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19-1  増援部隊

「くっそっ!!

 次から次へと…全くキリが無いもんだ!!」




第55-12地表作戦部隊・オールト雲方面師団司令官である

アラフバル少将は、真っ白い氷原の上で炸裂する無数の光点を

要塞司令部の窓越しに双眼鏡で凝視しながら、

浅黒い肌に映える白い歯をむき出しにして悪態を吐いた。


オールト雲方面師団は、その名の通り

太陽系外縁のオールト雲内における天体の防衛を担う

”ヤマトクニ”天体軍の一部隊であり、

その仮設司令部を、名も無き準惑星に置いて布陣していた。


その準惑星は地球からは65AU(天文単位)ほど離れた太陽系外縁部にあり

平均気温が-220℃以下という極寒の世界である。

当然、太陽光など殆ど届かず、昼間であっても夜と同じく星空が拝める。

しかし今に限っては、その空に舞うのは星ではなく

それよりはるかにおぞましい”バイオメカノイド”の軍勢と

それを迎撃する友軍の機動戦隊であり

最初の会敵から既に24時間近く経つが、今も激しい戦闘が繰り広げられている。


何しろ敵は、まるでこの準惑星に布陣する”ヤマトクニ”軍を弄ぶかのように

断続的な波状攻撃を繰り出してくるのだ。

しかも敵は、まるで疲労するような様子も伺えない。

それに対して”ヤマトクニ”軍は、補給面では何とか持ちこたえているが

間断ない敵の攻勢に、疲れと士気の低下が顕在化しつつあるのだ。


しかし、この準惑星における戦線が破られると

次はもう地球からせいぜい40~50AUほどの距離にある

カイパーベルト=海王星軌道領域まで後退しなければならず

そうなると、次は太陽系の主要天体上に戦域を設定せねばならなくなるだろう。

”起源世界線”をなるべく歴史改変なしに保護するという命題から言えば

その様な事態は極力避けねばならなかった。




「ううむ、もはやどうにもならんか…」


しかし、アラフバル少将が呟く通り

今や戦況は悪化の一途を辿りつつあった。

何しろ、先の会戦でシルヴィオス中将が敵の策略に

まんまと乗せられてしまったように、

少将もまた同じミスを犯してしまったのだ。


ナノレベルの”バイオメカノイド”は、

大型の通常正規兵器とはことごとく相性が悪い。

当然ながら、地表作戦部隊にも専門の電子戦隊が存在する。

レベルで言えば時空探査局のサーミアあたりの技術力を持った将兵が

手を替え品を替えて多彩な電子攻撃を仕掛けてくる”バイオメカノイド”に

四苦八苦しながら対抗していた。


だが、いかんせん場当たり的な対抗策では

組織的かつ圧倒的な物量で押し寄せる敵に立ち向かうのは非常に困難だった。

しかし、例の標準汎用グレードは使えない事がここでも判明している。

だからと言って、技術将兵による手作業の対抗ではもはや限界があった。


ちなみに、戦闘機や戦闘ロボットを含めた通常正規兵器は遠隔で操られていて

電子戦隊を含めた生身の将兵は基本的に要塞内に詰めている。




「ここに”魔力戦”部隊か、”超能力戦”部隊がいれば多少はマシになるんだが…」

アラフバル少将は再びひとりごちた。


「申し訳ありませんがアラフバル司令、

 両部隊は現在、L3の総司令部にて最終地球防衛ラインの構築準備中でして…」

「ふん、まぁ仕方ない。

 そもそも、今回の作戦にはあまり多く派兵させるつもりは無かったんだからな」




この魔力戦部隊というのは、

いわゆるファンタジー世界における”魔術”とは少し異なる。


実はこの宇宙には、”魔力マギカ”と呼ばれる、21世紀地球においてはまだ未解明で認知されていない”第7番目の力”が存在する。

この”魔力マギカ”は何もない真空や物質内に普遍的に存在するのだが、通常は自然に励起する事はほとんど無い。

しかし人間や生物の意識とは明確に相互作用をもたらし、時空上の量子意識ダイナミクスが変位する事によって”魔力子マギクス”が通常空間に励起し、電磁場のような”場”を形成するようになる。


(ちなみに”日系人類銀河帝国”の基礎物理学においては、重力・電磁気力・弱い力・強い力という21世紀地球で知られている4つの力以外に、さらに”斥力”・”反相互力”・”時空維持力”・”魔力”・”意識場力”という5つの力が知られている)


そしてこの励起された魔力を用いると、いわゆる”魔術”を行使する事が可能になるのだが、通常において魔力単体では具体的な”魔術”を発現出来ない。

”帝国”においては、魔力を扱いやすい様々な機能へと変換する為の道具や装置が必要になってくる。

そして、そうした専門の道具や装置を用いて魔力を発揮する”魔力技術者”による専門の部隊が、魔力戦部隊というわけだった。




超能力戦部隊は、

いわゆる21世紀地球でもおなじみの”超能力”を用いる部隊の事である。

魔力戦部隊とは異なり、道具を一切必要とせずに人間の”意識場力”(第8番目の力)のみを用いて、それによって発現される様々な超能力を行使する事が可能だ。


意識場というのは、万物にそれぞれレベルの異なる意識や経験が存在するという”汎意識理論”の、核心となる意識の最小単位”意識子”が生み出す”フィールド”の事で、その”意識場”がパワーを発生し、電磁波や重力波のように波となって空間を伝わっていく。

こうした”意識場力”は、意識(精神)の必須属性であり、それを増幅させると超能力といった力の源となるのである。


もともと”帝国”ひいては”宇宙日本人類文明体”に所属する人類は、程度の差はあれど顕在的な超能力を保有している。

当然、21世紀地球における人類も同様の資質を持っているわけだが、”目覚め”のトリガーなくしてはそもそも発現すら出来ない。


従って専門の教育と訓練を施されなければ、その超能力を十分的確かつ恒常的に発揮出来ず、そのために”帝国”内においても超能力を行使出来るのは専門教育課程を修めた専門技術者という事になる。


そして大統一理論から導かれる物理学的・精神工学的見地から、”魔力”と”意識場力”は相互作用する事が明らかにされており、例えるなら”重力”と”電磁気力”の相互作用や、”弱い力”と”強い力”との相互作用のように一般的な現象であると見做されている。

従って、魔力技術者と超能力技術者は兼務となるのが一般的で、軍事的にもセットで扱われる事が多い。




アラフバル少将達が今さらながらにして思ったのは、

もし魔力戦部隊や超能力線部隊がこの戦線に投入されていれば、

いわゆる電子機械の天敵と言える”バイオメカノイド”に対しては

有効な手札となったのではないかという事だった。


魔術による”場”を形成すれば、”雲”となって侵食しようとする

ナノサイズの”バイオメカノイド”の駆除も可能だろうし

それは超能力であっても同様であろう。


しかし、今回はその魔力戦部隊・超能力戦部隊は共に、

本作戦の派遣任務部隊全体の規模から言えば少数しか動員されていなかった。

それも現時点では、通信や回復などの

後方支援業務にしか携わっていない状況である。


何しろ今回の作戦計画では、

例の標準汎用グレードを核として戦略・戦術が練られていたのであり

こうした状況は正に想定外と言うべきだろう。




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




「アラフバル司令!要塞の一部に敵が侵入しました!!

 現在ヤ-124からユ-772までの区画で戦闘が発生しています!!」

通信士官の一人が叫んだ。




「何っ!?

 くそっ、守衛部隊は何をやっているんだ…!

 直ちに各区画に向けて支援部隊を送れ!!

 それと、レ-011からヲ-429までの区画を予め閉鎖しておけ!!」

「はっ!!」

司令官であるアラフバル少将の命令に従って

要塞司令部に詰めている通信士官が、各区画への指令を次々に発した。


この要塞司令部は、この準惑星において最も標高の高い成層火山コニーデ状地形の頂上にあり、この氷とドライアイスが主成分の山を穴だらけにしてまで突貫で建造した巨大要塞の中枢と言えた。

その気になれば、それこそ何十年でも籠城する事が出来るほどの設備を擁しているのだが、建造からたった数日で、もうその機能に限界が来つつあった。


しかしそもそも、この要塞は”ヤマトクニ”天体軍が急拵えで造ったものなので、兵員数も設備もそんなに充実している訳ではない。

本来の目的は、”バイオメカノイド”のみならず”起源世界線”の地球を狙う外宇宙勢力への監視と示威活動がメインのはずであり、対”バイオメカノイド”戦が終わり次第、要塞施設の拡充工事を行う予定だった。


しかし、今回は予想外に”バイオメカノイド”が強かった為に、仮設要塞の華奢さが裏目に出てしまった格好である。




「くそぅ、もうこれまでか…?」

アラフバル少将は、何度も空間地図に投影した周囲の戦況を確認しつつ

小手先の戦術作戦を弄して、

この準惑星及びその近傍宙域を何とか維持しようとしたが

時間が経つにつれ、どんどん悪化する状況に

最終決断を迫られつつあった。


「アラフバル司令、周辺宙域の過半が敵の手に落ちました。

 もはやどうにもなりません…」

「むぅ…」


少将は、しばらく瞑目すると

ややあって重い口をようやく開いた。


「よし…オールト雲方面師団の全将兵に告ぐ。

 直ちに撤退準備を開始せよ。

 撤退後は、海王星付近のカイパーベルト天体に再布陣する」

「はっ!!」




司令官の指令によって、

要塞司令部及び要塞全体がさらに慌ただしく動き始めた。

撤退準備として、戦線を縮小して一旦要塞内に引き上げながら

脱出作戦の検討に移った。

基本的には、敵の主力を囮部隊によって他方へ引きつけつつ

主力部隊を急いで脱出させるというものだ。


「ふぅむ、現在残存している兵力だけでは囮部隊の編成が心許ないな…」

「それについてですが司令官、

 次にやってくる緊急増援部隊がアテに出来そうです」

「ほう、それは確かなのか?」

「はい、しかもその増援部隊の中に”特殊小隊”を組み込んでいるとの事で…」


「何だね、その”特殊小隊”というのは?」

「それが…総司令部へ問い合わせしても返事が無くて…」

「ふん、まぁいい。

 使えるものなら何だって使ってやる。

 とにかく撤退準備だけはしっかりしておけば問題ないだろう」

半ば諦めたような表情でアラフバル少将が笑った。




「来ました!!緊急増援部隊です!!」

士官の報告を聞いた少将は、すぐに要塞窓の方へ駆け寄って

肉眼でその部隊の到着を確認しようと双眼鏡を目にあてがった。


「おっ、あれかな…?」


少将が目にした双眼鏡内の視界には、広漠たる氷原が映し出されていたが

その空の一点がまばゆく光り始め、

更にそこから放射状にビームが次々に放たれて

周囲にいた数多くの”バイオメカノイド”を次々に屠っていくのが見えた。


「…!?

 ぬ、何だあの戦闘機械は…!?」


その光点の中心を凝視していると、

巨大なロボットのような姿が空中に現れた。

しかもそれは10体以上も居て、編隊を組んで飛行している。


だが、そのロボットの形状は

”ヤマトクニ”天体軍が現在運用している兵器の

いずれにも該当しない型式のようだった。

ただ、非常に大きいようで

双眼鏡の測定ではそれぞれが全高数百m以上ありそうだ。


「おっっ!?

 今、何の兵器を使ったのだ!?」


少将が叫ぶ。

なぜなら、その編隊の中心に居た巨大ロボットが

手を振るような奇妙な動きを示した途端に

ロボットを攻撃しようと周囲に集まって来つつあった”バイオメカノイド”が

急にまるで内部から空気でも入れられたかのように

次々と破裂し、爆散していったからだ。


また、その隣にいた別のロボットは

自身の手から自在に火の玉を生み出し、それを周囲に投げつけると

火の玉に当たった”バイオメカノイド”は次々に炎に包まれ、焼かれていく。


いずれも少将がかつて見た事のない兵器であり、

強いて言えば魔力戦部隊に所属する兵士が繰り出す魔術に似ているが

巨大ロボットがそれを繰り出すという点でだいぶ異なる。


ともかく、その巨大ロボット編隊によって

少なくとも要塞上空にハエのように沸いていた”バイオメカノイド”群が

あっという間に全て撃墜させられていたのである。




「あー、えーと、これで合ってるのかな?

 …こちら、時空探査局から派遣された”特殊小隊”です。

 要塞側の受け入れを願います」


若い男性の声が、要塞司令部の通信チャンネルに飛び込んで来た。




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




「なるほど…君達が例の地球日本人か」




アラフバル少将が要塞司令部の中に入って来た二人の若者を前にして、

顎をさすりながら品定めをするようにして言った。


「あっはい!

 えーと、自分は赤羽竜司って言います!

 時空探査局からこっちに派遣されて来ました!」

「同じく!東雲純一郎であります!!」


二人とも直立不動の姿勢で、

まず少将に対してシアラ仕込みの(といっても付け焼き刃程度であるが)

”ヤマトクニ”軍制式の敬礼を行ってから

かなりしゃちほこばりながらもそれぞれが名乗った。


「ああ、そんなに固くなる事は無いぞ。

 君達が民間人である事は、先ほど報告を受けたから知っている」

少将は、傍に居る士官から情報ファイルを自身の掌に転送して

それを閲覧しながら頷いた。


「は、はい、そうですか」

竜司達は、やや体を緩めながらも緊張はしたままだ。


「それで、君達があの大型ロボットを操縦して

 地球からここまで来たという事だね?」

「は、はい!そうです!」


少将が指差す先に要塞窓があり、

そこから巨大ロボットの顔が覗いていた。

竜司と東雲の乗機であるロボットは

丁度その要塞司令部の脇である山腹斜面へ腰掛けるようにして待機していて、

他のロボット達は要塞そのものを守護するように

ぐるっと取り囲みながら立っていた。

さらにその外側には、正規の緊急増援部隊が着陸して布陣を開始している。




「君達以外には、ロボットの操縦士は居ないのかね?」

「あ、えーとですね、

 本当はロボットの司令官にあたる人がいるんですけど、

 その人、えーと実は自分のいとこなんですけど、

 ちょっと病気がちで、今回もまだ宇宙での機動飛行に参加出来ないとかで

 『イヴァウト-86』の本部で待機してもらってるんです。

 その代わりと言っちゃあ何ですけど、

 ロボットの『須佐之男』号が司令官代理となって、

 俺達の操縦する機体以外のロボット眷属を率いてもらってるんです」


「ほう、そうか。なるほどな」

「あっ、あとですね、

 実は俺達二人以外に、能力も持っていてロボットを操縦出来る奴が

 あと二人ほど居るんですけど、

 そいつらは今、別件で今は他の星に行っちゃってるんです。

 まぁあと1日したら、戻ってくる予定なんすけどね」

竜司は無意識に頭を掻きながらそう言った。


「コホン!」

とアラフバル少将が突然咳払いをすると、

二人がビクッとなって再び直立不動の姿勢をとる。


「はっはっは、失礼。気にするなと言っただろう。

 しかし、君達が来てくれて大変に助かる。

 それも能力持ちという事だからな。

 それにだ、あのロボットは君達の能力を増幅する機能を有しているそうだな」

「はい!今の所、問題なく機能してます!」


つまり、少将が待望していた

魔力戦部隊や超能力戦部隊がやって来たようなものである。

見たところ、兵役適応年齢にも達していないような少年2人ではあるが

先ほどの戦闘を見る限りでは実戦経験もそれなりにありそうだと思われた。

少将は、うんうんと頷きながら二人に問う。


「うむ、それでは早速なんだが、

 我々の脱出作戦への支援をしてもらうという事で良いだろうか?」

「はい!そのつもりで来ましたので!」

「言っておくが、君達はいわゆる囮として敵を引きつけてもらうつもりだ。

 かなり過酷な任務になるが、大丈夫かな?」


「もちろんです、覚悟決めて来ましたんで!」

「私もであります!全力で任務に当たります!!」

竜司と東雲が、少将の目をまっすぐ見ながら言った。




「ふむ、ならば宜しい。

 それでは、よろしく頼む」

「は、はい!」「了解しましたであります!」

二人は再びビシッと敬礼した。

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