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1-7


「なるほど、よくわかったっす」


 再生は大体わかっていた。魔力を吸うというのはさっきの手足か。頭上から降ってくるのは灰ばかりだけど、この状態ならどうだ?


 ぎいぃやぁぁぁぁ


「粉々でも駄目っすね。他に試したことはあるんっすか?」


 まだ灰が降りしきる中、新品の本体が落ちてきた。横っ腹に回し蹴りで対応する。


 ぎぎぎ


 おっ、今度はちゃんと受け身をとったぞ?


 魔力を吸っているということは、もしかして成長しているのか?


「最初は胴体を真っ二つにしました。次に頭を打ち抜きました。三度目は雷で黒焦げにして、四度目は氷漬けに。あとは……、覚えてないです。灰にしてもダメでした」


 レイちゃんが今度はつまらずに教えてくれる。粗方試してはみたってとこか。何が根元にあるのか、先輩だったらこれだけの情報でわかるのだろう。この会話を聞いているはずのユーリ先輩もそうだ。


 さて……、聞いてみればわかるだろうけど。


「レイちゃん協力してほしいっす。私は頭が弱いんっすよ」


 いつまでも天才に教えてもらうのはよくない。自分たちだけの力で乗り越えなきゃ、私の頭はいつまでもふにゃふにゃのままだ。


 それに、そっちの方が面白そう。


 私は戦闘をできるだけ楽しむタイプなのだ。


「わかりました、ヒナタさん」


「ヒナタでいいっすよ。同級生なんっすから」


 レイちゃんも頼もしい表情をしていることだし、たまには同級生と交流するのもいい。


「……わかった、そうだねヒナタちゃん。私も頑張るよ」


 レイちゃんが弓型の魔道武具を構える。もう怖がっている様子はない。どこぞの選抜騎士団様よりよっぽど立派な、戦う意思のある姿だ。


 ぎぃぃぃぃぃ


 人型の、女性の形をした魔物は妙に生々しくて気持ち悪い。背中にはさっきまでなかった翼が生え、鎌のような形状だった腕は剣のような形に変えている。成長もしているけど、戦っている相手に合わせて形状を変えている、とか。


 じゃあ、ゆくゆくは私が最も苦手とするものになるのだろう。


 それはそれで見てみたい気持ちもある。


「レイちゃん、魔法適正は?」


「樹だよ。蒼樹じゃなくて、普通の方」


「りょーかいっす。ほいじゃ援護頼むっす、よ!」


 簡単な身体強化を施して地面を蹴る。道中で魔道武具も解放し、両手に強く握った。私の魔道武具も持ってはいるけど、ママの魔道武具の方が適切そう。


 こっちの方が使い慣れてるし、好きだ。


「さて、今は、ついて、来れるんっすか!」


 両手二回ずつの四連撃。最初の二回までは剣で防がれたけど、残りは両腕を捉える。皮一枚だけで繋がっていた腕は、熟れた果実のように地面で爆ぜた。


 それに『炎舞の双剣』の軌跡は魔力を込めることで残り、飛ばせる。だからこの四連撃は八連撃だ。空中に残った赤色の斬撃は無防備な魔物に飛んでいき、その体を切り刻む。今度こそちゃんと様子をみるために、魔物からやや距離をとった。


 何かわかるといいんっすけどね……。


 地面に崩れた体はしかし見る見るうちに再生していく。剣を模した両腕はより長く、太かった足はより細く。「人型」だった魔物の体は徐々に人間の形になりつつある。やられたら進化する魔物。変態さんの匂いしかしない。


「魔力が切れるまで倒す、ってどうっすか?」


「どれだけの魔力で回復するのか、どれだけの魔力残量があるのか。それがわからなきゃ危険だよ。延々と成長されたらいつか負ける時が来る。やっぱり再生のメカニズムを見つけなきゃ……」


「……レイちゃんもしや、学術は得意だったっすか?」


「うん、四位だったんだ」


 それは恐ろしい。


 私とは違う人類だといっても過言ではない。


「雷は試したんっすよね?」


「うん、炎もさっき。切って駄目なら風も難しそうかな」


 ふむ……、私の魔法適正は大体網羅されてるっていうことか。じゃあできることは限られている。


「レイちゃん、樹魔法で魔物の動きを止めてほしいっす。できるっすか?」


「うん、少しぐらいなら。何をするの?」


「レベルが違うってことを、見せつけようと思うっす」


 何のことやらみたいな顔をしているけど素直に詠唱を始めてくれた。魔物は新しい体に慣れていないようで、ふらふらとその場でダンスを踊っている。ありがたい話だけど、全然芸術点高くない。


「――縛れ。二重詠唱『樹鎖封縛』!」


 地面を走った木の鎖が魔物の体に絡みついた。逃れようと両腕を振り回す魔物だけど、体に慣れていないこともあって手こずっている。私の番が来たみたいだ。


「紅蓮に咲く炎の花よ。我が呼び声に従いて、その命尽きるまで歌い、踊り、咲き狂え」


 私レベルの適性があって、ここまで詠唱が必要な炎魔法も珍しい。


 しかしそれも当たり前。


「『紅蓮絶華』」


 何故ならこれは最高位の炎魔法。


 対象を燃やし尽くすまで消えないという、チート魔法なのだから。


 ぎぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ


 放たれた小さな火種は魔物の足元に落ちて、炎の花を咲かせる。あの魔物が本当に永遠に肉体を再生させることができるなら、この紅蓮の花は新しい観光名所となるはずだ。


 魔力の限界で再生能力が尽きるならここまで。


 再生に他のロジックがあるなら、また考え直しだ。


 かぁん


 しばらく肉が燃える音と断末魔だけが辺りに響いていたが、不意に質の違う甲高い音が聞こえた。ガラス玉を落としてしまった時のような、そんな音。


「レイちゃん、見えてるっすか!?」


「うん、任せて」


 呼びかけた時、レイちゃんは既に弓を構えていた。炎から逃げるように転がる赤い玉には必ず意味があるはずだ。私は反動で動ないので、ここは任せるしかない。


「雷矢装填……、穿て!」


 細い指が見えない弦を引き、放つ。空気を裂きながら飛んでいくのは雷の矢。場違いに明るいそれは一直線に赤い玉へと向かい、確かにその中心を捉える。


 やった……、っすかね?


 狙いは的確だったと思うけど。土煙のせいで事の顛末が確認できない。炎に包まれた肉体の方は既に燃え尽きてしまったので、あとはあの玉に何の意味があったかだ。


 ぎぃぃぃぃぃ


 咆哮と共に煙が晴れ、再び魔物と対面する。剣だった両腕は片方が盾の形になり、曖昧だった輪郭は表情がわかるほど鮮明になっていた。胸の中心には露になった赤い球が埋め込まれており、表面には傷一つ見られない。


 威力が足りなかったか。


 決して弱い攻撃ではなかった。ただ赤い玉が想定より硬かった、それだけの話だ。


「あれを中心に再生してるのは間違いなさそう。ごめんね、あれ以上威力のでる魔法は使えなくて……」


「全然大丈夫っす。理論がわかっただけで十分成功っすよ」


 反動で動けなかった私はどうせ追撃ができなかったし。あの玉は非常に硬い。それさえわかればまた新しい道ができてくる。だからレイちゃんの挑戦は決して無駄ではなかった。


 白銀魔法みたいに魔法攻撃を全て無効化するのか、単に威力が足りなかったのか。


 物理攻撃は通用するのか、それならどれほどの力を必要とするのか。


 考え始めれば無数に仮説はたてられる。しかし魔物は答なんか教えてくれないので、地道に一つずつ試していくしかない。


 とはいえ魔力残量はもう限られている。午後からずっと訓練を続けていたのがここで祟った。私が試せる回数はもう多くない。


 じゃあ、一番可能性が高そうで単純なものを。


「もう一度動きを止めてほしいっす。さっきよりも固くできるっすか?」


「うん、頑張ってみる。魔力的にもあと二回が限界かな……」


「一回で済ませるっす。実は私、」


 「最強の矛」を、持ってるっすから。


「縛れ。三重詠唱『樹鎖封縛』!」


 こちらに駆け出していた魔物の足を、再び木のツタが絡めとる。先ほどよりも冷静に剣で対処している魔物だけど、抜け出すにはまだ時間が必要そうだ。


 それは非常に助かる。


 この魔法実は、数回しか使ったことがないのだ。


 ……あ、これのことさっき話してなかったな。


 丁度いい機会、新しい私のお披露目会といこう。


「黒き雷よ、その獰猛なる牙を以て貫け」


 黒い紋様が走る腕を伸ばして狙いを定める。身動きがとれないんだ、練度が低くたって外しはしない。


「『黒雷の尖牙』ぁ!」


 指先から迸った雷の色は、黒。


 「最強の矛」と呼ばれるそれは、先輩がお母様から受け継いだものだ。


 ぎぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ


 雷の直撃を受けた赤い玉は僅かな間の後、粉々に砕け散った。ほとんど人の形をしていた魔物の体が崩れ始める。再生を試みているのか、様々な表情が浮かんでは消えた。


「あ、あれ? ヒナタちゃんって黒雷の魔女だったの?」


「そうっすね」


 なったのは最近だけれど。それに正当な引き継ぎ方をしたわけでもないし。


 使える人の体を乗っ取ったら偶然使えるようになった。


 これは、たったそれだけの代物だ。


「……終わったのかな?」


「だとは思うんっすけど」


 他にあの玉が七個あります、とかだったらさすがに無理だ。魔力不足でかなり体が重くなってきた。


 「紅蓮絶華」に黒雷魔法、今日はサービスカットが多すぎる。


 表情は緩んでいるものの、レイちゃんは弓を構えたままだ。私も一応腕だけ伸ばして魔物の最期を見届ける。


 悶えていた魔物は諦めたのか、静かに崩壊の時を待っている。俯いているので顔は見えないけど、再び女性の形になってからは変形が止まっていた。赤と白の肉体はまるで溶けるかのように地面に落ちていく。


 両腕が落ちて、足が崩れて、その場に倒れこんで。


 ほとんど肉塊みたいになってしまった魔物が、最後にこちらへと顔を向ける。


 ――ねえ、どうしてヒナタちゃんが生きているの?


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