18-6 状況分析
「おおっ!!これスゲー!!」
竜司は、ロボットの巨大な腕をブンブンと振り回してはしゃいでいた。
「そうなの?
私には、こういう機械というかロボットという類のものには
未だになじめないのだけれど」
明日香が少し離れたところから話しかけた。
「いやー、やっぱ男心をくすぐるっていうかさー。
野郎はたいがい、人生に一度は
こういう奴に乗ってみたいって思うもんなんだよなー」
「よしよし、粗方操作は覚えたぞ。
赤羽よ、少々手合わせを願おうか!!」
竜司がいる場所より少し離れたところでも東雲が同種のロボットに乗り込んで、
竜司の方に向けて巨大なロボットの指をブォンと勢いよく差しながら言った。
「おうよ!!こっちはいつでもOKだぜ!!」
「よし!!では、『トランver.2.0』推して参る!!」
「こちらも、『ゼロ2』発進!!」
威勢良く、2台の巨大なロボットが広場の中央で
思い切りガギン!!とぶつかり合った。
そのまままるで相撲のように、両者ともググッと押し合いへし合いしながら
鈍い音を立てつつ腕や足をお互いにぶつけ合った。
ガィン!!と重い金属が跳ねる音と共に両者がすれ違い、一度離れ合ったかと思うと
再びお互いに向き合って、また勢いよくガシンガシンとぶつかり合う。
そして、お互いの利き腕に兵器のエネルギーを一気に溜め込んだ。
「よぉし!!必殺パイルバンカーをお見舞いしてやろう!!」
「そっちがそうなら、俺はアームキャノンだ!!」
それぞれの利き腕から、禍々しいまでの巨大な兵器が
ガギョンと変形しながら突出し始めた。
「いっっけえええ!!!」
「ううぉっりゃああー!!」
「待ちなさい!!」
両者が一気に互いの必殺兵器をぶつけようとした瞬間、
神崎がメガホンを持って叫んだ。
「貴方達、何をしているの!?
もう時間が無いのよ!!
慣らし運転が終わったらとっとと降りなさい!!」
「…へぇい」
「はぁ…了解」
竜司と東雲は、渋々といったていで巨大ロボットの操縦席から降りた。
「どうかしら?
このロボットの乗り心地は」
明日香が近寄って声を掛けた。
少し離れた場所にはオクウミもいる。
「おう、もうバッチリだよねーちゃん」
「大変に素晴らしいです!!」
竜司に続いて、東雲がサムズアップした。
「良かったわ。ちょうど『須佐ノ男』号の眷属のうちの4体が、
竜司達の搭乗に適した形態へ換装出来たものだから、
折角だしと思って乗ってもらったけど」
「うん、それに自分の”眷属”をロボットにダウンロード?する事も出来るし、
お陰でロボットの操縦習熟がスムーズに済ませられたから良かったよ」
目の前にある2体の大型ロボットは、元々は明日香が”司令官”として管理している
『須佐ノ男』号という古代地球にやって来た巨大ロボットの
さらに17体ある部下個体のうちの2体でもあった。
部下個体と言っても、全高は100m前後もある巨大さである。
今回はそれを、時空探査局整備部の協力の元に、若干の改造を施す事で
まずは竜司と東雲が乗り込めるようにした。
しかも、いわゆる超能力の増幅装置が装備されているので
竜司の念動力や東雲の火炎能力を
強力に増幅し、ロボットから放つ事が出来るようになっている。
しかもこのロボットはそのまま星間航行可能な宇宙船としても機能し、
いざとなれば短距離程度ならワープ航行も可能という事だった。
あともう2体、改造済みのロボットもあり
1体は静止状態でシアラが乗り込み、山科と一緒になって
独自に開発した対”バイオメカノイド”防御兵器の搭載検証を行っている。
山科はそのロボットを『フェイちゃんJr.』と呼称していた。
あと1体は神崎が乗り込めるようになっているが
とりあえず今は、端に控えた状態のままだ。
現在はそれら4体の大型ロボットを
『イヴァウト-86』第一中央市郊外にある宇宙港の、
実験用スペースを間借りして持ち込み、
そこで改造・整備点検と各種試験を行っているのだ。
「でもまぁ、今回は宇宙艦隊とか地表戦部隊?とかが頑張ってるんなら
俺らの出番はねーのかもなー」
少し残念そうな面持ちで竜司がロボットを見上げながら言った。
「そうだな、まあどうせ別の機会があるだろうからし
その時に改めて使い倒せば良いだろう」
東雲もそう言いつつ、ロボットの足をペチペチと叩いた。
「ふむ...実は先程からだな、
宇宙艦隊が太陽圏境界外縁にて会戦を始めたところだから、
あとしばらくしたらその結果も分かるだろう。
それ次第では君達の出番もあるかも知れんぞ」
竜司達のところに歩み寄ってきたオクウミが請け負うようにして言った。
「おお、もう戦闘が始まってるんですね。
まあでも、自分らの出番なんか本当は無い方が良いんでしょうけどね」
竜司が首をすくめて苦笑する。
ピッピッピッピッ、とオクウミの腕輪が鳴ったのはその時だった。
「どうした?」と腕輪のスイッチを入れて応じる。
「オクウミ支部長!!緊急電です!!」
3D表示で連絡に出たのは、(火之題)管轄部の通信士官だった。
「何があった?
…まさかもう会戦の結果が分かったのか??」
「その通りです支部長。
…大変ショッキングなニュースですが、
先程の会戦で、第278任務部隊が敗退したという事です」
「な、何だと!?」
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「戦況の分析は済んだのか?」
すぐに時空探査局の第一中央市駐在支部へと乗り込んだオクウミは、
情報分析室にて(火之題)管轄部と連絡を取った。
「はい、大方は終わりました」
「で、何がどうなって敗退したと言うんだ?」
オクウミの問いに、担当士官は
解析した情報をヴィジュアル化した資料を3D表示させながら解説した。
「…という流れで、”バイオメカノイド”群体は
宇宙艦隊側の意表をつく戦術を採ってきたという事になります」
オクウミが腕を組んで唸った。
「ふぅむ、なるほど…
こうなると、”バイオメカノイド”が定型的な行動パターンに収まるという
従来の宇宙生物行動学的研究は役に立たなくなるな」
「確かにそう思われます。
いずれにしても、我々は”バイオメカノイド”群体に対して
新しい行動アルゴリズムの可能性を詳細に解析して、
エミュレートしてみなくてはなりません」
「しかしだ、はっきり言ってそんな時間はあるのか?
”バイオメカノイド”の地球圏到達まで、あと5日しか無いのだぞ?」
オクウミは士官に詰め寄った。
「で、ですが詳しい分析をしてみない事には…
さもなくば”バイオメカノイド”による予想外の戦術に遭って
再び敗退する事も有り得ますし…」
「…む」
一旦深呼吸をし、心をやや落ち着けたオクウミは
腕を組んでしばらく考え込んだ。
「ふぅむ…しかし早く対策を立てなければ
敵が地球圏にまで押し寄せてしまう事には変わりないわけだしな…
何か策は無いか…何か良い手は無いものか…」
そういえば前にも似たような事があった気がする、とオクウミは思い起こした。
ほんの一ヶ月そこそこ前の時、副官のイゴルが
”起源世界線”への工作員を確保出来ずに困っていると
オクウミに泣きついた事がある。
その時、解決策は彼女らがもたらしてくれたな、と振り返ったところで
オクウミは懐の通信機に手を掛けた。
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「はいはーい、呼ばれて飛び出て…何だっけ」
「貴方は何を言っているのかしら…」
オクウミに呼ばれて情報分析室にやってきたのは、山科と神崎だった。
ちなみに竜司と東雲、それにシアラと明日香は
例の大型ロボットを使った訓練のために、今も宇宙港の実験場にいる。
「うむ、君達に折り入って頼みたいことがあるのだが。
いいや、どちらかというと知恵を拝借、だな」
「は、はい?」
「何しろ君達は、すでに幾つかの戦闘を経験しているし
機転も回るからな」
オクウミから、現在の太陽系における戦況を伝えられた神崎達は
一様に控えめな渋面の表情を作る。
山科が珍しく、自信無さげな口調で言った。
「うーん、ここまで向こう側の知恵が回るとなると、
ウチらの開発していた対”バイオメカノイド”兵器も、
まともに役に立つかどうか…」
「でも、こうなるとそれに賭けるしかない気もするのだけれど…
何しろ、”ヤマトクニ”軍の標準汎用グレード?とやらでは
どうにもならなかったのだから」
神崎の言葉を山科が否定する。
「いやー、その標準汎用グレードというヤツの詳細がどういうのかはちょっと分からないけどねー、
でも多分、システムの方式は一緒だよ」
「あら、どうしてかしら?」
「だって、前に”バイオメカノイド”子体っつーか機械虫用ワクチン組んだ時に、サーミアさんが持って来てくれた叩き台のソフトウェアは”ヤマトクニ”軍の標準品だっつってたからさ。
で、今あっちの『フェイちゃん.Jr』に搭載しようとしているヤツも、基本同じ仕様をベースにしているし」
「確かに…」
山科の言う事も尤もである。
”ヤマトクニ”軍が対機械戦用に開発している兵器には様々な種類があるが、先に挙げた標準汎用グレードにしても完全規格品で構成されているので、基本的なフォーマットは同じと考えるべきだろう。
山科が開発している防御兵器も同様のフォーマットで組んでいるので、もしそれをすぐに現場へ投入したところで、”バイオメカノイド”への効果は少ないと見なすべきだろうと思われた。
「ところで、その『フェイ…』なんちゃらとは何だ?」
オクウミが山科に訊いた。
「もちろん私の乗機の愛称でーす!!『フェイ』ちゃんのデータを共有してるから、.Jr ね!」
「はぁ…」
オクウミが思いきりため息をついた。
しかし山科達が以前に「錬成」した”眷属”は、それを所持している人間と精神的にもシンクロ出来るように成長する。
従って、その”眷属”と搭乗用ロボットの基本システムとが同期すれば、そのロボットの操作がより容易になって、文字通り人馬一体のロボット操縦が可能となるのだ。
「まあその愛称については置いておいて、私達の”眷属”が持つデータをロボットと同期出来るのは良いアイデアだと思いますわ。
そのお陰で、今まで乗った事もないようなあんな巨大ロボットを簡単に操縦する事が出来ますし…」
神崎がそこまで言ってから、ちょっと首をひねって何かを思いついた。
「そうですね…例えば、あの”バイオメカノイド”にも、
そういう”眷属”みたいなのを装着出来れば
”バイオメカノイド”を乗っ取る事も出来るのでは無いでしょうか?」
「あっ、なるほどー!!
今まで開発してた防御兵器は、単に機械をクロックダウンしたり攻撃を加える方向でプログラムを組んでたけど、
逆に乗っ取っちゃえばいいのか!!」
山科がポンと手を打った。
「ううむ、それは確かに有効な手かも知れんが…
どうやってそれらを一からプログラミングするんだ?
我々には”バイオメカノイド”の新たな行動アルゴリズムについて、
手掛かりも掴めていないのに?」
オクウミの冷静な指摘に、
二人ともウーンと唸ってしまった。
「はぁ…どこかにもう量産されてるヤツとかを流用出来ればいいんだけどねー。
もしくは、自然にあるヤツとかさー、なんか寄生虫みたいなの」
山科が、背中と両腕をぐっと後ろに反って伸びをしながら言った。
「そんなものがあれば、苦労はしないわよ。
自然にあるものと言っても、そんな寄生虫だとか、またはバクテリオファージみたいなものが簡単に使えるわけが…」
神崎がそこまで言ってから、神崎はハッと何かを思い出した。
山科も全く同じだったらしく、神崎と山科が目を見合わせる。
「「あ……あった!!」」




