勝で聞いてみることにした。



「私は今はまだお仕事はないけど、幸いなことに家はあるし畑で野菜も採れる。贅沢は出来なくても食べさせてあげる事はできるから・・・」



 彼はとても良い子だし、気も合うし・・・きっと一緒に暮らしていけると思う。もちろん彼がそれを望んでくれれば、なんだけど。



「ロア君、私の家族にならない?」



 聞きようによっては、プロポーズみたいなセリフだけど、彼に私の気持ちがちゃんと伝わるように、できるだけ率直に伝えてみる。


 奴隷からは解放されたけど、彼はまだ庇護されるべき子供なのだ。親がいないと言っていたし、このまま別れてしまったら彼の行く先はおそらく孤児院くらいしかないだろう。もしかしたら彼は路上生活者になってしまうかもしれない。

 それに孤児院だって良い場所かどうか、この国の事をよく知らない私には判断がつかない。だから・・・彼が虐げられない存在になるまでは、少しでも私が彼を守りたい。


 話をする時には緊張してあまり彼の顔を見れなかったけど、えいっと彼を見やると、彼のその美しい銀色の瞳から、ぽろぽろと涙が頬を伝っていた。


 うまく言葉にならないようで、そのまま私の胸に飛び込んできた。

 ただひたすらに、ぎゅうぎゅうと私に抱きついてくる。


「どうかな? 私の家族になってくれる?」


 彼の頭をゆっくり撫でながら返事を待つ。もう返事は聞くまでもないかもしれないけど、大事なことだから確認させてね。


「・・・僕でいいんですか?・・・僕は、獣人です」


 くぐもったような彼の声が聞こえる。


「もちろん。私はロア君がいいの。それを言うなら私なんて異世界人だけど、それでもいい?」


 ぶっちゃけ、地球で私が同じようにロア君の立場だったら「私の家族になって。私は宇宙人だけど、それでもいい?」と聞かれるようなものだろう。


 考えたら、とんでもないな・・・。

 逆の立場だったら、私はどう答えるだろうか。




「・・・僕、リサさんの家族になりたい!」


 ロア君は私を見つめ、そう言いながら最高の笑顔を見せてくれた。



「嬉しい・・・! ではあらためて、家族としてこれからもよろしくね!」


 こうして、私は異世界でとっても可愛い家族を得たのだった。





 さて、こうなったら私は早く仕事を見つけなければ。なんたって私には可愛い扶養家族ができたのだから。

 翌朝、今日は町のギルドに行ってみようという事になり、二人で手をつなぎながら草原を歩き出した。


「やっぱり商業ギルドにするの?」


「うん。その・・・冒険者ギルドとかはちょっと無理そうだからね」


 冒険者とか戦うイメージが強すぎて、自分には向かなそうだというのが正直なところ。


「リサさんなら・・・」


「里紗、だよ? もう家族なんだからね。敬語もなし!」


 リサ、と呼び捨てするのはまだ照れるのか、もじもじしている。

 うちの子は本当に可愛いなぁ。


「・・・リサ、なら薬師ギルドも大丈夫だと思うけど・・・。ポーションが作れるでしょ? 薬草やポーションを納められるなら薬師ギルドで登録ができるよ」



 そうなのだ・・・。私は問題なくポーションを作れてしまったのだ。


 昨日はストックしてあった薬草を使って、さっそく初級ポーション作りにチャレンジしてみた。

 薬草をお鍋でぐつぐつしたり、濾したりとお料理の延長のようだったが、女神様の【知識】通りに作って、最後に魔力を注ぐと問題なく【ポーション 初級】という代物が出来あがった。


 ちなみに私の魔力っていうのは、目視ができなくて本当に魔力なのかさえ、自分ではよくわからない。

 お鍋に向かって「いでよ、私の魔力!」と、出来上がったポーションの素に手をかざしただけ。

 なんとなく暖かい感じが手のひらから出たような感じがしたけど、それだけだった。


 私はもっとこう、目に見えるような派手なエフェクトを期待していたのだけど・・・。キラキラしたり目で見える何かを期待していたのだけど!



 ちなみにロアは変身はできるけど、魔法は使えないらしい。

 獣人さんって種族的にあまり魔法を使えないんだって。

 魔力がほとんど無いって言うけど、私から見たら変身できる事がもうじゅうぶんに魔法だと思う・・・。



 そんなこんなで、ポーションは作れた。【鑑定】で確認したから、問題ないはず。


 むしろ問題はポーションを小分けして入れるガラス瓶が足りないことだった。

 流石に空いたペットボトルに入れるのは問題がありそうなので、とりあえずハチミツやジャムの空き瓶に入れておいた。

 なので、数本程度ならギルドへ持っていける。


 ちなみに、残りのポーションはお鍋ごと冷蔵庫に保管してある。

 そういえばポーションは、作ってからどのくらい効能があるものなんだろう? 消費期限ってあるのかしら・・・。



「薬師ギルドか・・・うん、ダメ元で行ってみようかな」


 ポーションについて聞いてみたいこともあるし、薬師ギルドが適当だろう。

 このポーションが、ちゃんとした製品として認められる出来だと良いな。あといくつか薬草もリュックに入れてあるから、それだけでも買い取りしてくれたら有難いし。


「薬師ギルドはここから近いんだよ、さっそく行ってみようよ」


 私はロアに手を引かれつつ、歩き出した。


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― 新着の感想 ―
[一言] アンチョビ美味しいしピザとかもアンチョビピザ好きなんだけど独特の風味のせいか周りは分かってくれないから辛い。後不漁のせいで前は安価に置いてたメーカーのなくなっちゃってアンチョビフィレ缶詰なく…
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