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アゼルの傲慢 5

そうして2人は結婚式の最終調整があるとかで、私は1人部屋の外に出る。部屋の外には立派な軍服を着た、鉛色の瞳をしたあの男の人が立っていた。


相変わらず私を蔑んだ眼で見下ろす。


私はこの人が苦手で苦手で仕方がなかった。いつも無口でレーヴ様の後に控え、ずっと私を疎ましそうに見る。私がこの人に何をした訳でもないのに。



「あの……ヒュブリス様……?」



レーヴ様に王太子だと明かされた後に、ヒュブリス様が将軍の位にいると聞いた。2人は仲のいい友人らしく、城下に行く時は大体連れ立つという。


私と会う時、いつもレーヴ様はヒュブリス様を連れてきていた。

でも、まともに会話したことなんてない。


ヒュブリス様はいつも叔母様達のような眼で私を無言で蔑んでくるから、話し掛けることすら難しかった。



「お前は……」



私を見下ろしながら、ヒュブリス様はおもむろに口を開いた。



「お前は()()()と同じ眼をしているな。忌々しい」

()()()……?」



思わず目元に手を当てる。

お母さんによく似たアメジストの色をした眼。



「昔俺の家に入り込んできた売女(ばいた)と同じ眼なんだよ……」



気持ちが悪いといったように吐き捨てるヒュブリス様に困惑しつつも、レーヴ様がヒュブリス様に私を王城の客室に案内するようにと命令していたらしい。


不機嫌そうにそこに案内したヒュブリス様だったが、私の前を立ち去る時警告するように言った。



「あんまり付け上がるなよ。お前は所詮愛妾だ。間違ってでも王太子妃様を排除しようだなんて思うなよ」



そんな事、思ってすらいなかった。

彼女はレーヴ様の正妻で、ずっとレーヴ様の婚約者で、生まれついてのお姫様。



ーーじゃあ、私は?



唐突に浮かび上がった疑問に膝から崩れ落ちそうになった。


ほら、私はレーヴ様に女として愛されて、それで愛妾の位を貰うの……本当だったら平民にはなれないもの……。


だって王子様が嘘をつく筈がないでしょう?


私を愛してくれる王子様が、私だけの王子様じゃなかっただけで。世間的にちゃんとしたお姫様が必要だっただけで。


純白のドレスに身を包んで、彼の隣を歩くのは私じゃない。私は永遠になれない。



……羨ましい。あの子が。



心の中に醜い感情が生まれる。

これから先も公の場には、私はレーヴ様と並び立てない。


分かっていた、筈なのに。


キラキラとした本物の、この世の全ての幸福が詰まったようなお姫様を見た瞬間、悔しいと思ったのだ。

そして王太子妃になる少女はすごく優しそうな子だった。どうして私はこんな醜い感情を持って、彼女に勝てると思っていたんだろう。


そして、私は思い知った。


いつの間にかレーヴ様の婚約者のである少女より、勝っていると知らないうちに思い込んでいた事に。







国中から祝福された結婚式から3ヶ月。私は人目を忍ぶようにレーヴ様の後宮に入った。

レーヴ様の後宮にはただ1人私だけ。国王様の後宮は何人か愛妾がいらっしゃるみたいで賑やからしいが、こちらはとても静まり返った場所だった。


王都の市場の賑わいが懐かしいと思いつつ、レーヴ様が付けて下さった侍女に編み物を教わったりして日々を穏やかに過ごしていた。


ここは男の人は入れないらしい。なら、あの叔母様達と同じ目で私を見てくる将軍様も来れない。


たまにいらっしゃるレーヴ様は私と二、三言話して帰って行かれる。そして、たまにお茶会に誘ってくださる王太子妃であるヘレン様は聖母様がのようにお優しい。


2人は私に王都での暮らしを聞きたがった。だから、私は幸せだった頃のパン屋のお話を沢山した。

穏やかだった。叔母様達の所にいる時は想像もつかなかったくらいに。


レーヴ様は私の王子様だった。


後宮は鳥籠のような所だったけれど、私にとっては私を守ってくれる私の城だったのだ。



それが続いたのは、僅か半年。


とある月のない夜の事だった。急に来客という事で私は夜着の上にガウンを羽織り、その人を出迎えた。


レーヴ様の元に来て早半年。レーヴ様は夜に私の元へは来ない。だからとうとう彼が来るのかと嬉しさ半分、緊張半分だったのだ。


だけど、その人の顔を見るなり私は絶句した。彼は鉛色の瞳をまだ侮蔑に染めて私を見下ろす。



「まだ後宮にいれたのか売女」

「ヒュブリス……さま……?なんでここに……」

「さぁな」



肩を竦めて歪んだ笑みを見せた彼が不気味で、私は一歩後ずさる。



「ここは後宮です。男の人は入ってはいけません!ヒュブリス様でもレーヴ様に見つかったらどうなるか……!」



震える声で言った私とは対照的にヒュブリス様はとても冷静に、どこか楽しそうに答えた。



「そうなった場合果たして、殿下はお前を助けるのか?」



レーヴ様が、私を……?

ヒュブリス様が咎められるのではなく、なぜ私がレーヴ様に助けを乞う事になっているの……?



「それは……どういう……?」



いつも浮かべている侮蔑に染まった鉛色の瞳は、どこにもない。あるのは愉悦の色だけだ。



「ああ。恐怖に怯えてるのか。()()()()は何をされても顔色1つ動かさなかったが、お前はそんな顔をするんだな」

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