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11.領主様と保護者

 

 私は今日もまたロアと手をつなぎながら、薬師ギルドに向かっている。

 このところ毎日だから、ギルドへ行くのがルーティンのようになってるけど、仕方がない。


「こんにちはー」


 ギルドの扉をくぐる。

 警備の人や受付のミーアさんともこの数日で仲良くなったので、ギルドの中にすんなり入れてもらえた。



「おぉ、嬢ちゃん」


 今日はエランドさんも受付に居た。もしかしたら待ち構えていたのだろうか。


 さっそくいつもの部屋に通されて、領主様との面会日を知る。

 なんと、本日このままお会いすることになってしまったのだ・・・ちょっと急すぎませんか?


 なんでも昨夜遅くに領主様がこの町に戻ってこられたそうで、ギルドに朝一番に知らせが届いたとか。

 今日の予定をすべて変更し、これから領主様ご本人がギルドに来てくれるという。


 これって【招かれ人】がいかに重要案件なのか、お察しな気が・・・。



「でも私はこんな普段着の恰好ですけど、良かったんでしょうか?」


 思わず自分を見下ろしてしまう。

 一応、この町で買った服を着ているんだけど。なんというか・・・とてもカジュアルだ。

 薬師ギルド長だけど、同時に貴族でもある領主様の前に出る格好ではないような気がする。


「構わねえよ、会うのだって領主様たってのお望みなんだからな」



 その領主様って、一体どんな人なんだろう・・・。

 なんでも領主様が兼任している薬師ギルド長というのは王都のギルド本部での仕事も多く、不在がちだとか。

 だからこの薬師ギルドの運営に関しては、実際はほとんど副ギルド長が回しているようだ。ミーアさんが教えてくれたけど、エランドさんが実質のトップのような感じらしい。


 そのエランドさんといえば「そろそろギルド長が来る頃合いだから、ちょっとそこまで迎えに行ってくるわ」と部屋を出て行った。

 ロアと二人でお部屋に残されて、ようやく少しだけ肩の力が抜ける。



「・・・ロアは領主様ってどんな方か知ってる?」


「僕はあまり知らないけど、確か若い領主様だって聞いたことがあるよ」


 へえ・・・そうなんだ。ちょっと意外かも。

 領主様っていうとご年配のイメージだったけど、お若い人なのね。


「少し緊張するけど、ロアと一緒だから心強いな」


「うん! ぼくがリサを守るからね!」


「ありがとうー!」


 思わず抱き寄せてぎゅーっとハグをしてしまう。うちの子、なんて可愛いんでしょう!



 しばらくするとドアの向こうが少し騒がしくなって、廊下から足音や話し声も漏れ聞こえてきた。



 ドキドキしちゃう・・・。



 扉がノックされたので返事をすると、エランドさんが扉を開けてこちらを見た。

 そのあとすぐに他の男性が入ってきて、思わず私はロアと手を繋いだまま立ち上がる。


「君が【招かれ人】のリサ殿か。私はここの領主で、ルーカス・ベルナールという」


「初めまして、リサ・タチバナと申します。こちらは私の家族でロアンです」


 ロアと一緒にぺこりと頭を下げる。こちらのマナーが分からないので挨拶は日本式だ。

 となりのロアも私のマネをして、同じように見よう見まねで挨拶をしてくれてる。



「あぁ、そう緊張しないでくれ。どちらかといえば、私の方が緊張しているかな。なにせ【招かれ人】と会うのは生まれて初めてなのでね」


 そう優しく微笑まれて、ようやく彼の顔をまともに見ることが出来た。

 確かに副ギルド長よりは若いけど、30代後半くらいかな。がっしりとした体格のイケメンさんだった。


「早速ですまないが、私にもギルドで登録した内容を同じように見せてもらいたい。ここでもう一度、あの水晶玉に触れてもらえるだろうか」


「はい。わかりました」


 その言葉のあと、すぐにエランドさんが水晶玉の魔道具をテーブルに乗せたので、私も前と同じように水晶に手を乗せてみる。



 ■リサ・タチバナ

 ■人族?

 ■招かれ人(女神フローデリアの愛し子)

 ■18歳

 ■女性

 ■薬師・調合師

 ■家族:ロアン(11歳・獣人・銀狼族♂)の保護者であり家族



 あら? 少し書かれている内容が増えてる。

 これって変化した内容が分かるようになっているのかな・・・どんな仕組みなのかな。すごい不思議・・・。


 えっ?! あーっ、ロアが11歳ってなってる! もしや今日がロアのお誕生日?!

 まさかここでロアのお誕生日が判明するとは・・・!


 そんな私の内心を知らないルーカス様は、私のデータに目が釘付けだ。


「・・・確かに【招かれ人】なのだな・・・いや、疑ったわけではないんだが」


 領主様にも軽く衝撃が走っているようだった。



「ロアン・・・お前、銀狼族だったのか・・・!」


 エランドさんまで驚いている。なんだろう? もしかして珍しい種族なのかな?

 隣を見たらロアも同じように驚いていたので、きっと本人もそこまでは知らなかったんだろうなぁ・・・。


「ンンッ、確認させてもらった。貴女あなたは間違いなく【招かれ人】であり、【女神様の愛し子】だ」


「そのよう、ですね・・・。でも女神様からはこの世界で暮すだけで良いと言われただけで、愛し子だとか、そのあたりは何も聞いて無かったんですけど」



 無音。部屋の中が無音。

 え? どうしたの?


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


「もしやフローデリア様とお言葉を交わしているのか?!」


 エランドさんも領主様も目をギラギラさせて、ちょっと怖い・・・。



「はい。この世界に呼ばれた時に、女神様からお声だけですが簡単な説明を受けました。でもそれだけで・・・」


 お二人の真剣な顔が怖くて、だんだんと声が尻すぼみになってしまう。



「何てことだ・・・神殿にこの事は伝えてあるのか?」


「いいえ、私もいま初めて聞きましたので・・・」


 領主様とエランドさんが顔を突き合わせてボソボソと小声で話してる。

 確かにこの前調べた時にエランドさんには聞かれなかったし、私も話してなかったけど・・・これって最初の時に言うべき事柄だったの?


 ロアも不安そうに私を見て、ぴったり寄り添ってくれた。心配してくれてる感じがひしひしと伝わってくる。本当にいい子だなぁ・・・。



「リサ殿。急な話になるが、あなたには今すぐ私の庇護下に入ってもらいたい。御身を守るためと思ってぜひ了承して欲しい」


「・・・それはロアンと一緒で良いのですか?」


 ロアと離れ離れになるのは嫌だからね。確認はしておかなくちゃ。



「もちろん構わない。二人まとめて私が保証人になろう。諸々の手続きもこちらできちんとしておく」


 あぁ、それは助かるかも。私はいま身分を証明をするものは何も持っていないし、今のところ他に信頼できそうな知り合いもいないし・・・これはこちらにとって渡りに船かもしれない。


「ありがとうございます、よろしくお願いします」





 ガタガタ、ガタン、ガタゴト・・


 馬車は初めてだけど、けっこう揺れるものなのね。

 私はロアと二人で豪華な馬車に乗って、領主様のお屋敷に向かっているところ。

 身の安全のため、しばらく領主様のところで暮らすことになってしまったからだ。


 安全のためと言うけれど、領主様の話では女神様の愛し子に手を出すような愚か者はまずいないらしい。

 そんなことをすれば天罰が下るという認識らしいのだが、まずいのが愛し子だとは知らずにちょっかいをかけられてしまう場合、なんだとか。

 まぁそれはそうかもね。見た目で「愛し子」と分かる訳ないでしょうし・・・。



「なんだか色々ごめんね。ここまで大事になるなんて思ってなくて・・・」


「僕は平気だよ。リサこそ大丈夫? 疲れてない?」


「うーん・・・ちょっとまだ色々な事に頭が追いつかなくて・・・。でもロアと一緒だから大丈夫。ありがとうね」


 抱き寄せて彼の頭にちゅっとキスを。


「ふふっ、これからもずっと一緒だからね。リサはぼくが守るから!」


 嬉しそうにこちらを見上げるロアの破壊力がすごい。

 可愛いが過ぎる、とはこの事か・・・はぁー、本当にかっわいい!



 しばらくして見えてきた領主様のお屋敷はすごく立派で、こういうのはもうお城と言っても良いんじゃないかな。

 門を過ぎて馬車で玄関前に着くと、そこに執事さんが出迎えてくれていた。



「ようこそ、リサお嬢様、ロアンお坊ちゃま」


 ザ・執事!という感じのおじさまが美しい所作で礼をとってくれる。すでに先触れがあったのか、私たちのことはもうご存知のようだ。



「リサ・タチバナと申します。こちらは私の家族、ロアンです。しばらくの間お世話になります」


 挨拶を済ませると、執事のジョセフさんの案内でお部屋に通された。

 宿とはケタ違いの広さのお部屋にロアと二人でびっくりしてしまう。


「あの、ここは私たち二人のお部屋ですか?」


「いいえ、こちらはリサお嬢様のお部屋です。ロアン坊ちゃまは隣の続き部屋をご用意しております」


 そう執事さんに言われ、さらに驚いてしまう。

 お部屋は広すぎるので二人一緒でも、と言ってみたが「とんでもございません。お客様には当屋敷にてごゆるりとご滞在いただきたく・・・」ときっぱりやんわり断られてしまった。


 正直、豪華すぎて落ち着かないけど・・・仕方ないか。


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