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18-2  出動要請

シルヴィオス提督の旗艦が星門ゲートへと進入を開始し、

また同時刻にシアラ達がオクウミに召集されて高速宇宙船に乗り込んだ頃より

半日ほど時間を遡る---



 * * * * *



「緊急=!緊急=!担当医の方は直ちに病室へお願いします=!!

 繰り返します=!」




病室にあるベッドのパイプフレームに掴まっている”眷属”の『ルリ』が

必死になってナースコールを発信し続けているそばで、

ベッドで寝ていた赤羽明日香が息も絶え絶えにもがき苦しんでいた。


「くっっ…はぁっ…だめ…地球が…襲われて…何てこと…ああぁあ!!」


明日香は、何か夢を見てうなされているようだ。

しかしその様子が余りにも尋常ではない有様のため『ルリ』がすぐさま医療モニターをチェックしたところ、

血圧・心拍・血中ストレス因子値などが異常な数値を記録していた為に『ルリ』が緊急コールを発したのである。




「どうしたっ!?」


病室のドアが開いて、担当医や看護ドロイドなど数人が駆けつけて

彼女へ応急処置をし始めた。

医師の一人が彼女に鎮静剤を注射すると、彼女はようやく落ち着きを取り戻した。

しかし、別の医師が彼女の”ドリームモニター”を確認すると彼の顔色がさっと青くなり、それから慌てたように手のひらの通信リンクを開いた。


「もしもし、オクウミさんですか!?

 直ちに明日香さんの病室まで来て頂きたいんですが…」




「どうした?何があった!?」


オクウミが、市庁舎別館から病室まで駆けつけたのは

それから10分ほど経ってからだった。


「はい…ともかくこれをご覧下さい」


医師が提示したのは、明日香の頭に装着した”ドリームモニター”のモニタリング映像である。

この”ドリームモニター”というのは、睡眠中に脳内で”見て”いるものをモニタリングする装置であり、明日香が睡眠中に予知夢らしきものを見るという話から、彼女自身の許可を取って装着したのだ。

これで明日香が予知夢の内容を言葉で表現する手間を省き、直接映像で詳しく分析する事が可能になる。


そして、彼女が睡眠中に激しく悶え始めた頃の脳内映像から再生をし始めると、

そこにはオクウミも驚愕する程の映像が飛び込んで来たのだった。




「この予知映像の未来時間は?」

オクウミは、映像内の出来事が未来のいつの時点で発生するのかを訊いた。


「こちらのジャローデク57・マスィトルプト・ツリーをご覧下さい。

 脳内の量子意識ダイナミクスフィールドを時間軸で視覚化し、未来時空のどの辺りまで意識フィールドの枝葉を伸ばしているかを計測しています。

 これによると…こいつは!!」

医療技師が3Dモニターを見て絶句した。


「…よし、

 この映像データだけでもう十分だ。

 明日香の容体はどうだ?とりあえず、ゆっくり休ませてやってくれ」

「ええ、もちろん鎮静剤で今は夢も見ず、

 ぐっすり眠っていますから大丈夫でしょう」


「そうか、ならいい。

 それでは申し訳ないが、直ちにこの映像データを生の状態で

 地球日本側の『レイウァ計画司令センター』の(火之題)管轄部と

 第一中央市の統合情報庁に転送しておいてくれないか?」

「了解しました」


「私は直ちに、”ヤマトクニ”軍へ掛け合うために時空探査局へ行く。

 何かあればイゴルへ連絡してくれ」

「はっ」




- - - - - - - - - -




オクウミはすぐにその足で中央市庁舎へ向かった。


中央市庁舎敷地には時空探査局の駐在支部が置かれてあり、

そこから”黎明京アマルテミシア”にある時空探査局本部と直通通信を行う事ができる。




「あら、お久しぶりね、オクウミ支部長」

「マァリパポイトス局長、急なご連絡にて申し訳ありません」


3D画面の向こう側に映った局長はゆったりとした執務用ローブに身を包んでいて、事務作業用の立体表示図面書類ホログラムピクトファイルを、自らの周囲の空間に散りばめるようにして漂わせていた。


「いいえ、大丈夫よ。気にしないで頂戴。

 それで、その顔から察するに何か緊急の案件があるのね?」

気づかわしそうな視線を送るマァリパポイトスに、オクウミが頷く。


「例の赤羽明日香による予知プリコグについてです。

 つい先だっての定期報告で、

 彼女の予知内容が”起源世界線”の歴史状況と微妙なズレを来しつつある事をお伝えしたばかりだったのですが…」


オクウミは、あの査問会の一件以降、

”起源世界線”に関する重要な報告はオクウミの直属上司であるはずのニビルガイマクル将軍ではなく、時空探査局トップであるマァリパポイトス局長に直接提出する事にしていた。

更にその定期報告の写しは、”帝国”皇宮の実質的な”起源世界線”担当となった天津風之宮公リュミリア殿下にも渡っている。


「何か変化があったのね?」

「ええ、単刀直入に申しますと

 ”起源世界線”での”バイオメカノイド”群体軍団の地球侵攻予想時期が急に早まりました。

 正確には、あと一週間足らずで先鋒群体が地球に到達します」




「…!!

 何という事でしょう…!」

「はい、どう考えても第一級の緊急事態です」


「その明日香さんという人の、予知精度はどの程度なのかしら?」

「前回の報告にも上げてはおりましたが、予知精度はドレン=ジェム計測法で88.24%±4.1といった所です」


「とすると、レベルは15か16ね。大変な精度と言って良いでしょうね。

 なのに、今回どうして予想が早まってしまったのかしら?」

「それは未だ不明です。

 どうして予想が早まったのか、その原因は別途探る必要があるでしょう」


「そもそも、何で”起源世界線”の歴史には無かった筈の”バイオメカノイド”地球侵攻がこのタイミングで行われるのでしょうか」

「それについても、皆目分かりません。

 ただひょっとしたらですが、バタフライエフェクトというべきか、

 我々が当世界線に足を踏み入れた瞬間に、カオス理論的効果の玉突き現象によって歴史が微妙にずれてしまった結果とも考えられます」


「そういう事も有り得るかも知れませんが、しかしそれについて悩んでいる暇は無さそうですね」

「ええ、その通りです。

 まず我々は直ちに”起源世界線”の地球を防衛すべく行動に移らねばなりません」


「そのようですね、

 となると、”ヤマトクニ”軍へ出動要請を出さねばならないでしょうね」

「要請の名義についてですが、如何致しますか」

「その件については、かねてから帝国多重議会のツァーズバラッタスム議長と話をしておりました。

 基本的には、先般に臨時多重議会で採択された第68422917-00012議決条項に沿って、”起源世界線”への緊急救助支援要請、という所で良いと思います」


「なるほど、それなら…」

「ですが、これは劇薬でもあるのですよ。

 なぜなら、これを奇貨として”ヤマトクニ”軍による専横、

 つまり”起源世界線”への軍の間接管理体制が築かれてしまってもおかしくないからです。

 そうならないようにする為に、我々時空探査局が上手く手綱を握らないといけません。

 オクウミ支部長、貴方にそれが出来ますか?」




マァリパポイトスが見据える中、オクウミが応えた。

「はい、何とかしてみせます」

オクウミの言葉には自信が滲み出ていた。


それを聞いたマァリパポイトスが頷く。

「大丈夫そうね。

 もちろん私としても、支援は欠かさないようにします。

 貴方も、何か必要なものがあれば遠慮なくおっしゃってね」


「はい、ありがとうございます」




- - - - - - - - - -




その日のうちに、時空探査局は

”起源世界線”たる第17=5-47-664-27-3=15世界担当者オクウミ・アクァリ名義にて、”ヤマトクニ”軍へ緊急援助支援の為の軍出動要請を発した。


黎明京アマルテミシア”に在する軍務省本部は、当該要請を即日受理した。


そして軍務省長官であるエル・アランド・セユマ元帥とマァリパポイトス局長が会談を行い、”起源世界線”地球における軍隊の活動方針について情報共有と整合を図った。


それから直ちにセユマ元帥は、統帥戦略本部長のミダジャク元帥及び四軍統合司令長官のパルザー元帥へ連絡を取って統合作戦会議を招集し、本作戦の立案と呼称を策定。

本作戦は「蒼キ火マタギ作戦」と呼称され、宙域軍と天体軍による統合運用とする事が決まった。

統合作戦会議は宙域軍及び天体軍へと指令を発し、本作戦の総司令官にシルヴィオス中将を任命した。




シルヴィオス中将は自らが率いる銀河外縁宇宙艦隊第278任務部隊を動員し、

その旗艦である戦艦ヴァラクダータに乗り込んで、”起源世界線”への星門ゲートを有するアラマキ-7115市へと急行した次第である。




 * * * * *




星門ゲート、通過完了」

「『イヴァウト-86』空間中央に艦隊展開完了しました」

「全艦、ワープ準備完了」




旗艦の広い司令所内でコンソールを操る士官達の報告を一通り確認してから、シルヴィオス提督が司令を発した。


「よし、それではワープ開始。

 目的座標、太陽-地球系L3ポイント」


太陽-地球系L3ポイントというのは、

地球公転軌道上ではあるが、地球から見て太陽を挟んで真反対側にあるポイントである。


いわゆる「反地球クラリオン」があるのではないかと地球の一部オカルト研究者等が話題にしていた宙域だが、実際にはその空間には何も存在しない。

ただ、大規模な質量を含む宇宙艦隊を地球から見えない位置で安定的に展開するには都合の良い場所である。

もちろん、地球に何かがあればすぐにワープによる急行が可能であるし、また太陽系外縁部へも目を光らせやすい位置にあった。




「ワープ、開始!!」


士官が叫ぶのと同時に、

大スクリーンに映し出された『イヴァウト-86』の光景がたちまち歪み、

その中心から光芒の集中線が出現したかと思うと、艦隊が一瞬でその中に呑み込まれていった。

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