20-6 月軌道アノマリー
「…何という事だ、これは…!?
いったい…月面で何が発生しているんだ…!?」
パロマー天文台のエリオット所長が、望遠鏡で撮影された写真を見て呟いた。
米カリフォルニア州にあるパロマー天文台は由緒あるアメリカの天文台の一つであり、現在はNASA/JPLの管轄で地球近傍小惑星追跡プログラム(NEAT)に参加している。
今回でも、NEATがアラートを発するよりも前から牛飼い座の方角から到来する地球近傍天体(NEO)の監視を行なっていた。
しかし、パロマー天文台自体は民間(カリフォルニア工科大学)に属するので、当然のことながら”機関”も異星人の存在も知らされていない。
昨日より、エリオット所長を中心とするNEAT参加メンバーが総動員となって、48インチ天体望遠鏡及びに接続された撮影機材へ常時張り付きながらNEOの撮影と、その軌道解析に血眼となって取り組んでいた。
そしてつい数時間前には、とうとうそのNEOの一部が超高速で月面の数カ所に衝突する瞬間を撮影する事に成功していた。
「ふぅむ…ティコクレーター付近は
完全にNEO衝突による土煙の雲で覆われてしまっているな」
エリオット所長が、ティコクレーター付近を拡大撮影し、
それを印刷した写真ばかりをしげしげと眺めていると
別の所員が、ティコとは異なるエリアの写真を持って駆け込んできた。
「た、た…大変です所長!!
これを見て下さい」
息急き切った所員が手にしていたiPad
(撮影機材から画像データを転送してある)で
開かれたままの画像ファイルを覗き込んだ。
「ぬ、ぬぬぬ!?
これはまさか、TLPなのか!?」
TLPというのは「一時的月面現象」の英文での略語で、
月面での瞬間的な発光や土壌の色彩が変化したりする現象を指している。
大概は錯覚や観測機器の不具合によるものだが、
ごく一部の現象、例えばアリスタルコスクレーターでのTLPについては
アポロ宇宙船の観測によって地表から噴き出すガスが原因と確認されている。
そして近年では観測技術の向上もあって、
地上の天文台がTLPを観測する事は殆ど無くなった筈だった。
しかし、今さっきパロマー天文台の高性能なシュミット式反射屈折望遠鏡で
撮影された月面の様々な地域を撮影した写真には、
明らかに異常なTLPが映し出されているのだ。
それも、従来報告されていた白色光などではなく、
まるで月面に宝石でも散りばめたように
色とりどりの光でクレーターやクレバスといった地形を彩っていた。
「だ、大至急でJPL(ジェット推進研究所)へ連絡を!
あとIAU(国際天文学連合)のパリ本部と、
ハーバード大のCBAT(天文電報中央局)にも連絡してくれ!!」
エリオット所長の号令で所員が慌ただしく関係各所へと連絡を入れ始めた。
特にCBATは、突発的な天文現象に関する情報を全世界の関係各所へと発信共有する組織であり、CBATへ報告をした事によって世界中の天文台がこの現象に反応するはずだった。
しかしエリオット所長の努力はある意味で徒労に終わった。
なぜなら、既に全世界の天文台で月面や地球近傍宙域での異常現象に気づいていて、早速それらを観測し始めていたからである。
日本でも、国立天文台が中心となって全国の天文台からの月面観測情報を集約共有し、さらに美星スペースガードセンターによってNEOの星間デブリ観測と地球への影響評価を行い始めた。
TLPに関してはSETIに関係する可能性があるという事で兵庫県立西はりま天文台なども参加し、さらにハワイ・マウナケア山頂にある国立天文台すばる望遠鏡も加わる事で、日本の施設だけでも錚々たる陣営となって今回の天文現象を観測出来るようになった。
また彼らは、月面でのNEO衝突が発生するのとほぼ同時刻に、牛飼い座に近い座標の地球近傍宙域で、やはり大規模なNEO同士の衝突と思しき激しい光点の明滅現象も観測していた。
距離にしておよそ100万kmから50万km辺りの細長い宙域で発生しており、各天文台からの観測結果から位置関係を割り出すと、それは丁度牛飼い座から月を直線で結んだ軌道上である事が判明した。
科学者達は、NEOやTLPを総合したそれらを
『月軌道アノマリー』と呼ぶようになった。
しかし肝心な事に、今回の『月軌道アノマリー』の原因が何なのか、全く分かっていなかった。
当然ながら、NEOや月面のTLPについて各種スペクトル分析等を行なっていたが、NEOを構成する物質の成分すらはっきり掴めないのだ。
各天文台での測定結果があまりにもまちまちなので有機物なのか、金属鉱物なのか、それすらも不明だった。
TLPについては更によく分からない状態で、業を煮やした天文学者の一部がこれらの光は人工的なものだと主張し始めていた。
当然、こうした民間の科学者達の動きを”機関”が察知していない訳がなかった。
”機関”は、基本的に天文台のような科学機関や研究団体を監視していた(例えばJPLなどの政府系研究機関は”機関”の影響下にあった)のだが、この一大事象への対処に掛かりきりになっていた”機関”の目が行き届かない内に、
”機関”の存在など全く知らないエリオット所長やCBATなどによって、既に世界中のマスメディアへこの異常な天文現象が広く伝えられてしまった。
しかし、月面現象などについてはアマチュアでも望遠鏡さえあれば簡単に観測できるし、そうした民間の人達全ての口に戸を立てておく事は不可能だった。
既にそうしたアマチュア観測家とプロの天文学者達が、SNSなどを通じて盛んにこの現象に関する議論が行われ、また全世界的な民間観測ネットワークが急速に確立され始めつつある状況だった。
そして、先刻に発令された米軍の非常態勢(デフコン3)移行とこの現象を絡めて推論する人達も続々と現れ始めたのだ。
そこで、事態を完全に秘匿する事は困難だと睨んだ”機関”としては
この状況をあえて逆手に取る事とし、
米政府を通じてある発表を行う事となった。
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『ホワイトハウスのスペンサー報道官は、
アメリカ政府がこの月面での”隕石衝突”が地球へ影響を及ぼす可能性を懸念し
米軍をデフコン3態勢に置く事で、如何なる緊急事態へも
対応可能なようにしたと先刻の会見で述べております。
日本政府および自衛隊がこの情報を事前に共有出来ていたのかという点を、
野党は今後徹底的に追求する見通しであり…』
「やぁれやれ、野党も何も知らねぇくせに、
こういう事ばっかりやたら張り切っちゃってまぁ…」
議員事務室に置かれたTVを見ながら、
新條衆議院議員があくびしながら呟いた。
「仕方ないですね。
彼らはこうして日本国内の行政を掻き乱すのが主目的ですから。
所詮、某国のヒモ付き団体であり、組織の末端でしかありませんし。
彼らが本当の事実を知ったとたん、ひっくり返ってしまうでしょう」
菅原秘書官が傍の机に向かって業務処理を行いつつ、素っ気ない言葉で返す。
「ははっ、本当の真実…か。
呑気なもんだ、”バイオメカノイド”どもが本格的に地球侵略してきたら
ひっくり返るどころじゃなくなるんだぞ全く…」
「しかし、米政府がある程度情報を公開したのは意外でしたが」
「あぁ?あれのどこが”情報公開”なんだ?
”バイオメカノイド”の襲来を隕石だか小惑星だかの衝突という事にして
誤魔化しただけじゃねーか」
「まぁそうでしたね。
確かに月面での事象は地球上からも容易に、
それこそ肉眼でも見れる程でしたし、完全に隠蔽するわけにもいかず、
また米軍のデフコン3への移行についても論拠を求められてましたからね」
「しかし、もう同じ手は使えねえだろうけどな」
深く座っていたソファから身を起こした新條は、
菅原が作成していた書類に目を落とした。
「(火之題)に(木之題)、(水之題)と(金之題)そして(土之題)か。
オクウミさん達も、大変な課題を押し付けてくれるもんだ」
頭を掻いて苦笑する新條に、菅原がメガネを掛け直しながら言った。
「でも、これが本格的に軌道に乗れば
日本の再興は間違いないでしょうね。
全くもって驚くべき計画だと、参画している自分でも思いますよ」
「しっかし(土之題)とか、もう計画書を見るだけで頭が痛くなるんだよなぁ…」
「まぁ少子高齢化を最終的に解決するには、確かにこれしかないでしょう」
「だがよ、”帝国”から最終的には1千万人単位で
この日本へ移住してくるんだぞ?
総務省の支倉も頭を抱えてたよ。戸籍だの住民登録だのってな」
「1千万人はまだです。まずは数十万人程度を試験的に受け入れて
それで発生するだろうあれこれとした課題を洗い出してからですよ」
「いや、それでもよ…」
と、新條は困り顔で頭を掻いた。
「まぁ、それでいくと(金之題)なんかは楽勝だろう」
「そうとも言い難いですよ。この前に経産省の南野さんとも話しましたけど
どうやって資源の入手先を秘匿したまま、国内企業へ紹介すれば良いのかって
ぼやいてましたから。
まさか全ての企業に”帝国”の存在を明かす訳にもいきませんし」
「あー…まぁ、どっかの時点で第三セクターか特殊法人でも作って
企業との間にかますしかねーだろうなぁ、やっぱ」
「特殊法人、ですか…」
菅原は、しばらく考え込むように若干俯いてから頷いた。
「そうですね、ちょっと手法について考えてみます」
「ああ、頼んだわ」
「とりあえず今は、喫緊の課題として(火之題)って事になる訳でな、
例の『ミヨイ・タミアラ』作戦だったが、そろそろ動かすか」
「ええ、もう防衛省の茅嶋さんがこのデフコン3のゴタゴタに紛れて
あれこれと予備調査に動き始めていますよ。
それに、公調の赤羽さんも連動して動いてもらってます」
「おう、赤羽かぁ。
そういや、今頃は赤羽の息子達も
海王星の彼方で敵連中を吹き飛ばしている頃かな?」
そう言ったところで、テーブルの上に置かれた懐中時計型通信機から
着信の表示が空中にポップアップした。
「おっ、噂をすればだな」
新條が指を一回鳴らすと、それが受話モードのスイッチとなって
ポップアップしている空中映像が、オクウミの顔に変わった。
「どうも、お疲れ様です」
『お疲れ様です、新條議員』
ぺこりと頭を軽く下げたオクウミは、先ほど彼女宛に入った情報を
そのまま彼に伝えた。
「…何だって!?おぉ、マジか!!」
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新條議員へと報告したオクウミが、
通信を終えてから、ほうっと深く一息入れた。
『オクウミ支部長、お疲れ様です』
別の通信パネルから、副官のイゴルが労いの言葉をかけた。
イゴルは今も、多摩市上空の『ラライ・システム』内にある
『レイウァ計画指令センター』で現場指揮を執っている。
「ああ、シアラや赤羽達は本当によくやってくれた。
私も今日は久しぶりに、枕を高くして寝られる気がするよ」
『全くそうですね、あそこまで見事な勝利は
なかなか見られるものではありませんでしたから』
「うむ、彼らが帰ってきたら、たっぷり労ってやるとするか」
『支部長の労い…ううっ頭が…』
「何か言ったかね?」
『イイエ何でもアリマセン』
「しかし今回の”バイオメカノイド”の襲来は…
何というか、謎が多い事件だったな」
『ええ、確かにそう言えばそうですね』
椅子に座り直したオクウミが独り言ちると、イゴルもその言葉に頷いた。
「そもそも、”起源世界線”の歴史には
あのような襲来の事象は報告されていなかったはずだ。
あそこまで大規模な攻撃が、少なくとも月面に対して仕掛けられていたら
当然地上からも観測されただろうし、
それを”機関”が防ぎ切れるわけもないだろうし」
『今回の事件で、その事が実証された訳ですからね』
オクウミとイゴルも、地球のTV報道はチェックしていた。
特にイゴルなどは『レイウァ計画指令センター』にて
地球上におけるマスメディアの動きをSNSに到るまで全て解析していたので、
地球人の全体的なトレンド動向はほぼ把握出来ていると言って良い状況である。
「イゴルも分かっていると思うが、
これは”起源世界線”の根本的な存在に関わる重大な事象なのだ。
これが揺らいでしまうと、我々時空探査局が
この第17=5-47-664-27-3=15世界に関わる根本的な理由を失ってしまう。
そうなっては、時空探査局そのものの信頼失墜に繋がりかねん」
『全くその通りです』
「いや…まぁここで我々が手を引いても良いのかもしれんが、
そうなるとこの世界線の赤羽達が孤立無援になってしまうだろうし、
それは道義的にも、私の心情的にも許されるものではないな」
もしオクウミ達、すなわち”帝国”がこの世界線から撤収してしまうとなると、残された竜司達は一気に危機的な状況に晒されてしまう事になる。
もちろん『ラライ・システム』などはそのまま残しておくだろうし、多分この通商結節体である『イヴァゥト-86』も、時空属性がこの世界線に付随するものなので、この空間内にある都市設備その他含めて全て残し、アラマキ-7115市に通じる星門だけを封鎖焼灼して撤収せざるを得ないだろう。
なので、これら設備を使い続けられるなら竜司達も当面は安全かも知れない。
だが中長期的には、彼らが今行おうとしている日本再興の為の『レイウァ計画』は実行不可能となるだろう。
『時空探査局としても、それは面子的に許されないものとなるでしょうね』
「そうだ。
事は時空探査局だけの話ではない、この計画を後押しする皇宮や
例の『テーチ』を支持する”実体星間監察事業団”への体裁もある。
従って、我々は何があってもこの計画を継続せねばならぬ…」
そう言ってから、少し黙ってしまったオクウミに
イゴルがとある疑問をぶつけた。
『そう言えば、こちらの方でも”ヤマトクニ”軍との情報共有で
”バイオメカノイド”群の行動をトレースしてみたのですが…』
「ふむ?その顔だと、何か分かったようだな。
話してみろ」
オクウミに促されて、イゴルがンンっと喉を鳴らしてから再び口を開いた。
『ええとですね…
”バイオメカノイド”群の時空航跡をトレーサーで確認して、
少なくとも30地球日もの間は亜光速を維持していた、
それで”ヤマトクニ”軍としては、敵はワープ技術を持たないのでは無いか
という結論に達していた事までは支部長もご存知だと思いますが…』
「ああ、それは知っている」
『その後、トレーサーの探査レンジを
高次元方向まで拡張して探査をやり直したところ、
その30地球日から更に過去に遡った時点で、
ふっつりと痕跡が途絶えてしまったのです』
「ほう?つまり…」
『ええ、どう考えてもワープしたとしか考えられません。
しかしながら、襲来した”バイオメカノイド”群全ての種類を調査しましたが
”大王烏賊”級を筆頭として、いかなる種にもワープシステムは
内蔵されておりませんでした』
「どういう事だ?まるで、それでは…」
『御察しの通り、恐らくは”何者か”が手引きをしたのではないかと思われます』
「”何者か”…いったい、その正体は何なんだろうか」
『今の所、まったく分かりません。
例えば現在の地球に干渉している外宇宙勢力としては”惑星連盟”が挙げられるでしょうが、彼ら…”グレイ”系列の異星文明は主にレティキュリ座やリゲル付近の宙域が根城であり、牛飼い座ネッカルではありません。
それに”ヤマトクニ”軍が月面や地球上にある”惑星連盟”の基地を監視していましたが、彼らもまた、この”バイオメカノイド”群の襲来に対して、慌てて防衛体制を取っていた事が明らかになっています』
「例の”レプティリアン”はどうだ?」
『その可能性はありますが、今の所は低いと言わざるを得ないでしょう。
そもそも”レプティリアン”というのは、りゅう座トゥバーン星を起源とする星間流浪種族で、今から1万2000年前に地球へ到来したと思われます。
彼らの親戚種は過去にシリウスやベテルギウス、ミンタカやベラトリックスといったオリオン座方面の恒星系に植民した形跡もありますが、現在はほぼ絶滅状態のようです。
”グレイ”系列の異星文明とはその頃から対立をしていたようで、
現在における”惑星連盟”結成のきっかけともなっています』
「それは知っている。
で、現在の”レプティリアン”の動向はどうなっているんだ?」
『あっはい、支部長もご存知の通り、
先日までの予備調査で現在の欧米圏における支配層の大半が
”レプティリアン”との混血である事は判明しています。
今後は『ミヨイ・タミアラ』作戦において、主流家系と構成人数の絞り込みを行う予定です。
どうやら”機関”を管理している”委員会”の主メンバーは、混血の中でも最も血の濃い一族で構成されているようですね。
しかしながら、今回の事件に際しては彼らも、”グレイ”と同様に混乱が生じていた事が分かっています。
つまりは彼らも”バイオメカノイド”の襲来については、
寝耳に水だったのでしょう』
イゴルの話をひとしきり聞いた後、
オクウミは顎に手を当ててゆっくりと溜息をついた。
「ふぅむ…結局は、まだその”何者か”の正体は掴めず、と言ったところかな…
いや、待てよ」
何かに気づいたオクウミは、イゴルに問い質した。
「おいイゴル。今そっちに”ヤマトクニ”軍がトレーサーで調査した
時空航跡のデータは持ってるのか?」
『は、はい。こちらのセンターにあります』
「すぐに全て寄越せ。ちょっとこちらでも見てみたい」
数分後、データを確認したオクウミが何かに気づき、片眉を上げた。
「これは…もしかして」
『支部長、何か分かりましたか?』
オクウミは、イゴルの方へデータを戻して見せた。
ただし、別のデータが付属されていて、比較して見れるようになっている。
「これを見ろ。
こっちは、この”起源世界線”での”バイオメカノイド”群の時空航跡だが
軍は丁寧にも、その周辺n次余剰次元空間も含めた
時空変動を全て拾ってくれていたな。
そしてこっちは、アラマキ-7115市付近に隣接するn次余剰次元空間における
余剰時空嵐の状況を示した異次元マップだ」
『アラマキ-7115市付近の余剰時空嵐ですか?』
「そうだ。聞いていないのか?
アラマキ-7115市を含むかなり広範囲のn次余剰次元空間では
この30日ほど前から、大規模な余剰時空嵐が度々発生していたのだ。
そのお陰で、アラマキ-7115市を含む実体星系や
人工次元世界との交通に支障が生じていた。
今回の”ヤマトクニ”軍艦隊の航行にも影響があったほどだからな」
オクウミは、二つのデータを重ね合わせて示した。
「そして”起源世界線”のn次余剰次元空間と繋ぎ合わせると…
どうだ、見事にリンクしただろう!?」
イゴルも確認すると、そこには
n次余剰次元空間での余剰時空嵐の、台風の目のような核が
遠方の異次元空間からにじり寄ってきて、
アラマキ-7115市に隣接するn次余剰次元空間で
ふっつりと拡散するように消えているのが分かる。
そして時間を同じくして今度は、
地球近傍空間に隣接するn次余剰次元空間から牛飼い座ネッカルの方角に向けて
わずかながら、何者かが異次元空間上を移動したと思しき
時空航跡が検出されていた。
『…は、はい!!確かにこいつは…何らかの関係性が見えますね!!』
「どうだイゴル。お前も元戦略情報分析部士官だったろう。
血が沸き立たんか?分析して見たいとは思わんかね?」
『ええ…ええ!そうですね!
分かりました、私の方で詳細な分析を掛けてみます!!』
「よし、それでは仕事を増やすようで申し訳ないが、宜しく頼んだ」
『はい!お任せ下さい!!』
「しかし…まさか我々の世界側からその”何者か”がやってきているとは…
これはもしかすると、この一連の事件の根は、
想像以上に深いのかも知れんな…」
オクウミは、イゴルとの通信が切れてからも
執務机上に展開された異次元マップをずっと睨み続けていた。




