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この世界に愛されなかった僕たちは  作者: 春秋 一五
「黒と白のプロローグ」
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5-9


「………………じゃあ、早く出てってくださいっす」


 憂いに満ちた表情を浮かべていたヒナタだったが、その瞳に怒りが再点火する。どうやら僕の理論と状況が抱えている矛盾に気づいたらしい。もう少し隠し通せるつもりでいたが、どうやら僕はヒナタを甘く見過ぎていたようだ。


「今すぐ見知らぬ誰かを連れてきて、私の入れ物にして、二人で逃げるっす。国からは追われる立場になるっすけど、別に私はどうでもいいっすよ」


 瞳の怒りとは裏腹に、彼女の言葉はひどく淡々としている。それが本当の怒りであると気づいた時には、彼女の瞳からぼろぼろと涙が零れ落ちていた。


「そしていつか、どこか見つからない場所を見つけて、そこで家族を作るんっすよね。先輩にしてはとても素敵な未来設計っす。確かに私の願いとは違うっすけど、そこまで考えてくれたなら許してあげるっす。諦めた私の夢も、それなら半分ぐらい報われるっすから」


 反射的に伸ばした手を、そっと引っ込める。


「……ねえ、聞いてるんっすか、先輩」


 今の僕には、彼女の涙を拭う資格さえもない。


「何で、何でずっとそこにいるんっすか?」


 彼女の目を、まともに見ることができない僕には。


「出てって、出てってくださいっす……。ねえ、早く、」


 そして、彼女にずっと、


「早く、出て行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 本当のことを、言えないでいる僕には。


「……私は、私は先輩を殺してまで、生きたくないっす」


 激情の後の、静寂。


 ヒナタは首をかくんと落として、そして再び顔を上げた。


「そんなことして生きるぐらいなら、私は――、」


 言葉を切ったヒナタがやろうとしていること、それは僕が最も恐れていたことだった。


 『魔女病』は体が完全に結晶化し、それが砕け散る時にだけ宿主を生かす。


 つまり結晶化が完遂する前に、別の要因で死んでしまった場合は――。


「ヒナタ」


 結晶化した自身の手を振りかざしたヒナタだったが、突然名前を呼ばれたことで反射的にこちらを向く。


 そして首元まで迫っていた手を、直前でぴたりと止めた。


「せん、ぱい?」


 それはそうだ、それぐらいの効果を発揮してくれないと困る。


「その、目は……?」


 こっちは十年以上隠し続けてきた、切り札をきったのだから。


 目を丸くしているヒナタの目の前で、僕はコンタクトを床に落とす。


 ヒナタの視線がつられた僅かな間と、憎らしい白銀がもたらした驚愕。


 それだけあれば、十分だ。


「……アークフィールドの名の元に、吹き荒べ、忘却の風よ」


 できるならもう少し温存しておきたかったが、こうなってしまっては仕方がない。僕はほんの少しの後悔を奥歯で噛み砕いて、前を向く。未だ驚愕の表情を浮かべているヒナタに、僕は精一杯の笑顔を浮かべた。


 ………………さよなら。


「十五重詠唱・『白銀の忘風』」

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