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20-4  地球圏結界

宇宙艦隊がカイパーベルト領域での決戦を開始した頃、

月面でも、魔法陣起動作業が最終段階へと移行していた。




クルックスクレーターにある古代魔法遺跡の脇にひときわ高く築かれたピラミッドのような管制台、その頂上にある祭壇のようなコンソールフロアでは、

サーミアが完全にトランス状態のようになりながら、3D投影された全魔法装置の起動統率用コンソールをひたすら乱打していた。


「ほ、ほーっ、ホアアーーっ、ホアーーーっ!!」


まるで、60億kmばかり距離を隔てた東雲とシンクロしたかのような雄叫び声を上げながら、その発声源であるサーミアが目をひん剥いて真っ赤に充血させたようになりつつ、魔法陣起動の最終段階用コードをその場で組み上げてコンソールに入力していく。


「なんじゃあの雄叫び声は…

 いい加減五月蠅くて敵わんわい」

後ろに控えているキロネが、

縦にとんがった猟狐耳を手で押さえながら呻いた。


「ルシール特務長は、只今トランス状態に入られておられます。

 その際、ああした神憑りの霊言をお残しになられるのです」

サーミアの副官であるラクシャターナが厳かに諭した。


「なーにが霊言じゃい」とキロネが吐き捨てる。


「ププッ、プフフーーッ」

シスケウナの副官であるセファイサーが、

ついに我慢できず口から笑いが溢れた。


「こらぁっ!!そこおぉっ!!お黙りなさい!!」

ラクシャターナが激昂してセファイサーに詰め寄り、

隣にいたシスケウナが「まあまあ」などと両者をなだめた。




その時、はっと何かに気づいたサーミアが我に返ったかのように後ろへ振り向き、ラクシャターナ達に言った。

「たった今、コマロフクレーターにあるゾヲ-71都市遺跡の第95区画に設置した

 キャラバリファルバラスレン753-541増幅装置に不具合が発生しましたわ。

 どなたか、すぐにその場所へ行って再調整と再起動をお願い出来るかしら?」


「何と!それは大変ですわ!!」

とラクシャターナが叫ぶ。


「へぇ?そんなに叫ぶほど厄介なのか?」

とキロネが訊く。

「ええ、キャラバリファルバラスレン753-541増幅装置は確か

 第95区画の複雑に重なり合った地層と岩盤の特性を利用して

 魔力を増幅する装置なのです。

 図体が大きい割に、少しでも装置の向きや軸がズレてしまうと

 機能しなくなってしまいますわ」

ラクシャターナが解説した。




「はぁー、結構めんど臭い装置じゃねーか。

 じゃあ近場で動けそうな奴を見繕って…...

 って、さっきの爆撃の復旧作業で

 俺らのチームもだいぶん割かれちまってるんだったぁー!」

キロネがチームの工程表を確認して、頭を猟狐耳ごと掻きむしった。


「ぼくが行けますです~!カロン・キロネ特務長様~!!」

キロネの副官であるピコルが、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら手を挙げた。

「おぉっ!そーかピコル!

 じゃーいっちょ、頼んでくれるかぁ!?」

「はいです~!!」




「現場まで行くなら、小型艇を貸す」

シスケウナがぽつりとと言った。

「でも私はここで陣頭指揮をしなければなので、

 サフェイサー、操縦をお願い出来るかな」


「はい、タイカス特務長。

 でもこれで更に500ポイント追加ですけど?」

「うむ、大丈夫。

 先日の分から差っ引いても、まだ4000ポイント残ってるはず」

「確かにそうですわね」

ニコッと笑みを浮かべたセファイサーが頷く。




「ラクシャターナ、貴方も彼女らに同行してもらえるかしら?」

サーミアからの突然の要請に、ラクシャターナがビクッとなった。

「え…えぇ!?そ、それは何故でしょうか!?」


「何故って、キャラバリファルバラスレン753-541増幅装置の

 魔力流体力学的調整は貴方にしか出来ないのではなくて?」

怪訝な顔のサーミアが告げた。

「あ、は、はい…そう言えばそうですわね…」


肩を落とすラクシャターナを見やったセファイサーが

プククっと含み笑いした。

「あらあらまぁまぁ、貴方は一人で任務もロクにこなせないのかしらぁ?」

「そ!その位は出来ますわ!!」

腕を振り回して反駁したラクシャターナが、

ぷりぷりしながらそのまま歩き出した。


「さぁ、皆様!急いで行きますわよ!!」

ラクシャターナの背後を、相変わらずニヤニヤしたままのセファイサーが、

更にその後ろを慌ててトコトコと小走りになりながらピコルが付いていった。




そうこうしている内に、

魔法陣の起動が最終段階に進むに従って、

古代魔法遺跡もないエリアも含めて月面のそこかしこが

宝石を散りばめたように様々な燐光で包まれ始め、

更には”月震”の揺れも激しくなっていた。


これに反応したのが、地球の”機関”に属する各月面基地だった。


特に月の裏側には”機関”の秘密月面基地が点在していたが

これら基地は、古代遺跡を部分的にしろ利用して築かれているので、

そこでは基地自体が更なる震動及び発光現象に襲われる事になった。




- - - - - - - - - -




『”モスクワの海”基地、こちらティコの”アルファ”基地のムーアです。

 そちらでも何かありましたか!?』




”モスクワの海”基地の司令部では、通信官がコンソールに張り付いて

各月面基地・宇宙基地への連絡を取っていた。


「ムーア司令官、

 こちらは”モスクワの海”基地司令官のヴァシレフスキーです。

 まだ原因が掴めないので調査中なのですが、

 こちらでは、例の”バイオメカノイド”による月面爆撃と前後して

 どうやらここから東南東方向にあるコマロフクレーターの古代遺跡で

 奇妙な震動現象が発生しておるのです」

ヴァシレフスキーは、その高い上背をピンと伸ばしつつ

通信機のマイクに話し掛けた。


『コマロフクレーター…ああ、あの最大の月面遺跡ですな』

「はい、この基地も、あの遺跡から”海”側に延伸された遺構キャナルを利用して

 建造されているのですが、どうやら遺跡全体が奇妙に震動しているお陰で

 こちらの基地にも影響が及んでおります」


コマロフクレーターには、

日本の月面探査機かぐやにも撮影されている縦横に伸びる碁盤目状の溝がある。

表向きの成因としては、地表に漏れ出た溶岩が冷えて固まった時の

ヒビ割れだと言う事になっているが、

実際には、その溝は人工的に掘られたものであり、

縦横で差し渡し50km以上に渡る深い溝の中には

巨大な宇宙都市の遺跡が存在している。


『なるほど、しかし大丈夫ですか?

 そちらの駐留人数は確か、2000人は下らないはずですが』

心配そうなムーアに対し、ヴァシレフスキーが苦笑いを浮かべる。

「ええ、まぁ何とか。何しろもともとが宇宙都市遺跡の一部ですし、

 バックアップインフラは充分でしたから。

 とは言え、それに依存して基地人口も都市並みに増やしてしまったので

 正直言って、総身に知恵が回りかねるのが実情です」


『しかしそうなると、もし避難となったら大変ですな。

 またあの爆撃が行われないとも限りませんし』

「全くです。こちらとしてはなるべく被害を最小限に抑えるべく、

 今から調査隊を組んで、遺構キャナルに連なる基地設備の点検確認と、

 遺跡そのものの調査も行う予定です」




- - - - - - - - - -



ヴァシレフスキー司令官が話していた通り、

”モスクワの海”基地の東南東側出入り口から

遺跡側に繋がるブリッジに調査隊が集結していた。


「総員、準備は良いか?それでは出発!!」


数十人の調査隊を乗せたムーンローバー数台が、

幅数十mもある遺構キャナルの中に入り

そこから50km先にあるコマロフクレーターの

宇宙都市遺跡中心へ向かって進み始めた。




調査隊一行がしばらく進んでいくと、比較的シンプルだった遺構キャナルの壁面が

だんだんと複雑で奇妙なデザインの機械装置らしき造形で埋め尽くされていく。

しかし、それ自体は調査隊にとって特に珍しくもなく見慣れていた。


だが、その中で明らかに変化を感じ取ったのは

進み始めてから10kmあたりの地点からで、

その機械装置群のあちこちに色とりどりの不思議な光が点り始めていた。


「隊長…!」

「ふぅむ、これらの遺跡は以前の調査で、

 システムとしては全部”死んで”いたはずだが…」

調査隊隊長はローバーから頭を出して、

そこかしこが宝石のように眩く光るトンネルを見上げながら唸った。


「とにかくまずは最も振動が強い地点へ、出来るだけ近くまで接近するんだ」




更に都市遺跡の奥にまで進んで行くと、

コマロフクレーターの盆地ベイスン領域にある碁盤目状の遺構キャナルが見えてきた。


ここは、高さ1km以上にもなる巨大な遺構キャナルの側壁という側壁に

明らかに都市の一部と分かるビルや住居、

その他巨大な施設が張り付くようにして建設されていた。

また側壁同士を繋ぐように、金属製の橋が無数に架けられている。

全体として、地球の古代文明風の意匠を取り入れた

超未来都市といった感じである。


しかしいずれも、以前の調査では死んだように静まり返っていたのだが

今はまるで多くの住民が生活しているかのように

あちこちに色とりどりの灯りが点り、

また驚くべき事に一部の機械装置があちこちで稼働して

ガチャンガチャンと動き始めていた。

その騒々しく絢爛な情景は、

あたかもニューヨークか上海等の巨大都市を思い起こさせる。


「な、何だこれは…!?

 一体、ここで何が始まったというのだ..!?」


まるで大都会に初めて足を踏み入れた田舎者のような気分になった調査隊は

都市遺跡に架かる最初のブリッジの手前でムーンローバーを降り、

そこから様々な観測機器を降ろし始めた。


「一通り撮影を終えたら、遺跡の中に進入するぞ」

隊長の言葉に、一同は緊張の面持ちで頷いた。




異常に気づいたのはその直後だった。


「た、隊長!!

 ブリッジに足を踏み入れようとしたら、まるで見えない壁に阻まれるようになって

 一歩も進めません!!」

「何っ!?どういう事だ!?」


隊長も橋の方へ歩み寄って、玄武岩のブロックタイルで出来た遺構キャナル床面と

金属製の橋の境界に足を踏み入れようとすると

確かに何か磁石が反発するような力が働いて、足が横に逸らされてしまうのだ。


次いで手を橋の方へ差しのべようとすると、

これも足と同じく強力な力場フィールドのような力で遮られ、

どんなに力を入れても手を突き抜けさせる事が出来なかった。


「よし、みんな下がれ!!」

隊長が取り出したのは、月面用の自動拳銃だった。

予め薬莢内に火薬と共に酸化剤が装填されていて、

真空中でも効率的に燃焼反応を起こす事が出来る。


隊長は拳銃を構えると、すぐに発砲した。

すると、銃弾が橋の手前の空間で瞬時に弾かれ、

返った弾は隊長のヘルメットを掠めて反対側へ跳んでいった。

「うぉっっと!?」思わず隊長が足を竦める。


見ると、銃弾が弾かれたと思しき空中に

発光する不可思議な同心円状の模様が微かに浮かび上がり、

それから徐々に消えていくのが分かった。


「何だあれは!?」

と隊長が言った瞬間。

調査隊全員の頭の中に、直接奇妙な”言葉”が大きく響いた。




『ココカラサキニクルナ!!』


「うっっ…!?な、何者だっ…!?」

機械的な”音声”が強い頭痛と共に直接脳内に響き、

全員が頭を抱えてうずくまる中で

隊長は何とか顔を上げ、その”声”がする方向を見ようとした。


「っ!?あ、あれは…UFO!?」


ブリッジが架かっている遺構キャナルの空間に、

短いやじりのような形態の宇宙船らしきものが浮かんでいる。

その銀色に光る船体の前方に大きな窓があり、

そこから三人の人影シルエットが見えた。

一人は背が高く、まるでエルフのような横に長い耳を持っていて

もう一人はまるで妖精のような4枚羽を生やしていた。

三人目は背が小さく、動物の耳を持っているように見える。


「う…宇宙人…なのか…?」

”機関”が編纂しているという異星人図鑑にも載ってなさそうな姿の”宇宙人”に、

隊長が体を震わせながら目を見張った。


『カエレ!!

 カエラナケレバ、ゼンインコロス!!』


彼はその言葉を聞いた直後、ついに意識を失ってその場にくずおれた。




- - - - - - - - - -




小型宇宙艇に乗っていた三人、

すなわちラクシャターナとセファイサー、ピコルは

橋から遺跡の中に入ろうとする地球人の調査隊へ向けて

一種の”魔力マギカ”を用いて脳内へ直接届ける特殊通信を発していた。


「あの連中もしばらくは動けませんわ」

ラクシャターナが通信コンソールのスイッチを切りながら言った。

「こうしておけば連中も恐れをなして、

 今後こちらに手を出さなくなるでしょう」


「あらあら、何を言っているのかしら?

 あの連中はそのままここに置くわけにいかないわよねぇ?

 一体誰が連中の基地まで運ぶと思ってるんでしょうねぇ?

 貴方はいつになったら、全体の事を考えるだけの知恵がつくのかしらぁ」

「なっ…何ですって!?セファイサー!」

「まぁまぁ、私がこの宇宙艇の牽引ビームで運んでも良いのだけれど、

 その場合は貴方への貸しがついに10万ポイント突破しますわね」

「ぐぬぬ…!」


二人が睨み合うところへ、ピコルが慌ててぴょんぴょんと跳ねながら

なだめようとした。

「ふ、二人とも落ち着くのです~!

 ぼくも運ぶのを手伝うのです~!!」


ピコルを見た二人は、同時にはぁっとため息をついた。

「まぁ、とりあえずは

 キャラバリファルバラスレン753-541増幅装置の調整を済ませましょう。

 話はそれからです」

「あらあら、仕方ありませんわね。

 ツケの話は、それからじっくりゆっくりとしましょうねぇ」

「くっ…」


三人を乗せた小型宇宙艇は、それから方向を転換して

遺構キャナルの奥へと進み、姿を消していった。




- - - - - - - - - -




『ルシール特務長、作業が完了しました』

「あいよー」


キャラバリファルバラスレン753-541増幅装置の調整が終わった事を

ラクシャターナからの報告で確認したサーミアは、

コンソールに3D表示されている全てのデータをもう一度見回してから

大きく頷いた。


「よーっし!

 これで最終段階のラストのクライマッッックス!!

 いっくわよーーー!!」


サーミアが全ての指をバーン!とコンソールに叩きつけると

先程から眼前でまばゆく光り始めていた、クルックスクレーターの魔法遺跡が

まるで爆発したかのように一気に全体が閃光に包まれた。


「キターーーーーーー!!!」


彼女はバッと両手を大きく広げ、

大笑いするようにして背を大きく反り返らせて叫ぶ。


その背後ではキロネ達が、サーミアの奇行を半目になって呆れながら見ていた。

「何がキタんだよ...」




- - - - - - - - - -




月軌道を遊弋して”バイオメカノイド”の警戒に当たっていた

合衆国戦略宇宙軍第5宇宙艦隊任務群は、月全体に発生し始めた異常を捉えた。


これまでも軌道上からも分かる程にまばゆく光り始めていた月面遺跡群が、

一気に爆発したかのように閃光に包まれて見えたのだ。

しかもそれら月面遺跡群を睦びつけるようにして光る道のようなものが

浮かび上がり、更に碁盤目、または同心円状に繋がっていき、

やがて月面が表側も裏側も蜘蛛の巣のように光る網で包まれていった。




「い、一体…月面で何が起こっているんだ!?」

宇宙艦隊の将兵も、そしてもちろん月面基地の隊員も

もはや見守る事しか出来ない。


「か、艦長!

 な、何か光る網のようなものが…!」


何と、月面上で編み込まれた”光る網”が、

いきなり月の重力から解放されたようにして

宇宙空間へと浮かび上がり始めたのだ。


それは月を中心にして、球形の風船のように見る見る間に膨れ上がり、

すぐに月直径の数倍以上になった。


「”光る網”、本艦隊へ急速接近しています!」

「何だと!?まずい!

 全将兵、耐衝撃姿勢!急げ!!」


艦長も他の士官達も、スクリーンに映し出された”光る網”が

画面一杯になった瞬間、思わず身をすくめた。

「”網”が本艦に衝突します!うぁあああ!!」

「ぐっっ!

 ……?」


しかし、宇宙艦隊にその”光る網”が衝突した瞬間も

艦内に居た全兵士が微かでも衝撃を感じる事は無かった。


そして生まれ出た光の網は膨張を加速させ、あっという間に月軌道を飛び越えて

更に猛スピードで拡散しながら、遂にはその半径が38万5000kmを超えて

地球をも飲み込んでいった。


第5宇宙艦隊任務群を始めとして”機関”側は全く気づいていなかったが、

この時に”ヤマトクニ”掃討部隊の目を逃れつつ地球近傍空間をうろついていた

単体の”バイオメカノイド”が全て、この光る網によって破壊されていた。




こうして、高度な指向選択性を持つ”地球圏結界”がその展開を完了させた。


光る網はすぐに光るのを止めてしまったが、

その結界はしっかりと月を中心とする半径150万kmの球状となって安定した。


”バイオメカノイド”を始めとする明白な敵意を持った外宇宙勢力の侵入から

選択的に防御可能な”地球圏結界”は、

この時点より恒久的にその存在を誇示する事となる。

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