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19-5  チームプレイ

「このルシュガルジャストゥ374-75859は211ヰヲ-563区画へ設置して頂戴、あとこの12バライ-90ジェテール散布用フェゲゲタパス45はジェディヴ9番へお願いね。

 あー忙しい忙しい!!」




サーミア達はさっそく、

所定の場所で月面魔法陣の起動準備に取り掛かっていた。


クルックスクレーターに埋まっていた古代魔法遺跡は、発掘の完了によってその全てが露出されていた。

それ以外でも、例えば隣にあるマッケーラクレーターや、やや遠方にあるディリクレ=ジャクソン盆地、さらに反対側の遠方にあるキーラー・ヘヴィサイド領域でも突貫でなりふり構わぬ発掘作業が行われ、その古代魔法遺跡の全貌が露わになりつつあった。




「ルシール特務長、第五区画のエルデルジャーファス-5-50装置据え付け用基盤の基礎土木工事がまだ完了しておりませんが、如何致しましょうか?」

「え?あ、あれー??

 さっきキロネ隊に工事を巻いてもらうようお願いしたつもりなんだけどなー」

サーミアは首を捻った。


「そう言えばエルデルジャーファス-5-50装置って、もう電源が入ってるんでしたわよね」

「ええ、内部の重力子発生装置のお陰で、既に250%以上の仮想重量が発生していまして、とりあえず今使っていないバラキス-ロタイザム8-8機械台車の頑丈な筐体上に乗せております」

「あらまぁ、それじゃ簡単に動かせないわねぇ。

 動かすとしたら、工事の終わった第五区画までその装置を乗せた機械台車ごと移動させないと、地面にめり込んでしまいますものねえ」


サーミアは少しばかり腕を組んで考える風にしてから、その副官へ声を掛けた。

「それじゃあラクシャターナ、

 ちょっとキロネ隊までお使いをお願い出来るかしら?」


「はい、承りました」

ラクシャターナと呼ばれた副官は、その横に長く伸びたエルフ風の耳を

ピクっと一度震わせつつ、満面の笑みで頷いた。




ラクシャターナはサーミアの元を離れ、

宇宙服の力場ごしにその亜麻色をした豊かな長髪を後ろに流しながら

浮遊移動板フライボードに乗ってキロネ隊の集まる陣地へと向かった。


ちなみにラクシャターナは、どちらかというとサーミアの輝くような空色の髪が綺麗だと思っているのだが、

同時にサーミアを(なぜか)深く信奉しているため、サーミアを真似して空色の髪に変更するつもりはない。




- - - - - - - - - -




「カロン特務長、ちょっと宜しいでしょうか」

「んんー?何だぁ!?

 オレは今忙しーんだけどさぁー!!」


ラクシャターナが声を掛けると、キロネが背中を向けて何か作業をしながら返事した。

どうやら、こちらでも土木工事の真っ最中らしく、

キロネによく似た、狐耳やウサギ耳や猫耳をした可愛らしい童子のような”トヨアシハラクニ”人たちが工事区画をぱたぱたと右往左往しながら駆けずり回っている。




「ルシール特務長からですが、

 第五区画はいつ頃に工事完了する予定でしょうか、との事です」


「ああぁああ!?何だってぇーーー!?」

と、キロネがようやくラクシャターナの方に振り向き、その愛嬌のある顔に青筋を目一杯立てながら吠え始めた。


「こっちはこっちでやる事が目一杯あるんだよぉ!!

 第五区画はあと30標準分後におっぱじめるから、それまで我慢しやがれぇーーー!!

 ってサーミアに言っといてくれぃ!」


「ですが、それだとエルデルジャーファス-5-50装置の据え付けが遅れます。

 そうなるとこのクルックスクレーターでの全魔法装置の起動試験が

 規定時間内に出来なくなってしまいますが」


「んな事言ったって無理なもんは無理だぁ!!

 第一、クレーターの地殻岩盤が想定以上に硬いんでぃ!

 掘削するのにもちっと時間が掛からぁ!!」

キロネは興奮してエセ江戸弁に拍車がかかってきたようだ。




「…分かりました。

 ルシール特務長に具申して、

 作業日程を一部省略出来るかどうか検討してみます」

「おぅ!!そうしてくれぃ!!」


「あと、もし作業工程を早められたなら

 後で地球日本のガリボリ君アイスを10本分奢ると

 ルシール特務長が申しておりました」


「…な、な、なにぃーーー!?」

急に顔面蒼白になったキロネが絶句する。


「あ、あのケチケチサーミアが…お、奢るだとぉ…!?

 しかもオレの大好物の、ガリボリ君アイスを…!?」


キロネは思わずラクシャターナに詰め寄った。

心なしか、彼女のピンと立てた猟狐耳もピクピクと震えている。

「も、もちろんソーダ味だけじゃなくて、洋ナシ味もだよな!?

 あと新作のメロン味もだよなぁっ!?」


「は、はい?

 た、多分そうだと思いますが…」

ラクシャターナはまだ地球日本に降り立った事は無いので、

ガリボリ君アイスがどういうものかを知らないのだが、とりあえず頷いておく。




「い、ぃよっしゃーーー!!

 それなら話は別だぁーー!!」


キロネは腕をブンと上に振り上げて快哉を叫ぶと、

それから横にいた彼女の副官に声を掛けた。


「おいピコル、ちょっと頼みごとしていーかな!?」

「はいカロン・キロネ特務長様!!」


ぴょんと飛び跳ねるようにして返事をしたピコルは

その猫耳をパタパタと動かした。




- - - - - - - - - -




今度はピコルが浮遊移動板フライボードに乗り、

シスケウナが詰めている仮設宇宙船発着場へと急いだ。


「はやくはやく~!

 急がないとカロン・キロネ特務長様に嫌われてしまうのです~!」


猫耳をパタパタとせわしなく動かしながら、

荒れた月面の発掘現場をすり抜けつつ浮遊移動板フライボードをすっ飛ばしたピコルは、

何とか時間内に、コロリョフクレーターに建設された仮設宇宙船発着場へと到着する事が出来た。




「タイカス特務長~、タイカス特務長はどこでしょうか~!?」


通信機のレンジを最大にして、

ピコルは宇宙船発着場をとことこと駆けずりながら

シスケウナを探し回った。


「ピコルかな。

 私はここ」


するとシスケウナが、

小型宇宙艇の陰からぬっと現れて、ピコルの方に手を振った。

どうやら、宇宙艇から貨物の積み下ろしをしているようだ。

「あっ、ようやく見つけたのです~!」


パタパタと小走りになりながら、ピコルはシスケウナの方に駆け寄った。

「どうもです~!

 ちょっとカロン・キロネ特務長様から言付けがありますのです!」

「ふむ、何だろうか」


「実はですね~、第五区画の作業を予定よりも早めに始めたいので、

 その為の掘削機械を余分にお貸し頂きたいのです~!」

小さい体をうんと大きく万歳させるように腕を広げながらピコルが言った。


「ふむ、第五区画用だね。

 であれば、バラキス-ロタイザム8-8機械台車に入っている掘削キットならどうだろうか」

「はい~!それで大丈夫です~!」

ピコルはぴょんぴょんと跳ねた。




「で…問題はそれが何処にあったか、だけど」

と、ここで少し考え込む風にして手を顎に当てたシスケウナだったが

そこで宇宙艇のタラップから降りてきた副官に声を掛けた。


「セファイサー、先ほどの62-アランバリアヴ商人組合ギルドの首長が言っていた

 備品ストックのリストを持っているか?」


セファイサーと呼ばれた、まるで妖精のように虹色の羽を背中に生やした女性が

シスケウナに頷き返した。

「はい、タイカス特務長。こちらにありますわ」


セファイサーの掌からリストのデータを自らの掌に転送させたシスケウナは

ペラペラと3D表示されたリストのページを捲っていたが、

ある所でその動きを止めた。


「ん、あった」

「ありましたか~!!」


ぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜ぶピコルに対して

「でも、ちょっと待って」と片手を上げて彼女を制した。




「うーん、これは…あれま」


珍しくも驚いたような表情になったシスケウナは、

タラップを再び登ろうとするセファイサーにもう一度声を掛けた。


「セファイサー、ちょっと良いだろうか?」

「あら、タイカス特務長。何でしょうか?」


シスケウナは、掌にあった3D表示のリストを見せながら言った。

「申し訳ないが、ちょっとサーミアの元まで連絡をお願い出来ないだろうか」


「あらあら、それはお急ぎの連絡ですのね?

 今度は300ポイント積み増しですわよ?」

「うむ、分かった。

 でも先日の4500ポイント分がまだ残っているから、

 そこから差っ引いて欲しい」

「了解しましたわ」


どうやら、商人国家である”ミズホクニ”の人間らしく

シスケウナとセファイサーの間で、何らかのポイントをやり取りしているようだ。


「それでは、行って参りますわ」


セファイサーは、宇宙服を突き破って生えているような虹色の4枚羽をパタパタと羽ばたかせると、

そのままフワッと飛び上がり、そのまま羽ばたかせてサーミア達のいる所に飛んで行った。




- - - - - - - - - -




パタパタと舞うように月面上空を飛ぶセファイサーは、

手を額にかざして地表の方を探していくと

程なくして、サーミア達が作業している区画を見つける事が出来た。


「なるほど、あちらにおられるのですね。

 あらあらまあまあ、ラクシャターナも居るではありませんか。

 では今日も、彼女を弄るとしましょうか」




何やら不穏な事を言いつつ、セファイサーはふわりと作業区画近くの月面上に降り立った。

そのままパタパタと羽を小刻みに震わせて浮遊しながらサーミア達の所に近寄っていく。


「ルシール特務長、ちょっと宜しいでしょうか?」


サーミアに声を掛けたセファイサーだったが、サーミアが反応するよりも前に

彼女の副官がいきなり立ち塞がった。


「セファイサー…!

 貴方、またちょっかいを出しに来たのですか!?」


ラクシャターナは、その白磁で造形したかの様な端正な顔を思い切り顰めながら

セファイサーに向かって叫んだ。


「あらあら、私がそんな失礼な事をするわけがありませんわ。

 それこそ失礼ではありませんかねぇ」

「何を言いますか!

 貴方はこの前も、『イヴァウト-86』の宇宙港で私達の作業を妨害したではないですか!!」

「そこは貴方達ではなく、”貴方”の妨害ですわよ?ふふふ」

「な、何ですってぇ!?」


「ま、まぁまぁ、二人とも落ち着いて…」

ラクシャターナとセファイサーの言い争いに、

サーミアは竜司達には見せた事も無いようなげんなりした顔で取り成そうとした。

とは言え、この二人が言い争うのはいつもの事であり珍しくも無い。




「それよりもセファイサー、何か私に用があるのではないですか?」


サーミアの質問にセファイサーが頷いた。

「はい、実はですね。

 こちらの区画まで62-アランバリアヴ商人組合ギルドの船が降ろした荷物の中に、

 バラキス-ロタイザム8-8機械台車が1セット分、

 紛れ込んでいると思うのですが」


「ん~、ん?あ、ああ!!」

と、しばらく何かを思い出そうとしたサーミアが

ぽんと手を叩いた。


「はいはい、あれねアレ!

 確かに、ダジャニデフシュルート-7728技法の遷移展開用グランドエナジーファンネルやエレガヴァイプト45共同修練チューブ類やカランサファイダゲケイリ-ラランドアパランシャラクトロレスやドシャブカラテク事業体謹製の機械装置ガーガーダイムトゥ系統のハイパートランスマニホールド11-2983の中に紛れて、バラキス-ロタイザム8-8機械台車である品番749-4785-00011が混ざっていたので、どうしたものかしら、と思っていたのだけれど」


サーミアらしい怒涛のような専門用語の羅列に、セファイサーは毎度の事ながら面食らう。

しかし隣で控えているラクシャターナは涼しい顔で、サーミアの掌に3Dのデータファイルを転送させた。


「そうそう、これね。

 62-アランバリアヴ商人組合ギルドに突っ返そうとも思ったのだけれど

 ひょっとしたら何かに使えるかもしれないし、と思ってとりあえずあそこのエリアに置いてあるのよね」

そう言ってサーミアは、斜め向かいの方角を指差した。




「やっぱりそちらにありましたか」

ほっと溜息をつくセファイサーに、ラクシャターナが鋭い目を向けた。


「あぁなるほど、結局は貴方のミスじゃありませんか?

 こちらは機械台車を移動させたり保存管理するだけで大変面倒な思いをしたのですわよ」

勝ち誇ったように腕を組んで言い放つラクシャターナに、今度はセファイサーがぐぬぬと唸った。


「何を意味不明な事をおっしゃるのでしょうねぇ?

 ミスをしたのは62-アランバリアヴ商人組合ギルドの方々であって

 私達は被害者に過ぎないのですわよ?

 それに、一度受け取ったものを管理するのは貴方の仕事でしょうに。

 そんな程度の事でもいちいち苦労しなきゃいけないなんて、

 ルシール特務長の副官殿はさぞや非力なのか無能なのか

 一体どちらなのでしょうねぇ!?」


「な、何ですってぇ!?」

「何よ!?」


二人が向かい合ってぐぬぬぬと睨み合い始めたので、

またもサーミアは珍しく青ざめた顔で二人を引き離そうとした。

「ま、まーまー落ち着いて二人とも…

 とりあえず、セファイサーの方でこの機械台車を引き取ってもらえると言う事かしら?」


「ええ、ぜひそうさせて下さいませ」

「それなら、お願いしますね」

「はい、ルシール特務長」


セファイサーは、サーミアに向かって

カーテシーのような優雅なお辞儀をしながら了承した。




「ところで…この機械台車の上に積んである機械は何でしょうか?」

「ああそれね、エルデルジャーファス-5-50装置よ。

 中の重力子発生装置のお陰でとても重くなってて地面にめり込んでしまうから、

 とりあえず機械台車の上に置かせてあるの。

 でも第五区画の基礎土木工事が終わらないと、それを運ぶ事が出来ないし

 第五区画の工事が終わるまで待ってもらえるかしら?」


「あれ…?」「?」「!?」


三人の頭に、一斉に?マークが浮かんだ。




- - - - - - - - - -




このように色々な紆余曲折はあったものの、

サーミア・キロネ・シスケウナの3チームによる円滑な?チームプレイによって

月面に無数に散らばったような魔法装置の起動実験も終了し、

何とか所定の時間内に月面魔法陣の全面的な励起準備を済ませる事が出来た。




『準備最終段階に移行します。

 関係各員は、担当部署の工程が完了した事を確認し次第、

 所属長へ報告して下さい。

 所属長は、それを以って共同スケジューラーにチェックを入れ、

 その後は所属員の点呼確認を行って下さい。

 繰り返します…』


サイレンと共に、関係各員へ通知する放送が発掘領域全域に向かって行われた。

それと同時に、月面上で作業していた全職員が

バタバタと所定の場所へ戻っていく。




そんな中、この古代魔法遺跡の再起動作戦統括を任じられたサーミアは

クルックスクレーターにある古代魔法遺跡の脇に、

ひときわ高く築かれたピラミッドのような管制台へ登り、

頂上にある祭壇のようなコンソールフロアで陣頭指揮を執っていた。


その横では、キロネやシスケウナも待機している。


「よしよし、全魔法装置の起動スケジュール完了、って事で

 いよいよ本番を開始しましょうかねぇ」


サーミアが、指の骨をボキボキと鳴らしながら

全魔法装置の起動統率用コンソールに向かった。




「それではぁ……

 はいっ、スタートぉ!!」


まるで興奮したピアニストが、激しめな軍楽曲を演奏するようにして

その美しく細い指を思い切りコンソールに叩きつけた。

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