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19-4  月面遺跡

「それにしても、なんかこんなに艦艇が集まってて凄い事になってるなぁ」




竜司が、改めて周りを見回しながら言った。

既にこのコロリョフクレーターには、1000隻近い艦艇が着陸していて

一部では、地表を固めて宇宙港のように発着しやすくする為の基礎工事も始まっていた。


「ええ、この月面に集結しているのは大体が”ヤマトクニ”天体軍だわね。

 あっちは防空戦隊、向こうのは天体工作部隊の重機群ね」

明日香があちこち指を差しながら説明する。


「はぇー、でもこんなに派手な活動をしてて、

 例の”機関”とかに見つかったりしないんだろうか?」

「ええ、その点は大丈夫よ。

 ”機関”や各国の宇宙軍が保有している電磁波系・ミューオン系の各種レーダーには反応しないように、このコロリョフクレーター全体をステルス状態にしているからね。

 もちろん可視光線でも見えないようになってるわ」


そう言われて空を見上げると、クレーターを完全に覆うように

うっすらとバリヤーのようなものが張り巡らされているようにも見える。


「この近くに、”機関”の秘密基地とか無いんだっけ?」

「そうね、確かこの月の裏側には、主にツィオルコフスキークレーターやモスクワの海、あとはエイトケン盆地に古代遺跡を利用した”機関”の月面基地があるはずよ。

 あとは、このコロリョフクレーターからかなり近いところにあるダイダロスクレーターにも同じく古代遺跡をそのまま使った異星人エイリアンの基地があるみたいね。

 まぁ、こちらからの偵察に対する反応は薄いから、居たとしても大した人数では無いでしょうけど」


「へぇ…」と竜司が何となく聞き流そうとしたが、

明日香の話に引っかかるワードがある事に気づいた。


「え?古代遺跡!?

 月面に、古代遺跡があるのかよ!?」


「ええ、もちろんよ。

 だいたい『須佐ノ男』号だって、私が発見した時は休眠状態になっていて古代遺跡みたいなものだったのよ。

 それ以外にも、この月には数多くの古代遺跡が眠っているわ」




衝撃的な事実を聞かされて、竜司は目を丸くする。

「マジかよ…

 でも、それじゃあ一体何年前の遺跡なんだろ?」

とまで訊いてから、竜司は以前にオクウミから聞かされていた話を思い出した。


「あー、そう言えば確か、

 1万年くらい前に超古代文明が実在したんだっけ…?

 って事は、この月面の遺跡も同じ頃なのかな?」


「ご名答よ、竜司。

 ここにある遺跡の多くも、今から約1万2千年前に滅んだ地球の超古代文明によって建造されたものなの」


「Oh!!ネオ・アトラン!」

東雲が調子に乗って叫ぶ。

「そうよ、アトランチスの遺産と言っていいわね」

「いや東雲黙れって…え!?マジで?」


東雲のパロディめいた言葉を肯定した明日香に、またも竜司は目を丸くした。

「じゃ、本当にアトランチス文明がココにまで来てたって事!?」

「もちろん、アトランチスだけでなくムー文明の人々も月面に来ていたそうよ」


「って事は、当時はこの月面に基地とか都市とかあったのか…すげえなぁ」

「それだけじゃ無いわ。

 ここには、当時の太陽系を防衛するための軍事拠点もあったの。

 そして、当時の人々はいわゆる”超能力”や”魔術”を行使する事が出来た…」


「む、その話もオクウミさんから聞いた事がありますな。

 確か、超能力を持たない異星人の”レプティリアン”種族による裏工作によって超古代文明は分裂させられ、滅ぼされたとか」

東雲が、急に居住まいを正しつつ思い出した事を言った。


「その通りよ、東雲くん。

 当時は”レプティリアン”を始めとする異星人達に対抗するためにこの月面に防衛陣を張ったの。

 超古代文明内の内部分裂によって、結局は役に立たなかったけど。

 でももしそれが起動していたら、”レプティリアン”達は全く対抗出来ずに敗退していたでしょうね。

 何しろそれは、いわゆる”魔力マギカ”を使った一種の”魔法装置”だったのだから」




「ま、魔法!?装置ぃ!?」

竜司と東雲は、またも目を剥かんばかりにして驚いた。


「ええ、そうよ」

明日香はニッコリと微笑みながら、ある方向を指差した。


「あっちにその”魔法装置”のコアが眠っているの。

 今私達は、これからその装置を発掘して再起動を掛けようとしているわ。

 魔法装置が起動させる事が出来れば、連鎖的に月全体を網羅する巨大な”魔法陣”が形作られるでしょうね」




「そ、そうなったら、どうなるんだ?」

「ええ、もし成功したら、

 地球圏をすっぽり覆い尽くす程の”防御結界”を発生させる事ができるわ」

 



- - - - - - - - - -




「おぉ…これが月面遺跡ってヤツかよ!!」




竜司は、自機であるロボット『ゼロ2』に搭乗して

東雲機と共に、月面上空を飛行していた。


コロリョフクレーターの中心から南西方向へと進むと、

他の数多ある小クレーターの中にやや大きめなクレーターが存在する。

これがクルックスクレーターで、周壁部のアルベドが高いので一際明るく見え、

また外周部には微かに光条が存在する。


しかし、ここには一見して月面遺跡がありそうには見えず、

現にアポロ宇宙船その他による公式の探査、また”機関”による極秘探査でも

如何なる人工的な痕跡は発見出来なかった。


だがそれも地表から数十mまでの話であり

さらに地下深くまで掘り進めていくと、遺跡のある層まで辿り着く。

恐らく何らかの理由で、遺跡の上に堆積物が降り積もったか

もしくは意図的に埋められたかのいずれかだろうと思われた。


「恐らく、超古代文明の人々は外敵から魔法装置を守るために、わざとこうして埋め戻して隠したのでしょうね」

明日香は『須佐ノ男』号に搭乗して竜司・東雲機と一緒に飛び、遺跡を案内しながら言った。


もともとは明日香と『須佐ノ男』号の間に”契約”を結んでいるので、

『須佐ノ男』号は明日香の事を「司令官」と呼び、他の16機の”眷属”部下ロボットともども指揮系統の最上位に据えている。

ちなみに先程までは竜司の事を「臨時司令官」と言っていたのだが

今ではただの「竜司様」である。




クルックスクレーターの中は、既に”ヤマトクニ”軍の天体工作部隊によって

瞬く間に掘り返され、人工的な遺構が露出していた。

しかも、遺跡の一部はまだ生きているのか、もしくは覚醒途上にあるのか

そこかしこに様々な色の光が、まるで波打つように灯りつつある。


竜司達は、ロボットを遺跡のすぐそばに軟着陸させると

自分達も地表に降り立った。


「おおっ、すげー、何かTVで見た砂漠にある古代遺跡みてーだ!!」

「しかもまるで蛍のようにあちこちが仄かに光っているぞ」

竜司も東雲も、まるで博物館の恐竜を見に来た子供のようにはしゃいだ。


それもそのはずで、遺跡の要所要所に巨大生物の化石らしきものが組み上げられて配置されており、

しかもその化石はどういう原理か、いわゆる宝石化して内側から光り輝いているのだ。

また、それ以外にも機械とも工芸品とも判別が付き難い複雑な構造物が遺跡の各所に据え付けられていた。

それらには化石とは異なる巨大な宝石や水晶のような部品も装飾品のように組み込まれているようだ。


竜司は子供の頃に、

博物館でこうした宝石化したアンモナイトを見た事があるのだが、

このように大規模な宝石化した化石を見るのはもちろん初めてである。

そうした化石が矩形に区切られた遺構のあちこちに置かれてある様相は、

本当に屋外博物館のような雰囲気を醸し出していた。


「何で、こんな不思議な化石があちこちに置かれてるんだ?」

「それはもちろん魔法装置の一部だからよ。

 もっと具体的に言うと、この遺跡全体が一種の電子回路みたいなものなの。

 それをスケールを大きくして、魔力マギカが電気の代わりに流れるシステムね」


「つまり、”魔術回路”っつーわけか!?」

「まさにそうね。

 聞くところによると、こうした宝石化した化石は魔力子マギクスを貯めたり増幅させたりするのに最適な媒体という事らしいわ。

 遺跡全体が電子回路に例えるなら、この化石類はコンデンサーや抵抗器やトランジスタといった所かしら」


竜司は感心しながら、宝石となって光り輝く化石の辺りを見回した。

「こりゃー、見て回るだけで楽しくなってくるなぁ。

 …あれ?」


竜司が、遺跡の遠くまで見通そうとした時

遺跡の反対側辺りから、大きく手を振りながら歩み寄ってくる3人の姿が見えた。




「あっ、あれは!?

 サーミアさんにキロネさん、シスケウナさん!?」




- - - - - - - - - -




「赤羽さん!東雲さん!!お久しゅうございますわ!!

 おお、何と素晴らしい再会にございましょうか!!」

サーミアが大げさな口調で挨拶した。


「久しぶりーー!!」

キロネは威勢良く手をブンブンと振る。

「どうも」

二人に対して、シスケウナは相変わらず控えめな感情で頷くような会釈をした。


「をおお!!

 お久しぶりであります!サーミア殿!キロネ殿!シスケウナ殿!!」

東雲は竜司よりも前に躍り出て三人の元に駆け寄り、

同じくバァッと駆け寄って来たサーミアと両手をがっしり握り合った。


「おおおおおおぉ!!!」「おほほほほほぉお!!!」


二人して、はたから見るとまるで気が狂ったかのような奇声を上げながら

延々と握り合った手をブンブンと振りまくっている。

まるで仲の良い犬同士が、散歩の途中で偶然出会って

飼い主の言う事も聞かずに抱きつき合って興奮しまくってるような感じだ。


「まぁったく大げさなんだよなぁ…

 ども、お久し振りっす」


ぺこりと頭を下げた竜司に、まずキロネが声を掛けた。

「よっ!久しぶりじゃねーか!元気かぁ!?

 こんな所で出会うなんて土偶だなぁ!」

「それを言うなら奇遇だと思うんですが…

 まぁぼちぼちやってます」

「そっかーよしよし!」


キロネは背が低いのだが、

それでも背伸びをしてまで竜司の肩を叩こうとするので

仕方なく少し腰を屈ませて彼女に肩を叩かせた。


「どうも、2ヶ月ぶり…かな」

「あーそうっすねシスケウナさん、

 多分俺達が『イヴァウト-86』へ初めて行った時以来ですかね?」

「うん」「…」

相変わらず彼女の表情を読み取るのが難しいので、なかなか会話が続かない。




それぞれが挨拶を済ませた所で、

明日香が状況を説明し始めた。


「ええと、この古代遺跡を発掘し、かつその魔法装置を起動させるために

 今回はこの御三方に急遽来て頂き、お手伝いしてもらっている次第なんです」


「はい、それはもう今回は古代魔法遺跡の再起動という事ですので、

 技術的に難解なポイントを抑えるためにまずはティティリシャー197分類の内の64項目であるダジャニデフシュルート-7728技法やペンネチカランジ45-91特殊収斂法を駆使しまして、更にはバーコブホロシアスウ法という基本技術の応用として今回編み出した12バライ-90ジェテール散布術や、ドシャブカラテク事業体謹製の機械装置ガーガーダイムトゥ系統のハイパートランスマニホールドを転用したアラバシテレンプトロンgグェ!」


隣にいたキロネが小脇を思い切り小突いたので、サーミアの長広舌がようやく止まった。

「ったく!なーにやってんでぇ、

 久し振りに会ったからはしゃぐのも分かるけどよぉ!」

キロネも相変わらず、べらんめぇ口調のようだ。


「まぁサーミアがやってる事は、

 皆もうだいたい分かってるんじゃねーかと思うけどな。

 そんでオレは、この辺りの地殻土壌レゴリスの変性や再加工を担当してるんでぇ!」

キロネが親指を立てて自身の方にグッと向け、同時に自身の猟狐耳をぴこぴこと震わせた。

しかし、本人が猛々しいと思っているフシのある動作は

実際にはたから見てると、背伸びをする子供のようでとても可愛らしい。


「私は、キロネやサーミアのチーム、それに”ヤマトクニ”天体軍が必要としている希少物資を、”ミズホクニ”の商人組合ギルドから入手する仲介をしてる」

シスケウナがボソッと呟くように言った。

相変わらず表情に乏しく声も抑揚がないので、これで仕事になるのだろうかと思うのだが、

これでもシスケウナの通商業務における技量は相当なもののようだ(とオクウミが言っていた)




「それじゃあ、俺達はって言うと…」

竜司は、旅行を始めてからここまでの経過をかいつまんで三人に話した。


「おおお、何とも大変な道のりを乗り越えていらっしゃったのですね!」

サーミアが相変わらず、泣き真似をしながら大げさな感想を述べる。


「まっ、これも人生経験っつーこった」

「苦労するほどに後々それが生きる」

他の二人も、まるで人生の先輩のような事を言い出した。


「ははは…まあ大して泣くような話でも何でもないと思うんですけど」

頭を掻きながら竜司は苦笑した。




「そういえば竜司、貴方はあれから実家には帰ったの?

 東雲くんも」

「あ、いや、そう言えばまだ…」

「ウチもですね」

明日香の疑問に、二人はそう答えた。


「あら、じゃあ後で連絡くらいはしておいた方が良いんじゃない?

 由佳子おばさまも、春乃ちゃんも沙結ちゃんも心配してるんじゃないかしら」

「あー、そうだなぁ。

 出撃する前に、一度連絡くらい入れるかぁ」


「ウチは超放任主義なので!モーマンタイです!!」

東雲が拳をグッと掲げて自信満々に叫んだ。

「お、おぅ…まぁそれでも適当な時に連絡してやれよ」




「ルシール特務長、準備が終わりました」


ここでサーミアの副官らしき女性が現れて、彼女へ話しかけた。

その緩やかなローブ状宇宙服を纏った凛々しい姿からして、サーミアと同じ”アラヤシマノクニ”の氏族らしい。

サーミアの名字であるルシールと呼ぶあたり、それなりに上下関係を窺わせる。


「あら、もうかしら?それじゃ、そろそろ始めましょうかしらね。

 皆さん、申し訳ないですがここで仕事に掛からねばなりませんので」

と、サーミアは意外にも軽く会釈しただけで、そのまま副官と一緒に遺跡の方へ行ってしまった。


「おぅ!まぁあまり変に凝った事しなくていいから普通に仕事しろよーー!!」

とキロネが大きく手を振っているところへ、今度はキロネの副官らしき人物が

キロネの和服風宇宙服の裾をくいくいっと引っ張りながら話しかけた。


「カロン・キロネ特務長様、私共の準備が整いました。よろしくお願いします〜」

「おっ、そーか」

やはりキロネと同郷の”トヨアシハラクニ”出身らしく、猫耳をした小さな女の子だ。


「ほんじゃオレも、ちょっくら行ってくらー!!」

ブンブンを手を振りながら去っていくキロネを見送るシスケウナにも、やはり副官のような人物が声を掛けた。


「タイカス特務長。62-アランバリアヴ商人組合ギルドの代表がお会いしたいと」

「ん。分かった」

シスケウナの名字であるタイカスで呼んだ副官は、背中の4枚羽を羽ばたかせているせいか地面から少し浮いている。


その虹色の羽を生やした妖精フェアリーのような”ミズホクニ”人女性の副官に連れられて去っていく所は、

シスケウナの見た目が木精霊ドライアド風である事も相まって、

まるでファンタジー映画のワンシーンのように映った。




「ははっ、三人とも本当に特務長っつーか、上司やってんだなぁ」

三者三様の去り際を見送った竜司達は、明日香の方に振り向いた。

「んじゃ、俺達はどーする?」


「ええ、もちろん私達も、そろそろ準備に掛かりましょうか」

明日香の言葉に、竜司と東雲も頷いた。

「ああ!」「うっす!」




「月には、古代魔法遺跡だけでなく、現代の地球人達による基地も数多くあるわ。

 万一にも”バイオメカノイド”からの流れ弾による被害を受けないように

 私達で絶対に月を守り抜くわよ!!」

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