16.アル姉さん
私たちが町を歩いていると、どういう訳か声をかけられる。・・・絡まれるといった方が正しいかもしれないが。
その度にロアが追い払ってくれるんだけど、中にはしつこい人もいるので困ってしまう。
「君、最近ここらへんでよく見かけるけど、なんて名前だい? ちょっと時間はある?」
「すみません、これから約束がありますので・・・」
やんわりとお断りするけど、なかなか引いてくれない事も多い。
声をかけてくる人は、大抵は冒険者ギルドに出入りしている人達で、背が高く大柄な人が多い。日本人の平均身長にも届かない私にとっては威圧感があり過ぎて、ちょっと怖く感じてしまう。
薬師ギルドから町の門まで行く途中に冒険者ギルドがあるので、どうしても近くを通る事になってしまうのだけど、もうあまり出歩かずにいっそのこと転移魔法を使ったほうが良いのかもしれない。
あ、ロアが珍しく不機嫌なお顔をしている・・・私が出来るだけ穏便にお断りしたいと言ったので、色々と我慢をしてくれているようだ。
それにしたってロアと一緒でも声をかけてくるあたり、よっぽどこの黒髪が悪目立ちしてそうだ。
よし、もうここはロアに任せるのではなく私がキッパリ断ろう! ・・・と、その男性を見上げたと同時に後ろから声がした。
「ちょっとお兄さん、アナタしつっこいわよ~」
振り向くとそこには美しいオネエサンがいた。
そう、オネエサンだ。
なんというか・・・いわゆるお姉さんではない。オネエサンだ。
声をかけてきた男性は、彼女の迫力の前にスゴスゴと去っていった。
「あの、どうも有難うございました」
オネエサンにお礼を言うと、明るい声が返ってきた。
「いいのよ~、ワタシかわいい子って大好きなの! 二人ともとっても好みなのよ~。だから気をつけないとダメよぉ? 攫われたりしちゃったら大変なんだからね」
そう言って、私とロアの二人の頭を撫でる。あ、この人も子供が大好きなタイプだ・・・。私と同じ部類の方ですね?
「はい、気をつけます」
「オネエサン、どうもありがとう」
「まぁ良い子達ねぇ。ワタシはそこのお店の店主なの。ね、良かったら寄っていって頂戴な」
そう言って私達をお店に案内してくれた。
ちょうど前から気になっていたお店だったので、ありがたくご一緒する。お昼には時間が早いのに、かなり賑わっているようだ。
「ロア、お腹は空いてる?」
「うん! 少し早いけど・・・食べたいな」
「ウチはね、この町一番の食堂なのよ。良かったら何か食べてって、ご馳走しちゃうから~」
オネエサンのご厚意に甘えて、おススメ料理を注文する。どんなお料理が出てくるのかな。
お料理はオネエサンがお勧めを頼んでくれたようだ。
「ん、美味しい!」
「おいしいねー」
さっそく運ばれてきたお料理は魔物肉で、ブラウンボアという猪のお肉らしい。バーベキューのような串焼きだった。
「お口にあって良かったわ。たくさん食べてね~」
そう言って同じく串焼きにしたお野菜も追加でお皿に置いてくれる。
薄いナンのようなパンも付いてきて、一緒に食べてお腹も大満足だった。
「あ、そういえばお名前伺ってなかったですね。私はリサといいます。この子はロアンです」
「まぁ、そうだったわ! ワタシはアルーシャよぉ。よろしくね~」
「・・・お前の名前はアルフリードだろう」
オネエサンの後ろから、ここの料理人らしき男の人がお皿をいくつも持ちながらやってきた。
あら? この二人って、ちょっとお顔が似てる・・・。
「無粋でいやぁねぇ。そんな男っぽい名前、20年前にやめたわ」
「・・・勝手にやめるな。ほら、子供たちが混乱してるぞ。・・・俺はこいつの弟でヴァンフリードだ」
はっ!
思わず二人のやり取りを聞き入ってしまったわ。アルーシャさんは、元・アルフリードさんなのね・・・。
「あの、アルーシャさん、ヴァンフリードさん、お料理おいしかったです」
「やぁーん、嬉しいわぁ。あ、ワタシの事はアル姉って呼んでね~」
アルーシャさんは金髪ロングヘアで、ヴァンフリードさんは髪が短いという差があるくらいで、瞳の色も同じ緑だった。
違うのは話し方とかかな。でもそっくり・・・。
性格はアルーシャさんはお喋りが好きで社交的な感じで、ヴァンフリードさんは寡黙で真面目そうな印象だけど。
食事の後にちゃんとお代を取って欲しいと言ったけど、今日はいいからと受け取ってはもらえず・・・お礼を言ってロアとお店を出た。
「ご馳走になっちゃったね」
「助けてもらった上に申し訳ないね・・・あ、そうだ!」
思い立って、またまた我が家にやって来ました。
「この畑の野菜を?」
「そう。うちの畑にお野菜が沢山あるじゃない? 私達だけじゃ食べきれないほどあるし、お店で使ってもらえたらなぁって思ったの」
串焼きにするのにピッタリだと思うのよね。焼きトウモロコシなんかはバーべキューの定番だし。
「じゃぁ、今から収穫する?」
「うん。手伝ってくれる?」
「もちろん!」
畑からズッキーニ、パプリカ、トマト、タマネギと色々と収穫していく。
こんなものかな、と腰を上げた時に何やら違和感を覚えた。
・・・あら?
ふと見なれない若木に目が留まった。
乳白色の幹が光の角度によっては虹色に輝いている。しかも葉っぱが薄紫の木って・・・・・・そこだけがめちゃくちゃ異世界っぽい。
確かあそこは昨日シンジュの実を植えた辺りだけど・・・まさか!?
「ねぇリサ、あの木って昨日までは無かったよね?」
ロアも不審に思ったようだ。
「・・・そうだよね。ちょっと【鑑定】してみようかな・・・」
【シンジュの木:神樹の幼木で、100年ほどで神樹へと成長する:女神の加護がある木】
「はは・・・100年かけて成長する神樹だって。それが1日であそこまで成長するなんて・・・嘘みたいね・・・・」
実際に木に近づいてみると、細い幹ながらもロアより背が高い。
だって、昨日実を植えたばかりよ!? この生長速度、おかしいでしょう??
しかも詳細鑑定をしてみると・・・
【シンジュの木が神樹に成長すると、周囲は魔物を寄せ付けない神域となる】
【シンジュの木の花を酒に漬けると魔物除けの神酒となる】
【シンジュの木の葉を・・・
なんかものスゴイ鑑定結果が出ましたけど・・・?
ここは異世界。しかも女神様チート爆発の土地でもあるし、1日で種が幼木まで成長することもあるのかもしれないけど・・・。
・・・鑑定の詳細については見なかった事にしておこう。
ロアにも聞かれたが「これは神樹の幼木で、まだ成長途中みたい」とだけ説明しておいた。
「へぇー、これが神樹の赤ちゃんかぁ。そういえば神殿には神樹の絵があるけど、それくらい大きく育つのかな」
「神殿に神樹の絵・・・?」
「うん。神殿には一度だけ入ったことがあるんだけど、祈りの間にフローデリア様の女神像があるんだよ。そこの窓に神樹を描いたきれいなガラスの絵があるんだ」
ガラスの絵・・・もしかして、ステンドグラス? それは見てみたいな・・・。
「あ、それに確か神樹は王都にあるって聞いたことがあるよ」
それは是非とも見たいです!




