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5.どうしたものか

 

 お昼寝から覚めた彼は、まだ寝ぼけてるみたいで周囲をキョロキョロと見回していた。

 がばりと起き上がると私を見つけ、てててっと走り寄ってきた。


「ごめんなさい。僕、寝ちゃってました・・・」


 そう言って私の腰にくっついてきた。目がしょぼしょぼしていて、まだかなり眠たそう。かわいい・・・。



「もっと寝てて良かったのに。慣れないお風呂で疲れたでしょう」


 そう言いながら思わず頭をなでてしまう・・・髪の毛サラサラで気持ちいい。子供の髪の毛って柔らかくてずっと撫でたくなるなぁ。


「あの・・・よかったら僕のことはロアって呼んでください」


 もじもじしながら、上目遣いで言うのは反則だ。可愛すぎる・・・!



「わかったわ。じゃぁロア君も私の事も里紗って呼んでね?」


「はい、リサさん」


 そうお返事してくれたロア君は、ちょっぴり照れているようで可愛かった。

 お互い呼び捨てでもいいかと思ったけど、まだ知り合ったばかりだし、まぁそれは追々、かな。




 食事まではまだ少し時間があったので、ロア君に近くの町の事などを聞いてみた。


 どうやらここはグラニスタ王国の中にあるベルナール領という所にある森らしい。

 治安はそこそこ良さそう、という印象を受けたけど、数日前にこの世界に来たばかりの私には正直判断がつかなかった。


 その話の中で知ったのだけど、このグラニスタ王国にはやはり奴隷制度というのがあるそうだ。


 私は奴隷というだけで酷い扱いを想像してしまったけど、この国ではきちんと法整備がされている奴隷制度で、食事や最低限の生活は保障されているのだそう。そしてそれが生活に密着している事を知ったのだった。

 ただ、引き取られた所によっては待遇が違うように感じる。流石に全部の雇い主が良い人ばかりではないだろうしね・・・。


 奴隷を売り買いする所は奴隷商というらしい。

 食べるのにも困った家が子供を飢えさせないように奴隷として売ることもあれば、借金などで立ち行かなくなり、自らを奴隷商に売る事もよくある話なんだとか。


 それとは別に犯罪奴隷制度というのもあって、これは殺人や強盗などの重罪を犯した者が、牢に入れられる代わりに鉱山など過酷な環境下で強制的に労働をさせられる。・・・ちなみに解放されることは殆ど無いとの事だ。


 ロア君が奴隷になったのは幼少期だったため、理由や経緯は覚えていないと言う。

 いままで商人の下で奴隷として朝から晩まで働き、ずっと馬車で移動生活をしていたらしい。

 それでも寝床があって、最低でも日に2食は食べれるから路上生活よりマシだ、と彼は言うのだけど・・・。


 街にある孤児院などもあまり良くない状況のようで、どこの街でも孤児は多く、路上にもあふれているそうだ。

 この世界は厳しく、飽食の日本とは違う。食べるのに事欠く人間も少なくは無いのだろう。



 そういえば、あの奴隷の首輪。

 ロア君の説明によると首輪はやはり魔法具のようで、奴隷本人が命を落とすか、主人に解放されるかのどちらか以外は決して外れないものらしい。

 もし無理やり外そうとすれば、額の奴隷紋の魔法が作用し、命を落とすというのだから恐ろしい・・・。


 今回は偶然か、それとも魔法具に不具合があったのかは分からないけど、幸いな事に首輪は外れた。

 これは私の勝手な想像にすぎないけど、商人がロア君を捨てた時点で[奴隷を放棄した]という事になって首輪が外れたのではないだろうか。


 何にせよ、もう彼を縛るものが無いのなら、これからは自由に生きて欲しいと思う。



 でも奴隷として働いていた彼に、これから良い働き口はあるのだろうか。

 彼はまだ10歳の子供なのだ。日本だったら保護対象の、大人に守られるべき年齢だ。


 なので彼の話を聞けば聞くほど、私はこのまま彼を町には帰したくないと思ってしまうのだけど・・・。



 考え込んでしまった私をロア君が心配そうに見ていた。


「リサさん、どうしたんですか?」


「うん・・・私もね、お仕事を探さなくちゃって考えてたの」


 私も見た目が若返っちゃったけど、さすがに未成年じゃないから、ここでも仕事は探せるよね?


「リサさんは、貴族様ですよね? 働くんですか?」


「えぇっ!? まさか! 私は普通の庶民だよ」


 そっか・・・そうだ、この世界は階級制度もあるんだね。王政の国だから当然か。

 時間のある時にもっとこの国の事を調べておかなくちゃ、何かとんでもない失敗をしそう。



「でも、このお屋敷は凄いです。あのオフロなんて僕は初めて見ました!」


 確かにこの世界の家じゃないから、我が家は色々と規格外だろうね・・・。こちらの世界の家はまだ見たことが無いけれど、いままでの彼の驚き方を見る限り、かなりの違いがありそうだ。



 その夜はご飯を炊いて、豚の生姜焼きとポテトサラダにした。

 これもロアン君は美味しそうに食べてくれた。白米のご飯は見るのも食べるのも初めてらしいけど、かなり気に入ってくれたみたい。


 ちなみにこの世界ではパンが主食で、たいてい岩みたいにカチカチの硬いパンのようだ。

 あと様々な商品を扱う商人の所でさえ、お米を見たことが無いと言っていたから、この家にお米のストックがあって本当に良かった。やっぱりお米は毎日食べたいもの。


 お味噌やお醤油とかの調味料だって家には一通りあるし、女神様の言う通り使っても減らないとしたら、日本食には困らないはず。

 自分でお味噌やお醤油を作るのはちょっと厳しいものね。


 そういえば畑で採れたジャガイモをお夕食に出したけど、採った分はまた土の中で増えるのかな・・・。さすがにそれは家の中じゃないからダメかしら。




 その日からロア君には家に泊まってもらった。


 彼は最初「知りあったばかりの人間を、しかも男をそんなに信用したらダメです!」とかいっちょ前の事を言ってたけど・・・一体どこでそんな言葉を覚えたのか。君はまだ10歳よね?


 私だってある程度は見る目はあるつもりだ。この子は悪い子には到底思えないし、結界だって通った子だ。そして何より、彼を魔獣の森に戻すなんて事はしたくないからね。


 ただ勝手が違う家で一人で寝るのは不安だろうと思い、一緒に寝るか聞いてみたのだが、彼はしばらく悩んでいたけど、一緒の部屋だったらベッドではなく床に寝ると言う。

 でも私だけがベッドに寝て、彼を床に寝かせるというのは・・・それはちょっと私が落ち着かない。


 あいにく我が家には私のベッド以外だとソファくらいしかない。でもうちのあまり大きくないソファだとちょっと寝にくそう・・・。あと子供だと寝相が良すぎてソファから落ちちゃいそうなんだよね・・・。


 私が「ロア君に床に寝られたら私が気になって寝られないよ」と言ったら、どうやら色々と考えていたようだけど、何かを諦めたらしく、彼はもぞもぞと足元からベッドに潜り込んできた。



 そんな一日の終わりに、まだ異世界でたった数日しか過ごしていない事に驚いた。

 この数日で私の世界はずいぶんと様変わりしたものだ。


 せっかくここでロア君という知り合いも出来たことだし、この世界のことを色々と聞きたいな。

 あとできたら近くの町や村にも行ってみたい。ここでの生活スタイルがどんな感じなのか、この目で見てみたいのだ。

 ただそこが私でも歩いて行ける距離だと良いのだけど・・・。


 そんな事を考えつつ、となりのロア君の体温を感じているうちに、私も瞼が下がっていった。




 今日は朝から畑仕事を手伝ってもらう事になった。

 ロア君は畑の野菜に興味津々で、自分でも収穫をしてみたいそうだ。


 ちなみにうちの畑にある野菜も彼には珍しいものだったらしく、町でも見かけた事がないと言っていた。

 トマトやキャベツなんかも初見だったらしい。そっか、この世界には無い野菜なんだ・・・。


 あとこの国では、お芋といえばジャガイモなんだって。サツマイモとか里芋とかは無いのかなぁ・・・。

 他国だったら違う種類のお芋もあるのかもしれないけど、やっぱり食文化も色々と違いがありそうだ。



 畑で野菜を収穫しながら、彼に町までの距離を聞いてみた。


「ぼくが獣化して走っても2日位かかると思います。森の中は道も悪いので、馬でも3~4日はかかるかと」そう言われて愕然とする。


 もうこれは絶対、気軽に行ける距離じゃない・・・。



「リサさんは人族で女性ですから、徒歩だったら森を出るまで10日以上はかかると思います。さらに草原を抜けて町までとすると、半月くらいは・・・」


 無言になってしまった私に、ロア君からのダメ押しだ。


「馬はないんですよね?」



 そう聞かれたが、たとえ馬があっても私は乗れないと思うのよ・・・。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「それよりも、勝手が違う家で一人で寝るのは不安だろうと思い、一緒に寝るか聞いてみた。」 お爺さん、おばあさんと一緒に暮らしていたんだから、違う部屋に布団を敷いてあげればよいだけでしょう。出…
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