38.ホークさんは飲みたいくせに、下戸だった
我が家でお風呂に入って、ようやく一息ついた。
今日は先にお風呂に入ってしまったので、これからお夕飯だ。
大白鷲のホークさんはベジタリアンらしく我が家の野菜を齧っていたのだが、なぜか納屋のあたりが気になるみたいで、グルグルと周りを旋回したりしていた。
そんなに気になるのならば、と納屋を開けて中をお見せする。
すると・・・
『あれは・・・も、もしや酒ではないのか?!』
え? 見ただけでお酒ってわかるの?
待って。それより大白鷲さんはお酒が飲めるの・・・?
「これは我が家の梅で漬けたハチミツ梅酒なんですが、何を間違ったかエリクサーになっちゃったみたいなんですよ・・・」
『うむ、あの輝きはそうであろう。神酒のような神々しさがある。我も久しぶりに見た』
そう言いつつもホークさん、梅酒から目を離さないね・・・。
「良かったら飲んでみますか? 実は私もまだ味見していないんですけど、一応もう飲んでも大丈夫みたいなので」
『うむっ! ぜひ我に賞味させてくれ!』
・・・被せぎみにお返事が。
その大白鷲さん、笑うと目が線になってちょっと可愛い。普段はコワモテなのに・・・とか妙な発見をしつつ、納屋から梅酒の瓶を持ってくる。
しかしどういう器に出せば飲みやすいんだろう。コップだと飲みづらそうだから、深皿とかでいいのかな?
ストレートは流石にアルコールがキツイかもしれないので、今回はお湯割りにしてみようかな。一応、季節的には冬だし。
器に梅を一粒入れ、梅酒をたふたふと。そこにお湯を注ぐと、ふわりと梅の良い香りが広がった。
「ホークさん、どうぞ」
『うむ、頂戴する!』
嘴を傾けるようにして上手に梅酒を飲むホークさん。
うーむ、器用だなぁ・・・。
そして、ひとくち呑んでから一言。
『うまーーーーい!!! なんという味わい! この馥郁とした香り! 豊かな味わいとコクが甘味と酸味が絡み合い、なんとも優雅。まるで香りの宝石箱のようだ!』
良かったです。いや貴方はそんな饒舌な方でしたっけ?
・・・しかもグルメリポートまで出来るんですね。
ひとしきり梅酒に舌鼓を打ったホークさんは、酔いが回って来たのかご機嫌になって「我は眠る」と言ってお庭のシンジュの木の下で丸まってしまった。
うん、酔っ払っちゃったんだね・・・。
梅酒一杯で気持ちよくなっているホークさんは、そこまでお酒に強くないようだ。
あれ? そういえば、エリクサーって何でもない時に飲んだらどうなるの? ただのお酒?
・・・ま、いっか。
女神様の眷属なんだし、飲んでも問題ないでしょう(という勝手な推測)。
それにしてもわざわざシンジュの木の側で眠るなんて、もしかしたらホークさんは真珠ちゃんとお友達だったりするのかしら。
今日はまだ真珠ちゃんには会っていないので、明日の朝お水をあげる時に聞いてみよう。
女神様繋がりの眷属ネットワークとかありそうだもの。
さて、気を取り直して私はロアとご飯を食べよう。
「ロア、お夕飯は何が食べたい?」
「うーんと、うーんと・・・僕ハンバーグが食べたい!」
オッケー、ロア君の大好きなチーズインのやつですね!
冷凍してあったハンバーグを焼いて、付け合わせに人参のグラッセとポテトの香草焼きを添える。あとほうれん草のバターソテーも欠かせない。
うん、彩りバッチリ。ちょうどご飯も炊けました。
スープは余りもののお野菜で作ったコンソメスープ。
美味しいね、と二人でニコニコお夕飯。
旅の途中でもお風呂に入れて、ご飯もしっかり食べれる。おまけにベッドで眠れるなんて、本当に贅沢だ。
空の旅は大白鷲さんのお陰で驚くほど快適だし、もう最高です。
そしてお夕飯の後は、ぬくぬくのベッドに転がると、ロアとお喋りしながら眠りについた。
翌朝、日が昇ると同時に目が覚めると、すでに大白鷲さんが起きていた。
「大白鷲さん、おはようございます。朝ご飯はどうしますか?」
『畑の野菜をいただこう。ここのは格別に美味い』
「お好きなだけどうぞ。あ、お水はここの桶に出しておきますね」
『うむ。すまぬな』
私はシンジュの木にお水をあげる。幹に触れていると、真珠姫が出てきた。
『まま、おはよー!』
「おはよう、真珠姫」
今日も真珠姫は可愛いな。
『あれ? しろわしさんがいるー』
「ホークさんを知ってるの?」
『えっとね、あうのははじめて。おじいちゃんのおともだちー』
「へぇー、真珠爺様の・・・」
あの真珠爺様は交友範囲が広そうだから驚かないけども。
もしかしたら女神様の眷属って他にも沢山いるのかしら。
「真珠姫は他に女神様の眷属さんって知ってる?」
『うーん・・・あったことはないけど、ほかにもいるよー』
他の眷属さんにもいつか会えたりするのかな?
・・・いや、そんな簡単には会えないか。
『まま、おじいちゃんよぶ?』
「え?」
『おじいちゃんがね、ここにくるって』
「いいけど、どうやって来るの?」
ここは我が家だから、私の許可が無いと外部からは入れないはずだけど・・・
それにどうやって来るのかしら? と首を捻っていたらシンジュの木が光り出した。
ポワワワワ・・・・ポン!
そんな音と共に姿を現したのは、その真珠爺様ご本人だった。
「真珠爺様、どうやってここに!?」
『ふぉっふぉっふぉっ、驚いたかのぅ?』
いや、驚きましたよ、本当に。
てっきり真珠爺様は神樹の木とセットで、動かないものだと思ってた・・・。
『ふふん、儂らはな、神樹があるところには一瞬で移動が出来るのじゃ』
えーそうなんだ。やっぱり眷属さん独自のネットワークがあるのかな。
『ここにホークがおらなんだか?』
「あ、はい。あちらに・・・」
ホークさんは畑の野菜でキュウリとパプリカが気に入ったらしく、ポリポリパリパリと良い音をさせながら食べていた。
その夢中になって食べているホークさんに声をかける。
「ホークさん、王都からお客様ですよー」
ようやく顔を上げた大白鷲さんがこちらに気づく。
『んん? グラニスタの神樹ではないか! 久しいな!』
『ほっほっほ、お主も元気そうじゃな』
『ふっふっふ、娘に黄金の梅酒なるものを馳走になってな。絶好調よ』
あー、あれですか。エリクサーがバッチリ効いちゃってますね?
いわゆるエナジードリンクの超強力バージョンみたいになってるんだろうなぁ・・・。
しかも気のせいか大白鷲さんのボディがほんのり輝いてるような・・・?
『なんじゃ、お主、アレをもう飲んだのか。ずるいのぅ』
『ん? あの酒を知っておるのか?』
そういえば、真珠ちゃんから『おじいちゃんがうめのおさけがのみたいって』って聞いて、出来上がったら届けようと思ってたんだよね。
いまがその時かも?
「あの、真珠爺様、朝ですがよろしかったら梅酒をいかがですか? 出来上がったばかりですが、大白鷲さんのおっしゃる通りで美味しく出来たようなので・・・」
ちょっとエリクサー風味になっていますがね。
まぁ梅酒のカテゴリーとしても間違いではないし・・・。
『そうじゃの! わしも是非にと言いたい所なのじゃが・・・』
やっぱり朝からは流石によくないかしら?
そういえば、会社の同僚が「昼間からのビールほど背徳感があるものは無い」とか言ってたっけ。
『お主たちがエメの里に行ったら、あやつと一緒にご相伴に預かりたいのぅ』
「あやつ? あの、どなたの事でしょうか?」
『お主たちがこれから会いに行く者じゃよ。ふぉっふぉっふぉっ、それではのぅ、エメの里でまた会おうぞ』
そう思わせぶりな一言を残し、真珠爺様は消えていった。




