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10.仕事とナンパ

 

 今日もいいお天気だ。

 爽やかな風が気持ち良い。


 そういえば、私が日本からここに来たのは9月だった。

 この世界では九の月と数え方も一緒だ。いまはもう十の月の中頃だけど、ひと月が30日なのも感覚が同じだから覚えやすい。


 そして今日も私はロアと手をつなぎ、宿を出てギルドに向かっている。


「おはようございます。タチバナです。副ギルド長のエランドさんをお願いします」


 受付に行くと、すぐまたこの間の2階の部屋に通された。


「エランドさん、おはようございます」


「おう、嬢ちゃん・・・いや、リサ様、おはようございます」


「エランドさん、その呼び方はやめてください・・・」


 正式に招かれ人と認定された訳でなし、普通にして欲しいと頼んで、ようやく敬語がとれた。



 それで今日は出来立ての中級ポーションを持ち込んで、さっそく見てもらおうと思って来たのだけど・・・。


「こりゃぁまた・・・」


 あきれ顔のエランドさんに申し訳なく思うが、私にはどうしようもない。


「詳細鑑定で【限りなく上級に近い、美味しい中級ポーション:骨折まで治せる】って出てきやがる・・・ポーションは薬草臭くて不味いモノなのに、初級だけでなく中級まで味がいいのか。そして骨折までも治る対象なのかよ」


 ・・・エランドさん、少し言葉遣いが崩れてませんか?


「嬢ちゃんのポーションはホント値段がつけづらいんだよなぁ・・・」


 彼の口調、だんだん変わってきた気がする。きっとこっちが彼の素なんだろう。

 最初はいかにも副ギルド長ですって感じの話し方だったけども。背中に大きな猫さんでも背負っていたのだろうか。


「あの、普通の中級ポーションのお値段では買取りをしてもらえないんですか?」


「・・・それは駄目だな。こういうのは効能の高い物を普通の中級ポーションとして売るわけにはいかないんだ。他と差が出ちまうからな」


 そ、そうなんですか・・・。


「すまんが、こいつは少し預からせてくれ。ギルド長とも相談したい」


「わかりました」


 ポーションを預け、代わりに預かり札というのをもらった。なるほど、これが証明書になるのね。



「じゃぁ、私たちはこれで」と立ち上がったら、これからどうするのかと聞かれたので、仕事を探しに行くつもりだと話す。


「仕事か・・・このポーション作りでは駄目なのか?」


「家族ができたので、ちゃんとした仕事に就きたいと思ってるんですけど・・・ポーションは薬草が無いと作れないから、やっぱり不安定かなぁと」


「そんなことは無いぞ。ポーションを作れるやつは貴重なんだ。何ならこのギルドで専属登録をして欲しいくらいだ。薬草だってここのギルドに定期的に入荷するから便利だぞ」


「そうなんですか? もしここでお仕事がもらえるのなら嬉しいですけど・・・」


「じゃぁ領主様に立ち会ってもらうか。ここのギルド長だし、おそらく保証人になってもらえるぞ。俺でもいいが、領主様の方が何かと良いだろう」


 保証人ってこの世界でも必要なのね。

 それは今後の事を考えるとロアの為にもなるし、すごく有難いな。


「ただ、悪いが数日待ってくれないか? 領主様がまだ不在で、今夜にはこの町に戻られるんだが・・・。 恐らくすぐに【招かれ人】の件も耳に入るから、近いうちに必ず領主様にはお会いすることになる。それからの方が話が早いと思うんでな」


 ロアと相談して、領主様の件はエランドさんに一任することにした。

 エランドさんは信頼できそうだし、彼が強く勧めるのであれば、その方が良いだろう。


「では、お願いします」


「あぁ、また宿の方に連絡するから。すまないが、しばらくはあの宿に居てくれ」





「リサはすごいね。ポーションって中級以上は作るのが難しくって、作れる人も少ないって聞いたことがあるよ」


「きっと【招かれ人】としての能力なんでしょうね。家もポーションも全部が女神様のおかげね」


 ギルドを後にし、お昼が近かったので今日は町中で食べてみようと二人で歩き出す。

 初の外食だ。何を食べようかな。

 ロアに食べたいものを聞いたりしながら、町の屋台にしようと出店や屋台が連なる賑やかな通りへ向かう。


 でもその前に時間があったので服を見に行くことにした。

 屋台で買い物する前に着替えた方が良い、とロアに言われて自分の恰好が目立つのを思い出したのだ。



 洋品店らしきお店を覗くとスカートが目に入る。

 確かに町中でも木綿っぽいブラウスに長めのスカートという女性が多かったので、こういったお洋服が主流なのかな。


 あぁ、それで草原ですれ違った冒険者の人とかがジロジロ見てたのか。

 普段着がパンツ姿の女性が珍しかったのかもしれないな。まぁ服のデザインがちょっと変わってたというのが一番大きい理由かもだけど。


 でも私の洋服よりも、本当はロアの洋服が買いたい!

 彼は奴隷の時に馬車から追い出されて洋服の一つも持っていなかったから、今は私のシャツとハーフパンツを履いてもらっている。

 でもちょっとサイズが合わないので、収入もあった事だし、この際だから色々と揃えてあげたい。



「あら、可愛いお客様ね。いらっしゃい」


 服を扱っているお店に入ると、女性が声をかけてくれた。

 よかった、優しそうなおばさまだ。


「あの・・・この子の洋服をひと通り見せてもらいたいのですが」


 そう言ってロアを前に出す。


「リサ、なに言ってるの? まずは自分の洋服でしょう」


 びっくりして振り返るロアにまぁまぁと宥め、おばさまに託す。

 グイグイとおばさまに奥へと連れられるロアに手を振り、私は目の前にあったワンピースみたいな服を手に取る。

 うん、私のはこれでいいかな。サイズも合いそう。あ、着替えにスカートも必要かな?

 ロアを待っている間に洋服を手に取りながら悩んでいると、後ろから男性に声をかけられた。



「お嬢さん、こんなのはいかがですか?」


 お店の中に他に人が居ると思っていなかったので驚いて振り向くと、男性が先ほど見ていたのとは違うワンピースを手にして立っていた。

 ここの従業員さんだろうか。


「あ、そうですね。そちらも良さそうです」


 つい、日本での買い物を思い出してしまう。

 お洒落センスをどこかに置いてきた私としては、店員さんの勧めは非常にありがたく、そしてその押しに弱かった。


「あちらで試着されては?」


 いつのまにか流れるように手を取られ、試着を勧められた時だった。



「リサに触るな!」


 横から引っ張られて振り向くと、そこには見違えるほどの美少年が立っていたのだった。





「あんな男に手を取られたりして・・・だめだよ、リサはもっと気をつけないと!」


 洋服屋さんを出たあと、ぷんすこと怒っているロアから、お説教が始まってしまう。



「だって、お店の店員さんかと思ったんだもの・・・」


「あんなの、ただの軽薄な男にしか見えないから」


「ごめんなさーい・・・」


 そんな会話をして二人で大通りを歩いていたら、なぜかまた男性に声をかけられてしまった。いわゆるナンパ・・・なのだろうか?

 おかげでロアのお怒りがまったく収まらない・・・。


 不思議なことに、このところギルドに来る度に道端で男性に声をかけられるのだ。


 こんな平凡な顔の私がナゼ?と首をかしげるしかない。やはりこの黒髪が目を惹くのか、それとも私の恰好がちょっと変わっているからなのか・・・。

 でもさっきの洋服屋さんで買った服に着替えたばかりなのに声をかけられたという事は、きっとこの髪色が悪目立ちしているんだろうな。


 あぁ、この世界にカツラがあればいいのに・・・。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「不思議なことに、このところギルドに来る度に道端で男性に声をかけられるのだ。」 隙がありそうに見えるのでしょうね。
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