192.真珠爺様の知恵袋
「う、浮気なんてしてません!!・・・・・・ふぁ?!」
・・・???
「・・・・・・えぇ? 今の声って、まさか私の寝言・・・?」
どうやら自分の寝言で目が覚めてしまったようだ。
ベッドから起き上がったけれど、まだ外は真っ暗で日も昇っていない暗闇の中だった。
それにしても、けっこうハッキリと声を出していたように思う。
でもロアたちはまだ眠っていて、私の寝言には気づいていないのが幸いだった。ヴィーちゃんも隣ですやすや夢の中・・・しかし月明りで見るヴィーちゃんの寝顔はいつ見ても天使だなぁ。かわいーい。
しかし目が覚めたとたんに、どんな夢だったかは忘れていったので正直もううろ覚え・・・
だけどきっとあの寝言はヴィーちゃんに向けたセリフよね・・・? 夢の中でまで言い訳をしてるとか・・・どんだけなの。
もうこれはトラウマなのでは? 実際あの泣きそうなしゅんとしたヴィーちゃんのお顔は胸にキタ・・・。
他の猫さんの匂いでフレーメン&しょんぼりしちゃったヴィーちゃん。あの後、ヴィーちゃんの気分を盛り上げるのに私は頑張りましたとも・・・!
以前ロアからも「他の猫妖精族の子たちにはヴィオと同じように抱っこしたり密に接しちゃダメだよ。ヴィオが落ち込んじゃうといけないから、少し抑えてね」とアドバイスを貰っていたのに・・・。
これはマオちゃんたち猫妖精族の子猫さんだけでなく、普通の猫さんにも当てはまるという事を胸に刻んでおこう。
しかし昨夜はヴィーちゃんに猫じゃらし風の紐の付いた飾りを振ったり、布でできたボールを転がしたり、もちろん抱っこもしたし、おしりだってトントンした。いつもより時間をかけて丁寧にブラッシングもして、最後はお風呂も一緒に入ったっけ。
もう、思いつくことは全てやった・・・!
あの雑貨屋さんで色々とお土産にとおもちゃを買っておいて良かったなぁ。
むしろ雑貨屋さんでホシノワグマに「家庭円満」とかあったら、それも買っておくべきだったかも。ロアじゃないけれど、今度行ったら他にどんなシリーズがあるか聞いてみようかしら・・・。
などと、そんな事を考えていたらすっかり目が冴えてしまった。
また眠っても良いのだけど、のどが渇いていたのでお水を飲みにベッドを降りて台所へ向かう。・・・こののどの渇きもあの寝言のせいかしら。決して年のせい・・・ではないぞ! なんてったって今の体は10代なのだから。うん。
我が家の水道水はおいしいなぁ、とゴクゴク飲んでいると、ふと誰かの足音が聞こえた。いや、このヒタ、ヒタ、ヒタ・・・という、ほぼ無音の足音は・・・
「ビックリさせてしまいましたかな?」
やっぱりミケネーさんだった。どうやら私が気づくように、わざと普段はたてない足音をさせて近づいてくれたようだ。
「いえ、大丈夫ですよ。ミケネーさん、どうしたんですか? もしかして起こしちゃいましたか?」
もしや私の寝言で・・・?
お耳の良い人だったら声が聞こえたら、やっぱり気になっちゃうよね?
「いえいえ、そうではなく。私は元々眠りは浅い方でして・・・それだけではなく、実は少し気になったことがありましてね。考えていたら眠れなくなってしまいました」
「気になったこと・・・?」
結局、そのままミケネーさんとお話しをしていたら、いつのまにか夜が明け始めていたのでした。
「リサちゃん、おはようにゃのー!」
台所で朝食の準備をしていると、昨夜とはうって変わってご機嫌なヴィーちゃんがてちてちと入ってきた。今朝はロアよりも早く起きれたんだね。
でもやっぱりヴィーちゃんはこうでなくっちゃ。しょんぼり顔よりもご機嫌な笑顔がイイ!
「おはよう、ヴィーちゃん。よく眠れた?」
実は私の寝言であまり眠れていなかったとか、無いよね・・・?
「ぼく、いっぱいねむれたの。げんきいっぱいにゃの!」
それは良かった。
ニコニコのヴィーちゃんにホッとする。あー、かわいい~
ヴィーちゃんにおはようのハグをしていると、続いてロアとグレンも起きてきた。
「リサ、おはよう」
「ぴゅ・・・(おは・・・)」
ロアはともかく、ロアに抱えられたままのグレンは半分まだ眠っているような・・・。相変わらず朝は苦手みたいだね。
「二人ともおはよう。なんと今日はね、ゾフィさんとミケネーさんが朝食作りを手伝ってくれたのよ」
「えっ、師匠が? ミケネーさんも?」
「そうですよ。たまには私もお手伝いくらいしませんと。・・・まぁ、ようやくこの「おにぎり」を何とか握れるようになったばかりですが」
「私はそのゾフィの横で、おかかに興奮していただけですがね・・・」
そういうミケネーさんは、しゃもじを両手で持ってご飯におかかを混ぜてくれていた。
ちなみにゾフィさんは人生初だというエプロンを着用をして「あつっ! あっっつ!!」と叫びながらも、おにぎり作りを頑張ってくれました。
そのゾフィさんが汗をかきながら言ったセリフが「おにぎりがこんなにも高度な技術が必要だとは・・・!」だ。名言ですね? 確かに形も三角に俵型と色々ありますからね。
「ぼくもおてつだいするにゃ!」
ゾフィさんの活躍を聞いて、ヴィーちゃんが張り切ってお手伝いを申し出てくれたけど、もうあとは皆で席に着くだけだから、お手伝いはまた今度お願いするね。
「「「「では、いただきまーす!」」」」
「いただいまーすにゃー!」
「ぴゅっ!」
みんな揃ってニコニコで朝ごはん。
今日も嬉しいね。楽しいね。
「・・・それでこの大皿が、その城下町にある店で買って来たものなんですな」
ミケネーさんが大皿からおにぎりを手に取りながら、話のきっかけをくれた。
「そうなんですよ。コーヒーを淹れる時に使うポットもそこで買って来たんです。素材が私の元々持っていたこのカップと似ているんですよね。なのでこれだ!と思いまして」
「ほぉ、確かにそのカップと質感がそっくりです。これでコーヒーを淹れるとどうなるのでしょうなぁ・・・楽しみですな」
「そうですね。食後にさっそく淹れてみましょう」
そんな会話をしていたら。呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンならぬ、ポワワ・・・と周囲が光り出す。
『ふぉっふぉっふぉ、待ってたぞい』
『僕らもお呼ばれしていいのかな?』
『私も今回はぜひ・・・』
いらっしゃいましたよ、三精霊様が。
真珠爺様、真珠の君、カフィの精霊様が揃い踏みです。
「精霊様方、おはようございます」
私に続き、みんなも慌てて席を立ってのご挨拶。
ヴィーちゃんはおにぎりを持ったまま「おはようにゃのー」とニコニコと近づいてご挨拶している。しかもおにぎりを渡してカフィの精霊様に頭をナデナデされているね・・・大物だぁ。
そのカフィの精霊様はもくもくとヴィーちゃんから渡されたおにぎりを召し上がっていますが・・・あ、気に入ってくれたんですね? よろしければおかわりもどうぞ。
真珠爺様たちを朝食が終わるまでお待ちいただくのもちょっと申し訳ないので、先にコーヒーを淹れることにする。
どちらにせよ急須ポットでは一度に淹れられるのも三人前が限度だろうし、何回かに分けて淹れるのが良さそうだ。
我が家にあったステンレス製の茶漉しを急須ポットの中に入れてみたら、サイズがぴったりだったので、今回はこれを使う事にした。
・・・この茶漉しを魔竹で再現できればいいなぁ。
さっそく急須ポットにコーヒーを計量して入れ、お湯を注いだらしばし待つ。
いつもはコーヒーにお湯を少しずつ注ぐと香りが立ち上ってお部屋中に良い香りがするのだけど、この急須ポットはお湯を注いだ後はすぐに蓋をしてしまうので香りはそこまで広がらないようだ。
私は淹れている時のあの香りが好きなので、そこだけがちょっと残念かな?と思ったけど、お湯を入れてしまえばあとは出来上がりの時間まで放っておいて大丈夫だし、とてもラクチン。
その待ち時間の間に、真珠爺様たちとこの急須ポットに使う茶漉しの話をしていたのだけど・・・
『話にあった魔竹ではないが・・・魔笹、いや熊笹だったか・・・それなら大猫妖精族の集落近くにあったと思うが・・・使えぬものかのぅ?』
「・・・え? クマザサ??」
『確か、大猫妖精族たちが喜んでかじっていたぞ?』
そういえばパンダは笹が好物だったっけ・・・いや、彼らの見た目はパンダっぽいけど大熊猫ではなく、大猫妖精族さんだ。
ややこしいが・・・クマさんではない。
でもクマ笹って日本にもあったような・・・。そうだ、お茶とかに使われていなかった?
魔竹は逃げ足が速いとか聞いたから「それって植物??」と思ったけど、どうやらそのクマ笹は普通に土から生えているらしい。
それならば簡単に採取できそうだけど・・・
『うむ! この急須ポットやらで淹れたコーヒーもうまいぞ。しかもこの「パウンドケーキ」とやらにとても合う』
『本当だ。この急須ポットで淹れたコーヒーの味はしっかりしていて、菓子に合うコーヒーになるようだね』
『たしかに・・・これは手軽に淹れられるのに、味は深いですな』
良かった。精霊の皆さんには合格をいただけたようだ。
ちょうどこれから大猫妖精族の所に行く予定があるし、もしかしたらクマ笹の事を伝えるために真珠爺様たちはこうして教えに来てくれたのかな。
違うかな・・・? 単に食いしん坊なだけかも・・・? どちらにしても有難いけれど。
いや、ほんと物知りな精霊様だわ・・・。
おばあちゃんならぬ、「おじいちゃんの知恵袋」って感じだね。
本日もお読みくださり感謝です。
ブックマークなどで応援していただけるのは嬉しく、とても励みになっております。また誤字脱字のご指摘も、本当にすごく助かっております<(_ _*)>
皆さまどうもありがとうございます!
次回からは大猫妖精族のお話になる予定です(^v^)




