213.にゃんたま噺
『ふぉっふぉっ、その「にゃんたま」じゃったか』
『ぶふっ・・・「にゃんたま」・・・あはは、そのものズバリだねぇ』
いや真珠の君、そのものズバリって・・・。いや、実際そうなんですけどっ!
『そもそも翼猫妖精族は元より両方の性を持ち合わせているんじゃよ』
『そうそう、大人になる過程で自ら性別を選び取る種族なんだよね』
それって男性でもあり、女性でもあるってこと?
『まぁ幼い時は無性別と言ってもよかろう。其方たちの言う「にゃんたま」が見当たらないのも道理じゃろ?』
『何かのきっかけがあって、どちらかの性別の特徴がはっきりするようになるみたいだよ』
そ、そんな不思議な特徴がある猫妖精族さんがいるんだ・・・!
でもそれなら「にゃんたま」が目立たないのも納得だけど・・・
『あの翼猫妖精族の子供らは、基本的には男の扱いで良いと思うぞ。本人たちがそういう意識を持っているようじゃからな』
「なるほど、そうですね」
ハチワレちゃんたちの気持ちが男の子寄りならば、今まで通り三兄弟の扱いで良さそうだ。むしろ性別は気にしない方向で良し!
あぁ、なんだかホッとした・・・。
あの子達の身体に問題があるとか・・・そういう事じゃなくって本当に良かった。
「性別がこれから決まるなんて、びっくりね・・・」
「ほんと、びっくりね・・・」
マオちゃんとリオちゃんも目をまんまるにして驚いている。
私と同様に思ってもいない答えだったのだろう。
「でも、元気ならいいのよね」
「・・・そう、げんきがいちばん」
本当にその通り。
マオちゃんリオちゃんも彼らの事を心配してくれてたものね。こうして理由が分かって、安心できて良かった。
優しいお顔でほほ笑んでいる二人のお顔を、思わずなでなでしちゃう。そうすると二人がさらにニコニコしちゃって、美人度が増しちゃうんだから。本当に可愛くて良い子たちだ。さすがはヴィーちゃんのお姉さんよね。
私がマオちゃん達を思うままに撫でていたその時、さらに驚くような発言が目の前で飛び出した。
『そういえば・・・人魚族もそうじゃなかったかな』
真珠の君の一言に、思わずマオちゃん達を撫でていた手が止まってしまう。
『そうじゃな。海の中に住んでいる者は、成長に伴い性別が変わる種族がいるのぅ』
・・・衝撃だわ!
人魚族のオトヒメ様やあーくん達も、もしかしたらそういう過程を経て女性・男性になったのかしら。
お伽噺の人魚姫は尾を足に変化させて陸に上がったとあるけれど・・・
こちらの世界だったら変化するのは足だけでなく、性別だってありえるのかもしれないね。
そんな話を聞きながら、雑談の間に飲み干されたコーヒーのお替りを淹れていると、部屋に充満するコーヒーの匂いに気がついたのか、先ほどまでハチワレちゃん達と眠っていたヴィーちゃんがやってきた。
しかもヴィーちゃんを先頭に、後ろにはハチワレちゃん達が続いている。
皆まだ半分眠っている感じだけど・・・一列になってヨチヨチと歩いてきているのが可愛い。
こうして見比べちゃうと、やっぱりヴィーちゃんよりも歩き方がちょっと幼いなぁ・・・。もしかしたらこの子たちは、歩くよりも飛ぶ方が得意だからなのかもしれないけど。
「いいにおいにゃー」
「これ、はじめてのにおいニャ!」
「でも、すごくいいにおいニャ!」
「・・・ニャ!」
そんな話しをしながらやって来て、どうやらハチワレちゃん達はコーヒーの匂いに気を取られてまだ精霊様たちに気がついていない。
それにしてもコーヒーの匂いを好むのは、他の猫妖精族さん達と同じだね。もちろんそれは妖精族さんや精霊さんに限った事ではないけれど。
でもこの分だと、間違いなくかつお節の匂いでも同じような反応が起こりそうだ。
明日の朝になったら、きっとそれが証明されるだろうなぁ。
いつもだったら寝起きのヴィーちゃんはすぐさま私の胸に飛び込んでくるけど、今は私がコーヒーを淹れているので、そのままマオちゃんとリオちゃんの側に落ち着いた。
当然、そこにハチワレちゃんたちも続くわよね。
そして・・・ヴィーちゃんが「あ、おじいちゃんたちにゃ!」と、にこにこと挨拶をしていると、そこでようやくハチワレちゃん達が真珠爺様達の存在に気がついたみたいだった。
「ニャニャッ!?」
「ニャー!?」
「・・・ニャ!?」
全身の毛が逆立ってるし、しっぽもブワッと膨らんでいて、かなり驚いてるようだ。
精霊さんにお会いするのはやっぱり初めてみたい。
『ほっほっほ、翼猫妖精族の子供らよ、はじめましてじゃな』
真珠爺様がそう声をかけると、ハチワレちゃん達がしっぽが膨らんだままだけど、ちゃんとご挨拶をしていた。
うん、偉いぞー。お顔はびびっちゃってるけど、きちんとご挨拶ができたのは偉いぞー。
あ。真珠の君が、テーブルに乗り出すようにしてさりげなくハチワレちゃんの一人を引き寄せて、ひっくり返して・・・うん、思いっきり堂々と「にゃんたま」を確認してるね?
観察されているアール君は、さっぱり訳が分かっていないだろうけど。
続いて真珠爺様もカフィの精霊さんもそれぞれ手元に引き寄せて、まじまじと観察しちゃってる。
やだー、私も一緒に見たーい。でも流石にちょっとそれは出来なーい。
ハチワレちゃん達は皆が精霊様のされるがままになっていて、すっかり「借りてきた猫」状態になっている。いや、実際にそうなのだけども。
マオちゃんとリオちゃんは顔を見合わせてクスクスと笑っているけど、ヴィーちゃんはよく分かっていないので隣で首を傾げている。
おそらくヴィーちゃんはハチワレちゃん達の「にゃんたま」については気づいていないだろうから、この件に関しては説明しなくてもいいかな?
まぁこの話はこれにていったん終了、という事で。
そういえば、私にはもう一つ、真珠爺様に問いただし・・・げふんげふん、聞きたいことがあったのだわ。良かった、いま思い出して。
私はお替りのコーヒーを配りながら、早速その話題を振ってみた。
「ところで真珠爺様、先日ルーカス様からお聞きしたんですけど・・・。何やらレイモンド神殿長様にお話しされた事がお告げとなって、王宮でちょっとした騒ぎとなっているとか」
『・・・・・・はて、なんじゃったかのぅ』
「いったい、レイモンド神殿長様に何を仰ったんですか?」
二杯目のコーヒーを受け取って飲みながら、ちょっと目を泳がす真珠爺様。
『さ、最近は物忘れが多くなってきてのぅ~』
そんな事を言ってお年寄りぶって、とぼける真珠爺様。
いや、たった今あんなにスラスラと翼猫妖精族の生態を教えてくれたばかりですよ・・・?
流石にそんなオトボケ顔で誤魔化されはしませんけど??
『いやそのぅ、たいしたことは言っておらんのじゃ。・・・あやつが勝手に神託とかお告げとか言っとるだけじゃろう』
「そうかもしれませんけど・・・で、いったい何をおっしゃったんです?」
私が食い下がると、さすがに真珠爺様も観念したようで、ポツリポツリと話してくれた。
『・・・少し前にルーカスの屋敷で突然、湯が湧いたじゃろう? あの湯は其方らが「神に祈り、舞を捧げたことで、地中から神の恵みが湧き出た」と説明しただけじゃ』
待って?!
そんな事まで話しちゃったの?! でもそれはちょっと事実とも違う!!
確かにあの時はグレンに言われて一緒に踊ったけど、あれは決して神様に奉納するようなちゃんとした「舞」ではなかったよ?!
確かにあの時はいずれお湯が出たらいいなぁ、とは思ったけども! でもあれは神さまへの祈りともちょっと違って、どちらかと言えば実験要素が強かったというか・・・
でも何でそんな事まで真珠爺様が詳しく知っているの!?
『レイモンドの所に顔を出してやった時に、あやつが「愛し子様は、次はいつ来られるのか・・・」と焦がれるようなため息まじりに言っておったのでな。哀れに思い其方の近況を話してやっている時に、ついでにその話もな・・・』
いーやーーー!
私の近況なんて、レイモンド神殿長様に教えちゃわないで・・・
真珠爺様が神殿に顕現するのは神殿長や神官さんのためにも良かったと思うけど、だからってそこで私のことを話題にするのはちょっと・・・色々とある私のやらかしが表沙汰になっちゃうからぁ!
『そうしたらあやつが「愛し子様の御力の湯・・・!」と異様に興奮して、目を輝かせてしまってなぁ・・・』
そ、そうなんだ・・・。
あ、真珠爺様がちょっと遠い目をしてる・・・これは珍しいな・・・。
これはあれか。あのレイモンド神殿長にちょっと引いちゃったのか。その気持ちはわかるけど・・・。
でも真珠爺様がそんな盛った話をレイモンド神殿長様にしちゃうから、ルーカス様の所に「王家からお忍びで訪問」のお話が来ちゃったに違いない。
もうこれは、ルーカス様に頼まれている大白鷲さんの協力を得た「陛下のお忍び旅」を実現しなくちゃ申し訳ないわ。
これはカナリアさんだけでなく、何とかして大白鷲さんにもご協力を仰がなくてはならなそう・・・。
本日もお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字のご報告もいただき感謝です。
新学期・新年度が本格的に始まりましたね。新しいスタートを切った方も、そうでない方も頑張りすぎずに自分のペースで参りましょう♪
なにより、元気で過ごす事がいちばんですから(^v^)




