159.グレンの秘密
「・・・もう朝かぁ・・・」
朝、目覚めるとヴィーちゃんが私の胸の上に半分乗り上げた形で眠っていたので、そーっと体を少しずつずらしながら起床した。
隣を見るとロアは熟睡しているようだった。よかった、起こさないですんだかな? 彼は気配に敏感だからね。
昨夜は遅くまでオセロをしてたようだったけど・・・さすがにあれで徹夜とかは無いわよね。ちゃんとベッドで眠ってくれたようで良かった。
そろりとベッドから降りると、枕元にある籠の中で眠っているはずのグレンの姿がなかった。
「もしかして、私より早く目が覚めちゃってどこかで遊んでいるのかしら・・・」
我が家で一番のお寝坊さんなのに珍しいな。普段だったら朝食の匂いがしてようやく起きてくるのに・・・。
でもそういえば最近、ちょいちょいグレンの姿が見えない時がある。
どこにいるのか探していると、たいてい泥んこになって戻って来ることが多かったりする。だからてっきり畑で転がったりして遊んでいるのかと思ったけど・・・もしかして秘密基地でも作っているとか?
お子様に大人気の”秘密基地”は我が家のお庭だったら、いろんな場所に作れてしまいそうだ。グレンだったら飛べるから木の上でも簡単に作れそうだし。
まずは顔を洗った後に畑を散策する。グレンがどの部屋にもいなかったからだ。
そのかわり、リビングのソファでオセロゲームをしながらそのまま寝落ちしたであろうゾフィさんとミケネーさんが居た。
いや、お二人ともゲームにハマりすぎでしょ・・・小学生男子か・・・。
畑をぐるりと回ってみるも、グレンの姿は見えない。
いつもだったら大白鷲さんが丸まって眠っていたりするのだけど、昨日から不在だから一緒にいるって事は無いし・・・。
ただ今はかわりにゾフィさんの愛馬であるユニコーンのセレンちゃんがいる。もしや、そこかな?
セレンちゃんはもう目が覚めていたので「おはよう」と朝のご挨拶をして、新鮮なお水を汲んで目の前に置いてあげると「ヒヒン」と嬉しそうな声が聞こえた。
「セレンちゃんはうちのグレンを見かけなかった?」
首を撫でながら聞いてみるも、セレンちゃんはつぶらな瞳でキュルンと見上げてきて、そのしなやかな首を傾げているだけだった。
「そっか・・・知らないよね」
でもセレンちゃんには、ちゃんと話が通じているっぽいね。
うーむ、さすがゾフィさんの愛馬。おりこうさんだ。
それにしてもグレンはいったい何処に隠れちゃったのかしら。
お部屋にいないし、お庭にもいない・・・。
念のため、普段はあまり行かない裏庭に行ってみる事にする。
この通称「裏庭」というのは駐車スペースを兼ねていて、昔おじいちゃんが使っていた軽トラが置いてある場所のことだ。
さすがにこの異世界では使わないので置きっぱなしにしてある。いくらガソリンが入っていても流石にこの異世界で堂々と走らすことは出来ないものね。
私が最初に女神様に呼ばれ森にいた時も、あの獣道をこの軽トラで走るなんて無理だったし、こちらに来てからはその存在をすっかり忘れていた。
・・・そして、ふと思い出す。
ルーカス様のご家族と初めてお会いしたディナーの席で、私の住んでいた世界の事を説明している時に車や電車などの乗り物のこともお話ししたっけ。
中でも車はルーカス様に馬車との違いを根掘り葉掘り詳細を聞かれたけれど、私ではうまく説明ができなかった覚えがある。
その時は我が家の事をまだ秘密にしていたから無理だったけれど、この現物(軽トラ)をお見せできれば一番良かったかもしれない。
まぁルーカス様だったら見てるだけでなく、その場で運転をしたいとか言われそうだけど・・・。
でもこっちの世界で車を乗り回していたら大変なことになりそうだし無理だよね。あ、でも荒野とか人がいない場所でなら運転するのもアリ??
グレンもまさかあの軽トラの止めてある小屋の中までは入らないだろうけど・・・と目を向けると、なにやら聞きなれない音と共に、私の知らない風景が目に飛び込んできた。
「・・・え・・・?」
待って。なぜ我が家に噴水が・・・?
なぜか地面から水が吹き上がっていて、私の腰丈くらいある噴水のようになっている。
近づいてみると、その噴水でグレンが「ぴゅぴゅっ♪」と楽しそうに遊んでいた。
しばらく驚いてフリーズしてしまったが、もしかしたらこの噴水を作ったのはグレン・・・?
「グレン・・・? この噴水はどうしたの・・・?」
「ぴゅぴゅーぅ、ぴゅーい(ママ、これね、ぼくがよんだの)」
え? その「ぼくがよんだの」ってどういう意味・・・・?
「しかもこれって・・・わ、あったかい! まさか温泉?!」
おそるおそる噴水にに手を当ててみるとかなり温かく、地面からかすかに湯気も立っていた。
どうやら地面から絶え間なくお湯が噴き出ているようだ。
そこまで強い水圧ではないし、硫黄のような強烈な匂いもしないけれど・・・おそらく温泉だ。
でもどうしてこんなところに・・・?
いやいやいや、温泉って地層深くにあって普通は何百メートルも掘削して、ようやく見つかるようなものよね?
もちろん自然に湧いた温泉だってあるだろうけれど・・・それが突然この異世界で?? しかも我が家の結界の中で??
グレンが「ぼくがよんだ」って言ってたけど・・・
「これ、あなたが魔法で何かしたの?」
「ぴゅーぃ、ぴゅぴゅー!(ぼくがこっちきてーって、よんだの!)」
よんだ・・・? 呼んだ? お湯を?!
お湯って呼べば来るの・・・?
泥んこになったグレンが嬉しそうに飛んできて「ぴゅぃぴゅいっ」と説明してくれた。
なんでも火竜には、溶岩や温泉のような熱い液体を遠くからでも操れる能力があるらしい。
グレンの母上(母火竜)も、よく卵だったグレンを温めるために溶岩を近くまで呼び寄せていたそうだ。
地層深くにあるものをそんな簡単に地表まで自在に持ってこれるものなの・・・? 凄すぎない?
でも・・・これがただのお湯だったからいいけど、もしマグマとかだったら溶岩流になって我が家はおろか、ここ一面が焼け野原になったんじゃ・・・。怖っ!
思わずブルルっと身震いがでたけど、まずここはグレンにきちんと言い含めておかなくては。
「グレン、よく聞いてね? 今回は普通のお湯だったからいいけれど、もしこれが溶岩だったらこの辺りぜんぶが火事になっちゃって大変よ。まさかそんな危ないものは近くに呼んでないよね?」
「ぴゅぅぴゅっ!(それはよんでないよ! だいじょぶ!)」
よかった、一安心だ。
でもこのお湯、このままずっと噴水のようにずっと流れっぱなしなのかしら・・・。
今はまだ湯量も少ないからいいけど、いずれは畑のあるお庭の方まで流れて来たりしない? もし止まらなかったらいずれ畑が水浸しになりそう・・・。
とりあえず、まずは泥んこのグレンを噴水のお湯で軽く洗って、我が家に戻ることにした。
・・・この噴水、ちょっと便利だわ・・・。
「・・・と、いう訳なんだけど・・・」
グレンをタオルに巻いて水気を拭き取っていると、ロアとヴィーちゃんが起きてきたので説明をする。
その途中でゾフィさんもミケネーさんも起きてきたので、みんなで現場を見てみようという事になった。
「おぉ、確かにお湯が吹きだしておりますなぁ」
「噴水のようですねぇ・・・」
「にゃー・・・?」
ミケネーさんは二本足で立ち上がって、ゾフィさんは腰を屈めながら噴水を見つめていた。
ヴィーちゃんも自分の背丈よりも高い噴水に興味深々で、お湯におててをかざしたり、引っ込めたりして遊んでいる。
でもどうやらこの短時間でさっきよりも水溜まり・・・この場合は、お湯溜まり? が大きくなっているようだ。
ホントこれどうしよう・・・。
「このお湯はいずれ止まるのかしら・・・?」
「どうだろう・・・さっきから勢いは変わらないみたいだけど」
ロアが腕の中で抱えているグレンに向かって「これ、どうするつもりなんだ?」と聞いているけど、グレンから明確な答えは無いようだ。・・・きっと思いつきでやった事で、あんまり深く考えていなかったんじゃないかな・・・。
ちなみにこの温泉、【鑑定】をしてみると、このような結果が出た。
【温泉水:心と体を癒す効果がある。美肌効果や美髪・美爪効果もある。飲用可】
まぁ効能的には普通の温泉・・・かな? まだ飲んでいないから味はわからないけど、ともかく飲めるのは有難いね。
それに美髪効果はともかく美爪効果って初めて聞いたけど・・・髪も爪も成分的には同じ物で出来ているから? あとで手を浸してみようかしら。ハンドモデルさんのような手になったりしてね。
でもこのお湯が溢れても困っちゃうけど、このまま有用な温泉を垂れ流しちゃうのも何だかもったいないなぁ・・・。
うちのバスタブに流れるようにパイプで繋げたり出来れば良いのに。
――――と、そんな事を考えていたら、ゾフィさんが思わぬ提案をしてくれた。
「いっそここを整地して、あのオフロを作ってはどうでしょう」
本日もお読みくださりありがとうございます。
誤字などのご連絡にもひたすら感謝です<(_ _)>また、評価やブックマークなど励みにさせていただいております。ありがとうございます!
前回からすこし間が空いてしまいました。すみません・・・。
もうちょっとペースアップするよう頑張ります _(:3 」∠)_
そういえばもうすぐニャンコの日ですね・・・!




