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【閑話】リサさん(ロアン視点)

 

 隣からはもうスースーと寝息が聞こえる。

 今日は相当疲れたんだろうな。さっきのご飯もあまり進んでいなかったし・・・。


 リサさんは親切で、優しくて、そしてあったかい。


 初めて会った獣人の僕を普通に受け入れて、優しくしてくれた。それに僕の言う事をそのまま信じてくれるんだ。疑う事を知らないみたいで・・・あまりにお人好しで、少し心配になる。

 僕はここまで悪意のかけらもない人間に会ったのは初めてで、親切にされてすごくすごく嬉しいのに、むしろ戸惑ってしまう。



 僕に両親の記憶は、残念ながら残っていない。

 自分には幼い頃に奴隷になってからの記憶しか無いけど、今まで出会った人は誰もこんな風に優しく接してはくれなかった。

 奴隷仲間だってみんな自分のことで精一杯だったし、奴隷の主人は僕ら亜人を同じ人と思わないような嫌な人間ばかりだった。


 でもリサさんは違う。僕に何も求めず、ただ与えてくれる。・・・どうしてなんだろう。



 このあたりの国は人族も亜人族も、たいてい15歳が成人と見なされる。

 もう成人していると言っていたから、リサさんは16歳くらいなのかな。少なくともリサさんの言っていた20歳にはとても見えない。


 そういえば、リサさんは貴族様ではないとも言っていた。

 肌も髪もきれいで、町では見た事も無いような服を着ていたから、てっきりどこかの貴族様かと思ってたのに・・・いや、本当はやっぱり貴族様なんじゃないのかな。だって庶民にはどうやっても見えないもの。


 でもリサさんは、僕が知っている貴族とは違う。偉そうなところとかは少しも無いんだ。

 大抵の貴族は偉そうにふんぞり返っているし、少なくとも僕の見た貴族はそういう人間ばかりだった。



 あの時。

 ぼくが魔獣から必死で逃げていた時、この森の中に家なんてどこにも見えなかった。

 でもどこからか「こっちよ」という優しい声が聞こえて、僕はその声を目指して必死に走った。


 必死に走って、何か見えない壁を抜けたような気がしたその瞬間、突然リサさんが現れて僕を抱きとめてくれたんだ。そしてそれまで僕をしつこく追いかけてきた魔獣はその見えない何かにぶつかって、そのまま動かなくなった。

 あれは何だったのだろう。彼女の魔法だろうか。



 リサさんが家の中に入れてくれた時は驚いて、僕はそのまま固まってしまった。だってそこは今まで見た事も無いような、とても不思議な場所だったから。


 驚いて思わず獣化を解いてしまった僕だけど、彼女は驚いただけで変わらず優しかった。


 見ず知らずの怪しい、しかも獣から変化をした僕に美味しいご飯をご馳走してくれた。

 僕はあんなご馳走を食べたのも、そしてご飯をお腹いっぱい食べたのも生まれて初めてで・・・。


 あとあのオフロというのは気持ちが良くて、眠りそうになるのを我慢するのが大変だったな。


 そう、そこで更に驚くべき事が起きたんだ。


 僕の首にあったあの忌まわしい奴隷の首輪が突然はずれたんだ。そして同時に額の奴隷紋も消えていた。

 その時、今まで僕の身体を縛るようにあった見えない鎖も一緒に消えたような気がしたんだ。


 でも、普通そんなのありえない事なんだ。

 あの奴隷の紋も首輪も、本当に死ぬまで取れないと言われていた。それに無理に壊そうとすれば死んでしまうとも。



 ・・・今でも鮮明に思い出す。

 僕が忘れたくても、忘れられない出来事がある。


 昔、奴隷仲間のひとりが無理に首輪をはずそうとして、首が飛んだんだ。

 本当に、首が体から離れちゃったんだ・・・。


 その時に居合わせてしまった僕ともう一人の奴隷仲間は、あまりのショックでその場で気を失ってしまった。


 気がついたら馬車に寝かされていたけど、しばらくは何を食べても吐いてしまって、今よりも痩せて骨と皮だけになってた時期があった。

 あの記憶はいまだに消せないし、いつも頭のどこか片隅に消えずにある。



 だけど幸運な事に、僕にはもうあの忌まわしい首輪は無い。

 助かったんだ。いや、僕は助けてもらったんだ・・・。


 リサさんは魔獣から命からがら逃げていた僕を何の見返りもなく助けてくれ、奴隷からも解放してくれた。

 きっとリサさんとの出会いは、僕の人生で一番良い出来事だったに違いない。



 今、驚くほどふかふかのベッドで、僕はリサさんのとなりで寝ている。

 僕は今こんなに幸せでいいのだろうか。



 これからリサさんと町に向かう。

 町に行ったら・・・ちょっと抜けたところのあるリサさんだから、色々と心配だ。

 何より町では変な男が寄ってきそうで嫌なんだ。

 僕がしっかり守ってあげなくっちゃと思うけど・・・僕はいつまで一緒にいられるのかな。



 ・・・ずっと一緒だったらいいのに。



 そんな事を考えながら、僕はやさしい眠りに落ちていった。


 明日もきっと幸せに違いないと思いながら。


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