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186.シュークリームの魔力

 

「リサちゃん、おやつ? あまいにおいがするにゃー」

「ぴぴゅー?(おやつー?)」


 キッチンに立っていると、お昼寝から目覚めたヴィーちゃんとグレンがやってきた。

 グレンは頭に張り付き、ヴィーちゃんは足元にすりすりしながら、すでに期待したおめめをしている。


「今日のおやつはね、シュークリームにしようと思って」


 何だか急に食べたくなってしまって、欲望のままクリームを大量につくってしまったのだ。

 今はシューの皮をオーブンで焼いて冷ましているところ。


「あのくりーむがいっぱいの、まるいおやま?」

「ぴゅぃ?(おやま?)」


 おやま・・・お山かぁ・・・。

 確かシューの語源はフランス語のキャベツだったような・・・でも確かに見た目はちょっとお山っぽいかも。

 そうだ、ヴィーちゃんたち用にちょっと変わった形も作っちゃおうか。



「はーい、出来ましたよー」


 そう声をかけると、テーブルに集まってくるチビッコたち。

 そしてお皿の上を見るなり、驚いて目をまん丸に開いている。


「はわ・・・! これ、おやまじゃなくって、かめさんにゃ!」

「ぴゅうい?(ぼくのは、とり?)」


 ふっふっふ・・・遊び心でシューの皮をアレンジして、ヴィーちゃんのは亀、グレンのは鶴もどきのスワンにしてみたのだ。

 ふたりとも、まさかこんな形になるとは思っていなかったのか、シュークリームを前にして固まっている。


 でもヴィーちゃんは亀さんってちゃんと分かるんだね? あ、近所の川に居るの? なるほどー。

 グレンにはなんとなく鳥だと理解してもらえたようだ。鶴はさすがにこっちの世界にはいないか・・・。

 ロアに聞いてみたら、スワンのイメージは水鳥として伝わったようだ。ちなみに初見では「首の長い魔鳥?」と言われた。


 その魔鳥はロックバードという大きな鳥からスズメっぽい小さな鳥まで多種多様なんだそう。どこの国も鳥類の狩りは盛んで、魔物の中では一番よく食べられる食材なんだとか。

 あと魔鳥はたいてい味が濃くて美味しいらしい・・・と、このあたりはゾフィさんが教えてくれた。

 あれかな、魔鳥は軍鶏しゃもとか地鶏みたいな感じなのかしら。


「近いうちに狩ってきますから、楽しみにしていてください」


 ・・・私がよほど食べたそうな顔をしてたのだろうか・・・ゾフィさんからそんな申し出があった。

 ちゃんと捌いて持ってきてくれるそうなので、ありがたく頂戴することにしよう。楽しみ。


 そのゾフィさん、シュークリームはどうやらお初だったようで、目を輝かせていた。


「おぉ、このシュークリームという菓子は素晴らしいですね。皮はサックリ、そしてこのたっぷりのクリームがたまらないです。黄色いクリームと白いクリームの違いがまた・・・! なめらかなクリームは喉ごしまで幸福です・・・あぁ、私はこのクリームだけでも飲めますよ!」


 ソフィさんはお酒好きだけど、かなりの甘党でもある。いや、もう目がハートになっているし・・・彼にとってはシュークリームはもはや飲み物なのか。・・・まぁ気持ちは分かるけど。


 さっきはどこから食べようか固まっていたヴィーちゃんたちも、ゾフィさんに続き、ようやくおててで掴んで食べ始めた。


「にゃぁぁ! くりーむがいっぱいで、おいちいにゃ・・・!」

「ぴゅぅ!(おいしい!)」


 さっそくお口の周りがクリームだらけになっちゃっているけど、そんなに美味しそうに食べてもらえると作った甲斐があるというものだ。美味しいって言ってもらえるのはやっぱりうれしい。


 ふと隣を見ると、ロアも目を閉じながら無言で味わっているようだった。

 ちょっと前までホットケーキとか甘い物には飛びつくようだったのに、いつのまにかお兄ちゃんぽさが板について落ち着いて食べるようになっちゃって・・・私としてはちょっぴり寂しい。


 まぁ実際ヴィーちゃん達の良き兄役で、何かと頼れるロアさんなのだけど。

 ただ、もっと背が小さかった頃のロアがホットケーキをおくちいっぱいに頬張って食べていた頃が懐かしい・・・まだあまり経っていないのに、ずいぶんと昔の事みたい。


「・・・リサ、どうしたの?」


 顔をまじまじと見つめていたものだから、さすがに不審に思われちゃったか。


「ううん。何でもないよ」


 それにしてもずいぶんカッコ良く育っちゃったなぁ・・・と、あらためてロアを見ながら自分のシュークリームを食す私だった。




「リサちゃん、これ、ママたちにもってくにゃ?」


「うん。たくさん作ったからね。ちょっとお届けしてこようと思って」


 ヴィーちゃんにお返事をしながら、冷やしておいたシュークリームを包み、念のため保冷バッグに入れる。

 そろそろミケネーさんに大猫妖精族ジャイアント・ケット・シーさんの所へ行く日を確認しておこうと思っていたので、これはその手土産に。

 あとガーブさんに頼んである魔法具の進捗も確認しておきたいところだ。


 ガーブさんは魔法具に集中したいらしく、「しばらくは作業場にこもるんだモーン!」と言っていたけど、ちゃんと食べているかちょっと心配だ。なので彼にはおにぎりを差し入れに持っていくことにした。あとはお酒の減り具合も確認しなくちゃ。


「ぼくも、いっしょにいくにゃー」

「ぴゅぅー!(ぼくも!)」

「リサ嬢、護衛に私もついていきますよ」


 ヴィーちゃんとグレンはお供に付いてきてくれるようだ。

 それにゾフィさんまで立候補してくれた。まだ私の【結界魔法】があやしいので、心配してくれているようだ。

 でも今回は【転移魔法】でミケネーさんのいるお家までストレートに飛ぶだけだし、すぐに帰ってくる予定なので、ゾフィさんにはロアとお留守番をお願いした。




「こんにちはー」


 以前のようにカフィの木を伝って飛ぶのを端折はしょって、直にミケネーさん宅までこれる【転移魔法】の便利さに感謝をしつつ、三人でキノコハウスのドアをノックした。


 中から「はーい」とネオさんが顔を出してくれた。よかった、今日はご在宅だった。


 後ろから次々に「あ、リサちゃん! ヴィオも!」「・・・いらっしゃい」「グレンもいる!」「あそぼうぜ!」と子猫さんたちの元気な声が聞こえる。


「ちょっとお菓子を作ったので、お裾分けに来ました」


「まぁ、嬉しい! どうもありがとうございます」


 シュークリームを手渡すと、ネオさんも甘党なのでとても嬉しそう。それを聞いた子供たちも目を輝かせて、包みから目を離せないでいる。かわいいなぁ。


「あの、今日ミケネーさんはご在宅ですか?」


 ミケネーさんのお姿が見えないので聞いてみる。もしかして、お仕事中とかかな?


「すみません。いまミケネーはガーブさんの作業場に行っておりまして・・・」


 どうやらミケネーさんだけお出かけのようだ。

 ガーブさんの作業場はすぐ近くだというので、私だけネオさんに案内してもらうことになった。その間、ヴィーちゃんとグレンは子猫さんたちと遊んで待っててもらう。


 ネオさんに案内されながら森の奥に進んでいくと、少しして岩がゴロゴロとした開けた空き地のような場所に出た。

 どうやらそのガーブさんの作業場は、この辺りにあるようだ。


「ガーブさーん、あなたー、リサさんがお見えですよー!」


 そこは一見、ただの岩が積み重なっているだけの場所だった。

 その岩に向かってネオさんが声を張り上げると、しばらくして岩がズズッと動いて入り口が現れた。


「娘っこ、よく来たモーン!」


 その入り口らしき岩の間からガーブさんがひょっこりと顔を出した。



 どうやらこの作業場はノーム族のサイズで作られているらしく、天井がかなり低い。ミケネーさん達はともかく私はかなり屈まないと入れそうもなかったので、作業場の入り口で立ち話となった。


「ちょうどよかったモン! さっき魔法具が完成して、いまミケネーと最終確認をしていたんじゃモーン!」


「わぁ、すごい・・・! じゃぁ、これで大猫妖精族ジャイアント・ケット・シーさんたちの所へ行けますね」


「ワシはいつでもいいモン! 娘っこの予定に合わせるんじゃモン」


「魔法具も出来ましたし、いつでも出発できますな!」


 ガーブさんの後から出てきたミケネーさんも、私の予定に合わせると言ってくれた。

 うーん、そうだなぁ。明日は王宮の大神殿に行く予定があるし・・・



「では、三日後でどうですか?」


「わかったモーン」

「問題ないよね? ネオ」

「ええ、大丈夫ですわ」


 こうして、三日後に私達は出来たてほやほやの魔法具を携えて、大猫妖精族ジャイアント・ケット・シーさんに会いに行くことが決まったのでした。


 ガーブさんに差し入れのおにぎりをお渡しして、また三日後に迎えに来ると約束を交わした。もちろん次に来る時はお酒の補充をする約束もして。


 そしてミケネーさん達と一緒にまた元の道を辿りキノコハウスに戻ると、そこにはすでにシュークリームを食べて満足そうに丸まった子猫さんたちがいた。

 みんな、ミケネーさんが戻るまで待てなかったんだね・・・。


 そこですっかりおねむのヴィーちゃんとグレンを引き取って、私は我が家へと戻ったのでした。

 むぅ・・・二人いっぺんの抱っこは、なかなか重い・・・あら? グレンちょっと重くなったんじゃない??

 我が子の成長を感じるなぁ・・・。



お読みくださりありがとうございます。

また台風が近づいてきていますね。夏休みが終わってそろそろ新学期の皆さんも、働く皆さんにも、影響が無いことを願って・・・。



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