216.発見?
さてさて、またもや草原に舞い戻ってきた私達一行は、前回の猫寝子草を探していた時とはほぼ反対方向・・・おそらくベアちゃんが進んだと思われる方向に足を進めている。
この方向については、ロアが「あの時プギュプギュと鳴きながらこっちの横道に逸れていった」と記憶を辿ってくれ、ゾフィさんも「確かに、あちらの方へ一直線に駆けて行ったと記憶しています」と同意してくれたので。
ベアちゃんって、猪突猛進タイプだったのか。見た目はイノシシっぽくないのにね。
それにしても二人とも、この目印らしきものが少ないサバンナでよく方向がわかるものだと感心してしまう。
だって四方八方、全方向が草原ですよ? ちらほらと低木もあるにはあるけれど・・・。
ロアは野生の勘とか? ゾフィさんは冒険の経験値から?
とにかく二人の意見が一致していたので、向かっている方向は間違いないはず。
ちなみに草原に到着した直後に私が「こっちだっけ?」と足を進めた途端、ロアから「リサ、そっちは猫寝子草があった方向でもないし、ベアの向かった方向でもないから・・・」と、小さな声でそっと指摘があった。
うぅ、ショック・・・自覚は無かったけど、もしかしたら私は立派な方向音痴なのかしら。
とりあえず気を取り直し、ロア達の示してくれた方向に歩き出した次第です。
「前回の夕方よりは、今日みたいに日中の方が探しやすそうですね」
「だが魔穴じたいは、色がありませんからなぁ・・・」
そんなゾフィさんとミケネーさんの会話を聞いて、ハッとした。
私は何となく魔穴は黒っぽい穴を・・・ブラックホールのようなイメージを持っていたけれど、色が無いの?!
それでどうやって探せば・・・?
「あの、ミケネーさん? 魔穴って目に見えないんですか? どうやって探せばいいんでしょうか・・・」
私、どうかしていたわ。探そうと思っていた魔穴の特徴くらいはしっかり把握していないと!
確かに出発前にネオさんに聞いていたのは「近くに行けば判りますよ」という事だけだったけど・・・
私が慌てて質問をすると、ミケネーさんもハッとその事に気がついてくれたようだった。
「いやはや、私がきちんとご説明するべきでしたな。魔穴は魔眼でないと視えないのです。私たち妖精族は魔眼で地脈や風脈の流れも判別できますし、昔からその魔穴の存在を知っておりましたが、人族の皆さんにはまず分からないでしょう。人族ですと魔法に長けているエルフ・・・たとえゾフィでも視るのは難しいでしょうな」
「じゃぁ私だったらまず無理ですよね・・・」
探そうと意気込んできたけれど、ここは猫妖精族の皆さんに頼るしかないのか・・・。
「そうとは限りませんぞ。強い魔力持ちでしたらたとえ魔眼はなくとも、その魔力だまりの存在は感じ取れるでしょうから」
それはいわゆる「考えるな、感じろ・・・!」というアレですか?
・・・でも私に出来るかしら。
「パパにゃん、それってぼくにもわかるにゃ?」
「もちろん、ヴィオも猫妖精族だから視えるはずだ。もし足元で何かいつもと違う感じがしたら、周囲をよく探ってみなさい。魔眼であれば魔力の渦が視えるだろうから」
「はーい、わかったにゃー」
ヴィーちゃんのおめめが期待でキラキラしているね。
あといつものミケネーさんだと無茶をしてネオさんに叱られちゃうことが多いらしいけど、今日はパパとしての威厳もたっぷりだ。
ちなみに最近では、露天風呂の水中での限界かくれんぼに、こってりとネオさんに叱られていたみたい。ミケネーさんは愛情深くて家族思いなのは間違いないけど、ちょっとやんちゃなところがあるパパさんなので・・・。
「ヴィオ、どっちが魔穴を見つけるか競争だ!」
「ガオおにいちゃんには、まけにゃいのー」
兄弟姉妹の中でもミケネーさん似なのか、こちらもやんちゃ担当のガオ君。
さっそく競争を始めちゃったわ・・・。
「もしヴィオがガオより先に魔穴を見つけたらすごいわね」
「・・・そうね、すごいわね」
「でもヴィオはすぐ他の事に気を取られて、競争しているのを忘れてしまいそうだわ・・・」
うん、マオちゃん達おんなのこチームはやっぱり落ち着いているわぁ。
そしてネオさんは母親らしい的確な分析・・・。
実際ヴィーちゃんはグレンとあっちこっち行っては、この辺りの草や虫を片っ端からおててでチョイチョイしたり、かじったりしている。あ、かじっているのは主にグレンだけど。
好奇心が旺盛な子たちだから、この草原でも気になる物がたくさんあるようだ。
そう言っているそばから、二人ともひらひらと羽ばたく蝶々を追いかけちゃってる。すごく微笑ましいんだけど、はぐれたりしない様に目を離さないようにしなくっちゃ。
その後もしばらく周囲を警戒しながら歩いていたけれど、特にこれといった変化は感じられずに、けっこうな時間が過ぎてゆく。
たまに近くを小動物らしき姿が横切るくらいで、一向に魔穴の気配はない。
魔獣などにも出くわさないので、だんだんと緊張感も薄れてきてしまった。まぁこれは有難いことなのだけど、油断は禁物よね。
そういえばさっき遭遇した小動物は私にはすばしっこくてよく見えなかったのだけど、どうやら「ボーダーリス」と呼ばれているらしい。・・・それ、ただのシマリスじゃないの?
でもゾフィさんが「これがもし、ねじれた角を持つリスでしたら要注意ですよ」と教えてくれた。
どうやらそれはボーダーリスが魔獣化したものらしく、ボーダーリスとは違って凶暴なため、巷では「マーダーリス」と呼ばれているとか。
マーダー・・・って、殺し屋なの・・・? なんだか物騒な名前だわ。
「ねじれ角を持つリスは、相手の強さに関わらず目に入った動くものに対して攻撃をしてくるので、とても危険なのです。しかも角には毒がありまして、掠っただけでも皮膚がやけどをしたように爛れてしまいます。
昔ミケネーと旅をしていた時に、横から飛び出してきたマーダーリスの角が脚に刺さって、私もえらい目に遭いました・・・」
うわぁ、それは痛そう・・・。
「角が深く刺さって、あれはかなり痛そうでしたぞ・・・」
「ええ、本当に不覚をとりました・・・」
ミケネーさんがその時の様子を思い出したのか、ブルっと身を震わしている。
ゾフィさんも顔をしかめて脚を・・・おそらく刺されたであろう場所を手でさすっていた。
「あぁ、角といえば、草原では角土竜も危険ですね。これは毒性はありませんが土の中からいきなり現れますので、運が悪いと出会いがしらに鋭い角に突かれます。革でできた履物なら軽く貫通しますね」
うーん、私の履いているスニーカーなら比較的厚底だけど、強度には一抹の不安がある・・・さすがに突き抜けたりはしなさそうだけれど。
でも何より、素足のヴィーちゃん達には気をつけてもらった方が良さそうだ。
あの愛らしいあんよに怪我をさせてはいけない。これは絶対。
とにかく、ツノ持ちの小動物には注意が必要ってことね。
さらに歩きを進めても、しばらくは何もこれといった変化は見つけられず・・・。
日中の草原はかなり暑いので、そろそろ水分を取った方が良いかもしれない。近場には日陰が無かったので、その場で立ち止まって皆に水分補給を勧める。
「ねぇ、リサは何か感じる?」
「うーん、今のところは何も。ロアは何か気になる事はあった? ・・・・・・あら?」
「どうしたの?」
「あ、うん。あっちに何か陽炎のような、ぼやぁっとしたものが見えない?」
「陽炎?」
ロアが振り向いて私が指さす方を見ても「?」と首を傾げている。え、もしや見えていない・・・?
いや、私が見えて、視力の良いロアが見えないってことは無いよね?
「リサ嬢、何かありましたか?」
「ゾフィさん、あそこなんですが、ちょっと陽炎みたいなものが見えませんか?」
確か陽炎って、海とかサバンナでもある現象だよね。遠くの景色が何か光の加減で浮かんで見えたりするとか。
私は初めて生で見たので、ちょっと興奮してしまった。
「「あっ!」」
え?
ゾフィさんとミケネーさんが揃って声をあげたのでびっくりした。
「あれは魔穴ですぞ!」
えっ、あれが・・・?
ぼんやりと浮かぶように、どこか遠くの景色が見えているけれど、陽炎じゃないの?
「リサ嬢はやはり魔穴が視えるのですね・・・!」
流石です、とゾフィさんから言われたけど、私はあれが魔穴だと言われて驚いた。
だって陽炎のごとく、揺れるように見える景色が、地下迷宮への入り口だなんて思わないよね?
魔力の流れを感じるどころの騒ぎじゃない。おもいっきり地下迷宮が視えてますけど・・・
「リサちゃん、みつけたにゃ?」
「なんだぁ、ぼくたちより先にみつけちゃったのかぁ」
お水を飲んだヴィーちゃんとガオ君達が急いで近くにやって来た。
「あれにゃのー?」
「あれか?」
「ぴゅぃー?(あれー?)」
うん、どうやらアレみたいです・・・。
ご、ごめんね? 空気を読まず、私が先に魔穴を見つけちゃって・・・。
更新がお久しぶりになってしまいました・・・!
本日もお読みいただき有難うございます。また誤字など諸々のご指摘も助かっております!
ブックマークや顔文字マークもありがとうございます。うれしいですー( ;∀;)