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6.とりあえず出発

 

 迂闊だった。


 ここで使えそうな移動手段が無い。頼れるのは自分の足だけ。


 たとえ車や自転車があっても、走れる道が無いのだ。

 なにせここは森の中。田舎道でもなく、ケモノ道しかないような場所だもの・・・。



 そこで、困った時の女神様からいただいた【知識】様サマです。

 何か良い方法がないか調べていると、魔法のジャンルに転移魔法と身体強化というのがあった。


 転移魔法はワープのようなもので、かの有名な猫さんのどこでも行ける扉っぽい。

 これができたら素晴らしい!と喜んだが、一度行った場所でないと移動先に指定が出来ないらしい・・・。

 要するに、使えたとしても一度は現地に行かなくてはならなかった。

 あとこれは魔力量がモノを言うようだが、果たして私に出来るだろうか・・・。不安しかない。


 もうひとつの身体強化というのは、元々の体力や能力を増強させるものらしく、鍛えていない私には効果がたいして望めそうになかった。無念だ・・・。



 やはり自分の足で歩くしかないのね・・・?

 でも運動なんてほとんどしない私に、何日も歩き続けるなんて出来そうにない。私は積極的にランニングや山登りとかするタイプではないのだ。

 うぅ、日頃の運動不足に目を瞑っていたツケが今ここに・・・!


 せめて休み休み移動ができたらいける?

 でもちゃんとした装備もなく、魔獣だらけの森を歩くなんて厳しいよね・・・。



 ・・・待って?!

 そうよ、女神様が『この家は移動ができる』と言ってたじゃない。

 私には収納魔法がある!


 家を収納した後にまず出来るだけ歩いて、限界がきたらそこに家を出したら?

 それだったら荷物を持たず身軽に歩けるし、普通に生活も送れて、何も問題がない!


 これだ!!

 女神様、ありがとう!!!



「ロア君、私も町まで歩いて行けるよ!!」


「えぇ・・・?」


 心配そうな彼に、かくかくしかじかと説明する。



「家を・・・収納して持ち運ぶ? 好きな場所にまた出せる・・・?」


 目を白黒させるロア君に、実はそういう事が出来るのだと話してみたら、ものすごく驚かれた。

 あと、ものすごく難しい顔をされた。


「それ、僕に言って良かったんですか? ・・・そんな魔法は今まで聞いたこともありません」


 はた、と我に返る。

 嬉しくてぺらぺらと話してしまったが、オープンにしては不味かっただろうか。

 でも相手はロア君だし・・・。


「他の人には内緒にしてもらえたら、助かるかな・・・」


「こう言ってはあれですけど、僕だって知りあったばかりなんですから。もっと気をつけないとダメですよ・・・?」


 うぅ、ごもっともです。以後気をつけます。

 ロア君って本当にしっかりしてる。本当に10歳なの・・・? これではどちらが大人か分からないよ・・・。


 そうして私は異世界転移をしてからものの数日で、早くも引越しをする事になったのでした。




「では、お家を収納しまして・・・いざ、しゅっぱーつ!」


 家は問題なく収納できたので、そのまま出発する。

 ちなみに家の出し入れが問題ないのは事前にちゃんと確認済だ。家を収納したは良いけど、ササッと出せなかったら逃げ込みたいという時に困るものね。


「リサさん、森は魔獣だけでなく危険はいっぱいありますから、気をつけて進みましょう」


「わかりました! ではロア君、道案内をよろしくね」


 とりあえず行ける所までと思い、最初は浮かれて歩き出した私だったけど、出発して10分で後悔しました。

 だってこの森、そこいらにいる生物が巨大なのよ・・・!

 植物や動物もそうだけど、何より虫が!!!

 普段から畑仕事をお手伝いしていたから、多少の虫には慣れていたつもりだけど、あのサイズは・・・無理っ! 無理ですっ!


 目の前を大きなムカデみたいのやら、クモやらあれこれ色々が!

 思わず口から悲鳴が出そうになるのを抑え、神経をゴリゴリと削られつつ森の中を歩いていると、気力も体力もあっという間に尽きてしまった。


「お願い、戻ってきてマイハウス~~~~!」


 早々に音をあげた私は、1時間も歩けず我が家に逃げ帰ってしまいました。



「リサさん、大丈夫ですか?」


 ぐったりしている私にロア君は変わらずやさしい。



「ゴメンね、思っていたよりもきつくて・・・。出発早々に音をあげちゃったわ・・・」


「急がなくて良いんですから、大丈夫ですよ。無理をして怪我をしたら大変です」


 ロア君・・・! この子はなんて紳士なのか。

 彼が大きくなったら相当モテるに違いない・・・。


 でも本当にここ異世界の森はケタが違う。

 虫やら動物やら、ここは色々な生き物の宝庫なんだよね・・・。大自然を舐めていてすみません。

 それにしてもこのペースじゃ、いったい町まで何日かかることやら・・・。


「無理しないでゆっくり行きましょう。町は逃げませんから」


 ロア君。君は本当に私よりも年下なのか。

 そして10歳の子に慰められてる自分よ・・・。


「ロア君って本当に10歳?」


「はい。たぶん、ですけど。そういえばリサさんは・・・?」


 おっと、そうだよね・・・気になるよねぇ。うーん、私の年齢かぁ・・・。



「20歳くらいかな・・・」


「見えません」


 キッパリというロア君。そっか、やはり見えないか・・・。



「ねぇ、私って何歳くらいに見えるの?」


「・・・人族だったら、15~16歳でしょうか・・・」


 ティーンエイジャー!!

 いやいやいや、しかも15歳か16歳って・・・嘘でしょう?

 アジア人は小柄で欧米人から見たら幼く見えるのは知っているけど・・・あ、もしかしてこの世界の人族は欧米人タイプなのかな? それとも基準からしてこの異世界では違う?


 時計の進み具合が地球と変わらない感じがしたけど、1日はともかく1年が500日くらいあるとか?

 いや、【知識】さんで調べたら、1日のサイクルはおおよそ24時間で1年は360日とあったから、ほぼ一緒のはず。


「あとリサさんの黒い髪って珍しいですね。この国ではあまり見かけないです」


「そうなの?」


 この黒髪で下手に悪目立ちしたら嫌だなぁ。


 ・・・ちなみに、もう年齢には触れないことにした。忘れてちょうだい・・・。



「人族の髪は金色や茶色が多いんですけど、黒髪の人は少ないと思います」


 人族は茶髪・金髪が多いって・・・やっぱり外見が西洋人ぽいなのかな?

 でも獣人族などの亜人族と呼ばれる彼らは赤・青・緑・黄とカラフルらしいけど。あとエルフやドワーフなら黒髪はいるそうだ。


 ちなみに、この国は人族の国だからか亜人族は少ないらしい。

 獣人さんもだけど、エルフとかドワーフはファンタジーの王道だよね。他の亜人さんにもいつか会えるかしら。お友達になれたらいいなぁ。



 我が家で少し休憩をしたのち、また歩き出してみる。

 虫はともかく、森はキノコや薬草の宝庫で、【鑑定】で見つけては採取しながら歩いていく。

 ちなみにこの【鑑定】は、どうやら私の使えるスキルのひとつのようで、気がついたら女神様の【知識】に派生していた。


 歩きながらロア君に町のことや色んな事を話してもらって、だいぶこちらの世界の事がわかってきた気がする。女神様の【知識】でも調べられるけど、やっぱり実際に生活している人から聞く知識はまた違うね。


 さて今日はここまでにしよう、と日が落ちる前にまた家に戻る。

 安全な場所がいつでも出せるのは最強だね。こうしてお風呂にも入れて、我が家ってすばらしいなぁと思う。ここはもう女神様にひたすら感謝です。



 長時間の慣れない森歩きで疲れたので、夕食は簡単なお鍋にした。

 お野菜と豚肉を味噌仕立てで煮込んだだけの簡単な一品だ。メインが豚さんで続くのは許して欲しい。


 お味噌もロア君はお気に召したようで、やはり遠慮がちだったけど、私が勧めるとおかわりをしていた。

 あとシメの雑炊も美味しいと好評でした。

 彼もお米に抵抗がなく、むしろ好きみたいで、私と食の好みが合ったのは良かったな。



 今日も当たり前のように二人一緒にベッドに入ると、疲れていた私はあっという間に眠りに落ちていったのでした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 現実でも田舎の虫とかマジでデカいから都会か出て来ていきなり見かけると固まるよね…。蛾とかヤバい。
[一言] 街に行きたいというのは、わかるけど、先立つものを女神さんから頂いているのかな?まさか無一文で街に行こうとしているのかな?
[一言] 「ゴメンね、思ったよりキツくて早々に音をあげちゃった・・・」「急がなくて良いんですから、大丈夫ですよ」 せめて、動く前に家の周りで少しは身体を鍛えるとか、身を守る何らかの手段を確保するなど…
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