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2-3


「待て」


 部屋を飛び出そうとした時、鋭い声が引き留める。まだ遠くには行ってないのかもしれないのだ、手を打つなら早い方がいい。


「それこそ無駄な行動だよ、赤髪。少し落ち着いて考えるんだ、僕たちはどう考えてもはめられたんだぞ? 闇雲に探して見つかるわけがない」


「はめられたって、」


「犯人は誰だと思う?」


「犯人?」


「そうだ。僕と赤髪が眠っている間の映像をおかしくしたのも、僕がこんな時間まで眠っていたのも、いや、もしかして君が眠ってしまったのも。全てが誰かの思惑としたならば?」


 誰が一番怪しいと思う?


 カメラのことだけじゃなく、私とユーリ先輩が眠っていたのも?


 そんなの犯人なんているわけない。私はただ眠気に襲われて眠っただけだし、ユーリ先輩だってたまには深く眠ることもあるだろう。全てを誰かのせいにしてしまうのは、ただの責任転嫁だ。


「君は本当にたまたま僕と君がほぼ同時刻に眠ったのだと、そう思うのかい? 思い出してみろ、僕と君は突然眠くなるまで何をしていた? いや、その直前「誰と会っていた」?」


「……そんなっ!」


「言い出したらきりはないさ。本当に偶然だってこともある。でも僕が把握している限り、容疑者も被害者も一人しかいないんだよ、赤髪。だから無暗に探してはいけない。今が一番慎重になるべき場所だ」


 そうは言ってもその疑惑はあんまりだ。容疑はどうあれ、被害者であることには間違いないのだから。

それに私にはできることがあまりない。


 こういう時にバカは足を引っ張る。


「……ユーリ先輩は、本気で疑ってるんっすか?」


「疑うのは自由だ。例えば赤髪、君は黒髪が薬を飲んだところを見たか?」


「え……? お薬はユーリ先輩の部屋で飲んだって、」


「違う。昨日渡したのは特に強い薬だ。僕は部屋で飲めと伝えたし、黒髪は確かに頷いた。それだけで十分疑うに足りる。嘘は何事の始まりにもなり得るんだよ」


 だから、それだけでアイラ先輩を疑っていると。アイラ先輩は昨日かなり混乱していた。言い間違いだって、聞き間違いだって十分にあり得る。廊下で飲んだとも、私が目を離した隙に飲んだとも捉えられるのだ。


「可能性なんて幾らでも考えられるよ。僕が全て間違えていて、君が全て正解なのかもしれない。でもね赤髪、僕は僕が可能性の高いと思った方に賭けるよ」


「……他の、寮の他の人に聞いてみるっす」


「そうかい。闇雲に探すよりはマシな案だね」


 黙って部屋を飛び出さなかったのは、いや飛び出せなかったのは、私の心の中にも少し疑いがあったからだ。先輩ほどじゃないけど、アイラ先輩も精神異常魔法を使える。それだけで私はアイラ先輩のことを信じ切れなかった。


 しかし、じゃあ、アイラ先輩が犯人だとしたなら、何故?


 廊下を早足で歩きながら考える。昔の私だったらこんなことは考えなかったかもしれない。先輩が嘘つきだったおかげで、私も疑う方法を覚えたのだ。


 混乱していた、というのが納得する理由だ。精神状態が不安定で、一人になりたくてやってしまった。十分にあり得る理由だと思う。でもそれだとしたら、カメラがおかしくなっていた意味がわからない。


 逃げ出したかった、とすると辻褄はあうような気がする。誰も見ていないところで、足跡を残さないように逃げる。悔しいけど十分な理由だ。


 でもそうするとおかしい点が出てくる。アイラ先輩は機械が苦手だった。こっそり勉強をして知識があったとしても、ユーリ先輩でもすぐに解決できないような罠を仕掛けられるとはとても思えない。だからアイラ先輩が全ての犯人であると、私はどうしても言い切れなかった。


 じゃあ、誰かが協力した?


 でも、それこそ何のために?


「わかんないっすよ、先輩」


 先輩だったらとっくに答を出せていただろう。


 しかし私は体を動かすだけで、何もわかっていない。こんなのに身体を渡すぐらいだったら先輩が生きていた方が世界の為になっていた。そしてアイラ先輩が苦しむことも、姿を暗ますこともなかっただろう。


 先輩は本当に、何で私なんか生かしたんだろう?


「……今そんなこと言っても、仕方ないっすね」


 とにかく足を動かす。まずはマリーテさんとミスリエさんに協力してもらおう。もしかしたら二人の部屋のどちらかでお茶会としゃれこんでいるかもしれない。


 それで、そんなことで、終わってくれればいい。


 じゃないと世界を変えたところで、先輩は喜ばないだろうから。

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