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次に話すのは、一番わかりやすい変化。
私自身に起きた、変化について。
見た目の変化が一番わかりやすい。目の色が白銀に変わったのはもう懐かしい話だ。今はユーリ先輩が作った先輩用のカラーコンタクトで色を誤魔化している。金色から黒という大胆なはずのイメチェンは、『白銀の忘風』の影響で特に問題なく受け入れられた。
あと変わったところといえば、髪か。二年前に比べるとかなり伸びている。別に見せたい人もいないし、最低限の手入れ以外はしなくなってしまった。ちなみに左目を前髪で隠すようになったのは先輩の真似事だ。
髪が伸びたというのは自然に起きた変化だけれど、髪に関していえば一つ不思議な変化が起きている。それは目と同じく「色」の変化だ。
元々の私の髪は炎のような、赤。それが「紅蓮の狂戦士」という悪口にしか聞こえない二つ名の由来になっているけれど、今は違う。
赤の合間を縫うようにして、黒い髪が混じるようになったのだ。
すぐにこうなってしまったわけじゃない。二年前から徐々に、時間をかけて変化した。ユーリ先輩の「魔女病は体の構造を変えるだけで、本質を変えるわけじゃない」という仮説によると、先輩の体に流れている黒雷の魔力が強いことが原因らしい。ユーリ先輩でさえ仮説の段階なのだから、私には一生理解できないのだろう。
ちなみに髪の色については目の色と違い大きな影響がないからそのままにしている。おかげで二つ名も変わった。先輩と同じ髪色になることはやぶさかじゃないので、これは嬉しい変化といえる。
見た目でいえば、まあこんなところかな? 私の成長期はもうとっくの前に終わっている。二年ぐらいでそう変わるもんでもないだろう。だから次は、見た目以外で起きた私自身の変化について話そう。
「――と、いうことだ。次の集会では詳細な配備、任務について話す。本日はここで解散!」
おっと……、意外と早く終わってしまったぞ。話さなければいけないことはまだいくらでもあるというのに。いつもは長く感じる演説も、聞いていなければ短いものだ。
まあいいや。
思い出す方もこれだけ思い出せば疲れる。もしこれが小説だったら「説明が長すぎる。設定が渋滞していませんか?」と赤線を引かれてしまうところだ。あとは段々と明らかにするのが乙というものだろう。
人間多少内緒事があったほうが魅力的なもの。
私が好きな人なんて、本質が内緒事のような人だった。
だから私にも少しぐらい内緒事あったっていいだろう。
「さぁて。ヒナタちゃん帰りましょっか」
やや違和感のある猫撫で声。私もすっかり本当の彼女に慣れてしまったようである。
「……っすね! 体でも動かしたいっす!」
ずっと立っていただけなので体が錆びてしまいそうだ。世の中には動いていないと息ができない魚がいると聞いたことがある。恐らく私も姿が人間なだけで、生態はその魚に似ているのだろう。
そろそろ体も仕上げたいし……、今日はあいつにでも声をかけてみるか。
「おっと……、そうはいかなくなったみたいね」
早々に退場しようとした私の腕をニナ先輩が引き留める。少々素に戻ってしまうのは焦った証拠だろう。彼女がそんなに動揺するなんて珍しい。
一体何事が?
「やや……、これは大司教様」
先ほどまで偉そうに話をしていたハゲが跪く。つまりハゲより偉い人の登場というわけだ。ハゲも相当偉い人だったはずだけど、そんなに上の人のことなんて私は覚えていない。そもそも同じ騎士団のメンバーでさえ名前も覚えていないのだから。
「会議中に失礼、副団長殿。取り決めておくべきことがあってね……」
遠くから聞こえた声は掠れている。どうやらかなりお年をめしたご婦人のようだ。深くまでローブを被ったその顔は見えない。そしてあのハゲは副団長だったんだね。
「バカっ、お前も頭を下げろ……!」
背伸びした私を、ニナ先輩が強引に座らせる。気づいたら周りにいる全員が同じように膝をついていた。私以外はあのご婦人のことを知っているようである。
未だに膝を曲げずに立っているのはご婦人と、その後ろについている紫のローブ姿だけだ。
「ニナ先輩、あのご婦人は誰っすか?」
「……本当に知らないの? ヒナタちゃんは今まで何の勉強をしてきたのかしら」
猫なで声ではあるけれど、口調はかなり尖っている。
「あのローブは紫氷騎士団の正装。入団式で見たことあるでしょ?」
見たことあるような、ないような。
前にも言ったと思うけど私は式典が嫌いだ。選抜騎士団の入団式にもウトウトしながら参加していた。よって紫のローブを見ても、現実か夢かわからないのである。
「それで、今話されている方は司教様。つまり控えているのは「紫氷騎士団」の団長様ね。遠いからわからないけど、ローブに団長章があるはずよ」
へえ……、それはとても偉そう。
どれくらいかわからないけど、司教と団長は偉い。それぐらいは私も勉強してきた。しかし「紫氷騎士団」が何かはわからん。先輩に好かれるためにそんな知識必要なかった。
「……ちなみに司教様っていうのは「紫氷教」の司教様のことよ。かつてレイドルフ様と「狭間の繭」に入った紫氷の魔女を信仰する宗教。あまり信徒は多くないみたいだけど、強い発言力を持っているわ」
どうせ私が知らないと思ったのだろう、ニナ先輩が補足をしてくれる。ありがたいことだけど、明日には忘れていそうだ。私が関わることもきっとないだろう。
「王妃のアルマリン様は政治に関わらないから、実質この国のナンバー2」
……ナンバー2?
え、そんなに偉い人なのあのご婦人。
目を丸くした私を見て、ニナ先輩が片方の口角を吊りあげる。
「だから、あの服を見たらとりあえず頭を下げておくべきね。紫氷教と紫氷騎士団はあのローブを身に着けているから、わかりやすいと思うわ」
ふーん……、そんなに偉いなら確かに覚えておくべきかもしれない。喧嘩ならかかってこいだけど、そういう面倒なのはごめんだ。
「まあ、私が言いたいのは媚を売るのも大切ってこと。出世するにこしたことはないからね」
「……ニナ先輩が言うと説得力あるっすね」
がすっ
わきを肘で小突かれる。こりゃあとでお説教コースだ。
しかし紫氷教に、紫氷騎士団か……。
やっぱり頭の片隅ぐらいにはおいておこう。信じる力というのは強い。私もこれまで先輩を信じる気持ちだけで生きてきたようなものだ。信頼と信用は人生だって簡単に変える。
別に入……、宗教に入ることを何というのだろう?
まあいいや。
紫氷教に入るつもりはない。でも、彼らの信じるものが私の信じるものを邪魔したら困る。だから覚えておこう。
もう少し。
本当にもう少しで先輩の夢を叶えられるんだ。
今更初めて聞いたような集団に、道を阻まれるわけにはいかない。




