表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/138

20-5  突入開始

”機関”所属の秘密月面基地『アルファ』に向かって

月面遺跡”E-2275A”で救助された隊員を乗せたムーンローバーが走っていた。




「…ねぇ、リック」

「何だよ…」


ローバー内のストレッチャーに横たわるニナが

やはり隣にその巨体を横たわらせているリックに訊いた。


「アンタ、土砂の中から助け出された時に、アスカに会わなかった…?」

「何だよ藪から棒に。

 会ってねーよ、ってかさっきまで気絶してたんだからよ、

 だから誰がオレ達の事を助けたのか知らねーし、見てもいねぇよ」


仏頂面で言い捨てるリックに、ニナがフッと笑った。


「私、アスカに会ったよ…」

「…は?

 マジで言ってんのか!?」


その言葉に仰天するリックだったが、ニナは瞼を一回閉じてわずかに頷く。


「私、最初幻覚かと思ったの。

 いいえ…やっぱり幻覚かも知れないわね…」


かぶりをゆっくりと振るニナを、リックは無言で見つめた。

「でも私達を助けてくれたのは、確かにアスカだった…

 だけど、すぐにまた居なくなっちゃった…」

「……」


涙をぽろぽろと流しながら、ニナは呟き続ける。

「私、アスカに謝ったんだけど…

 アスカは受け入れてくれたかな…やっぱりダメだよね…

 アスカ…本当にごめんなさい…」


とうとう嗚咽を上げ始めたニナに、

リックがかろうじて動く腕を上げて、

彼女の頭をぽんぽんと軽く撫でた。




「アスカ、アスカ…アスカぁ…」


ムーンローバーが基地に到着するまで、

車内には微かな嗚咽の声が響き続けていた。




- - - - - - - - - -




もう一台のムーンローバーでは、

アントノフ教授がストレッチャーに横たわっていた。




「何と言う事じゃ…こんな歴史的事件に立ち会える絶好の機会だというのに、

 こんな下らん怪我で、しばらく身動きが取れんとはのう…」


教授は、ストレッチャーに体を固定されているのにも関わらず

せわしなく両手でタブレットを操作し、

あの月面遺跡”E-2275A”に設置されていた各種測定機器から

何とかギリギリで保存できた各種データを

画面上に並べながら何度も見返した。


「全くこのスケールの大きさと言うたら…

 一刻も早く、この月面全土で発動しようとしている

 ”魔法陣”の正体を掴まねばいかんのぅ…

 んむ!?」


データを見比べた中から何かに気づいたアントノフ教授は、

側にいた救助隊の一人に声を掛けた。


「おい!そこの!!

 今すぐに、アメリカ宇宙軍艦隊の連中と話が出来るか!?」

「は、はぁ?」


怪訝そうな顔の救助隊員に対し、

教授は身を無理やり起こしつつ声を張り上げた。

「だからアメリカ宇宙軍艦隊の司令官と話がしたいと言うとろぅが!!

 誰でも良い!何なら地球のレイノルズ大将と繋いでくれても良いぞ!!」


「え、ええぇ!?」

「えぇい!何をボサッとしとるかぁ!

 ワシの権限なら宇宙軍司令部じゃろうと繋がるはずじゃ!

 とっととやらんかぁ!!

 ゴホッホホッッカハァッゴホゴホッ!!」


怪我をしているにも関わらず声を上げたお陰で、血混じりの咳が出て

ぜいぜいと息も絶え絶えになったアントノフ教授は、

別の救助隊員に背中をさすられながらも、それでもまだブツブツと呟いていた。




「もしかするとじゃ…これは月と地球をも覆い尽くす

 巨大な”宇宙結界”が張られたのかも知れん…

 そうなったら、今後は我々”機関”の宇宙活動が

 妨げられる事態になり兼ねんじゃろう…

 何とか一刻も早く、手を打たねば…」




- - - - - - - - - -




「レイノルズ司令官、

 月の被害状況が判明しました」




北米にある”機関”の深宇宙防衛警戒ネットワーク管制センターでは

レイノルズ宇宙軍大将の元に、ようやく情報が続々と集まりつつあった。

今も副官のエルステッド中佐がタブレットに目をやりつつ、

レイノルズに報告を始めた。


「それで、被害は?」

「はい、先刻の”バイオメカノイド”による攻撃では

 月面のティコクレーター近傍、コペルニクス近傍、静かの海、

 ディリクレ・ジャクソン、それにモスクワの海近傍と、

 述べ11箇所にて弾着しました。

 これにより、幾つかの基地施設で被害が出ましたがいずれも軽微です。

 人的被害ですが、例の”E-2275A”遺跡で5人が亡くなり

 13名が重軽傷を負った以外は特にありません」


「確か死者の中に、ウィリアムスン中佐も居たのだったな」

「はい、残念ながらイジェクタの直撃を受けたそうで…

 しかしその”E-2275A”で、少し不可解な出来事があったそうなのですが」


「ほう?何だね」

「はい、実は『アルファ』基地からの救助隊が到着する前に、

 既に”何者か”によって要救助者全員の応急処置が済まされていたのです」

「”何者か”だと?」


眉を顰めたレイノルズが、エルステッドに先を続けるよう促した。

「ええ、残念ながら要救助者の中に目撃者は居なかったのですが

 全員がイジェクタの土砂から掘り出され、宇宙服の気密を保つなどの

 応急処置が施されてありました」


「他の基地から来た隊員などでは無いのか?」

「その可能性はありません。何しろティコの『アルファ』基地は

 他の有人月面基地からは少なくとも1500km離れていますし、

 各基地からの報告では、

 当時そうした活動を行なっている隊員は居なかったそうです。

 それに、爆心地近くを調べてみると

 地面に一人分の、基地隊員用の月面靴とは異なるデザインの靴底ソールによる

 足跡が刻まれているのが分かりました」


「それで『アルファ』基地は何と言っているんだ?」

「ムーア基地司令官によりますと、基地のミューオンレーダーにわずかながら

 何か巨大な物体が一瞬だけ遺跡付近に接近し、

 またすぐに消失したと報告しております」


「巨大な物体だと?」

「ええ、それで気になって調べたのですが

 丁度その頃、例の”バイオメカノイド”が

 17体の巨大ロボットによって撃退されつつあった時で、

 その内の1体が突如として姿を消したのが確認されています」

「と言う事は、その1体がその爆心地に向かったと?」

「その可能性はあります」


「ふぅむ…」

と、レイノルズは腕を組み直して唸った。




「先程のシマザキ大佐によれば、”T”の状況には変化は無かったらしい。

 となると、例のアンノウンの活動範囲が宇宙にシフトしたという事になるが…

 しかしまだ情報が足りん、というか

 巨大ロボットやアンノウンの正体も目的も今だにさっぱり分からんからな…」


しばらく独り言を呟いていたレイノルズは、

そこでハッと何かを思い出し、それを口にした。


「そう言えば、例の「反地球クラリオンポイント」へ向けて発した

 金星の偵察機はどうした?」


月で一連の事件が起こる直前に、『反地球クラリオンポイント』で検出された

正体不明の大質量物体群を調査すべく、

金星の衛星軌道上に駐屯する米戦略宇宙軍深宇宙軍団第1金星派遣部隊から

偵察機小隊数機が「反地球クラリオンポイント」に向けて発進していたのだ。


「はい、基地からの発進は7日前でしたので

 偵察機の『反地球クラリオンポイント』への到達は

 あと2〜3日掛かるものと思われます」

「ううむ、時間が掛かるな。

 我々の技術水準では、重力制御エンジンを積んでも

 これだから仕方ないのだが…」

「そうですね…現時点では我々はただ待つ事しか出来ないでしょう」




それから2日後、その偵察機小隊がようやく「反地球クラリオンポイント」に到達した時

ポイントへと接近していた偵察機小隊が、

正体不明の高速宇宙船数機に追い払われてしまった。


かろうじて撮影出来た「反地球クラリオンポイント」の映像には

まるでSF映画の宇宙要塞のような、

超巨大な球状の物体が「反地球クラリオンポイント」に鎮座し、

その周囲を数万隻以上もの巨大な宇宙船群が

整然と遊弋している状況が映し出されていた。


深宇宙防衛警戒ネットワークの分析チームによる見解では、

その”宇宙要塞”のサイズは直径およそ150kmもあるとされ、

周囲の宇宙船群もそのサイズは数km以上に及ぶと推定された。


しかしこれらの正体については、

”バイオメカノイド”では無いとする以外に結論は出せなかった。

何しろ”機関”側としては情報が全く足りず、

その正体を絞り込めていなかったのだ。




”機関”側は、”委員会”の緊急会合を連日招集して

情報収集と分析、討議に当たっていた。


しかし後になってアントノフ教授が作成した

”月面魔法陣”や”宇宙結界”仮説のレポートが、

”委員会”にもたらされると、緊急会合はさらに混乱をきたし、

それから更に数日間は

何ら結論や方針を策定させる事が出来ない状態が続く事になる。




- - - - - - - - - -




「提督!」


”ヤマトクニ”天体軍・銀河外縁宇宙艦隊第278任務部隊の

旗艦ヴァラクダータ艦橋にて、

副官のトゥクリ=ヴァリ大佐が興奮交じりに言った。




「む、どうしたのだ?」

特製ファージによってナノマシンが駆逐されつつある戦域を注視していた

シルヴィオス提督が聞き返した。


「はい、月からの報告です!

 ついに月面の魔法陣起動に成功したそうです!!」

「おおっ、そうか。

 ようやくこれで地球圏も安全が保てるな。

 肩の荷が降りるというものだ」




うんうんと、好々爺のように満面の笑みで頷いた提督は

今一度、艦橋のスクリーンと手前のコンソールに表示された

戦況データを一瞥してから、厳かに言った。


「よし、もう十分だろう。

 それでは作戦の最終段階に移行する。

 全艦、第一扇角から群体中心部へ向かって突入準備。

 突入が完了し次第、すぐに転回して群体に対する背面展開を行う」


シルヴィオス提督の号令により、艦隊がくさびのような突入陣形へと変化する。




「全艦、突入開始!!」


その合図と共に、突入陣形を形作っていた艦隊が、

崩壊しつつある第一扇角群体側から”バイオメカノイド”群体の中心に向かって、

一斉斉射を繰り返しながら突入し始めた。

もちろんファージを搭載した第1種・第2種航宙魚雷を連射する事も忘れない。


「何たって、100万発はあるからねー!

 幾らでもじゃんじゃん打ち込んじゃいましょーー!!」

サリサが腕を振り回して叫ぶ。


「あらあらまぁまぁ、そんなにうるさくしてると怒られますよ」

隣のミアナが諭すが、そのミアナ自身も

まるで観劇を楽しんでいるようにスクリーンを眺めていた。


「あとはシアラ達の出番だわねぇ。

 でもあの子達なら、きっと大丈夫でしょう」

と、ミアナは艦橋の天井にまで広がったスクリーンの奥の方で煌めく、

巨大ロボットのシルエットを見上げた。




- - - - - - - - - -




「明日香さん、こちらの駆逐は終わったのだが」


シアラが、搭乗している大型ロボットの両腕を

ブンブンと大きく回しながら言った。


『ありがとう、シアラさん。

 それでどう?その『多紀理媛命』号の乗り心地は?』

「うむ、大変快調だと思う」


『それは良かったわ。

 何しろ『多紀理媛命』号は『須佐ノ男』号に次ぐ大きさと馬力なんだけど

 竜司ですら乗りこなせなかったじゃじゃ馬だったから。

 でも、シアラさんならピッタリね』

「じゃじゃ馬がピッタリと言われてしまうと、

 何とも複雑な気分になるのだが…」

シアラが頬を掻いて苦笑いを浮かべる。


『ふふっ、ごめんなさいね』

明日香が珍しく舌を出しておどけて見せた。


何しろこの『多紀理媛命』は、

他の『多岐都媛命』及び『市杵島媛命』と同型機種でありながら

最もパワーとスピードが大きい機体であるのだ。

従って、普通の人間にはなかなか乗りこなせないので

今までは『須佐ノ男』号の命令に追随する自動操縦で機動していた。


「まぁ確かに、これは軍人でないとまともに動かせないだろうな。

 赤羽や東雲、ましてや神崎さんや山科さんでは無理だろう」

カチャカチャと操縦桿を動かしながらシアラが呟いた。


『さて、その大馬力な機体を操縦するシアラさんにお願いだけど、

 そろそろ全艦突入のタイミングが来るし、私達も同時に突入するので

 その先鋒をお願い出来るかしら』


「ああ、承った。

 その前に…」


『多紀理媛命』号の目の前に、ひときわ大きい”大王烏賊クラーケン”級が

シアラの行く手を阻むようにして目の前に躍り出てきた。


「ふんっ!!」

シアラが『多紀理媛命』の手にする『十握剣』を思い切り振り下ろし、

大王烏賊クラーケン”級の胴体を一瞬にして文字通り真っ二つにした。


この『十握剣』は、もともと『須佐ノ男』号の持ち物であったのだが

その性能の全てを引き出すには

『多紀理媛命』の大馬力でないと難しいと言う事になり、

(『須佐ノ男』号に乗る明日香には扱い辛いというのもあった)

今はシアラの『多紀理媛命』が手にしている。


シアラが『十握剣』を振り回すと、その剣から放たれる青白いプラズマの奔流が

剣の動きに沿って宙に軌跡を描いた。


「うむ、やはりこの剣は私にしっくり来るな」

『でしょう?やっぱりそうだと思ったわ』

「使えば使うほど馴染んで来る。いい剣だ」

シアラの賞賛に、明日香が画面の向こうで微笑んだ。


『それじゃ、お願いするわね』

「了解した」




『全艦、突入準備!』


艦隊からの通信が入ると、

シアラの『多紀理媛命』が”特殊小隊”の前に躍り出て、

突入の構えを取った。


『シアラ、頼んだぜ!!』

竜司から通信が入る。


『おー、いっけー』『殿しんがりは我にお任せを!』

他のメンバーからも次々に激励の連絡が入ってきた。




「…ふっ」


シアラは、この”起源世界線”を発見した時は

まさかそれから半年近くでこんな事になるとは思っても見なかった。

それまでは、オクウミの命令とは言え

一人で黙々と任務を遂行していただけだったのだ。


しかし、この”起源世界線”で多くの仲間を得て

このような胸踊る戦いの場にも出る事が出来た。

正に、僥倖と言うべきだった。


「みんな、感謝する」

『えっ?何だって?』


竜司が聞き返したが、シアラは首を横に振っただけだった。




『全艦、突入開始!!』


「さて、それでは征こうか」

その合図と同時に、シアラは『多紀理媛命』の推進エンジンを全開にして

最大戦速で群体への突入を開始した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ