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2-7


 なんのことだよと、みなさん思われたことだろう。


 それはおっさんが会場でちゃんと説明しなかったのが悪い。だから意味不明な話としてそっと閉じるのだけは辞めてほしい。また長話になるけど、ちゃんと説明するから。


 白銀決闘。


 それは白銀祭の中で行われる一つの催し物。しかし他に開催される講話や宴会とは話が違う。あれだけの注目と歓声を集めるには相応の理由があるのだ。いくら国民たちが騎士王を妄信しているとはいえ、本心から楽しむためには本能に訴えるエサがいる。


 決闘という言葉が表している通り、簡単に言ってしまえばただの一対一の決闘だ。おっさんが言っていた通り相手は騎士王。騎士王と戦える権利を得るために、毎年ほぼ全員の選抜騎士団員が参加を申し込む。「キャー騎士王様と一戦交えることができるなんて失神しちゃうわー」みたいな人は知らないけど、その他大勢は騎士王に勝利した際の「特典」が目当てなのだ。


 その「特典」とは、「全て」。


 語弊のない言い方で言うと騎士王が叶えられる「全て」だ。騎士王との決闘に勝利した場合、何でも一つだけ願いを叶えてもらうことができる。


 もちろん不老不死とかは無理だ。でも一般人が一般的に考える願いはほとんどが叶う。中には騎士王の息子と結婚した人までいるようだ。一日にして王族に加わることができるのだから、参加を選ばない手はない。この国における決闘とは、それほど重要な意味をもつものなのだ。


 じゃあ私は白銀決闘で何を願うのかって?


 それは最初から決まっている。


 今の私にとってはこの決闘こそがスタートで、ゴールなのだから。


「いやー、緊張するもんっすね!」


『君がする意味がわかないよ。僕がするならまだしもだけどね』


 全くもってその通りだ。


 ユーリ先輩が顔をしかめている姿が容易に浮かぶ。私は立っていただけ、今回私が選ばれたのは全てユーリ先輩のおかげなのだから。


「いや、あれでも国が物事を決めるシステムじゃないっすか? 一応不安だったんっすよ」


『そのシステム自体僕が作ったものだよ。自分が作った家に入れないバカはいない』


 そう、あの抽選は徹底的に不正をした上で行われたのだ。あんな確率で私が一年目から当選できるはずがないだろう。絶対に叶えたい願いがあるのなら、ヴィオレッタの手を借りた方が手っ取り早い。


 もしかしたら他にも不正をしようとした者がいたかもしれない。それでも抽選が機械を通して行われる限り、本気を出したユーリ先輩に勝てる人間なんていないのだ。彼女はこの日のために選抜騎士団内で使われる全ての端末を自分で操作できるようにハッキングした。それすらも掻い潜って不正できるなら、その人は自分の願いを自分で叶えた方が良い。


『それよりも君は後の手続きを忘れないことだね。君自身が必要なことは僕の管理するところじゃないよ。舞台は作ったんだからね』


「そうっすね。今もちゃんと向かってるところっすよ」


 一人で喋りながら道を歩く姿は異様だろう。浮遊島の方が科学が発達しているとはいえ、一人一台通信端末を持っているような時代ではない。でも今は、緊張から解き放たれた喜びを誰かと共有したい気分だった。


『そうかい。どこに行くんだい?』


「王妃様のところっすよ。何しろお許しがいるらしいっすから」


 おっさんから聞いた話だと、白銀決闘を挑むにあたって高潔な意識があるのかとか何とか。正直気持ちがふわふわしていたので真面目に聞いていなかった。この国の歴史クイズとかされると落ちること請け合いだけど、その時はユーリ先輩カンニングをすればいい。


『まっ、せいぜい嫌われないことだね。君は人類全員から好かれるような性格はしていない』


「……言われなくてもわかってるっすよ」


 当選したことによってちらちらこちらを見てくる人はいるけれど、誰一人として話しかけてこない。これは嫌われているに近い状況だ。別に先輩以外の人にどう思われてようが構わないけれど、王妃に嫌われて当選をなかったことにされるわけにはいかない。


 ユーリ先輩の通信を切ってしばらく歩いていると、色とりどりの花が咲く庭園が見えてきた。選抜騎士団宿舎から離れた位置にあるそれは、遠くからでも別世界の人が住んでいるとわかる。入り口の門には鎧を着こんだ団員が立っており、優雅な雰囲気とは打って変わって近寄りがたい。


 しかしそこから視線をずらすと見知った、安心する人影が目に映った。何でそんなところにいるんだろう。気になった私は一度道を逸れてそちらに駆け寄った。


「何してるっすか、ニナ先輩」


「師団長様からの指示で、あなたの付き添いに来たのよヒナタちゃん」


 制服をしっかりと着て立っていたのは余所行きモードのニナ先輩だ。口調こそ丁寧だけれど、表情はやや歪んでいる。嫌々来ている感じが溢れ出ているのですが。


「副団長様から許可は得ているわ。例年誰かが付き添うのは普通だそうよ。まあ、緊張するものね」


「んや、別に緊張はしてないっすけど」


 先ほどと比べたらゼロと言ってもいい。自分の力でどうにかすることなのだから、今更怯えていても仕方ない。だから普通に一人で行くつもりだったけれど、何故師団長は付き添いに向かわせたのだろう。


「問題は緊張じゃなくて、貴女自身よヒナタちゃん。あなた歩く凶器だという自覚は?」


「ないっすけど」


「でしょう? だから付き添いに来たのよ。まだ私が横にいた方が丸く見えるだろうからって」


 歩く凶器の自覚って何だろう。


 上司と先輩にそんなことを思われていたのは遺憾だけれど、しっくりくる表現ではある、


「中に入ったら私はほとんど喋れないから、自分で頑張るのよ? 語尾は仕方ないとして、失礼なことは言わない。わかった?」


「りょーかいっす」


 語尾を許してくれる時点でお目付け役としては優しすぎるのではないだろうか。ダメと言われても変えれるものじゃないけれど、失礼だろうとは思っている。


 できるだけ語尾が聞こえないように喋った方がいいだろうか?


 付け焼刃過ぎてすぐにボロがでると思うけれど。


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