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18-7  打開案

サリサの朝は早い。




「うーん、今日もいい天気だなぁー!!

 と言っても、この宙域に雲なんかあるわけないんだけどねーー!!」


サリサは元気よく独り言を言いながら、

ミアナが朝食を作っている間に専用の宇宙ヨットに乗り込んで

今日も惑星エレストラの軌道上を取り巻く宇宙農園での

早朝の見回りを開始した。




「ふんふーん♪

 やあー!パナリにカネリ、シラーにピラー、フェシーにキャシー、

 みんな元気かなーー!?」


サリサはいちいち名前を付けた植物の一つ一つに声を掛けていく。

と言っても、当然植物側は周囲が真空なので声が届くわけでもなく、

また電波も受信出来るわけではない。

それでも声を掛けていくのは、サリサなりの愛情表現というわけだった。


「やー、今日も植物達は元気だねー!!

 『アラムトリア』連中も出てこなくなったし、

 あの子達が残してくれた動作パターニングは

 有効に働いてくれているみたいだねー!!」


竜司達が宇宙艇に記録させた、個々人の動作パターンをアルゴリズム化して

無人宇宙艇にダウンロードしたお陰で、それら無人宇宙艇が

宇宙の害虫である『アラムトリア』の鈍い頭では予想も出来ない動きを取る事で

『アラムトリア』を撃退したり、駆除したりする事が容易になったのである。




「さってと、今度は”バイオメカニカルプラント”達だねー!!

 君達も、元気でやっているかねーー!?」


サリサの宇宙ヨットは、真珠色に輝く巨大な帆を目一杯に広げながら

”バイオメカニカルプラント”が並ぶ第854角セクターに入っていった。


サリサがヨットをくるっと一回転させながら、

縦横上下関係なく並ぶプラントの”木々”を見回っていく。


「ふむふむ、いいよいいよー!!

 今日も輝くばかりの銀色ヒョウタンだねーー!!」


そこには、銀色に輝く”木々”の枝にたわわに生っている銀色の”果実”があった。

果実はまるでステンレスか何かで鋳造したヒョウタンのような形状をしているが、上下にはまるで虫のような足が何本も付いている。

胴体をよく見ると、まるで機械のようなパイプやパネルらしき構造が表面を覆っているのが分かる。

そういう点では正に”バイオメカニカル”な印象があった。


地球にいる、ある人たちが見れば

それが”何か”にそっくりだと感じる事は間違いない。

実際、ここに来ていた神崎が初めて見た時には吃驚していたのだ。


そして、それらの”木々”は実に数百万本もこの宙域に”植わって”いた。


「いやー、流石に多いかなー!

 まだ試験段階なのに、

 ちょっと調子に乗って植え過ぎたからなーははっはははーー!!」


頭を掻いてやれやれとばかりに笑ってごまかすサリサ。

実際、相方のミアナには「これ、どうするのかしら?」

と冷たい目で問われた事など何回もある。

と言ってもそういった作物は、サリサの農園には他にも何種類もあるのだが。




「さってさってとー、

 とりあえず朝の見回りは大体終わったし、

 朝飯を食べに戻りますかー!!」


と、そこへミアナからの通信が入った。


「はいはーい!

 こっちは異常無しですよー、

 もう朝食出来たん?」

「サリサ!

 それどころじゃないわ。

 今すぐに戻ってちょうだい」


「ん!?

 どしたんー?」




「あの子達が、戻って来たわ」

「ほえ?」




- - - - - - - - - -




サリサの宇宙ヨットが、惑星エレストラ地表にある

自宅前の宇宙船発着場に着陸した時、

その隣ではたった2日前に旅立ったはずの高速宇宙船が停泊していた。

着陸したばかりのようで、銀色に輝く液体金属の表面が僅かに波打っている。


「ありょりょーー!?」




サリサがヨットを降りると、発着場の前に数人がたむろっているのが見えた。


「おお、おー!!

 久し振りー!!会いたかったよーーー!!」


そのたむろしている所へ駆け寄って、一人をぎゅっと抱きしめながら言うと

「いや、全然久し振りでもないし別に会いたいわけでもなかったんだけど」

と言われてしまった。


「そんな事言うなよー、スレナーーー!!」

と、また今度はもっと力を入れてシアラを更に羽交い締めにする。

「んぐぇえ!!分かった分かったから!!」

シアラは、首が締まりそうになって慌ててサリサの腕をタップしながら叫んだ。


「すいませんサリサさん、間も置かずにまた押しかけてしまいまして…」

と神崎がぺこりと挨拶した。

「あーいいのいいのー!いつでも大歓迎だよーー!」


「はろはろでーす!また来ちゃいましたー!」

「おーぅ!はろはろーー!!」

山科が手を高く掲げると、サリサも同じく手を掲げた。

「イェーーーイ!!」

なぜかサリサと山科がパシッとハイタッチする。

どうやら気性というかテンションが

サリサと山科で近いらしく、気が合うようだ。


「コホン!」

とシアラが咳払いする。

「今日ここに戻って来たのは他でもない、

 ちょっと緊急の用件があっての事なんだ」


「緊急?」

「ああ、実は…」

と続けようとした時、ミアナがそれを遮った。




「とりあえず皆さん、

 立ち話もなんだし、朝食の用意も出来てますので

 食堂にいらっしゃいな。

 お話は朝食をとりながらしましょうか」

ミアナが手招きをしながら全員に言った。




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




「え!?

 あの”バイオメカニカルプラント”が欲しいってー!?」




食堂で、ミアナの作った朝食を全員で摂りながら

シアラが状況を説明した。


「そうだ。あのファージもどきには色々な可能性があると

 サリサも言っていただろう?

 さっそくその可能性とやらを試す機会が生まれたわけだ。

 というか、その可能性に賭けねばならなくなった」

「へー?」


「そーなんですよー。

 例の”バイオメカノイド”に対抗するには

 こちらも”進化”して相手に対応できる兵器が必要なんですけど、

 今こちらの手持ちだと、全然もう”バイオメカノイド”に

 対応出来ないっぽいんですよ」

山科がシアラのあとを引き継いで言った。


「うーん、確かにアレは、物凄い早さで”進化”出来るし、

 人間の”予知プリコグ”みたいに未来方向への多世界時空震動を行うから、

 進化の効率性についても類似の”バイオメカニカルプラント”の中でも

 ピカイチではあるんだけどねー!」

サリサは、考え込むようにして言った。


「あら、サリサにしてはいつになく慎重ね?」

ミアナが気遣わしげにして声を掛けた。

「いやさー、確かにウチの子達を活用してもらえるなら全然大歓迎なんだけどさー、

 まだまだアレコレと改良を加えたい所が一杯あるんだけどねー!

 だから悩ましいところではあるんだけどさーーー!」

サリサは頭を掻きながら苦笑して言う。


「あらあら。サリサも案外、完璧主義なところがあるのよねぇ」

ミアナもフフッと微笑んだ。




「サリサさん、実のところ私達には

 もう他にアテになりそうな手立ては無いのです」

神崎が懇願するようにして頭を下げた。


「私からもお願いする。

 何しろ、あの”起源世界線”たる第17=5-47-664-27-3=15世界を救う為の打開策は

 もはやサリサが開発していたあのファージしか無いと思うんだ。

 この通り、頼む」


シアラも頭を下げ、ほぼ同時に山科も手を合わせつつ頭を下げた。

「姉御!!お願いしやっす!!」




「うーーーん…」

と、少しばかり腕を組んで悩むようにしてから

「はぁっ…ぃよっし!!分かった!!」

と、膝をピシャッと手で打ちながら叫んだ。


「君達の故郷のためだ!!

 今回は特別に、あの子達を分けてあげるよーー!!!」




「それじゃ…!!」

「マジっすか姉御…!!」

神崎と山科が声を上げた。

シアラは、ほうっと安堵のため息を漏らす。


「うん、まぁー改良点は色々とあるけどねー!

 それでも良ければ、いくらでもお裾分けするよーー!!

 ただし、条件があーーーる!!」


「えっ!?条件?」

「いやいや、大した事じゃーないけどねー、

 このサリサ様も、例の”起源世界線”とやらに連れてって欲しいのさー!

 何しろ、あの”バイオメカニカルプラント”を調整できるのは

 自分しかいないからねーー!!」




「えぇ…まぁいいけど…

 どうせまた観光がしたいんじゃないのか?」

シアラが少し呆れたようにジト目を向けた。


「イエス!!もち、それもあーーーる!!」

とサリサが堂々とサムズアップする。


「おやー、姉御もウチらの日本を観光したいんすかー?

 案内しやすぜー!」

山科が手を上げて提案すると、サリサも手を上げて

「イェーーーイ!!」

とまたもハイタッチした。


「あらあら、じゃあ私もご一緒しようかしらね?

 どうせ出張先じゃ、サリサはろくに身だしなみなんか整えないでしょうし

 なら私も同行して、サリサの世話をしなきゃいけないわねぇ

 よろしいかしら?」

「ああ、まぁ問題ないだろう」

と、シアラが頷く。


「それに私も、”起源世界線”の地球も見てみたいですし。

 特に、地球日本にある本物の京都や奈良へは是非行って見たいですわ」

ミアナは頬に手を当てて、観光案内書を眺めるような面持ちで言った。


「えぇ…」

ミアナの言葉に、シアラが若干呆れるが

「もちろん、私達も大歓迎ですわ。

 ぜひ、私達の地球にいらっしゃって下さい」

神崎が微笑んでそう請け負ったので、シアラも苦笑して頷かざるを得ない。


「やれやれ…全く」




「おっし、じゃー決まりだねーー!!

 それで、プラントはどの位の数が必要なんだっけー?」

パシッとまたも膝を打ちながらサリサが訊いた。


「はい、出来れば30万株ほどあれば安心なのですが、

 難しければ10万株でも十分だと思います」

おずおずと神崎が述べる。


「んー、そんなんで足りるかなー??

 何なら100万株でも200万株でも持って行きねぇーー!!」

と、江戸っ子のような口調で気前よく言い放つ。

「えっ!?そ、そんなに分けてもらって、良いのですか?」


「もちもち!大丈夫さーー!

 何たってウチの第854角セクターに植わってる子達は

 若干増やし過ぎたせいか、今は1000万株くらいあるからさーーははは!!」

と、サリサは何故かミアナの方をチロっと見てから誤魔化すようにして言った。


「はぁ、全くサリサは

 肥料にしてもエネルギーにしても大盤振る舞いが過ぎるんだから…」

とミアナがため息を一つ付くと、

「でも、そのお陰で今回、

 シアラ達を助ける事が出来るのであれば仕方ないわねぇ」

と、仕方ないといった風情で微笑んだ。


「でっしょーーー!」

とサリサが胸を張るも、

「こら、調子に乗らないの」と、ミアナがサリサの脇腹を小突いた。




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




「あれが第854角セクターだよーーー!!」




サリサが操縦する宇宙ヨットにシアラ達3人も乗り込んで

勢いよく宇宙をかっ飛ばすと、

ものの十数分ほどで目的地のセクターに到達した。


「いやー、改めて見ると

 銀色の植物ってなんか色々と迫力があるよねー」

山科がヨットの球形窓から外を覗き込みながら言った。

「そうね、でもどことなく

 ヨーロッパの装飾品のような格調高さもあるわね」

と神崎がそのプラント群の姿についてそう評する。


「おおっ、神崎さん!

 良い事言うねーー!!」

操縦席のサリサが、操縦桿を握りつつ首だけを後ろに向けて

片目を瞑ってウインクした。




「ほらほら、あれだよー」

サリサが指を差した方向を全員が見ると、

既に農場の万能作業ドロイド達が、セクターに植わっている

”バイオメカニカルプラント”を端から刈り取り始めているのが分かった。


「とりあえず熟れ頃のヤツを100万株ねー。

 足りなければ、おっつけドロイド達に命じて、

 レンタルの自動宇宙船でさらに100万株ほどを

 ”起源世界線”の地球へと送ってもらうようにするからさーー!」


「はい、もう色々と手配までして頂いてありがとうございます」

神崎が感謝の言葉を述べた。

「いやいや、こんなの農場経営者としては

 ごくごく日常的にやってる事だからさーー!」

サリサが気にするなとばかりに片手を振る。


「二人とも、あまりサリサをつけ上がらせる様な事を言わないほうが良い。

 どうせ地球に着いたら、あれこれ要求されるぞ」

シアラが二人に忠告する。


「はぁー、またスレナはもー酷い事を言うねー

 そういうのはスレナだけにするから大丈夫だよーーん!」

「くっ…」

ウインクするサリサに、シアラが顔を思いきりしかめた。




サリサ達がプラントの積み込み確認を終えて惑星エレストラの地上に戻ると、

ミアナがすでに旅行の準備を終えて荷物を高速宇宙船の中に運んでいた。


「あらあら、点検は終わったのかしら。もう大丈夫そう?」

「うんうんー!もう準備万端だよーーー!!」




「それでは、よろしくお願い致します」

神崎が改めて二人に頭を下げた。

「よろしくでーす!」

山科も同じく頭を下げる。


「おぉーー!」

「よろしくね」




シアラ夫妻?を含めた一行を乗せた高速宇宙船は惑星エレストラを飛び立ち、

一度農園の第854角セクターに寄ってから

”バイオメカニカルプラント”を満載した無人の貨物艇と合流した。


それから一瞬で、青白い曳光痕を空間に残しながらワープして行った。

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