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この世界に愛されなかった僕たちは  作者: 春秋 一五
「黒と白のプロローグ」
27/66

4-2


「あちらに見えますのがシュダリアの外縁、「外海」になります」


 長い筒状の装置に目を当てると、その先には広大な蒼の世界が広がっていた。モニター越しでは何度か見たことがあるが、なるほど実際に見てみるとスケールが違う。「水平線」と呼ばれているらしい空との狭間は、まさしく世界の境界線を示しているかのようだった。


 アークエディン騎士王国の南に位置する地域、シュダリア。


 比較的温暖であるこの地域は、外縁を「海」と呼ばれる塩分を含んだ水の集積に囲まれている。海は他の外縁地域と同じく「外縁の魔物」が住まう危険な地域であると同時に、魚や貝類などの食物資源が豊富に採れる、生活の中心地とも呼ぶべき場所であった。そのため外縁警備隊の活動が他と比べて盛んであり、内縁警備隊よりも優遇されているとさえ言われている。


「とても広いですね……。どのくらいの面積か判明しているんですか?」


 僕の隣で海を眺めていたアイラが、傍らに立つ女性、ララナさんに問いを投げかける。生徒会の副会長を務めているという彼女は白縁眼鏡の位置を正して、小さく首を横に振った。


「他の外縁地域と同じく、どこまでも続いていると推測されています。かつては水平線を越える取り組みが行われていたようですが……、帰ってきた者がおりませんので」


 ララナさんの言うとおり、アークエディン騎士王国を取り囲む「外縁地域」に関した調査はまだ十分に行われていない。それには国から離れるにつれて魔物が凶暴かつ強力になっていくことや、魔力を思うように扱えなくなることなど様々な理由があるが、一番大きな理由は果てのないその面積にあった。


 かつて外縁地域の調査に向かった選抜騎士団の内、唯一帰って来た男性の話によると「百日間進み続けても尚、同じ景色が続いていた」らしい。それはノースヘヴンの外縁、山と森林に覆われた地域に向かった者の話であるが、シュダリアもまた同じということだろう。


「なるほど……。これほどの水量がどこまでも続いているとは……」


 調査が進んでいないとはいえ、国内で過ごすことには何ら支障がない。そのためこれまで先延ばしにされてきた外縁調査であるが、未だ尚外縁に興味を抱いている者も少なくなかった。 


 隣で目を輝かせているアイラもその一人であり、将来は魔導考古学を研究しながら外縁を旅するのが夢だと聞いたことがある。知的好奇心旺盛な彼女らしい夢だ。


「次は学園の書庫を案内する予定なのですが、よろしいでしょうか」


「はい、お願いします。行こう、アイラ」


「……あ、はい! ごめんなさい!」


 長い筒(展望鏡というらしい)からなかなか目を離そうとしないアイラの肩を叩き、ララナさんの後に続く。彼女の知的活動を妨げてしまうことも憚られたが、真面目で厳格なララナさんを待たせてしまうのも気が引けた。苦渋の決断だったが、アイラなら次に案内される書庫も気に入るだろう。


 シュダリアに到着した次の日の朝。ホテルで十分に睡眠をとった僕たちは、今日から十日間お世話になる「シュダリア魔法騎士学園高等部」学舎の案内を受けていた。起きた時にはまだ調子が悪そうだったアイラも、食堂で昼ご飯を食べた辺りから元気を取り戻しつつある。先ほどの展望塔での様子を見るに、もういつものアイラに戻ったと言ってもいいだろう。


「我が校の書庫は数こそ劣りますが、大変貴重な資料を貯蔵しております。特に魔法医学に関してはアークエディン随一と言ってもいいでしょう」


 で、そんな僕たちの案内人を務めてくれているのがララナさんだ。短く切り揃えられた金髪と度のきつそうな白縁眼鏡が特徴的な、まさに「生徒会副会長!」といった感じの人である。


「卒業生の学術論文も大変興味深いものばかりですので、お時間が空いた、」


「おお、ララナ! こんなところで奇遇じゃのぉ!」


 落ち着いたララナさんの言葉を、背後から響いた快活な声が遮る。グラスさんを彷彿とさせるほどの声量は美しい装飾が為された窓を遠慮なく震わせた。それに驚いた僕たちは一斉に振り返り、その声の主たちと相対する。


「ん? 後ろの二人は見ん顔じゃな?」


 ララナさんを呼び止めた男子生徒が不躾に僕たちの顔を覗き込んだ。健康的に焼けた肌に、短く切り揃えられた白髪。冬だというのにまくり上げられた制服は彼の活発さを何よりも証明していた。アイラの苦手なタイプかもしれないな、とその様子から勝手に判断する。


「…………制服、違う。留学生?」


 男子生徒の体に隠れていた小柄な女子生徒が顔を見せ、首をほとんど直角に傾げた。高い位置で結ばれた黒いツインテールが鞭のようにしなる。その腕に握られたぼろぼろの人形が、彼女に不思議で不気味な雰囲気を纏わせた。


 …………なんだ、このあまりにもタイプが違う二人組は。


「……会長、メロフェロさん。今ご案内している最中なので、邪魔をしないでいただけますか?」


 頭を抱え、不快感を顕わにしているララナさんは大きなため息をついた。しかしそれを全く気にすることなく、男子生徒は豪快な笑い声を上げる。


「おお、そうかそうか! 今日は留学生が来る日じゃったなぁ! よう覚えとったじゃないか、メロ!」


「メロ、アルと違って、賢いから」


 小柄な女子生徒の頭を大柄な男子生徒が撫でる。呆気にとられた僕は言葉を失ったままだが、その微笑ましい様子を見て悪い人たちではないと理解した。高めていた警戒心を解き、張っていた肩肘を緩める。


 まあ学校の制服を着ている時点でそこまで警戒することもなかったのだが。


「忘れとってすまんかったな、留学生。わしがこの学園の生徒会長、アルグレオ・ノービスじゃ。んでこっちが、」


「メロフェロ……、メロフェロ・ドレイクバイト。書記」


 なるほど、この人たちも生徒会の面々なのか。ララナさんと比べるとかなり個性が爆発しているが、生徒会に選ばれる基準は「それらしさ」ではない。案外個性が強い人が選ばれるのもまた生徒会選挙の特徴である。ノースヘヴンの現生徒会長がニナ先輩であることからもその理論は確かなのだろう。


「はじめまして。ノースヘヴン魔法騎士学園のクロア・ランサグロリアです」


「お、同じくアイラ・バレットシードです」


 差し出された手を順に握り、自己紹介を済ませる。案内を中断させられているララナさんは不機嫌そうな様子だったが、どうせ挨拶に行かなければならないと思っていたところだ。面倒なことは早めに済ませておいた方がいい。


「なるほど、一人は帰ってしもうたんか……」


「体調不良なら……、仕方ない」


 ヒナタがノースヘヴンに帰ったことを伝えると、二人は何故か残念そうに肩を落とした。心配してくれているのであれば大変ありがたい話であるが、どうやらそれだけではないらしい。アイラと顔を見合わせた僕は、壁に寄りかかっているララナさんに助けを求めた。


「ヒナタに何か用事があったんですか?」


「いえ……、そういうわけではないのですが。この学園にはある伝統がありまして、」


「そうじゃ!」


 ララナさんの言葉を再びアルグレオさんの叫びが遮る。それは普段の彼らの生活を、生徒会でのララナさんの苦労を凝縮させた光景なのだろう。気苦労が絶えなさそうな副会長に苦笑いを送り、暴れ馬の言葉を待つ。


「学術一位と聞いたが、実技の位階はいくらじゃ?」


「わ、私ですか? 今年度の中間で八位でした、けど」


 アイラの答えを聞いたアルグレオさんとメロフェロさんが、顔を見合わせて笑った。


 ヒナタが欠席と聞いて残念がった二人と、突然の問い。


 一連の出来事を思い返していると、何だか嫌な予感がした。


 ……この学園に続く「ある伝統」って、もしかして。


「いや、あの、」


 僕の声なんて聞こえてもいないのだろうアルグレオさんが、満面の笑みで息を吸った。


 そして全く予想通りの言葉を、口にする。


「明日、わしらとお前らで決闘をしよう!」

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