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この世界に愛されなかった僕たちは  作者: 春秋 一五
「黒と白のプロローグ」
34/66

5-3


 ……駄目だ、見つからない。


 今手に取ったばかりの本を閉じて、元の場所に戻す。医療、呪い、歴史書……、様々なジャンルに手を伸ばしてみたが、僕の知識を上回っているものさえなかった。小さくため息をついて、また別の本棚に視線を移す。


 話を聞いたアルグレオさんは二つ返事で僕の申し出を聞き入れてくれた。本来なら今日は彼らとの模擬戦が組まれていたのだが、アルグレオさんの体調が悪くなったということにしてくれるらしい。書庫の案内をしてくれているララナさんを含めて、僕は多くの人に恩を返さなければならない。


「ララナさん、卒業生の論文も見ていいですか?」


「はい、問題ありません。ついて来てください」


 読んでいた資料を机に置いたララナさんは、カウンターの奥にある扉を開けた。「関係者以外立入禁止」という大きな張り紙があるが、アルグレオさんが許可を出してくれたのだろう。申し訳ない気持ちもあるが、今はその善意を頼りにする他ない。


「私の記憶する限り、『魔女病』を取り扱った論文はなかったように思いますが……」


 資料を手に取ったララナさんが眉間に皺を寄せる。力ない笑みを零した僕もその横に並び、本棚へ視線を這わせた。


「別のアプローチで探そうかなと……。すみません、無理言って」


 直接『魔女病』について触れられていなくても、間接的に役立つ情報が見つかるかもしれない。自由な発想が許される卒業論文なら、僕の知らないこともあるだろう。それは本当に一縷の望みであったが、正攻法で探すよりも可能性は高いはずだ。


「いえ、構いません。他には何かありますか?」


「えーと、じゃあ、もう一つ。ここには論文の他に、どんな資料がありますか?」


「論文の、他?」


「はい。かなりの量があるみたいなので……」


 埃の匂いがするこの部屋は開架室よりも広い面積を誇っており、論文だけを所蔵しているとはとても思えなかった。全てに目を通すつもりではあるが、前情報があるなら聞いておいた方がいい。


「そうですね……。基本的には論文のみですが、幾つかの棚には公文書も所蔵されています」


「公文書?」


「はい。浮遊島で廃棄された公文書の内、開示が許されているものを理事が集めたみたいです。卒業論文や進路研究に役立つようにという意図があるようですが、廃棄されたものなので……」


 言葉の続きは容易に想像がついた。公文書を読める機会なんてそうないので興味はあるが、流石に用はないだろう。ララナさんに礼を言って、資料探しを再開する。


 バタッ


「…………ん?」


 ララナさんが扉を閉めたと同時に、部屋の反対側から何やら音がした。どうせ後で行くのだから気にしなくてもいいのだが、妙な胸騒ぎを覚えた僕の足は自然とそちらの方へ向かって行く。


「ああ……、やっぱり」


 行きついた先には、やはり一冊の本が落ちているのみであった。扉を閉めた振動で落ちたとも考えづらいが、図書館全体の老朽化が進んでいるようなのでありえない話でもない。読んでいた論文を傍らに置いた僕は、横たわっている本を拾うため腰を屈めた。


 『紫氷騎士団報告書』……?


 「紫氷騎士団」は長老会の一角を担う騎士団なので、これがララナさんの言っていた公文書の一つということだろう。その珍しい題名に少し興味が湧いた僕は、何の気なしにページを捲った。


 科学実験の報告、新魔法の研究、浮遊島の情勢……。


 国の中枢機関が記した資料とはいえ、報告書は報告するためのものだ。やはり『魔女病』に関する情報が載っているはず、も、……ん?


「何、だ……、」


 諦めかけていた僕の目に、少し気になる文言が映った。ページを捲っていた手を止め、一つずつ文章を遡っていく。


「これ、は?」


 何故こんなことが、「紫氷騎士団」の報告書に載せられているのか。


 もしこれが事実なら、何故今まで公表されてこなかったのか。


 普段なら疑問に思うことは多くあった。


 しかし今の僕には、そんなこと関係ない。


 懐から取り出した手帳に、目の前に現れた「奇跡」を無我夢中で書き写す。


 これなら……、


 これなら、僕は、


「ヒナタ、を、」


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