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20.王宮の神樹とおじいちゃん

 

 いよいよ王宮に向かう日だ。

 朝は日が昇る前にメイドさんに起こされた。


 その後すぐお風呂で磨かれ、お化粧され、着飾られ・・・出来上がるまでに数時間もかかった。

 本当に朝からクタクタになったんだけど、この世界のご令嬢の支度ってこんなに大変なの・・・?


 ようやく準備が整い、ルーカス様といざ王宮へ。

 でも今回はロアとは別行動だ。

 今回は私が「愛し子」としてのご挨拶のためだから、ロアがお留守番なのは仕方がないけど、いつも一緒だったから少し寂しい。



 王宮には馬車に乗って10分ほどで到着した。

 だけど、馬車を降りて王様との謁見の場に辿り着くまでが長く、廊下を延々と歩いた。


 これはとてもじゃないけど一度や二度なんかでは覚えられない。

 ここで働くのだったら、絶対にナビが必要だわ・・・。


 そして謁見の場に到着すると、待たされることは無く観音開きの重厚な扉がゆっくりと開いた。



 衛兵に名前を呼ばれたルーカス様に続いて部屋の中に入ると、そこには王様に王妃様、宰相様が揃い踏みされていた。・・・三人の圧がすごすぎる。


 ちなみにこの国には王子様・王女様もいらっしゃるそうだけど、王子様は隣国に留学しているため不在なんだって。あと王女様はまだお小さいからこの場にはいらっしゃらないみたい。



「・・・其方が【招き人】であり、女神様の【愛し子】なのだな。そう畏まらずともよい、顔をあげなさい」


 王様から直々に声をかけてもらい、はじめて目を合わせる。


 意外とお若い・・・ルーカス様と・・・いや、エランドさんと同じくらい?

 そしてもれなくのイケおじ様です。

 お隣の王妃様も、それはもう眩いほどの美しさです・・・!


 本当にこの国は総じて美男美女が多すぎでは?

 目の保養になるので何も問題はありませんが。・・・むしろ視力が良くなりそう・・・?



「女神フローデリア様からのご神託もあったと聞く。その事はすでにベルナール侯より報告は受けているが、あらためて我らにもその時の状況を話をして欲しい」


 王様からそう請われて、私はこの世界に招かれた時のことから、女神様に神樹の話を聞いた事までを、思い出せるだけ、話せる範囲でお伝えしたのだった。




「・・・話しはわかった。ならば神樹に関してはこれから神殿の者に案内させよう」


「ありがとうございます」


 よかった。神樹をこの目で見ることが出来そうだ。



「リサさん、近いうちに是非わたくしの茶会にいらして。女神様のお話なども、貴女の居た世界の事も、もっと詳しく聞かせて欲しいわ」


「はい、光栄です。喜んでお伺いいたします」




 ふわぁ、王様方とのやりとりは緊張したわ・・・御前を下がって、ようやく普通に息ができた気がする。

 でもコルセットが苦しくて未だに立っているだけでキツイけど。本当にこの国の貴族令嬢は毎日こんなかんじなのだろうか・・・? だとしたらもう、尊敬しかない。




 神樹のある大神殿は王宮の敷地内にあるものの、少し離れているのでまた馬車での移動となった。


 神殿にはすでに先触れがあったようで、到着したら神官様の恰好をした男性が数人待ち受けていた。神官様のお召し物・・・あの肩から掛けた帯みたいの、ちょっと萌える。



「ベルナール侯、そして愛し子様、ようこそおいでくださいました」


 その中でも背が高く、どちらかと言えば騎士の方が似合いそうな男性が声をかけてくれた。

 ええ、ここでもまた美男子ですよ・・・。



「お出迎え恐縮です、神殿長様」


 ルーカス様が礼をとっている、この方があの王族という神殿長様?



「愛し子様、初めまして。ここ神殿の長を賜っております、レイモンド・グラニスタです」


「初めまして、リサ・タチバナと申します」


「こちらへどうぞ。お疲れでしょう。まずは先にお茶でもいかがですか? その後に神樹へご案内しましょう」


 そのお言葉に甘えて、私たちは庭園のような場所に案内されると、神殿長とルーカス様と私の三人でお茶をいただく。

 喉がからからだったので助かったけど、コルセットのおかげでお茶菓子はちょっと無理そう・・・。



「早速ですが、愛し子様は女神フローデリア様からご神託を頂いたとか。その時のことを詳しくお教えいただけますか? お姿は顕現されていたのでしょうか?」


 えっと・・・いいのかな? さっきみたいにお話しても。


 ちらりとルーカス様を見ると頷いていたので問題はなさそうだ。


「・・・はい。初めてこちらの世界に来た時は女神様のお声だけでした。その時にこちらの世界で暮して欲しいと言われまして・・・」


「ほう」


「そのあとは街の神殿でお祈りをした際に、お姿を拝見しました」


「・・・その、どのようなご様子でいらっしゃいましたか?」


 一瞬であったがそのお姿を見て、神殿の女神像はとても似ていたという事や、あとその時に神樹のお話を聞いた事をお話しした。



「そうでしたか・・・女神様から神樹のことを・・・」


 何か考え込んでいる神殿長だったが、他には特にあれこれ聞かれる事も無く、その後すぐに神樹の所へ案内してくれた。



 大神殿の奥、中庭のようになっている場所にその神樹はあった。

 もしかしたら、神樹を中心に建てたのがこの大神殿なのかもしれない。


 その大きさはビルで言ったら5階ほどの高さがあるだろうか、この辺りで一番大きく立派な木だ。

 その白い幹は、私が腕をめいっぱい伸ばしても抱えきれない太さのようだ。


 我が家にあるシンジュの木もいつかこんなに大きくなるのだろうか。



 でも・・・


「この神樹、少し元気がないような・・・?」


 うちのシンジュちゃんの輝きと比べて、なのだけど。


「・・・貴女にもそう見えますか?」


「いえ、あの・・・何となくそう感じるだけなんですが・・・」


 どうやら神殿長も、ここ数年で幹につやが無くなってきていることや、葉は茂っているものの花も咲かない事を心配していたらしい。

 病害虫にも無縁の神樹だから、その理由が思い当たらないとも。


「女神様からは普通の樹木と同じ日光と水を・・・あとは神樹に触れてあげると良いと聞いておりましたが・・・」


「本当ですか!?」


 神殿長に耳元で大きな声で言われて驚く私とルーカス様。

 この御方は大声を出すようなタイプでは無さそうだったのに、よっぽど驚いたのだろうか。


「はい、慈しむように触れてあげると良いみたいですけれど・・・」


 神殿長がまた考え込んでしまった。・・・何かまずかったかしら・・・。



「・・・今まで、むやみに神樹に触れてはならぬ、そう伝えられておりました」


「そんな言い伝えがあるのですか?」


「はい。・・・いいえ、おそらく神樹に対し敬うようにという意味での言葉だと思われますが・・・」


 神殿長も少し混乱をしているようだ。

 いままで守っていた決まり事とは反対の事を聞いたら、そうなっちゃうのも当然か・・・。



「あの、少しだけ神樹に触れてはいけませんか?」


 うちの真珠姫も触れたら光を放ってとても嬉しそうだったし・・・


「愛し子の貴女が触れれば喜ぶでしょう、ぜひ」


「あの・・・神殿長様もよろしければ一緒に触れてみませんか?」


「私もですか・・・?」


 神殿長様は戸惑っているけど、普段からお世話をしているのはこの方なのよね?

 それなのに触れることも出来ないなんて、やっぱり変だと思うから・・・。


 二人揃って幹にそっと触れてみる。隣の神殿長様は少し緊張した面持ちだけど、神樹に触れることが出来て嬉しそうだ。


 神樹を優しく撫でてあげると、やはり触れたところからポワッ・・・ポワワンと光りだした。



「「「「おおっ・・・!!」」」」


 周りの人や隣で触れていた神殿長様も同じように驚いている。


 さらにナデナデとやさしく撫で続けると、次第に神樹全体が淡く光りだした。

 気のせいか枝も葉も艶やかに、生き生きとしてきた気がする。


 ゆっくりと体を寄せ、抱きしめてあげると樹木全体がさらに光を帯びる。



 そして・・・



『ふぉっふぉっふぉっ・・・久しいのぅ、儂に触れてきた人間は』


 そこにお爺ちゃんのような喋り方をする木の精霊さんが現れた。




「「「  ・・・!?!!  」」」



 周囲に控えていた神官さん達も、声にならないくらい驚いている。

 これが精霊さんに会うのが二度目とはいえ、私もさすがに驚いたけど。



『愛し子よ、初めましてじゃな。儂はこの神樹の精霊じゃ』


「初めまして、リサといいます。あの、精霊さんを何とお呼びすればよいでしょうか?」


『ふふふ、名前なぞ忘れたのぅ。久しく呼ぶ者がおらんかったのでなぁ・・・・・そうじゃ、真珠爺しんじゅじいと呼んでもよいぞ』



「ぅえっ・・・!」


 それって真珠姫のお爺ちゃんって事!? もしかして真珠姫を知ってるの??



『儂ら神樹は七つで一つじゃからのぅ』


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