9.薬師ギルド
薬師ギルドはかなり大きい建物だった。
白い壁が一見お洒落なホテルのようにも見え、なんだか高級そうな感じ。
しっかりとした分厚そうなドアの前には、警備員らしき人が立っていた。
用件を聞かれたので、ギルドに登録したいのとポーションを鑑定してもらいたい旨を伝えると、ようやく扉を開けてもらえた。
けっこう警備がしっかりしているのね。
「ポーションは高級だから、ギルドに入るのが他より厳しいんだよ」
「そうなんだね。ちょっとドキドキしちゃった」
ギルドの中に入ると、受付に女性がいたので同じように用件を伝える。
「あの、こちらがそのポーションです」
現物をお見せした方が良いだろうと何本かリュックから出して瓶を見せる。
すると受付の女性は瓶を見たとたん、にこやかな笑顔がそのまま固まった。その後すぐに、こちらの部屋でお待ちくださいと二階の個室に通された。
そこでお茶が出され、しばらくして待っていると、40代くらいの男性が入ってきた。
「お待たせしました。私はここの副ギルド長で、エランドと申します」
そう言った彼はこの薬師ギルドの副ギルド長であり、1級の鑑定士だという。
そんな偉い人がいきなり出てくると思わなかったので驚いたが、むしろラッキーかもしれない。
「はじめまして、立花里紗と申します。こちらはロアン。私の家族です」
ご挨拶が一通り終わると、エランドさんと向かい合うように座る。
「なんでも今日はポーションをお持ちになられたとか」
エランドさんはコホン、とわざとらしい咳をしつつ聞いてきた。
「あ、はい。鑑定してもらいたいのはこのポーションなんですが・・・」
再びリュックから初級ポーションを何本か出して渡す。
「拝見しますね・・・ほう、聞いていた通りずいぶんと高級なガラス瓶に入ってますね」
ポーションよりも、まず容器のガラス瓶を褒められてしまう。
そっか、さっきの受付のお姉さんはビンのクオリティに驚いていたのか。
さすがの日本製、メイドインジャパンだ。いやどちらかといえば、メイドインアースというべき・・・?
エランドさんがビンに手をかざすと、青白い光がポーションを包んだ。鑑定魔法だろうか?
「・・・・なるほど」
どんな評価になるかドキドキする。私の鑑定内容と同じだったらいいのだけど・・・。
「このポーションは、どなたが作られたのですかな?」
エランドさんが眉間にしわを寄せながらこちらを見てくる。
あら? 何だか雲行きが・・・。
「私です・・・」
「本当に?」
「はい、本当です。初めて作ったので、駄目な所があればはっきり仰って頂ければ作り直してきますが・・・」
「これを・・・初めて・・・?」
エランドさんがさらに眉根を寄せる。
何かまずい結果でも出たのだろうか・・・。
「これは鑑定では確かに初級ポーションと出るのだが・・・詳細鑑定では【限りなく中級に近い、美味しい初級ポーション:生傷なら治せる】とあってだな・・・」
しばらく沈黙した後にエランドさんが放った言葉に、私たちは二人とも首を傾げてしまう。
それより詳細鑑定という、そんな鑑定方法があることに驚いた。この人はプロに違いない。熟練の「鑑定士」なのだろう。
「初級ポーションのようだが、中級レベル並の効果があり、しかも美味しいとある・・・。普通ポーションなんて青臭い草の味しかしないんだが」
そういえば、このポーションの味見をしてなかったと気づく。
どんなお味がするんだろう?
「いや、失礼。こういった鑑定結果は初めてなので驚いてしまった。普通は【初級ポーション +2】など、出来の良いものには数値が出たりはするが、味については初めてでね・・・」
へぇ、そんな結果が出るのね。
「では、このポーションはギルドで買取りしてもらえる品質なのでしょうか?」
「もちろんだ。喜んで買取りをさせてもらう。他にも在庫があるようなら買い取るので、ぜひまた持ってきて頂きたい。ただし買取りはギルド登録をしてからになるが・・・。あと買取りの金額についてはギルド長に相談したいところだな・・・」
最後の方はエランドさんの独り言のようだったけど・・・。え! ギルド長って、ここのトップでは!?
段々と話が大きくなっていくようで、どうしたら良いのか。
私としては、とりあえず身分証明としてのギルドカードを作ってもらえたら良いのだけど。
少し待って欲しいと言われたので、ロアと二人で部屋でお茶を飲みつつエランドさんが戻るのを待つ。
「なんか、オオゴトになっちゃったね・・・」
「薬師ギルド長って、確かここの領主様だったと思うよ」
ええっ、そんな偉い方なの!?
「お待たせした」
足早にエランドさんが戻ってきた。
ギルド長は明日まで不在のため、ポーションの買取りは日を改めるという話となったのだった。
あと部屋に水晶玉の魔道具を持ってきてくれた。
これに水晶に手をかざした結果で、ギルド登録をしてくれるらしい。
後日の買取りがスムーズにできるよう、今日中にギルドカードは発行してくれるそうだ。
カード登録時にはいろいろなデータが吸い出されるらしく、それには・・・
■リサ・タチバナ
■人族?
■招かれ人(女神フローデリアの愛し子)
■18歳
■女性
というデータがでてきた。
え!?
なんか思いっきり【招かれ人】って出ちゃってるんですけど! こんな情報もでちゃうの?!
ぷ、ぷらいばしーは!?
待って。それよりなんで種族のところに「人族?」ってクエスチョンマークがついてるの?
わたし、人をやめた覚えはないんですけど・・・!?
「ま、・・・!」
エランドさんも言葉を詰まらせてる。
「招かれ人だぁ!?!?」
そこからが嵐のようだった。
なんでも【招かれ人】は第一級の保護対象だとかで、領主様はおろか王宮にまで報告の義務があるらしく、色々と質問攻めにあった。
保護対象とか、そんな事知らなかったよ・・・! あまり大げさにしないで欲しいのに・・・!
「お嬢ちゃんは・・・いや、タチバナ様になるのか」
「エランドさん、急にどうしたんですか・・・その呼び方・・・」
「いや、言い伝えくらいしか知らないが、招かれ人は王族と並ぶ扱いになると聞くからな」
「そんなの困ります。普通に呼んでください!」
隣で不安そうに見上げてきたロアに申し訳なく思う。
もともと招かれ人なんて事、ロア以外に知らせるつもりなんて無かったのだ。
しかもイトシゴって何・・・そんなの聞いてなかったんですけど!?
「リサは、女神様の愛し子なんだね。驚いたけど、なんかこれで色々と納得できたかも」
そう言ってくれるロアに、こんな騒ぎになってしまい申し訳なくなる。
それにしても、なんだか疲れた・・・。
「あの、今日はもう失礼してもいいですか?」
「そうだな・・・構わないぞ。だが、こちらから連絡がつかないと困るんだが」
「では明日、また今日と同じ時間にギルドに顔を出します。それでいいでしょうか?」
「どこの宿にいるんだ?」
「宿は・・・・・取っていません。決めたらご連絡しますので」
「そうか、じゃぁ・・・」
ポーションはとりあえず仮の価格として手持ちの5本を全て買い取ってもらい、金貨1枚になった。
これは初級ポーションでは破格のお値段だそうだ。
初級ポーションなのになぜか効果が異常に高い、という鑑定結果がその理由らしい。
ちなみに上級のポーションだと1本で金貨1枚となり、庶民ではなかなか手が出ない価格だそう。
日本の感覚でいったら大銀貨1枚で1万円、金貨1枚で10万円という感じだろうか。高い!
それもそのはず。
町では普段は金貨など見かけることが無く、普段は鉄貨や銅貨が多く流通しているようだ。
あと庶民が怪我した時はまずポーションではなく、薬草を貼ったりするのが主流みたい。
そもそも普通のお薬だってあまりお安くはないようだし。
副ギルド長と約束した手前、今日は連絡先を兼ねて町で宿を取った。
街での滞在は、彼が紹介してくれたこの宿以外はダメだと言うので「銀の匙亭」という宿だ。
しかもお宿代はギルド持ちだという。
なんでもここは警備がちゃんとしているらしく、貴族様の御用達なのだとか。
あとはお料理が美味しいらしい。
・・・なるほど「銀のスプーン」だもんね。確かに美味しそうだ。
銀の匙亭は清潔感のある広々としたお部屋で、貴族様の御用達というのも頷ける。
これでも小さめのお部屋らしいが、おトイレもちゃんとあるし十分すぎる。ただおトイレは水洗ではなく、中に入っている特別なスライムが処理をしてくれるらしい。さすが異世界、スライムさんが大活躍だ。
夕食は頼めば部屋にも運んでくれるそうだけど、二人で食堂に行って食べた。
魔物肉を使ったシチューがここ銀の匙亭では有名らしく、確かにいいお味でした。ちなみにお肉はホーンディアという魔物の鹿らしい。
でもロアが私のご飯の方がおいしい、と言ってくれたの。えへへ、嬉しいな。
そして夜も更け・・・私はここで禁断の我が家召喚を、この宿の部屋の中でしてしまったのです。
ええ、問題なくできました。
我が家を呼び出すのには本当に場所を選ばないらしく、部屋の中で召喚したら家の玄関だけが出現した。
ますます猫さんのどこでも扉を彷彿とさせましたよ。
是非この感動を誰かと分かち合いたい・・・ここ異世界にいる日本人の方には、ぜひご連絡を頂きたい。
そのまま我が家のキッチンで中級ポーションが出来るか試作をしてみたのだけど・・・それも問題なく作れてしまった。
しかもエランドさんみたいに詳細まで鑑定してみると【限りなく上級に近い、美味しい中級ポーション:骨折まで治せる】と出ました。
・・・やはり味についての記載が出るんですね。
気になってちょっと飲んでみたら、爽やかなレモンみたいな味がしました。ちなみに、初級ポーションはほんのり甘い感じで、ラムネみたいなお味でした。
はー、今日もなかなか濃い一日だったな。




