第1話:はじめまして
「それ」にはさいしょ、なにもなかった。
「わぁぁ……まるくてごつごつ……この形は、かぼちゃさん?」
さいしょにわかったのは、ころんとかわいいこえ。
「そうだよ、南瓜だよ。」
「穴があいてるみたいやけど……お顔の形?」
「そう、その南瓜には顔があるんだ。」
「わぁぁ……素敵やね!」
「よかった、気に入ってくれたみたいだね。」
「うん、ありがとう! おそとの国にはお顔のついたかぼちゃさんがいっぱいいてるん?」
「そうだな……ぼくが行ってきた国に面白いお祭りがあってね、そのお祭りの日には南瓜をくりぬいて顔をつくるんだよ。それで提灯にするんだ。」
「ちょうちん?」
「そう、ちょうちん。」
これがなになのか、まだわからなかった。ただ、ときどきころんころんとここちよかった。
「おとうさんが行ってきた国で、かぼちゃさんはなんていうん?」
「かぼちゃ? え、えーっと……ああ、citrouilleだって。スィトルイユ、かな?」
「じゃあじゃあ、ちょうちんは?」
「んーっと…………、lanterne? ランテルヌ? ランテン?」
「ランテルヌの方がかっこええなあ。じゃあ、ランテルヌにしよ!」
「しよ、って……?」
「きめた! ランテルヌ・スィトルイユ! この子のお名前や!」
な、ま、え。ランテルヌ・スィトルイユ。ころんころんとしたそれがそうしめした。
「そうか、いい名前だね。」
「うん、この子は今から、うちのお友達や!」
お、と、も、だ、ち。どうやら、「これ」はそういうものらしい。
そして、ころんころんと、聞こえた。
「はじめまして、ランテ! うちの名前はかえで。よろしく!」
そうして、「これ」は「ランテ」になり、「ランテ」はボクに成った。