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この世界に愛されなかった僕たちは  作者: 春秋 一五
「黒と白のプロローグ」
38/66

5-7


 これから交わす言葉が最後の会話になるからと明るく務めていたが、それは結局僕が口を滑らせてしまったために破綻してしまった。


 口は災いの元、とはよく言ったものである。


「ほんと…………、っすか?」


 ヒナタは最初から肯定されると思っていなかったようだ。その多分の驚きを含んだ表情には、しかし少しの喜びも見え隠れしている。決して冗談で放った願いではないと確信して、僕も少し安心した。


「うん、ほんと」


 これで、心おきなくヒナタを殺せる。


 ……まあ、仮に冗談だったとしたら手遅れだが。


「……嘘じゃ、ないんっすね?」


「そんな嘘はつかないよ……。信用ないな」


 まあ普段の行いからすればそうか、と一人納得する。


 僕はこれまで、あまりにもたくさんの嘘をつきすぎた。

 

 その多くは取り返しのつかないまま、今も真実の仮面を被って漂い続けている。



 僕はそれをずっと負い目に感じ続けてきた。


 だから僕はこれ以上、この期に及んで嘘をつく気はない。


「――ほんとーに、引き受けてくれるんっすね?」


「うん、間違いなくわかったよ」


 その後も何度かの問答を繰り返し、ようやくヒナタは納得してくれた。何かを考え込むように一度目を閉じた後、彼女は再び口を開く。


「じゃあ、早速話をまとめてもいいっすか? 実は私明日から隔離される予定に……、って、あれ?」


 興奮気味に言葉を紡いでいたヒナタが、話の途中で言葉を切った。


 その視線の先には、彼女の右手がある。


「……こんなに、」


 しかしそれは、数分前までの姿を失っていた。


「こんなに、早かったっすか?」


 電灯に向かってかざされた手の甲は、いつの間にか刺々しい黒の結晶に覆われていた。


 いや、右手だけではない。


「……あれ、え、何で、」


 左手、顔、首、背中。


「何でこんな、突然……?」


 体中の至る所から、結晶が生まれ始めていた。


「おかしいっすよ! まだ一週間以上は問題ないって、昨日言われたばかりなのに……!」


 ヒナタが叫んでいる間にも結晶は浸蝕を続け、やがてその内の幾つかがワンピースを突き破り始めた。最初は抵抗しようともがいていた彼女だったが、結晶の重みに負けてベッドへ倒れ込む。その際背中から伸びた結晶がつかえ、彼女は上体を起こしたままの体勢で動けなくなった。


「…………せん、ぱい」


 苦悶の表情を浮かべていたヒナタは、しばらくの沈黙の後ベッドの横に座っている僕の方を向いた。


「私に何か……、したっすね」


 その瞳は苦しみと、確かな怒りを宿している。


「……うん、言ったよね?」


 コーヒーを飲み干した僕は椅子から立ち上がり、彼女と対面する位置まで移動した。ついて来た視線は決して怒りの炎を失わず、浸蝕されていく体の中で煌々と輝いている。


「僕が君を、殺すって」

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