102.約束
「竜宮城だよ。知ってる?」
えっと・・・お伽噺でというか、昔話でというか・・・あれ?
ああいったお話って架空のお話かと思っていたけど、実は異世界の事を書いたお話だったりするの? ま、まさかね・・・?
「私の知っている竜宮城は、お伽噺にでてくる海の中の宮殿・・・だったかな。乙姫様がいて・・・」
「そう! その海の中にある宮殿の事だよ。まさかオトヒメ様も知ってるの?!」
えっと・・・違うよ、知り合いじゃないからね・・・?
そういうお話を聞いたことがあるだけで・・・。
「オトヒメ様っていうのは、ボクら人魚族の姫様のことなんだけど・・・」
どうやら、あーくんの生まれる前のお話らしくて、彼の知っている範囲での話という事だったけど・・・オトヒメ様は、人魚族や魚人族、ひいては海竜を統べる海竜王セイドンの妻ということだ。
それとやっぱり魚人族っていう種族も人魚族とは別にいるみたいだね・・・今はそれは脇に置いておくけれども。
そしてセイドン様・・・?オトヒメ様を聞いた後だから、”西郷どん”みたいにちょっと日本風に聞こえちゃってるけど・・・それって”ポ”がついたら”ポセイドン”でギリシャ神話の海の王とかじゃ?
いや、それは偶然で考えすぎかしら。
そのセイドン様の妻のオトヒメ様が、竜族同士の争いに巻き込まれて子供を失ってしまい、失意の中で長い眠りについてしまったそうだ。
それを悲しんだセイドン様は、オトヒメ様を連れて竜宮城ごと深い深い海の底に沈んでしまわれたとか・・・。
だけど体のつくりが違うのか、深海で人魚族はうまく暮らすことが出来ず、深海に対応できた魚人族たちと別れて、人魚族だけが竜宮城から去る事になったらしい。
ちなみにその眠りについた人魚のオトヒメ様だけは、大きな貝の中でセイドン様が大切に守られているという。
うーむ。そのお話し自体が、もうお伽噺のそれだね・・・。
「それでボクら人魚族は竜宮城から離れ、それから定住をせず、このあたりの海で暮らしているんだ。オトヒメ様が目覚めるのを願いながら・・・」
「じゃぁ、今でもオトヒメ様は深海で眠りについていらっしゃるのね?」
「そうだと思う・・・。少なくとも海竜王はあれからお姿を現していないからね」
「その竜族同士の戦いっていうのは、何があったの?」
「火竜が襲ってきたと聞いてるよ」
え・・・火竜って・・・。
『その火竜の卵が、いま火山にあるんだよね』
びっくりした・・・。
真珠の君、突然ひょっこり出てこないでくださいよ・・・!
相変わらずのマイペースで、次に口にした言葉が『コーヒーが飲みたいな』って・・・自由すぎるでしょ。
同じく驚いているあーくんに「コチラ、神樹の精霊さんです」とご紹介すると「信じられない・・・!」とまたもや号泣してしまった。
まさか神樹の精霊さんに会うとは思っていなかったようで、感激しちゃったみたい。本当に感性が豊かな子です。
「でも火竜の卵って、まだ暫くは孵らないんでしたよね?」
ご要望のコーヒーを淹れながら聞いてみる。
『そう思っていたんだけどね・・・』
『それが思ったよりも孵化が早そうなんじゃよ』
ん・・・? どさくさに紛れて真珠爺様までご登場ですか。ええ、そんな予感はしていましたとも。
でもどうして皆さん現れるのが突然なの・・・? もうあのポポポポポワン!っていうお約束のエフェクトは省略してるの?
『突然すまんのぅ。儂にもコーヒーをたのむぞい』
・・・それで、コーヒーを飲みながらお話を伺うと、火竜の卵が孵化するのは時間の問題らしいことがわかった。
ちなみに、どうしてそう最新の状況が把握できるのか不思議に思って聞いたら、精霊のお仲間が報告してくれるんだって。すごいな、精霊ネットワーク・・・。
そして問題なのは、卵が孵化をすると今までは火竜の卵につきっきりだった母竜が、孵化と同時に卵から離れてしまう事なんだとか。
今までは卵から離れずに温めていたけれど、生まれたらもう自分の仕事は終わったと、知らんぷりらしい・・・。
もともと空を飛ぶような大型竜は群れないのがほとんどで、番とだけで暮らすのが普通だとか。子供も生まれた時から自力で生きていくのだそう。・・・ううむ、なんという過酷さ。
個人的には幼い竜がどうやって食料を調達するのかとても気になったけど、それがこの世界の竜という生き物みたい。強いなぁ・・・。
そしてその母竜は、卵が孵化したらおそらくどこかに飛んで行く。それが人の住む場所に行かないとも限らない訳で・・・しかも火竜は魔獣ではないので、神樹のある聖域だろうが関係なく飛んできてしまうだろう。そうすると、番と合流するまでの母竜は、何処に行くかまったく見当がつかない訳で・・・。
『あとその母火竜の番は、海竜王と戦った竜かもしれない。だから番を失っていて、その母火竜もこの近くで過ごすという可能性もある』
「じゃぁ、その母火竜もまた海竜と戦う事もある・・・という事でしょうか?」
『いや海竜はまだ深海におるじゃろうから、それは無いだろうが・・・他の場所で暴れるかもしれないがのぅ』
『魔獣が大移動して人の住む町までやって来たり、その魔獣を狩るために火竜が襲ってきたり・・ということもあるだろうね』
『ありえるじゃろうなぁ。神樹の聖域は全ての国を覆っている訳ではないからのぅ・・・』
『そうすると、国を挙げての討伐隊が組織されるだろうね・・・』
うわぁ・・・それはもの凄く被害が出そうだ・・・。できるなら火竜には人里離れた場所に飛んで行って欲しいけど・・・こればかりは誰も予想がつかないよね。
「海は・・・ボクら海の民はどうなるの?」
あーくんは神樹の精霊が話している内容を聞いて、すでに顔面蒼白だった。彼らの住む海の中も魔海獣がいるから、火竜は餌場としてしまう可能性もあるかもしれない。
母火竜が普段どういう場所に住んでいるのか知らないけど、子供の火竜が生まれて自由になれば新たにこの辺りを縄張りにする可能性もありそうだ。そうなったら人魚族の住む海が荒らされ、もう住めなくなってしまうかも・・・。
「そういうことなら、出来るだけあーくん達の住む海の近くに神樹の枝を植樹してみようよ。魔獣が離れていけば火竜も餌場にしないだろうし、人魚族の人達が少しは安心して暮らせるようになるかもしれない」
「本当に・・・?」
「うん。植樹に良い場所を一緒に探してくれるんでしょう?」
「ありがとう・・・! ボク絶対に良い場所を探すよ!」
よし、これは何としてでも最適な場所を探して、植樹を成功させなくては。
女神様の御力だってフルパワーで使っちゃうぞ!
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