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19-7  非常態勢移行

「た、大変です!!」

 衛星軌道上の深宇宙透過レーダー群が、

 新たな正体不明物体アンノウン探知キャッチしました!!

 現在は地球からおよそ200万kmの位置ですが、

 時速約500万kmで地球に向かって急速接近中です!!」




北米の某地下基地にある、深宇宙防衛警戒ネットワークの管制センターでは

先刻から蜂の巣を突いたような大騒ぎになっていた。


と言っても、実際にはおよそ4日前に反地球クラリオンポイントにて

やはり正体不明の大質量物体群の出現を探知して以来、

”機関”の影響下にある合衆国戦略宇宙軍を始め、

各国の宇宙軍や極秘部隊の多くが臨戦態勢に移行している。

また、半日前には一瞬ではあるが月に接近する十数個の正体不明物体アンノウン

レーダーで探知していたが、それはすぐに消失ロストしてしまっていた。


「な、何だと!?またか!?

 し、しかもこの速度は…!!」

「はい、正体不明物体アンノウンは目下減速中ですが、

 このまま減速すると仮定しても、

 あと1時間以内に地球圏に到達する見込みです!!」


この管制センターで指揮を執るレイノルズ宇宙軍大将が絶句する。


「何て事だ…!!

 よし、直ちに地球外に展開する全宇宙部隊に連絡!

 全部隊、即時臨戦態勢に移行せよ!!

 また地球軌道及び月軌道上の第1、第2、第3、第5艦隊へ通達、

 直ちに迎撃体制を整えよ!!」

「はっ!!」


「それと”委員会”へホットラインを繋げ…」




通信士官によって管制センターと”委員会”円卓会議室とのホットラインが接続される間、レイノルズ大将は最寄りのコンソールにいる士官へ確認を取り、正面のメイン液晶スクリーンに正体不明物体アンノウンの画像を表示させた。


「コイツが来た方角は?どこからやって来たんだ!?」

「は、はい!

 …ええと、判明しました!

 赤経15h 01m 52s、赤緯+40° 23’ 25”です!!」


メインスクリーンの画面が切り替わり、当該座標が表示された。

「うーむ、その座標は…

 ぬ、これは牛飼い座のネッカル?」


「はい、その様です。

 すなわち、”リトルグレイ”の故郷であるレティキュリ座ζ連星や

 ”ラージノーズ”の故郷とされるリゲルとは、

 地球から見てほぼ反対側の座標に当たりますね」

副官のエルステッド中佐が言った。

 

「つまり…いわゆる”グレイ”系列とは異なる出自の異星文明だと?」

「その可能性があります。

 まぁ、策謀を巡らしてそう思わせているだけかも知れませんが」

エルステッド中佐は首をすくめた。


「しかし、反地球クラリオンポイントにおける大質量物体の出現や

 先刻から続いている月面での”月震”と何か関係があるのではないか?」

「全く分かりません。

 しかしこれら全ての現象がこの3日以内に発生している事からも

 これら異常現象や正体不明物体アンノウンの出現は、全て関連していると

 考えても良いと思います」

「ううむ…そうかも知れんな…」

しかし、他に判断する材料は今の所無さそうである。


「よし、ともかくこの正体不明物体アンノウンの監視を継続。

 当該座標を各艦隊へ通知させ、直ちに迎撃可能な軌道へ遷移せよと伝えよ!」

「はっ」




- - - - - - - - - -




「レイノルズ司令官!

 ”委員会”とのホットラインが繋がりました!!」

「よし、受話器を貸せ」


受話器の向こうで何秒かのコール音が鳴った後、カチャリと乾いた音がした。


『”議長”のモラヴェックだ』

「ああ議長、お忙しいところ申し訳ありません」

『挨拶はいい、緊急の用件だな?』

「ええ、そうです」




その高圧的な声に、レイノルズも内心で冷や汗をかきながら状況を説明する。


『なるほど、それでは直ちに…』

「ええ、全軍へデフコン2を発令して頂きたいと思います」

『分かった。

 それと、例の”グレイ”連中は…』

「今のところ、目立った動きは見られません」


『そうか。という事はこれら一連の現象及び正体不明物体アンノウンの出現は、

 連中、もとい”惑星連盟”とは関係が無いという事かな?』

詰問するような口調でモラヴェックが言った。

「まだ分かりません。

 現在、統合参謀本部で様々な可能性を検討している所です」




『ふむ、それでは他の新興勢力という事は?

 例えば、今年の4月にグルームレイク基地を襲撃した勢力とか』

「その可能性もあります。

 ですが先程受けた報告では、現在日本にある当該重要監視対象地点”T”と

 その監視リストにある人物全員に、

 やはり目立った動きが見られないとの事です」


多摩市に住んでいる赤羽家の事を指していた。

しかし、”機関”側のスパイであった桜木亜美は

オクウミ達によって仮身体アバターへと置き換えられ、

その仮身体アバターが”機関”へ偽情報の報告を送っていたり

時空探査局が管理する”防衛免疫システム”『ラライ・システム』自体が

多摩市に入ってくる新たな”機関”のスパイに対して

精神操作マインドコントロールを施したり欺瞞情報を与えたりしているので

竜司達の動きを”機関”に察知される事はまず無いと言って良かった。


「ともかく今のところ、正体不明物体アンノウンの出自その他は一切不明です。

 検討に値するデータがまだこちらに揃っておりませんので…」

さらに冷や汗をかきながら、レイノルズ大将が弁明する。


『では、早急に集めよ』

「は、はっ!」




- - - - - - - - - -




”機関”の”委員会”が速やかな通達を行なった事により、

合衆国戦略宇宙軍の全部隊が先日発令されたデフコン3から、

更に強力な防衛準備状態となるデフコン2へと切り替わった。




レイノルズが指令を送った米宇宙軍の第1、第2、第3、第5艦隊は、直ちに現時点で航行していた軌道を離脱し、当該座標から襲来する正体不明物体アンノウンの迎撃に当たるための最適軌道へと遷移し始めた。

しかし、あと1時間弱という限られた時間で、どこまで迎撃態勢を整えられるかは微妙な所だった。


また、”機関”影響下にある各国の宇宙軍、例えばロシア宇宙軍や中国軍航天部隊の宇宙戦隊なども地球軌道上や月面に展開している各部隊を非常態勢下に移行させている。


更には、”機関”とは表向き関係のないはずのアメリカ陸海空軍にもデフコン3が緊急発令された。

米軍の対外部隊を含めた全基地で警報が発され、全ての軍用無線が機密コールサインに変更されたり休暇中だった米兵の一部に緊急召集令が発せられるなど、緊迫した状態となった。

当然在日米軍も例外ではなく9.11事件以来の非常態勢移行となり、

自衛隊もかなり混乱を来たしつつも、在日米軍の動きに追随して非常態勢への移行を開始した。




そしてアメリカのCNNや英国BBCなどが、米軍の非常態勢(デフコン3)への移行を速報で報じた。


しかし、現在地球上で米軍が部隊を展開して警戒に当たっている地域、例えばイラク・シリア・イランといった中東地域や北朝鮮、印パ国境といった旧来の紛争地帯では目下のところ何ら異常な事態は生じていない事が確認されていた。


ただし、米軍のみならずNATO軍、ロシア軍、中国軍といった大国の軍隊が世界で一斉に同様の動きを見せ始めた為、普段から最新情報を入手しているはずの民間軍事専門家達も何が起こったのか全く理解出来ず、混乱していた。


当然のことながら民間軍事専門家も他の一般国民もその殆どが、極秘にされている”機関”の存在や、”機関”及び各国宇宙軍等が超高度な技術を用いて宇宙で活動している実態を全く知らされていないし、もちろん公表される事もない。

ましてや異星人エイリアンが地球で”機関”と共に活動しているのも知っている筈がない(もしそんな情報を偶然知り得たとしても、オカルト雑誌かタブロイド紙並みのフェイクニュースと受け止められるのがオチ)ので、事情を把握していない彼らがこのような混乱に陥るのも仕方がないと言える。


世界中の各報道機関は、通常の放送を中断して緊急報道番組を開始させていた。

しかし民間軍事専門家達からの動揺混じりのコメント等が得られると、「まさか世界大戦でも始まるのか?」などかなり切迫した推測が報じられ始める始末だった。


当然、全世界のネットやSNSでも混乱した人々による大量の憶測やデマの情報が流れ始めた。

それを見聞きした現実の人々が更に混乱するという負の連鎖が引き起こされ、例えばアメリカの一部地域ではパニックにより、物資の買い占めや暴動すら起こりかける騒ぎとなっていった。




- - - - - - - - - -




デフコン2に移行してから深宇宙防衛警戒ネットワークのセンサー群が

監視中の正体不明物体アンノウンが更なる新たな動きをし始めたのを探知した。




「た、大変ですレイノルズ司令官!!」

「どうした!?また何か新たな動きがあったのか!?」


「は、はい!

 正体不明物体アンノウンが3つの群れに分裂しました!!」


悲鳴に近い士官の報告に眉をひそめたレイノルズ大将が、コンソールの画面を覗き込んだ。

「現在位置は!?」

「はい、現在は地球からおよそ100万kmの位置にあり、

 時速約120万kmで更に減速中です」


「という事は、もう光学レーダーにも捉えられるはずだが」

「はい、確認してみます」


正面の大型液晶スクリーン一杯に、件の正体不明物体アンノウンが映し出された。

ぼやけた輪郭だが、明らかに白い雲のようなうっすらとした塊が3つに分裂し始めているのが分かる。


「おい、この画像をすぐにAIの解析に掛けろ。

 何だか嫌な予感がする」

「は、はい!」




情報分析士官が動員され、画像をAIによって解析すると

直ちに正体不明物体アンノウンの正体が突き止められた。


「レイノルズ司令官!

 画像解析結果が出ました…!!」

「そうか、で、正体が分かったのか?」


「は、はい…

 アンノウンの正体は…”バイオメカノイド”です!!」


「なな、何だとっ!?

 よりにもよって”バイオメカノイド”だと!?」

「そ、そうです。

 解析の結果、1群ごとの数は推定8000から1万、

 それぞれのサイズは凡そ数十mから数百m程もあります。

 形態は様々で、確認出来るだけで10種類近くあると思われます」


「な、何て事だ…

 あんなモノがその数で地球に来寇したら、地球文明は一巻の終わりだぞ…」

頭を抱えたレイノルズ司令官だが、その後に続く報告に顔をハッと上げた。


「それで、その”バイオメカノイド”群の行き先も判明しました。

 彼らの軌道を正確に計算すると、あと一時間程度で

 地球ではなく、月に到達致します」


「月!?月だと!?」

目を丸くするレイノルズ大将に、副官のエルステッド中佐が言った。

「これはどう考えても、先刻から断続的に発生している”月震”と

 大いに関係がありそうですね」

「ううむ…」




「それと、月に関してもう一つ報告がございます」

「何だ?」

「はい、月には古代遺跡が複数存在しているのはご存知だと思いますが、

 その古代遺跡の大半において、1時間ほど前から

 原因不明の異常な振動や発光現象が観測されていると

 月面駐留部隊から報告がありました」


「何だと!?なぜそれを早く言わなかった!?」

「は、はい、申し訳ございません!!

 ですが、月面駐留部隊を始めとする”機関”の月面基地で

 同じく1時間ほど前から原因不明の通信不良が発生しておりまして…」


「やはり、これらの現象には何らかの繋がりがあるのでは無いでしょうか」

エルステッド中佐が言った。

「確かにそうかもしれんな。

 で、月面駐留部隊は調査を開始しているのか!?」

「はい、そのようです。

 先程『アルファ』基地のウィリアムスン中佐が特別調査チームを編成して、その異常が発生している”E-2275A遺跡”に対して緊急調査を行うと連絡がありました。

 今のところ、それが最も早い調査になります。

 他にも異常が確認されている遺跡がありますが、

 基地からかなり離れていますので」


「そうか、ともかく今は月面駐留部隊へ直ちに迎撃体制を整えろと指令を出せ。

 何なら、現地の判断で迎撃戦闘に移行しても構わん」

「はっ!」




それからレイノルズ大将はエルステッド中佐の方に向き合った。

「そう言えば、

 ”バイオメカノイド”に対する防御システムの開発はどうなっていたんだ?

 例の『ヴァイラス』とやらの開発と同時に行なっていたはずだが」


エルステッド中佐は、ンンッと少し喉を鳴らしてから再び口を開いた。

「はい、その件なのですが…

 少なくとも私の耳に入っている情報では、開発は中止されたのだとか」

「何だと?なぜだ?」


「ええ、あの”バイオメカノイド”に関する国内での研究開発は、

 もともとグルームレイク地下基地のジェイコブ技術分析部長が率いるチームで行われていました」

「ああ、あの問題児連中か」

「そうです。そして司令官もご存知の通り、

 例のグルームレイク基地での襲撃事件でジェイコブ部長が亡くなって

 チームも壊滅状態となって以来、その手の研究は中断してしまっているのです」


「ううむ…全くもって役に立たんな」

再び頭を抱えたように唸るレイノルズ大将だったが、

一度大きくため息をついてから顔を正面スクリーンに向け直した。




「仕方あるまい、ともかく今は全研究機関に命じて”バイオメカノイド”に関する資料を全て搔き集めろ!

 対策は統合参謀本部で行うから、掻き集めたデータは全てそちらに回すんだ、いいな!」

「はっ!!」


エルステッド中佐以下、周囲の士官が一斉に敬礼する中

レイノルズ大将は管制センターを後にし、統合参謀本部と繋がるTV会議システム室へと向かった。




- - - - - - - - - -




一方、竜司達が搭乗する『ゼロ2』及び配下の巨大ロボット5機は

会敵予想ポイントにあと少しで到着するところまで来ていた。




「竜司様=敵を光学でも確認しました=

 画面に投影します=」

「おう、頼んだ」


『ゼロ2』がコックピットの正面3Dスクリーンに、

その”バイオメカノイド”群の詳細な映像を投影させた。


「うっひゃあぁー、相変わらず中々に気持ち悪い面々が揃ってやがんなぁ」

竜司は”バイオメカノイド”を一瞥するなり、げんなりした顔で呟いた。


「敵の内訳ですが=

 ”卵球カプセル級”3割=”蜘蛛スパイダー級”2割=”人手スターフィッシュ級”2割=

 ”蝸牛スネイル級”1割5分=”大王烏賊クラーケン級”1割=その他です=」


『ゼロ2』が読み上げる”バイオメカノイド”の構成を聞いて、

竜司がある事に気付いた。


「あれ?なんか変だな。何だろう…この違和感は。

 …あっ、分かった!

 こいつら、宇宙戦に特化した構成になってるんだ!!」

 



『その通りよ、竜司』

と、そこへ明日香から通信が入った。


「ねーちゃん!

 何か分かったのか!?」

竜司が咳き込んだようにして訊くと、明日香は深刻な表情で頷いた。


『ええ…私も直前まで予知出来なかったけど、今ようやく視えたわ。

 敵は、私達が宇宙で戦っている間にナノマシン化した”バイオメカノイド”を

 月面全域に向かって散布するつもりよ!!』




「な、何だってぇ!?」

明日香からの衝撃的な言葉に、竜司は絶句する。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ!

 ”バイオメカノイド”はもうナノマシンを繰り出す事は

 止めたんじゃなかったのか!?」

竜司の言う事は尤もである。

実際、時空探査局と”ヤマトクニ”軍の共同調査研究チームは

そのような結論を下していたはずだ。


もしナノマシンを野放図に使用する事になれば、ナノマシンに”感染”した天体は

たちまち「グレイ・グー」と呼ばれる状態に全面的に覆われる事になり

その後にその天体を利用したくても、余りにも危険すぎて利用出来なくなる。


『ええ、恐らく敵もついさっきまではそのような判断をしていた筈よ。

 でも、月面での魔法陣起動を敵が察知してから

 方針を急に変えたようだわね』




「えっ…って事は、もしかして」


『竜司が想像する通りだと思うわ。

 つまり、月面の魔法陣と魔法装置群を、

 ナノマシンで月もろとも破壊するつもりよ!!』

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