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この世界に愛されなかった僕たちは  作者: 春秋 一五
「黒と白のプロローグ」
46/66

6-5


 入学式とか、朝礼とか、開会式とか。


 昔からそんな、退屈なものが嫌いだった。


『――この学園で貴公らが学んだことは、これからの人生において大変価値あるものとなるだろう。知識というものは何事にも代えがたく――』


 その中でもお偉いさん連中が話す時間は最も嫌いだ。ためになる話を話してくれるだけならいいけど、こんなものは短い話をただ薄く叩いて伸ばしているだけに過ぎない。顔も覚えていなかった学園長の戯言はかれこれ二十分近く続いていた。いつもの朝礼と違い外で行われている分、その苦しみはさらに増している。


『――最後にもう一度、卒業おめでとう。貴公らの一層の活躍を、期待する』


 待ちに待った学園長のお辞儀に盛大な拍手が重なる。それは一見美しい恩返しのようにも見えるけど、本当は「話終えてくれてありがとう」の拍手だ。私も例にもれずそれである。


『以上、学園長からの御言葉をいただきました』


 ひび割れた音声に普段なら顔をしかめるところだけど、ようやくこの長い式が終わるのかと思うとそれすらも愛おしく思えてきた。周りの生徒たちにも安堵と期待の空気が流れ始める。禿げ上がった学園長が壇上から去るのを待って、司会は機械的に口を開いた。


『次は卒業生代表挨拶です』


 …………さて、行くか。


 司会が口にした「卒業生代表」とは他でもない私のことだ。こんな感じでも代表になれるのだから、世の中わからないもんである。心の中で密かに苦笑した私は、背筋を不自然なほどに伸ばして壇上へ続く階段を上って行った。


 高等部に進学してから、三年。


 先輩がいなくなってから、一年。


 本当に、色々なことがあった。


 礼をして、原稿を広げて、心にもないことを言って。


 代表として一連の作業をこなしながら、私は私だけの記憶を辿る。


 色々と言っても、思い返されるのは先輩たちと過ごした二年間のことばかりだ。ここ一年はほとんど訓練に明け暮れる日々の繰り返しだったから。今この場に立っているのはその成果でもあるけれど、辛く苦しかったはずの記憶は全くと言っていいほど残っていない。


 でもまあ、そんな日々も今日で一区切り。


「――私はこれまでの日々で得たものを十分に発揮し、選抜騎士団としてこの国を守っていくことを誓います」


 明日から晴れて選抜騎士団の仲間入りだ。


 それは私が長年追いかけ続けていた夢の一端。


 今でこそ目的が変わってしまったけど、私はこの日を心待ちにしていた。


「卒業生代表、ヒナタ・スタシア・レッド、」


 ……おや、原稿が間違っているぞ。


 いかんな先生、生徒の名前はちゃんと憶えないと。


「……改めまして、」


 ヒナタ・スタシア・レッドソードはあの日死んだのだ。


 新しい目標を持って生きていくために、私は一度生まれ変わらなければならなかった。


「ヒナタ・スタシア・ランサグロリア」


 言葉の末尾に盛大な拍手と機械的なアナウンスが重なった。心ないそれらを全身に受けながら、私はコンタクトに隠した瞳で空を見上げる。


 そこにあるのは終わりなく広がる蒼を汚す、一つの島。


 届かないはずの手を伸ばした私は、もう一度誓う。


 ……待っていてくださいっす、先輩。


 私は、あなたが望むなら、


「この世界さえ、変えてみせるっす」








『この世界に愛されなかった僕たちは』


       第一章


うそほんとのプロローグ」


        了

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