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15.メメの木とキキの木

 

 話の流れで実際に家を見てもらおうという事になって、エランドさんを我が家にご招待することにした。


 万が一だけど、人に見られてはよろしくないので、家を召喚するのにまた草原に来ている。


「いでよ、マイハウス~」


 さっそくお約束の呪文をば。

 いま私の目の前には我が家が鎮座しているのだけど・・・後ろを振り返ったが、エランドさんの顔にはてなマークが浮かんでいる。

 これはロアの言う通り、一度入った事のある者以外は隠ぺいされていて、見えていない線が濃厚かな・・・。


「我が家が見えますか?」

「いいや、何にも見えないが・・・目の前にあるのは草っぱらだけだぞ」


 ではちょっと失礼しますね、とエランドさんの手を取りながら我が家に招き入れた。

 ロアもエランドさんの背中を押してくれている。


 我が家の敷地に入ったとたん風が変わったので、結界を通過したはずだ。

 横を見ると、エランドさんがかつてのロアのように固まっていた。


「エランドさん、我が家へようこそ」

「な、な、な・・・!」


 な、しか言わないエランドさんの背を、ロアがさらに後ろから押す。

 フリーズしたままのエランドさんに、とりあえず玄関をくぐってもらう。


「あ、家の中は土足じゃだめなんです。すみませんが、お靴はそこで脱いでくださいねー」


 説明しつつ居間に案内すると、数分後にようやくエランドさんが起動し始めた。



「まいった・・・。いや、これは物凄いな・・・」


 お茶を飲みながら、エランドさんが遠い目になっていた。


「はー、このお茶は旨いな。少し苦みもあるがほのかな甘みもあって・・・なんてお茶だ?」


「これは私の故郷でよく飲まれている、緑茶といいます」


「鑑定してみてもいいか?」


「はい、どうぞどうぞ」


 自分ちのモノに【鑑定】をしたことは無かったけど、エランドさんにとっては異世界の珍しいものだもの、興味津々よね。


「凄いな、このお茶!【心身をすこやかにする体に良いお茶:緑茶】って出たぞ!」


 え、そんな鑑定結果が・・・?

 確かに緑茶はカテキンとかテアニンとか体に良さそうな成分がたっぷりだもんね。なるほど納得だけど。

 今度は他のお茶も鑑定してみようかな。



「庭もあるんだな・・・お、畑も立派じゃねえか。あれって異世界の植物なのか?」


 やはり薬師副ギルド長、樹木や草花に興味津々のようだ。


「どうぞ、良かったら見てってください」


 そう言ってサンダルを出してあげたら、彼はいそいそと庭に出て行った。

 なんだか子供みたいだ。


「エランドさん、もうすぐお昼ですし、ここで昼食をご一緒にいかがですか?お時間はありますか?」

「いいのか?時間は大丈夫だから、有難く馳走になるぞ」


 そう言って畑を見ながらニコニコしている。やっぱりどこか子供みたいで、ちょっと可愛いらしいと思ってしまった。


 さて、何を作ろう。エランドさんは好き嫌いってあるのかな。お肉は好きそうだから今回はロアのお気に入りでもある豚の生姜焼きにしようかな。

 せっかくだし、異世界のお米も食べてもらおう。



「こりゃぁうまい!!」


 豚の生姜焼きを白ご飯と一緒にかきこんでいるエランドさんの食欲が止まらない。これはかなり気に入ってくれたようだ。

 ロアも隣で負けじと食べている。うん、大好物なんだよね。


「そうだ、嬢ちゃん」


「はい。あ、ご飯のおかわりですか?」


 口の端にお米の粒がついてますよ、エランドさん・・・。



「いや・・・スマン、それは有難くもらう。そうじゃなくてな、庭にある木なんだが・・・」


 ご飯のおかわりをよそいつつ話を聞く。


「あれ、ひょっとしたらメメの木とキキの木、じゃないか?」



 えー?!





「どうも俺はこの庭だと何故かうまく【鑑定】が出来ないみたいでなぁ・・・」


「あ、じゃぁ私がやってみますね」


 食事の後、さっそくお庭に出て鑑定をしてみると・・・それぞれ【メメの木:桃の木】と【キキの木:柿の木】と鑑定結果が出た。


 もしかして、桃の木とかって異世界産の木だったりする? それともどちらの世界にもある木なの?

 心なしか、ちょっと名前が似ている気が・・・しないでもない、よね?


 それにしたって、まさか欲しかったポーション用の葉っぱが、揃ってお庭に生えているなんて思わないじゃない・・・。灯台もと暗しとはこの事ね・・・。



 そうだ、ポーションといえば。


「エランドさん、そういえば中級ポーションはその後どうなりましたか?」


「あぁ、あれな・・・」


 なんでも薬師ギルドでは連日この件で話し合っている最中だそうで・・・本部のある王都の薬師ギルドでもかなりざわついているらしく、価格についてもまだ決まっていないのだとか。


 今までのポーションとは別物として規格を設定した方が良いという意見もあれば、従来のものと同じように扱うべきという意見もあるそうで・・・。


 ちなみに王都は隣の領にあって、ここから馬車で約半日の距離だ。

 領主様は王都のギルドでも仕事があるので、普段から自領と王都とを行き来しつつ仕事をしているそう。だからここの薬師ギルド長が不在がちでエランドさんも忙しいのね。・・・どちらもお疲れ様です。


「あの、良かったら味見をされますか?」


「何をだ・・・?」


「もちろん例の初級ポーションと中級ポーション、ですけど・・・?」


 それを聞くなりエランドさんが変顔をした。・・・なぜ?




 冷蔵庫から保存ビンを出す。この冷蔵庫にもエランドさんは興奮していた。


「モノが冷やせる棚だと!?」


 そうですよね、冷蔵庫は、まさにモノを冷やす棚ですよ・・・。そっか、ここには冷蔵庫とかで冷やす事が一般的ではないんだな。でも魔法具とかで探せばありそうよね?


 ポーションは2リットル瓶に入っているので、この間飲んだあとに瓶にも詰めたが、まだ1/3近くは残っていた。

 グラスにそれぞれを注ぎ、エランドさんにお出しする。


「どうぞエランドさん」


 無言でグラスを見つめるエランドさん。

 ・・・飲まないの?



「ポーションが・・・ポーションが・・・茶のように出てくるとは」


 ・・・どうやら何か葛藤をしているようだ。それでも興味には勝てず、飲んでいたけど。



「うおっ・・・! なんだこれは。旨いな!」


「悪いが、また鑑定するぞ」


「はい、どうぞ。品質の確認は必要ですよね」


「それより単純にこれがあの不味いポーションとはちょっと信じられなくてなぁ。・・・【鑑定】」


 【限りなく中級に近い、おいしい初級ポーション:生傷なら治せる】

 【限りなく上級に近い、おいしい中級ポーション:骨折まで治せる】



「間違いなくポーションだ。・・・ま、実を言うと飲んだ直後から効果を感じてる。腰痛が治ったし、それにここ数年無かったほど体調が良いんだわ」


 体調が良いのは何よりだ。



 ちなみにあの後、私がエランドさんに庭の植物にも自由に【鑑定】をして良いと許可をしたら彼にもメメの木などの鑑定が出来るようになった。

 どうやら家主の私が許可しないと鑑定が出来ないみたいだ。・・・もしかして、それって我が家の結界のせいなの?


 こうして元気いっぱいのエランドさんは、足取りも軽やかにギルドに戻っていった。




 ・・・で、私たちはまだメメの木とキキの木の前にいた。


「まさか、この果樹の葉っぱが・・・」


 そういえば日本でも昔から桃や柿は葉っぱにも薬効があると、色々と使われてたっけ。

 それがポーションの材料になるというのは説得力があるし、妙に納得してしまう。


 実も生っているけど、いま必要なのは葉っぱの方だ。桃の木も柿の木も葉がたくさん生い茂ってるから、少しくらい採っても大丈夫だろう。


 そういえばあの梅の木も薬効が高そうよね。

 なんたって梅の実で作る梅干しは日本のスーパーフードって言われてる位だし。梅の木もあとで鑑定してみようっと。


 納屋に置いてあった梅のハチミツ漬けも確認しに行くと、どうやら順調に漬かっているようで一安心。

 さて、まずこちらから鑑定してみますか・・【鑑定】さん、お願いします!



  【fgy〇おhip□okるuiyu:hjyjk】


 鑑定結果が、めっちゃバグってる・・・

 うーん、特に失敗してる感じには見えないんだけど・・・まだ出来上がっていないから?

 まぁいっか。どちらにせよ飲み頃になるのは数か月先だもんね。


 なぁんて、この時はのんきに構えていましたっけ。


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