70.リアルに迷子な子猫ちゃん・・・?
空の旅では子猫のスミレちゃんも騒いだり怖がることも無く、私の腕の中でスヤスヤと眠っていた。
おかげでスムーズに、そして速やかにベルナール領まで帰ってこれた。
早速レティ様にスミレちゃんを紹介すると「まぁ、なんて可愛い子猫ちゃん!」と目を輝かしておられた。こちらの執事さんもタウンハウスの執事さん同様に、子猫を見て目を糸のように細くして微笑んでいる。
うん、これは二人ともモフ好き確定ですね。
ホークさん達はこれからどうするのかと思ったけど、当面はこのベルナール領に居てくれるみたい。今の時期は北方の大地は極寒なので、こちらの方が過ごしやすいとの事だった。
「せっかくだ。もう少し南に行くのも良いな」と言ってた。
それってもしや南の島ですか?
そういえば南の島って竜が住んでるとか。できれば私も竜さんを遠くからなら見てみたいなぁ。ただし穏やかなタイプだったら、という条件はつきますが。・・・コワイ竜さんでしたら遠くから見るのも諦めますけども。
ホークさんに、またエルフの国とか一緒に行ってもらえるか聞いてみたら『むろん、旅はいつでも良いぞ』と言ってくれた。カナリアさんも『運動不足解消に、ちょうど良いですわ!』とウエルカム状態だった。
良かった、それだったら気兼ねなくお願い出来るかな。有難い。
一息入れてから、石けん作りの準備でもしようと、初めてスミレちゃんを我が家に連れて行った。
腕に抱えて我が家に入ると、スミレちゃんは目を見開いて驚いて、最初に会ったロアの時のようにカチコチに固まっていた。
あまりにカチコチに固まっているので、ここぞとばかりに肉球をむにむにと揉む私。すると・・・
「しゅごいです・・・」
「え・・・?」
いま、胸のあたりから声が・・・。
・・・まさかね?
そんな私の思いとは裏腹に、次の瞬間ひらりと私の腕の中から飛び降りたスミレちゃんは、そのまま着地すると二本足で立って、目の前をトテトテと歩いた。
「えぇぇ・・・?!」
「ごめんにゃさい。ぼくね、ねこさんじゃないの。猫妖精にゃんです」
猫・・・妖精・・・だと?
「猫妖精はだめにゃ?」
こちらを見上げながら、そう聞いてくるスミレちゃん。目にはいっぱいの涙を溜めている。
となりでロアが「やっぱり・・・。どうも変わった気配がすると思ったんだ・・・」と呟いていた。ロアさん、君は匂いでそんな事が分かるの? すごいな?!
「駄目じゃないよ。駄目じゃないけど、驚いたよ・・・。一体どうして猫のフリを・・・?」
「ぼく、あのおおきいところで、かくれてたの」
そう言って、彼は語り始めた。
彼は猫妖精族で、ヴィオ君と言う名前らしい。
ロアのように完全に人にもなれるし、猫にもなれる稀少種族だそうで、普段は猫の姿なんだって。
人間の姿にもなれるよ、と変化した彼は、3、4歳くらいにしか見えないお子ちゃまだった。どっちの姿も可愛い過ぎる・・・!
王宮内で私を見つけた彼は、どういう訳か私がキラキラして見えたらしい。なんでも彼らは女神様の神力が視える一族だそうで、私が他の人とは違って見えたのだとか。
とにかくそれで必死に追いかけて、私の目に留まるよう馬車の前に飛び出たと・・・。あのお馬さん達はさぞ驚いたことだろう・・・。
その彼の故郷は、お隣の獣人の国にあるというのだけど・・・
「そもそも王宮に居たのはどうして?」
「おそとでひなたぼっこをしてたら、ヒトにつかまっちゃったの・・・」
あれか・・・人攫いならぬ、猫攫いか・・・。
「はこにいれられて、ずっとにげられにゃくて・・・」
どうやら王宮で、商人から王妃様への献上品のひとつとして贈り物とされたらしいけど、侍従さんが確認のため箱を開けた隙を見て、なんとか逃げたのだとか。
そっか・・・大変だったね・・・。
もしやその商人、まさかロアの主人だったという悪徳商人と同一人物じゃないだろうか・・・いや、流石にそうとは限らないか・・・。
「ぼく、おうちにかえりたいの・・・」
そう言ってポロポロと涙を流すスミレ・・・もとい、ヴィオ君。
あああ泣かないでーーー!
思わず抱っこしてよしよしと頭を撫でる。小さな手でぎゅむぎゅむとしがみついてくるヴィオ君に、思った事はひとつ。これ、私なら力になれるのでは・・・? 思わず隣にいるロアを見てしまう。
「獣人の国に行って、ヴィオ君をお家まで送ってあげたいけど・・・ダメかな?」
「・・・またリサは・・・。体調は大丈夫なの?」
やっぱりロアの過保護モードがまだ継続中だった・・・! 本当に大丈夫だから、そんなに心配しないで・・・!
そして私の体調に問題が無ければと、ロアはしぶしぶではあるけども承知してくれた。
「大白鷲さんに協力をお願いしてみようと思うの」
あとは困った時のルーカス様だ。
ルーカス様の執務室にお邪魔すると、部屋に入るや否や「何かあったのか?」と、言われてしまった。
私がここに来ると、何かがあると思われてしまっている気がする・・・。まぁ当たらずとも遠からずだけども。
「この子猫なんですが・・・」と、ヴィオ君の事をお話した。
「猫妖精・・・?」
ルーカス様は唖然としていたけど、すぐに理解してくれたので話が早かった。
「では大白鷲殿に乗って行くのだな?」
「はい。お願いしようと思います」
「ひとつ相談なのだが・・・エルフ国へ訪問の同行依頼があるのだが、それはどうする?」
「えーと、それはいつ頃になったんでしょうか?」
「急だが先発隊は来週末に発つことになった。先行して野営の準備を整える者達だ。それでもエルフ国まではひと月ほどかかるだろうが」
森の中を行くなら、ホテルとか無いだろうしね・・・荷物を運ぶのも大変だろうな。
出発は思っていたよりもかなり早いけど、ホークさんで合流すれば十分に間に合うよね・・・うん、行きます!
「よし。それでは王妃様に頼まれた石けんは、出来上がったら私が預かろう。私は来週も王宮へ行くからね」
確かにラッピングしたりする時間も必要だろうし、用意は早い方がいいよね。了解です!
ホークさんとカナリアさんにもお話して、獣人の国まで行ってもらえる事になったので、ヴィオ君に少しだけ待ってもらえれば・・・。
「ほんとに・・・ぼく、かえれるにゃ?」
「うん。私達と一緒に行こうね。大白鷲さんが獣人の国に行ってくれるって。ちょっと用事があるから一週間くらい待ってもらえるかな?」
「ぼく、まつのへいきにゃの!」
ヴィオ君は飛び上がって喜んでいた。
そして「そのごようじってにゃぁに?」と、上目遣いで聞いてくる可愛らしいヴィオ君に悶絶している私を見て、ロアから「リサ、少し落ち着いて・・・」と言われてしまった。
でも、これは・・・、こればかりは仕方がないんだ・・・!




