6-4
「…………」
それから、どれくらいの時間が経ったのだろう。
不健康なこの部屋には時間感覚というものがない。
涙よりも先に体力が尽きてしまった私は、乱れた髪の隙間から辺りを見渡す。その過程で玄関にかけてあった姿見が目に入った。
…………そう、いえば、
そこに映った自分の姿を見て、ふと疑問に思う。
先輩の目は何で……、白銀なのだろう。
いや、正確に言うなら今思ったのではない。
私は少し前にも同じ疑問を抱いていた。
しかしそのこと自体、忘れてしまっていたのだ。
姿見に映る白銀は悲しげに、そして惨めに揺れる。
瞳のことだけじゃない、私は先輩についてあまりにも多くのことを知らなかった。
大抵のことは知っているつもりだったのに、今となっては何も知らなかったようにさえ思えてくる。
それが悔しくて、辛くて、悲しくて。
そして同時に、何故か希望のようにも思えてきて。
私は一つ、ろくでもないことを思いついた。
「…………ユーリ、先輩」
両目を乱暴に擦った私は、先輩を幼い時から知っている幼馴染の名前を呼ぶ。
「何だい?」
私の醜態を無視し続けていたユーリ先輩は、ゆっくりとこちらを振り返った。彼女も他の人たちと同様に先輩の記憶を失っているが、それを補完し得るだけの記録を持っている。だから彼女に話を聞けば、私は私の知らなかった先輩の話を聞くことができるだろう。
それはもしかしたら私の人生を大きく左右するような、世界の命運さえも変えてしまうような話なのかもしれない。
「お願いが、あるっす」
しかし、そんなことはどうでもよかった。
私の人生なんてとっくに終わっているし、世界の命運なんて先輩の笑顔に比べたらほんの些細なことに過ぎない。
「……いいだろう」
表情から私の覚悟を読み取ったのだろうユーリ先輩が、不敵な笑顔を浮かべる。
先輩はもしかしたら、私の決意を認めてくれないかもしれない。
しかし少なくとも、絶望の中で見出した希望のようなものは、私にとって生きる理由になり得るものだった。
「……私に、」
だから、許してほしいっす、先輩。
「先輩の夢を、教えてくださいっす!」
これから私が、あなたのために生きることを。




